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31 旅立ち(フェイント)

3/30 ギルド長がギルドマスターになっていました。変更します。

 


 オッサンが異世界転移してきて七日目の朝。

 ついに旅立つ時がやってきた。


 七日という数字が長いのか短いのか、私にはわからない。ラノベ的には中途半端なのではないだろうか。この世界に来た勇者も転移初日で修行の旅に出たそうだし、王城に何ヶ月何年も監禁されるパターンもあるので短いといえば短いのかも知れない。

 まあ、旅の途中で暇があったらネット小説の『異世界召喚物』を片っ端から読んで統計でも取ってみるか。暇があったらというか、夜は暇しかなさそうだからな。超ウルトラスーパーガラケーがあって良かった。


「お世話になりました。王様と筆頭の爺さんによろしくお伝えください。あ、紹介状ありがとうございます。機会がありましたらご実家の方にもご挨拶に伺いますので」


「短い間でしたが、お気をつけて。行ってらっしゃいませ」


 王宮の門までメイドさんたちが見送ってくれた。騎士さんたちもいる。代表でメイド長さんと挨拶を交わす。流石にシャルさん(王様)とか偉い人たちは来なかった。まあ、そのための昨夜の宴会だったんだろう。またこの国に戻ってくるつもりだからそれで構わない。


 それにしても『行ってらっしゃい』か。うれしいね。

 では、オッサンも。


「行ってまいります。お土産期待しててください。それじゃあ!」


 オッサンは初めて着たマントを颯爽と翻し門を出る。

 振り返らない。


 振り返ったら居心地の良いここから抜け出せなくなってしまいそうだから。






「もう一度ギルドに行ってみるか」


 オッサンの目指すバルハラ神聖教国は地球でいうスカンジナビア半島の南、もっと正確に言うとデンマーク辺りにあるらしい。アカシックさん情報。

 この国から見ると北、北北東なので王都の北門から出るのが自然なのだが、その前に冒険者ギルドに顔を出そうと思う。


 一応ギルド長のオッサンと受付のヌコ耳娘さんには旅に出ることは告げてあるのだが、昨日はバタバタしていてきちんとした挨拶はできなかった。

 それが理由の一つ。


 もう一つ理由があって、何せ異世界の旅。何か旅に役に立つ情報があればとも思っている。


 私は王都の中央通りをギルド目指して進む。

 ちらほらと朝食になりそうな屋台が出ているが、しまった! 結局オッサンはこの国で買い食いとかしていない! 今朝もしっかりとメイドさんズと一緒にいただきましたよ。美味しかったし。


 記念にするだけで買い食いするのも、資金的にも苦しいのでパス。歩きながら各屋台を覗くだけにしておこう。

 ああ、きっと私の顔、物ほしそうな表情なんだろうな。


 煩悩を抑えるため他のことでも考えよう。


 そうだ。脳内で旅に役立つ魔法のシュミレーションでもするか。


 魔法といえば、昨晩はシュレがおかしな具合にキレてその後連絡無しだったので、色々捗った。いや、変な意味じゃなく、真面目な魔法の使い方。


 やろうとしていた付与魔法。結果的に成功した。一時的な方の方法で。

 念を込めたらそりゃもうあっさりと。いいのか、と悩みもしたが、派手に宣伝せずこれは自分の才能じゃなくてシュレからちょっと借りてるだけだと思えば大したことではないと思えてくる。

 あ、朝起きてちゃんと神殿(極小)に感謝の言葉を捧げたよ。反応なかったけど。アカシックさんフォローしててくれればいいんだけど。幸い呪いで命がなくなることはなかったからちょっと腹を立ててたぐらいかな。魔法もそのまま使えてるし。


 おっと、また思考がぶれた。魔法の話だったな。


 付与魔法を成功させた私は、テントやマントに付与魔法を掛け捲った。今必要じゃないのだが、練習にはなった。

 今身に着けている装備、皮の防具やマントには『不壊』『衝撃吸収』『防火』『防水』『適温』など思いつく限りの効果を付与してみた。旅の途中秘伝書(ラノベ)の中に面白そうな効果があれば随時追加していくつもりだ。


 そうそう、守りは完璧に近づいたが、攻撃力も冒険者になったからには考えないといけない。まだ薬草採取しかしてないんだが長い旅の間魔物と戦うこともあるかもしれないからな。

 で、オッサンの愛刀、あ、まだ名前つけてなかった。しまったな、お約束だというのに。実践で使うまでには決めよう。ネットに繋がっていれば戦友(同好の士)たちの意見を聞けたのだが……


