20 魔法使いになろう。その3 生活魔法が使いたい。
「ではタケシ様。お続けください」
宮廷魔術師たちの訓練部屋で、若い魔術師たちに囲まれながらオッサンは魔法の特訓をしている。
付き添いは魔女っ子クララちゃん。十七、八歳くらいかな。
室内だからか、あるいは制服にないからかはわからんが、お約束の三角帽子は被っていない。きれいな金髪ミディアムだ。何より、胸部がスゴイことになっている。ゲヘンゲヘン。なんでもない。
さあ、特訓を始めようじゃないか。
魔女っ子の指示通りオッサンは壁の的に向かって石礫をぶつけ続ける。
やはり、パスッ、パスッと数も威力も情けないレベルだが、そのまま続ける。今回は火力重視ではないからな。
しかし、教師役が年下って、教師二十年してたオッサンにとっては微妙な気持ちになるよな。イ○クラ的ではなくて。
何より、呼ばれ方。『様』ってファーストネームに付けて呼ぶものなのかね。フルネームか苗字ならともかく。
向こうじゃ、ほぼ『先生』としか呼ばれなかったよ。同僚にも学生からも保護者からだって。
呼び捨てにするのは学生時代からの友人たちか、よっぽどガラの悪い連中ぐらいだった。
『様』呼ばわりは病院とかの受付で呼び出されるときぐらいか。
ああー、日本人が海外に移住した時なんか慣れていないと呼び方で戸惑うことも多いんだろうな。まさに今そんな状態だよ。海外どころじゃないけど。海外と時代劇がミックスした感じ。『殿』って何だよ。表彰状贈呈かよ。オッサンもこっちきてから結構使ってるけどさ。
『様』と『殿』じゃどういう違いがあるんだろう。
爺さんは『殿』だし、メイドさんたちは『様』で呼んでくる。そういえばギルドの受付のヌコ耳嬢も『様』で呼んでたな。
まあ、まだフランクに呼び合う関係じゃないのはわかるけど、私が慣れないといけないんだろうな。王様はフランクだねえ。不思議。首がヤバイ?
「あの……大丈夫なんですか?」
「え? なにが?」
石礫を打ち続けている間、私は無心に文化の相違について熟考していた。
突然魔女っ子が話しかけてきたのは態度が不真面目だったからなのか。
いや、そうすると『大丈夫なのか?』というセリフはおかしい。最近よく聞かれるが。
「いえ、よく魔力切れにならないなと思いまして……それにいつの間にか『無詠唱』で……」
「ああ、これだけ威力が弱いのだから消費魔力とやらも少ないのじゃないか?」
そう適当に答えたが、未だに魔力の存在とやらが感知できない。虎の巻では『血管に沿ってナニカ動く力を感じる』とあったが、さっぱりわからん。一回魔力切れになってみないと実感できないのだろうか。
ペースを上げるか?
いや、変に目立ってしまいそうだ。
だが、小技とはいえ長時間続けてれば結果は同じだ。現に魔女っ子が不思議そうな顔をしている。くそ、シュレめ。私の魔力は一体どこの53万なんだ。まさか、無限大ってのが正解じゃないだろうな。
悪い予感がした私はいったん魔法を止める。
もう一つのお約束を試すのだ。別のおいしさもある。グフフ。
いや! 今のは決して卑下た笑いじゃないぞ。未知への好奇心がなせる業なのだ。わかってくれますよね、アカシックさん。
「どうしたんです? 魔力切れですか?」
何かホッとしたように魔女っ子が気遣ってくれた。
ごめんね、違うんだよ。
「いや、魔力について理解できないので、ご教授願おうと思ってな」
「は、はあ。そうですか……」
何故ガッカリする? やはり、私の魔力量はおかしいのか?
