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28 オッサン、旅支度をする。

 


「なんだったんだ、あの空気は……」


 爺さんとの会談を終わらせ、オッサンは再び街に出た。

 図らずも、今生の別れのような空気に、今更ながら戸惑う。異世界恐るべし。おちおちタバコも買いに行けやしない。


 だが、もう決めたことだ。

 異世界に来て計画通りに物事が進んだことは皆無に等しいが、自分から諦めたことはない! ……ハズである。


 そのためにも旅の準備をしないと。

 まず、軍資金。


「やあ、また来たよ」


 王宮からまっすぐ冒険者ギルドに向かい、いつもどおりヌコ耳嬢を選ぶ。まだ昼ぐらいだから混んではいなかった。

 オッサンは今は鎧装備ではないので貧相に見えるが、流石に毎度絡んでくるヤツもいない。


「あ、はい。用意できてます。依頼完了書はお持ちですね?」


 すぐに書類を渡す。

 6,300アース分大銀貨六枚と銀貨三枚、それと新しいギルドカードを受け取った。古い方も破棄するからということでヌコ耳嬢に預ける。


「ありがとう。そうだ。明日この街を出ることになった。今までありがとう。これ、お礼」


「え? そうなんですか? でも……」


 オッサンはマンゴーもどきのリンゴを数個カウンターに載せる。日本でもマンゴーは高級水菓子とやらでご進物には最適なのだ。


「また戻ってくるから、その時はもっと珍しいもの持ってくるよ」


「あ、でも……」


「じゃあ、準備があるんで、これでな。元気で」


 ヌコ耳嬢がまだ受け取ることを躊躇しているようなので、オッサンはサラリとその場を離れることに。

 フッフッフ。我ながら、いい気遣いの仕方だ。


 あ、また名前聞き忘れた!

 ここで戻って『名前なんだっけ?』とか言ったら顰蹙ものだな。


 仕方ない。次回のお楽しみ、ということで。フラグだと思い込もう。


 さて、旅の準備とはいっても、何をどうすれば……

 よし、誰かに聞こう! ギルドの中以外で。


 候補は……少ないな。武器屋のオヤジか、雑貨屋のおやっさんか。

 ここは雑貨屋だな。武器はもう間に合ってるし。


 早速向かう。近くてよかった。


「おやっさん! 旅の道具、一式揃えてくれ!」


 ここで『だが、断る!』とは言わんだろ。


「金貨二枚だ」


「高えーよ! その時点で王都出れねえよっ!」


「一式というからにはそんなものだ」


「言ってみただけだ。とりあえず最低限のものでいい」


「そうか。なら、大銀貨五枚でいい」


「随分下がったな。まだ高いが、あとの大銀貨十五枚分は何だったんだ?」


「魔物避けの魔道具だ。魔石を使うから値段が跳ね上がる。あとは大したことはないがポーション各種セットだな」


 それ持ってる。超スーパーケータイにその機能付いてるよ。『治癒魔法』も使えたみたいだし、『錬金術』もあるからオッサンは作って売る側だな。

 あ、いいこと思いついた。こっちの魔道具に似せたモノを作ればケータイの結界機能を人前でも使えるかも。

 あれ? そういえば、私って魔道具そのものを作れるかも。

 ま、今はいいか。


「ああ、なるほどな。それは自前で何とかなる。最低限の道具の方も何があるか教えてくれ」


「一人用のテントだろ。フード付きマントと、毛布に洗面道具、鍋と食器。それから水袋に食料袋。携帯保存食が入ってる。そんなところだ」


「妥当だな。ところで、洗面道具と水袋を除いたらどれぐらいになる?」


「ん? そうだな、大して変わらんが、銀貨二枚ってところか」


 どうするか。生活魔法があるから必要ないといえば必要ない。物価基準がわからないから下手に値切るのも面倒だな。

 とりあえず後回しにしよう。


「じゃあ、保存食ってどんなのだ? 見せてくれ」


「なんだ? 見たことがないのか? ったく、どこの坊ちゃんなんだか。その年で」


「年のことはいいだろ! 早く見せろよ!」


「ほれ、これだ」


 おやっさんが取り出したのは、硬そうなパンだった。不恰好な○ロリーメイトなのだろう。


「一個いくらだ? 食ってみていいか?」


「一つ大銅貨二枚。一日二回として十日分入ってる。食うなよ。食うなら買ってからにしろ」


 これもお試し無しか。セット価格ってのはお得なのか? まあ、これも高くはないからいいか。


「美味いのか?」


「美味いわけないだろ。お前さん、本当に冒険者か?」


「悪かったな! まだ三日目だよ!」


「それでよく旅に出ようと思ったな。死ぬ気か?」


「余計なお世話だ! 俺も心配になってくるだろ! もういい! 次だ次!」


「次って、後はテントとマント、毛布ぐらいだ」


「それで大銀貨四枚以上って、高くないか?」


「バカにしたモンじゃねえぞ。テントとマントには水避けの魔法が付与されてるんだ」


 お、今度は中々建設的な物件だぞ。

 また、閃いた!


「なあ、おやっさん。魔法を付与していないヤツって売ってるのか?」


「やめとけ。旅慣れしてねえのに、ほんとに死ぬぞ」


「そこら辺は勝算はある。それで、いくらになる?」


「そこまでケチりたいのか? 言っておくが、雨が降ったら終わりだぞ」


「いいから、教えてくれ」


「……付与無しのテント、マント、毛布で大銀貨二枚だ」


「買った! おやっさん、そいつで頼む!」


「ちっ、しょうがねえな。死ぬんじゃねえぞ」


「おうよ!」


 渋々という感じでおやっさんはテント一式を店の奥から出してきてくれる。元のセット代金の十分の一になった。こりゃ幸先がいい。


「コイツは負けといてやるよ。その代わり、また買いに来いよ」


 おお? これもツンデレか?

 おやっさんは鍋と木製の深皿を差し出してくる。


「もちろん。また負けてくれるんだろうな」


「ぬかしやがれ」


 私は代金として大銀貨二枚を支払い、旅のアイテムを手に入れた。アイテムボックスに入れたら、おやっさん少し感心していた。というより安心していたのかな。


 ここでもほっこりした空気を味わってしまった。

 なんだろう。この世界、旅というと今生の別れみたいに思うのだろうか。ありそう。


 あー。夜は王宮の人たちに説明しなきゃ。メイド長さんなんかもツンデレになってくれるのだろうか。ある意味期待しちゃうな


 雑貨屋のおやっさんに丁寧に礼を述べて次の買出しに向かう。


 後は食料品だ。アイテムボックスがあるから、金額以外は悩まなくて済む。出来合いのものをガンガン買おう。


 あれ? そういえば、オッサン、まだこの街で食事をしたことがないよ。テンプレである魔物肉の串焼きすら食べてない。ガーン! だから物価とかイメージできないのか。


 始めっから躓いていたオッサンは肩を落としながら、食料を求めて街を彷徨う。

 市場ってどこ! 屋台街ってどこ!


異世界の歩き方(ラノベ)』読んでただけじゃ、実際の旅行は上手くいかないよね。

 結局、オッサンは暗くなるまで王都中を歩き回りましたとさ。チャンチャン♪


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