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17 ギルド長もオッサンだった。

 


 マズイ! 

 何がマズイってこんな可愛いヌコ耳娘がご機嫌斜めなんだよ。


 マンゴーもどきでは機嫌は直らんようだ。

 しかし、オッサンには他に小粋なプレゼントがない。

 どうするか……


 とりあえず、王都の地理に不慣れなことをアピールしてごまかそう。


「お嬢さんのお勧めを無視したのは悪いと思っている。城門を出たら東の森の方が近いように見えたんだ。それで思わずな」


「そういう問題ではありません!」


 あるぇ~。違うの?


「だ、だが、依頼表にも採取場所の指定はなかったと思うが……」


「そういう問題でもありません! いいですか! 東の森は魔物の巣なんです! それも高ランクの!」


 あー。そういうこと。

 オッサンが冒険者なり立てで低ランクだから心配してくれてたんだね。


「そうだったのか。それは心配をかけたな。今後は気をつけよう」


「そんな簡単に……本当に大丈夫だったんですか?」


「だから、何がだって……そうか、魔物の巣だったか……でも見ての通りピンピンしてるぞ。運良く魔物にも一匹も会わなかったしな」


「一匹もって……そんなはず……」


「あ、そういや、一匹は会ったな」


「そ、そうですよね! そんなはずないですよね!」


 おかしい。魔物に出会ったといったら喜ばれてしまった。


「スライムだったが――」


「す、スライム?」


「ああ。だが、戦ったりなどしていないぞ。ちゃんと自分の実力はわかっている」


 非力&自己管理能力のアピールをしておいた。スライムを餌付けしようとしたのは内緒だ。失敗したし。あ、ティムについて爺さんにでも相談してみよう。


「スライム……一匹だけ……東の森に? そんなはず……場所を間違えてるんじゃ……でも、薬草もリンゴも他の森じゃあんなに……」


 あれ? ヌコ耳さん、ぶつぶつ言い始めちゃったよ。

 周りの冒険者たちもザワザワしてるし、オッサン何を間違えたんだ?


「なんだ? 何かあったのか?」


 私がどうしたらいいかわからないでいると、カウンターの奥、スタッフオンリーであろうドアから一人の男が顔を覗かせた。

 ゴリマッチョだ!

 いや、私に絡んできたゴリマッチョではない。

 もっと年を重ねた、そう、オッサンゴリマッチョだ!


「あ、ギルド長!」


 ヌコ耳嬢が席を離れその大男に駆け寄る。


 ああ、なるほど。ギルド長ね。異世界転移五日目で登場か。ギルドマスターとかグランドマスターとかは呼ばないのか。


 オッサンがテンプレ状況に浸っていると、軽くヌコ耳嬢から説明を受けたギルド長とやらが私の方に向かってくる。

 くっ、すごい威圧感だ。

 そんなスキル持ってないのに威圧感をビンビン感じる。こりゃ同年代で体格負けしてるせいだけじゃないな。


 だが負けん!

 神をもorzさせたこの私が無様な姿を見せられるものか! そうですよね、アカシックさん!


 オッサンは平然を装い、どこにあるかもわからない丹田に力を込めた。気合だ! 

 フッと威圧感がなくなった気がする。スゲー、ファンタジー世界スゲー。テンプレ万歳だ! 


 ただの気のせいともいえるな……


「お前か。二日続けて面倒を起こしてるヤツは」


 二日続けてとは心外な。中一日開けとるわ。大体、今日は騒ぎともいえんだろうが!


「お初にお目にかかる。ギルド長とお見受けするが、私は一昨日冒険者になったタケシという。この年で新人かと笑われるかも知れぬが、色々ご教授願おう」


 ハッタリはかまさんと。どうせ私の素性を知っている者はここにはいない。


「……ふん。いや、無駄に年を食っていねえ、ってとこか。ついてきな。話がある」


 うわー。ギルド長室へ連行。オッサン、主人公キャラじゃないのに。

 だが仕方ない。ステータスの件もあるし、いずれ対面することになったんだろう。もっと穏便にするための手紙だったんだけどな。


 私は指示に従い、カウンター脇から内部に侵入、そのままスタッフオンリーの扉を潜った。


 ギルド本部の造りは、内部に階段がある。どうやら二階以上はスタッフ専用らしい。本部というぐらいだから各支部との連絡や裁定などの仕事があるのだろう。区役所に対する都庁みたいな感じかな。


