25 オッサン、調査から帰る。
さて、オッサンは魔法の修行がてら『採取』でもするか。
今まで忘れていた、オッサンのエネルギー源だ。
超スーパーケータイで検索すれば一発なのだが、ここにはまだ人が居る。
では、まずは聞き込みから始めよう。調査のいろはだ。
「すまん、聞きたいことがあるんだが……」
オッサンが話しかけたのは若い冒険者の二人。顔見知りのマックスたち三人は調査班で、残った騎士さんのほうが話しかけやすかったのだが、内容的に冒険者の方が適していると思っている。
「なんだい? Gランクのオッサン」
「アンタのおかげで割りのいい仕事にありつけたからな。何でも聞いてくれ」
ふむ、敵愾心はなさそうだ。高ランク冒険者、中の上とか言っていたからプライドは高いのだろうが、私のように年を食っているのに低ランクというのは相手にし辛いだろうに、なかなかフランクに対応してくる。
「では、聞くが、『タバコ』がどこにあるか、知っているかね?」
王宮の人ならともかく、一般の冒険者には私の素性は教えたくない。それでかなり曖昧な質問をした。どこで売っているか? 或いは、どこで採取できるか? 二つの受け取り方ができる。
最悪の場合、『タバコ』って何? と返されるだろうが。
「は? そんなもの雑貨屋で買えるだろうが! 舐めてんのか!」
「まあ、待てよ。森に来たついでに採取しようって腹なんじゃねえの?」
はい。売ってました! 今までのオッサンの苦労はなんなの! 禁煙辛かったよ! あれかね、王宮は全エリア禁煙とか。くーっ、世知辛いぜ。
予想通り、一人は商品の方と受け取っていました。確かに私のことを知らなければ馬鹿にした質問だよな。フォローしないと。ゴリマッチョじゃないんだから穏便に。
「すまない。聞き方が悪かったな。知っての通り俺はこの年で新人の冒険者になったばかりだ。魔物討伐は無理だから、採取で稼ごうと思っているんだ。薬草以外に採取できるのは『タバコ』しか思いつかなかったのだが、他に割のいいのがあれば教えてほしい」
「そ、そうか。早く言えよ! よし、オレが教えてやるぜ!」
怒った方の若者が、ちょっと顔を赤くしながら意気込んでくれた。
ごめんね。オッサンが誤解させちゃって。
もう用件は済んだようなものなのだが、折角の若者の好意なので、ありがたく拝聴する。
そういえば、冒険者の心得みたいなものは、異世界の歩き方以外では聞いたことがなかったな。うん、興味深い。
初心者にお勧めなのは南の森。これはヌコ耳嬢から聞いたな。それよりも、もっとお勧めなのが西にあるローレンス大河、つまり地球のローヌ川、その川岸にも薬草は生えているとのこと。
ちょっとランクが上がったら北の森もいい。魔物は多めだがランクはそれほど高くない。そこは薬用キノコがあるようで、魔物狩りのついでに採取するのがセオリーだそうだ。
で、『タバコ』なのだが、喫煙者が多くないらしく、ゆえに需要も少なく、ギルドにも滅多に依頼が来ない。買取はしてくれるが薬草よりは安く叩かれるとのこと。オッサンは自分用だからどうでもいいのだよ。薬草と同じく森に点在しているので採取自体はそう難しくないそうだ。よし、金のないときは自家製葉巻でも作るか。フィルター付のパイプも錬金術で作ってしまえ。
「ありがとう。大変参考になった。では、二人には悪いが、これで失礼する」
「おお! オッサンも早くランク上げろよ!」
「努力する。では」
オッサンは騎士さん二人にも挨拶をしてその場を離れる。勿論森とは別方向にだ。
四人の姿が見えなくなって、私はケータイを取り出した。
もし近くに薬草なりタバコなりが生えていれば取って帰ろう。
「た・ば・こ……っと。どれ? あちゃあ。これ、東の森の中だ。やめやめ。今日は入らないの!」
検索できたのはうれしかったが、場所が悪い。
王都郊外全域で検索してみる。
いくつか検索できた。東の森を除けば、一番密集していそうなのが北の森、次点で南の森だった。更にローレンス大河沿いで、どれもここから距離がある。
何とか東の森入り口から王都までの間にないか細かく探すと、小さなコロニーが点在していた。
「折角だから行ってみるか」
オッサンはタバコのためなら多少の無理はする。魔物と戦う以外は。
南に約二キロ。まだ東の森の外周というところか。
歩いて30分以上かかった。
「あった! これか!」
タバコの葉なぞ、東京住まいのオッサンが見たことあるはずもなく、片っ端からケータイのカメラを向けて鑑定していった。
その結果、ついに発見したのである。
マップを最大にして更に詳しい分布を調べる。この付近には十数株生えていることがわかった。
東の森で薬草を採取して、その驚異的な繁殖力を目にしていたオッサンは遠慮なくすべての葉を摘んでやった。また生やしてくれよ、と声を掛けつつ。
摘んだ後、辛抱たまらなくなったオッサンは、魔法を試したくなった。
タバコの葉を一枚クルクル巻いた後、念じる。
「乾け~渇け~。水分よ、飛べ~」
こんな感じで、葉の水分が飛べば簡易的なシガー・タバコ、つまり葉巻になると思った。
できました。やっぱり、魔法スゲー、です。
早速、点火!
