15 魔法使いになろう!
「う~~ 語尾~ ゴビ~ ゴンビニ~ ゴンビニ?」
『タケシよ! 起きんか! ニャン!』
「ハッ! ぬ、ヌコ様! 迷子ですか!」
『馬鹿者! 誰が迷子じゃ! 寝惚けとらんでさっさと起きんか!』
「……あ~……シュレか……いや、寝てないぞ。ちゃんと聞いてるからな」
『愚か者が。管理神に誤魔化しが通用するか! それよりもさっさと起きんと面倒じゃぞい』
「ん~? 面倒……」
昨晩、というか日付が変わってから更に話し込んでいたせいですっかり寝坊してしまったようだ。
日が高くなっている。
おや、今日はメイドさんのモーニングコール(ノック)がないのか?
「シュレ、面倒って?」
神様回線が繋がりっぱなしだったみたいで、シュレが起こしてくれたようだ。というか、私が寝ている間中愚痴を零していたのだろうか。少し怖い。
『ドアの外にメイドたちが集まっておる。騎士もじゃ。何度もノックしてるニャン』
「え? 聞こえないぞ……あ! 結界か!」
状況がわかった私は慌ててスーパーケータイの『結界』機能・『防音障壁』を解除する。
とたんに激しいノック音が響いてきた。
「はいはい! 今起きました!」
ドアがぶち破られる前に急いで駆け寄る。
ドアを開けるとシュレの言ったとおりメイドさんと騎士さんたちがズラリ。
「え~と、すみません……寝坊しました」
「……そうですか……朝食のご用意はすでにできてますから。昼食もご一緒なさいますか?」
「なんか、すみません……」
なんとなく私の世話をよくしてくれるメイドさん一号・フランさんの機嫌がよくない。
これ以上待たせてはマズイと、私はメイドさんたちが持ってきてくれていた洗濯済みの服に着替えることを申告した。結局また待たせることに。
その後、洗顔その他で更に時間を使ってから使用人用の食堂でかなり遅い朝食をいただいたのだが、周りにいるメイドさんたちの視線が気になる。
なにせ小心者ですから。
「はっはっは! タケシはいい度胸しておる」
「いや~。慣れない冒険者の仕事で野宿したからな~。警察の取調べまであったし」
朝食兼昼食を終えて中途半端な時間だったが、シャルさんに面会? 謁見? を求めた。昨日約束みたいなのは一応していたので割りとスムーズにことが運び、仕事中の執務室みたいな部屋に通される。
相変わらず愛想良く迎えてくれました。あ~、いい人だ。
「ケーサツ? 警備隊のことはすまなかった。だが、そなたのスキルの異常までは周知させられんからな……」
あ、王様に謝らせてしまった。こりゃいかん! やっぱり言い訳ってよくないよね。
「シャルさん、そういうつもりじゃないんだ。すまん! 考え無しの発言だった」
シャルさんは笑って許してくれたよ。ホントいい人。
あ、ちょうどいいタイミングだ。この流れに乗ろう。
「シャルさん。スキルで思い出したけど、俺のスキル、何か変わったみたいだ」
「何? どういう意味だ?」
これは、昨晩思いつかなかったというか気が付かなかったというか、とにかく、先ほど着替えや何やらでドタバタしているときに閃いたことだ。
シャルさんたち王宮関係者は私のステータスが召喚魔法の失敗により異常化したと考えている。ある意味正解なのだが、異常なら異常で押し通そう、ころころ変化しても異常のうちだと開き直ればいい、そう判断したのだ。
メイドさんたちを待たせっぱなしだったが、急遽シュレにお願いしてまたステータスの一部も書き直してもらったよ。
「わからんが、もしかしたらステータスの異常とやらが直ったのかもしれない。おかしな表示がなくなってる」
「本当か? レベルアップやスキル獲得以外でステータスが変化するなど聞いたことがないが……」
「それは俺にはわからん。異世界転移なんて初めてだからな」
「うーん。それもそうか……」
目論見どおりシャルさんは疑問符つきながら納得してくれたようだ。
すぐに宮廷魔術師の爺さんが呼ばれる。あと、ステータス確認の魔道具とやらも。
「陛下。お呼びと聞きましたが……おや、タケシ殿。貴殿も?」
魔道具の到着から更にしばらく経って宮廷魔術師、クレモンの爺さんがやってきた。
「これはクレモン師。わざわざお呼び立てて申し訳ございません」
「ほう? ワシに用があるのは貴殿か。陛下の執務室でとは、まさか魔法の修行ではあるまい」
爺さんとは、私が冒険者ギルドに行って用を済ませてから午後にでも会おうと約束していたからな。変に思われても仕方がない。
