18 オッサン、魔法使いになる。その前に……
冒険者ギルド・フランシスカ王国本部長との話し合いは、宮廷魔術師のクレモン爺さんとの約束を盾にして早めに終わらせた。
ただ、オッサンゴリマッチョにも後日調査に付き合わされることを約束させられる。
短い時間の説明によると、ここ、王都フランシスは王国の東側の国境近くにあり、それは外敵を自ら防ぐためなのだが、外敵というのは魔物のことらしい。流石はファンタジー世界。
なんでも、東の国境となっている山脈、地球ではアルプス山脈だな、そこには魔族が支配しているのではないかといわれるほど高ランクの魔物だ犇めき合っているそうで、『魔物の巣』なんだそうだ。
そこにソロで足を踏み入れるのは、私のような低ランクだと自殺行為らしい。早く言えよ! 話を聞いて下半身がヒュンだよ!
で、私が魔物に出会わなかったのは異常事態だと判断したようだ。
魔族との戦争が拡大していることを考えれば当然の判断なのだろうが……
すいません! シュレの神様結界のせいです!
とは言えないオッサン。
どうしよう。
どうしようもないが、調査には付き合わなければなるまい。
まずは、私が行ったのが本当に件の東の森なのかということから調べるとのこと。
高ランク冒険者数人と、私が入った森の入り口まで同行し、もしそこが東の森でなければ一件落着。オッサンも一安心。
しかし、そんな訳はない。スーパーケータイの地図表示にも、しっかり『東の森』って出ていたんだから。
そこから、私は一人引き返しても構わないが、高ランク冒険者たちは軽く周辺調査に向かう。
魔物の分布を調べて、異常があったら、この場合の異常とは魔物に出会わないことなのだが、再度高ランク冒険者を大勢招集して東の森一帯を調査することになるという。
大丈夫。私、あるいはシュレが結界を張らなければ、きっと魔物がウジャウジャだよ。命大事に、ね?
高ランク冒険者の用意ができたらすぐ出発なので泊まっている宿を教えろと言われた。
そういえば、王宮以外は野宿しかしたことない。
正直に言ったら呆れられた。
連絡はギルド長自らが王宮に出向くことに決まった。なんかサーセン。
ついでに薬草の買取もギルド長自らやってもらった。薬草30束×大銅貨3枚分で900アース、銀貨9枚ゲットだぜ。何気に異世界最初の収入。あ、シャルさんからのは借金だからね。
これで手持ちの現金は銀貨11枚。まだまだ薬草はあるし、高級なところでなければ宿も食事も大丈夫だろう。今夜の寝床は爺さんに相談するか。
あ、リンゴもギルドで買取OKだそうだが、非常食なので取っておくことに。東の森はもう行かないようにしよう。
ギルドカードについては、ギルド長が一度宮廷魔術師の爺さんに会ってから処理するそうで、今日はこれで帰ることに。
つーか、これから王宮に行くって言ったらオッサンゴリマッチョも同行するって。
てなワケで、王都のメインストリートをオッサン二人が闊歩したりしました。
これがヌコ耳お嬢さんだったらうれしいんだけどなあ……
王宮に辿りつき、門番みたいな騎士さんに爺さんと約束があると告げる。ギルド長も身分証みたいなのを出して来意を告げた。
この門番さん、多分ガブリエルさんの部下なんだろう。私のことも知っているようでさくっと通過できた。ギルド長は有名人らしく騎士さんのほうが恐縮してたみたい。
王宮に入るとメイドさんの誰かを見つけ、爺さんの所に案内してもらう。オッサンゴリマッチョに同行しているとはいえ、鎧を装備しているのは私だけなのが気になっているようだ。え~。ギルド長のほうがムキムキで厳ついのに。門番さんは何も言わなかったけど、メイドさんの目が気になったからここで外しちゃお。余計変な目で見られた。理不尽なり。
その後、王宮は広いので当たり前の話だが、私の行ったことのない建物に通された。
ギルド長は来たことがあるようで、宮廷魔術師の詰め所だと説明される。
なるほど、としか感想はなかったが。
メイドさんの案内は詰め所入り口までで、そこからはローブ姿の魔法使いのお兄さんが案内してくれることになった。何故魔女っ子じゃないんだろうという感想は辛うじて飲みこむ。
二階に上がり、奥の立派なドアを魔法使いのお兄さんがノックしてドアを開ける。