「おわっ!」
あっという間に燃え尽きました。
いいえ、点火の火力が大きすぎたのではありません。どうやら、乾燥させすぎたようで、枯葉同然になっていたようです。
問題点がわかれば後は簡単。水分を微妙にコントロール。イメージの勝負です。
さあ、試作品第二号が完成。ここまでたった3分。魔法バンザイです。
では、点火。
うむ。今度は燃え尽きない。
「ゴホっ! ゲホっ! ……きついな……香りもないし……」
タバコに間違いはなかったですが、今度は品質という問題が立ちはだかりました。
これはちょっと……という感じです。改めて現代日本の豊かさというものを実感しました。もうね、タール一ミリグラムごとに商品化されててね、今思えば、自分好みの商品を自由に選べたんだなあ。と感動しきりです。もう帰れないけど。
「どうするか……とりあえず、フィルター付きのパイプで誤魔化すか。非常時だから仕方がないし、そのうち香料の研究もしてみよう」
あ。火をつけた葉巻はスタッフが美味しくいただきました。
「さて、帰るか、もう少し薬草でも探すか……あっ! まずは雑貨屋だろ! 商品で売ってるんだから品質がいいかもしれんじゃないか!」
オッサン、一人興奮しております。ないと思っていれば諦めも付く。米なんかもそうだ。だが、あるとわかってしまったら、今まで我慢していた分余計にほしくなるだろう。
東の森から一直線に王都に向かいました。
道? そんなの関係ない。オッサンが通ったところが道になるのだ!
走りました。この年で走れるものですね。馬車で来たときよりも速かったんじゃないでしょうか。
途中、街道に出たので更に加速、昼前には王都に着きました。
「おや、一人早く戻るとは聞いていたが、ずいぶんと早かったな」
「なに。予定通りさ」
この門番さん、実は一昨日オッサンを捕まえてくれた騎士さんだった。今日は警備隊からも通達があったようで、顔パスで通してくれた。
まずはギルドに報告に行く。ついでに雑貨屋の場所を聞こう。
「やあ。また寄らせてもらったよ」
カウンターには何人も受付嬢がいるのだが、オッサンはあえてヌコ耳嬢のところに並んだ。
「あら、タケシ様。お帰りなさい。じゃあ、ギルド長に報告しますね」
「あ、ちょっと待ってくれ」
オッサンは立ち上がろうとしたヌコ耳嬢を呼び止める。
「報告は勿論頼むが、ちょっとした買い物がある。すぐに戻るとも伝えてくれ」
「あ、わかりました」
「そうだ。この近くに雑貨屋はないか?」
「ええ。ありますよ」
と、オッサンは予定通り雑貨屋の場所を聞き出した。ヌコ耳嬢に礼を言ってギルドを飛び出す。ニコチンがオレを待っているのだ!
足早に雑貨屋、もはや私の中では『タバコ屋』を目指す。
お、ここかな?
「すまん! ここにタバコは売っているか!」
道場破りのように店の中に入っていく。
売り子は、タバコ屋のバアさん、ではなく、ここもオッサンだった。
「あるぞ。どれにする?」
順調に話は進み、店主は小袋を三つ取り出してカウンターに並べた。どれも片手に握れるほどの、刻みタバコが入った小さな布袋である。当然、銘柄やタール数の表示はない。
違いを聞くと低級、中級、上級の品質だそうだ。ポーションと同じ感じだな。
お試しで一口吸わせろと要求してみた。店主は、うんうん、と頷いていたくせに『だが、断る!』と言いやがった。え? おやっさん、転生者?
セリフは偶然かもしれないが、結局お試しはダメということで全種類買うことに。
値段は銀貨一枚、三枚、五枚だった。合計銀貨九枚。
一番安いパイプが銀貨二枚でいいというので、つい購入。だって、お金があったから……あとでシュレに『アホか』と言われた。そうだった。フィルター付きのパイプ自作するつもりだったんだ。
オッサン、またもや一文無しに……