しかし、シャルさん自ら説明してくれるようだ。
「クレモンよ。実はな、タケシのステータスが変化したそうだ。有り得ぬことだが、勇者召喚自体が滅多になきことゆえ、頭から否定はできぬ」
「なるほど。確かに珍事ですな。おお、鑑定装置もあるのですな。では、さっそく確かめてみましょうか」
爺さんは、判断は鑑定の結果を見てからというスタンスだ。魔法使いの癖に現実的である。そういうのは嫌いではない。
ということで、私は鑑定魔道具の水晶部分に手を載せる。
「おお! 確かに変わっている! 不思議なことだが、クレモン、どういうことかわかるか?」
私の偽造ステータスを見たシャルさんが興奮気味に爺さんに説明を求めていた。
「陛下。ここをご覧ください。『創造神の加護』がございます」
「当たり前なことを」
「いえ。ワシの記憶ではこの前確認した時にはございませんでした。勇者殿にはハッキリと加護がございましたのに何故とも思いましたが、異世界人のことゆえそういうこともあるかと、また他にも妙なスキルが多く、気に留めておりませんでしたが、おそらくコレが原因だったかと」
「何? ……ふむ。召喚魔法の失敗で創造神の加護が与えられなかったのか。なるほど。それでステータスに異常が見られたのだな」
「仰るとおりかと」
「で? なぜ突然加護が付いたのだ?」
「それはワシごとき者が神のご意思を測ることはできませんでな。神の慈悲としか……」
そうなのである。シュレに急遽頼んだのは『創造神の加護』の追加。勿論偽装だ。
神様の加護なんて日本人である私にはピンと来なかったのだが、シュレやアカシックさんと話していて、神の存在がここまで身近なら、持ってて当たり前のモノがないのだから異常だと考えても不思議じゃないと思ったのだ。
どうやら思惑通りになったようだ。
「慈悲か……タケシよ。勝手に呼び出した我らが言うのは筋違いかも知れぬが、神には感謝すべきだろうな」
「とんでもない。俺はこれでもシャルさんたちにも感謝してるんだぜ。転落死寸前で拾われてさ。神様にだってちゃんと感謝してるよ」
「そうか……よかったな。これでタケシも下手に誤解されることはないだろう。結婚もできるだろうしな」
「シャルさん、その話はもう……」
『毒』スキルは隠してあるだけだよ~。しかも管理神(笑)の悪戯だったんだよ~。
声を大にして言いたかったが、それも叶わず、私はストレスを抱えるのであった。
「はははは。で、前も聞いたが、これからどうする?」
「そうだな。今日は予定通りギルドに報告に行って爺さんに……おっと、クレモン様に魔法の基礎でも教えていただければと」
「爺さんで構わんぞ。まったく、陛下にそれだけ気安く口を利くくせに下っ端には気持ち悪いほど丁寧にしゃべりおって。大臣どもが怒るに怒れんと苦虫を噛み潰しておったぞ」
「そうか。それは悪かったな。シャルさんは、なんだ、その、俺の世界で出会ってたらいい友達になれたな、とか思ってさ」
「タケシよ。ワシもうれしいぞ。生まれたときから王族なんてやってるとな、対等に話せる人間、いや、気安く話せる、だな。そんな人間はいなかった。いたとしても腹の探り合いになる。その点タケシは裏に何もないのだから、他の貴族連中もいちいち目くじらを立てたりはせんのだよ」
「あー、なるほど。俺が貴族でも城勤めでもないから利権は侵されないってとこか。それでも、まあ、いい国だと思うよ、ここは」
「うれしいことを。タケシよ。これからも変わらずいてくれ。せめてワシが隠居するまではな」
「ああ。こちらこそ」
なんか、いい雰囲気なのだが、これって、観点を変えれば私はこの国で貴族にも城勤めにもなれないってことじゃない? 今のところ望んでないけど、ハッキリ言われるとなんだかガッカリ。経験はないけど、受験に失敗したとか就職の面接に内定もらえなかったとか、そんな気分。
「タケシにはそなたの世界の知識も広めてもらわねばならんしな。若い勇者よりも適任だろう」
「そうだな。それもあったな」
「だが、そのためにも、どうしても魔王を倒さねばならん」
「ああ。わかるよ。俺も、何ができるかわからんが、せめて自分の身は守れるように爺さんのところで精々修行するさ。頼むぜ、爺さん」
「ほう。陛下の友人とあらば老骨に鞭打ってすべてを叩き込んでやろうかの」
「俺に鞭は打たんでくれよ。ま、ほどほどに頼むよ」
こうしてオッサンズ+爺さんの全く色気のない会合は終わった。
そばには青褪めた文官が控えていたとさ。