少し待たせたようだが、原因となったギルド長が同行しているから問題ないだろう。
「遅かったな。ん? ユーリではないか。手紙を読んでさっそく来おったか」
「クレモン様、お久しぶりです」
穏やかに出迎えてくれたクレモンの爺さんに、荒くれ者にしか見えないオッサンゴリマッチョが丁寧に挨拶した。ちょっと意外。いや、よそ者の私が持っていい感想ではないか。
ところで、私の二人に対する態度、どうすればいい? 今更ながら悩んでしまう。
ということでしばらくは黙っていよう。おそらくギルド長の用件が先だ。
「タケシ殿の件か。手紙に書いてあるとおりじゃ。できれば内々に処理してほしい」
「どうやら本当の話のようですな。わかりました。前例のないことですが、特にギルドの権益に反することでもないし、大袈裟にして騒ぎになることを考えればオレが独断で処理してしまった方がいいようですな」
「うむ。頼む」
よかった。あっさり用件は終わったようだ。
「で、クレモン様。ご相談があるのですが」
「なんじゃな?」
え? まだ何かあるのかよ。こっちは魔法の修行にワクワクしてんのに。
「東の森で異変があるようです。こちらのタケシ殿の報告ですが……」
そっちか! え? 王宮まで巻き込んじゃうの? 勘弁してよ。
「何じゃと? タケシ殿、お主東の森に行ったのか? 聞いておらんぞ」
「いや、言ったと思ったが……」
あれ? 言ってなかったかな。昨日の晩飯の時点ではそんな危険な森だとは知らなかったんだし、第一、王様たちは私の『毒』スキルの話で盛り上がってたじゃん。
「いや、クレモン様。タケシ殿は地理に不案内とのこと。まずそこが本当に東の森かどうか確かめてからということになります」
「ふむ。なるほどの。で? 異変とはどのような異変じゃ?」
「ええ。東の森に低ランクの冒険者がソロで入って無事に帰ってきたというのがそもそも異常です。それに、本人によると魔物が一匹も出なかったそうで……」
「なんじゃと! あの東の森でそのようなことが! タケシ殿! お主、本当に無事じゃったのか!」
「無事も何も、何のことやらサッパリ……」
シュレのことを説明できない限り、すっ呆けるしかない。ああ! ストレスが溜まる! オッサンは主人公キャラじゃないってのに。
「まあ、こんな具合で、こちらにしてもどう判断すればいいのか。調査隊は出そうと思いますがね。タケシ殿はギルド員ですが、王宮関係者でもあるなら調査費用は折半ってことでお願いに上がった次第です」
わー。すごいストレートだ。
無駄な出費になりそうだけど、これってオッサンのせい? 胃が……
「わかった。こんな時期じゃ。王都が危険に晒される可能性があるというなら誰も文句は言わんじゃろう。費用の件はワシが陛下に具申しよう」
あらら、とうとう王様まで巻き込んじゃったよ。借金、色付けて返せるようにがんばろう。
「ありがとうございます。ではオレはすぐに高ランク冒険者を集めますので。出発の用意ができたらこちらに連絡をします。早ければ明朝にでも」
「わかった。こちらでも何人か出そう」
「では失礼します」
私の胃の調子に関わらずドンドン話が進んでいく。
ギルド長は、やはり焦っているのか、私をおいて部屋を出て行ってしまった。
は~。
こんなんでいいのだろうか……今夜もシュレにこのストレスをぶつけねば……
「お主、冷静じゃのう。流石は異世界人というところか」
爺さんが勝手なことを言う。
「だから、何がなんだかわからんって言ってるだろ。魔物の巣だかなんだか知らんが、俺が魔物に会わなかったのは運がよかっただけじゃないか?」
「運のう。確か、お主の運は低かったはずじゃが……」
「こうして面倒に巻き込まれてるんだ。十分運が悪いわ」
「ほっ! なるほどの。そういう見方もできるか。まあよい。お主は『創造神の加護』を含めてわからないことが多すぎる。この件も急に加護が付いたおかげで無事だったのかもしれんし、調査次第じゃろうて」
「そうしてくれると助かる。じゃあ、かなり時間も食ったし、早いとこ魔法を教えてくれないか」
「お、おお。そうじゃったな。準備はできとるぞ」
よし! これでオッサンも魔法使いだ! 都市伝説のじゃないぞ。