 ギルド長直々に案内されたのは、応接室のようなところだった。

 ふう。書類の散乱したギルド長室や取調室じゃなくってよかったよ。


「座れ」


 結構広めの応接室でオッサンゴリマッチョと二人きり。精神に来るものがあるが、黙って従う。ギルド長は私の対面に座った。


「さて、昨日の事でアンタのことは聞いている。勇者の先生なんだってな。おっと、すまねえ。オレは冒険者ギルドの本部長をしてるユーリってモンだ。見ての通りの中年だ、安心しろ。ま、楽にしてくれ。コイツは取調べじゃねえからよ」


 話からして、警備隊の脳筋隊長から話を聞いたようだ。それも微妙に間違って。おいこら脳筋! 面倒だな!


「どこまで関わっているかわからないが、一つ訂正がある。私は勇者の先生ではなく、勇者と同じ世界で教師をしていただけだ。勇者とも面識はない。間違った噂が流れるのは勘弁してほしいものだ」


「勇者の世界な。なるほど。だから『職業』が『教師』なんて珍しいモンになってるのか」


「いや、その件は手紙に書いてあるはずだ。先ほどのお嬢さんから手紙を受け取ってはいないのか?」


「ん? これか?」


 そう言ってギルド長は懐から封筒を取り出した。

 ヌコ耳お嬢さんはキッチリ仕事はこなすタイプのようで、混乱はしていたようだが責任は果たしている。


 その封筒は、人目を避けるため王家の封蝋などは無しにしてもらったのだが、中身を取り出したギルド長は固まっていた。


「あ? こりゃ……宮廷魔術師筆頭のクレモン様の……」


 私は急かさず、ギルド長が納得するまで待つ。


 ギルド長は短い手紙を長いこと眺めまわしていた。

 偽造だと疑われても構わない。本部ギルド長ともなれば王宮に伝手はいくらでもあるだろう。そもそも手紙一本ですべてが済むとは私も王様たちも思っていないのだ。


 勇者の存在はいずれハッキリと喧伝することになる。

 ただ、同じ異世界人である私に関しては、召喚の失敗というのも外聞が悪いのでなるべく隠す方針らしい。私の命ごと隠されなくて本当によかった。人道的な処置に感謝である。


 その点もあって、いずれはギルド長も王宮に呼ぶつもりだったらしい。この手紙はその前置きなのである。


「……なるほど。召喚の失敗ねえ。トンデモねえ秘密を知っちまったぜ。オレの命は大丈夫なんだろうな」


「ギルド長とあろうものが肝が小さいな。安心しろ、ここの王様たちはいい人たちだ」


「ちっ。本来冒険者ギルドは国の意向にホイホイ従う義務はねえんだが、コイツは魔族との戦争にも関わってくる。おとなしく話を聞いてやるか。それにしても、ステータス異常なあ。不思議なモンだ」


「それも含めて情報の管理を頼む。勇者でもなんでもない私が目立っても誰も得はしない。戦争相手ならともかくな」


「……そうだな。流石は『教師』、情勢判断は確かなようだな」


「言っておくが、教師は前の世界の職業。今は魔法剣士だそうだ。まあ、魔法はこれから教わるんだがな」


「そうか。気をつけよう。職員たちにも口止めはする」


「よろしく頼む」


 ふーっ。どうやらステータスの一件については穏便に済ませることができたらしい。あくまでも表面上はだが。なにせ、シュレの偽装だからな。


「でだ。本題に入るが……」


 はいーっ? 本題って何?


「東の森に行ったんだってな。それもソロで」


「あ、ああ。その件か。すまん。地理に疎くてな。ギルド長にしか言えんが、知っての通り異世界人なもので……」


「いや、そこが問題じゃねえ」


 え? ヌコ耳嬢と似たようなことを。だから! 一体何が問題なのよ!


「魔物と全く遭遇してねえとはどういうことだ? そこは本当に東の森なのか?」


 知らねえよ、もう! 地理に不案内だって言ってんだろうが!


 このあと、根掘り葉掘り聞かれました。

 爺さんとの約束があるのになあ。




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