 それはともかく、刀にも付与してみた。

 炎を付与した『火炎剣』。あ、剣じゃないのか。『火炎刀』か? 語呂がいいから技名は『火炎剣』でいいや。

 結界を張ってあることをいいことに部屋の中で刀を振り回してしまいました。刀を振る度にファイヤーボールみたいなのが発射される仕様で、とりあえず封印することにしました。危なすぎる。


 水魔法を付与した『流水剣』。風魔法を付与した『風刃剣』。

 これらは使い勝手かよさそうだった。


 まあ、普通に魔法で攻撃できるんだけどね。ロマン武器ということで、お約束お約束。

 他の属性はまだ試してない。旅の間の慰みにでもしよう。


 で、最大の収穫は、『不壊』と『超振動』を付与した『バイブレーション・ソード』。勿論柄には振動が伝わらない仕様です。

 何故か横文字の方が似合う。


 土魔法で出した固そうな岩の塊を試しに斬ってみたら、何ということでしょう、バターか豆腐を斬っている手応えです。

 危険は危険だけど、オン・オフがイメージ通りにできるし、広範囲攻撃じゃないから問題なし。普段は『不壊』効果だけ。ほぼ打撃武器?


 おっと、色々考えてたらギルドに到着していた。


 朝飯をゆっくり食べてきたからか、混雑のピークは過ぎているようだ。カウンターに並んでいる人も疎らである。

 早速オッサンも並ぼう。

 勿論ヌコ耳さんの列だ。


「おはよう」


 少し待って私の番になる。


「えっと、おはようございます。旅に出たのでは……」


 ヌコ耳嬢、オッサンの顔を見て少し戸惑っていた。


「ああ、これからな。その前にちょっと情報をを思ってな。今大丈夫か?」


「あ、ハイ。情報収集も冒険者として当然ですから。バルハラ神聖教国まで、ですよね?」


「そうだが……ああ、ギルド長に聞いたのか」


「あ、すみません。秘密でしたか?」


「いや、問題ない。で、大体で構わないから道中気をつけなきゃならないことなんか教えてくれるとありがたい」


「そうですね……この国から教国までの間に二つの国がありますがどちらも友好国ですし、冒険者ギルドもありますから問題が起きる可能性は低いと思います。


 ただ……」


「ただ、何だい?」


「いえ、噂ですが、教国に近いほうの国、ジャマーン帝国ではバルハラ神聖教国の力が強くなっていて、その、亜人に対する差別が……」


「よし! 教国とやら滅ぼそう!」


「た、タケシさま!」


 何ということだ。話には聞いていたが、『異世界あるある』とか軽く考えていた。オッサン不覚!

 説明してくれたヌコ耳嬢、自分のことのように辛そうな表情だった。


「獣人はオレにとって守らねばならぬ存在。人類の宝だ。オノレ教国!」


「ちょっ! タケシ様!」


「シャルさんもそんな国放っておくなんて、魔族と喧嘩してる暇ないだろ。そうだ! この際魔族と協力して教国を滅ぼせばいいんだ! 魔族との戦争も回避できて一石二鳥だ!」


「タケシ様ってば!」


「ど、どうした? そんなに興奮して」


 ヌコ耳嬢、カウンター越しにオッサンのマントを掴んで揺さぶっている。


「興奮しているのはタケシ様、あなたです! 何ですか! 魔族と協力って!」


「あ? ああ、特に興奮はしていない。冷静に状況分析したが、魔族には恨みも思うところもない。ただの領土争いだろ? だが、教国は違う。アレは神の名を利用した不届き物に過ぎん。俗物の極みだ。これで旅に出る目的がハッキリしたぜ!」


「タケシ様! 声が大きいです! 正気ですか!」


 確かに少し興奮していたらしい。周りの冒険者たちがオッサンを唖然とした表情で見ている。


 だが、オッサンは気にしない。モフモフを守るためだ。悪魔にも魂を売ろうではないか!


「大丈夫。正気だ。それより、あとで王宮に手紙を届けてくれないか? いい雰囲気で出てきたから戻りづらい」


「わ、わかりました。その前にギルド長に説明していただけますか?」


「ん? なんで?」


「また騒ぎを起こして、そのまま旅に出られては私が怒られてしまうんです!」


「あ、はい」


 自分の発言に後悔などないが、結果的に迷惑をかけることになったようだ。少し反省。



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