「む、向こうの世界で聞いたのだが、てっ手を繋いで相手に魔力を流すとか、相手の魔力を操作するとかして魔力の動きを感じさせるという方法なのだが、こちらの世界にはあるのだろうか。いや、決して君の手を握りたいなどと疚しい気持ちではないよ」
「そういう方法があるのですか? 私は聞いたことがありませんが、確かに効果的ですね。やってみましょう」
お? 積極的だな。これで合法的に……魔力操作の練習ができるんだよ。
「すまないが頼む」
オッサンは魔女っ子の手を握った。ちっちぇ~やわらけ~。
ゴホンゴホン、魔力、魔力っと。
「どうですか? 私の魔力を流してみましたが、何か感じますか?」
感じるさ! ビンビンに! 下から熱いものが込み上げて……
「いや、全く」
「そうですか。ではそちら側の魔力を操作してみます」
「うおっ!」
「! た、タケシ様の……お、大きすぎます……」
言葉にして! 魔力が大きいのね! 魔力が!
ふーっ。魔力らしきモノの動きを感じてびびったところに、魔女っ子の『無自覚・言葉足らずで周りを誤解させる発言』でさらにドキッとしてしまったぜ。
「そっ、そうか。仮にも勇者と同じ転移者だからな。ステータスに反映されない魔力があってもおかしくないさ。口外無用で頼む」
「あ、はい。わかりました。続けますか?」
続けるかだって? 当然じゃないか。できればこのまま……
「頼もう。感覚を掴みかけた」
「はい。では……」
冗談はともかく、マジに魔力とやらがオッサンの身体の中を蠢いているのがわかる。
ぐにゃっ、というか、でろんというか。スライムでも体内にいる感じだ。こりゃ爺さんの説明が大雑把になるわけだ。言葉では表せない。
「どうですか? タケシ様の魔力が大きすぎて私では少し動かすのが精一杯です。クレモン様と交代しましょうか」
ちっ、爺さんに手を握られて堪るか。だが、これ以上ごねるとオッサンの信用が……
「いや、コツがわかった気がする。一人で練習をしてみるよ。ありがとう、感謝する」
「はい。お役に立ててよかったです」
ああ……魔女っ子の手が離れていく……
「それで、魔力に関してはいいとして、教えてもらいたい魔法があるのだが」
「はい、何でしょう?」
オッサン的には、上級の攻撃魔法とかよりも、生産系に興味があるのだ。そして、もっと実用的な……
「生活魔法って、そういう括りの魔法はあるのかな?」
「ありますよ」
「そうか! それで、それは私にも使えるだろうか。スキルは持っていないのだが」
「はい、大丈夫だと思います。魔力消費が少ないので、誰でも使える魔法なんです」
爺さんめ。誰でも使えるならそっちから教えろよ。
「そうか。ではお願いする」
「はい。では、生活魔法は三つ。
『種火』『純水』『浄化』があります。
それぞれ火魔法、水魔法、光魔法の一部なんですが、魔力消費が小さいのでスキルを持っていなくても発動しますし、使い続ければスキルが発現することもあります」
ふむ。虎の巻どおりだ。流石はOTAKUの妄想から発生した世界だな。
「で、どうやるんだ?」
「はい。まずは『種火』からにしましょう。指先に魔力を集めて小さな火を思い浮かべてください」
む、ここで魔力操作が生きてくるわけか。
だが、イメージ重視というなら、地球人、それも現代日本人にできないことはない。
やるだけやってみよう。
火、火、火、ヒ、ヒ、ヒ、ひっひっひ。ああ、ゲシュタルト崩壊しそうだ。何か卑下た笑いにもなってるし。
ゴウッ!
「うわっち!」
「だ、大丈夫ですか!」
指先から炎の塊が噴出したよ! 人に向けてたら大惨事だった!
魔女っ子もビックリのお約束だ。主人公キャラじゃないけど、転移者限定と考えよう。うん。
「だ、大丈夫だ。イメージに失敗しただけだ。ほら」
イメージでおかしなことを考えずにライターの火を想像すると、私の指先に小さな火が点る。うん、できた。
「はあ……それにしてもスゴイ魔力量ですね。上級火魔法のレベルですよ。本当に火魔法のスキルを持ってないのですか?」
「魔力量の件は内緒で頼む。自分でもよくわからんのだ」
「はあ、わかりました……で、では次は『純水』に移りましょう。安全といえば安全ですが、量に注意してくださいね。濡れると困っちゃいますから」
魔女っ子に注意されてオッサンは気が付いた。
しまった! 最初に『純水』の練習をすべきだった!
不注意で魔女っ子に水をぶっ掛けてーからの、濡れ濡れスケスケパターンがーっ!!




