32 異世界リゾート・その4
新作・ヘイスが征く!! ~邪神の使徒になってしまった男の苦労譚~
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よろしくお願いします!
「それでは、いただきます!」
「「「いただきまーす!」」」
オッサンは手を合わせて祈りの言葉を捧げる。日本人にとってはありきたりの作法だ。しかし、これは紛れもなく『祈り』なのだ。洋の東西、宗教の別を問わず普遍的な行為のはずだが、人によって受け止め方が違うようだ。単純に祈りの言葉が違う、仕草が違うとイメージも違ってしまうのだろう。ま、本来祈りを捧げられる神サマにとっては慣れない行為だというのもあるだろう。
オッサンに付き合って声を出したのは3人。3柱か? 自慢の娘であるセーラは当然として、チビ妖精と初参加の魔神サマはノリだけで楽しくやっている。
「「い、いただきます?」」
「いただきますじゃ」
「いただきます」
「ちっ、めんどくせーな。言えばいいんだろ、言えば! いただきますだ! さあ、酒を寄こせ!」
ノリのいい3人に続いて食事初参加の海神サマと雷神サマがぎこちなく復唱する。それを見てから創造神の爺さんと竜神サマが旅の間毎日していたものだから落ち着いて作法どおりにこなす。
脳筋はやっぱり問題児だった。照れがあるのだろう、一々悪態をつく。いるよね、こういう人。若者に多いよ。
感謝の気持ちが足りない、ってイジワルしてやりたいところだが、楽しいバーベキューがバトルになりそうだから黙って酒樽を差し出した。海神サマと雷神サマがうれしそうに受け取る。手酌ですまないね。脳筋同士、獣神サマのお世話もヨロシクね?
「おいしー!」
「ホントだね。見た目はフツーなのに不思議だねー?」
照れもせず声を上げるのはチビ妖精と魔神サマか。
ふふふ。これぞ海の家マジック! 海の家補正といってもいい。どこぞの新聞記者でも陶芸家でもない只の中年の独身教師が作った料理でも『海の家』というシチュエーションが加われば、あら不思議。何故かっていうのは神サマでも仏様でもわかるまい。
「「キャン、キャン!」」
『人間の食べ物は初めてですが、美味しいです』
ああ、リバイアサンとチビワンコーズも当然参加している。小さくなってもらって、食事は低い台の上で勘弁してもらおう。ウチのセーラが自分の食事そっちのけでせっせと食べさせているんだ、光栄に思うがよい!
「またロクでもないことを考えておる顔じゃな」
だまらっしゃい! こっちは調理で忙しいのだ! どれかがセーラの口に入るかも知れん、手を抜くことはできんのだ!
「パパ、あーん」
「! セーラ、パパはうれしいぞ! あーん……ふおお! うまいぞーっ!」
セーラがバーベキューの串を差し出してきた。
どこで誰に習ったのか、問い詰めたいところだが、親子のコミュニケーションが優先される。
「親バカではなくバカ親じゃな……セーラちゃんや、おじいちゃんにも、あーん、してくれるかのう?」
「いいよ~。あーん」
「ふおお! うまい! なぜじゃ! うますぎる!」
爺さんを邪魔したい気もしたが、セーラの力を見せ付けたい気持ちが強かったので好きにさせた。やはりそうなったか。
「ふふふ、どうだ、恐れ入ったろう?」
「うむ。完敗じゃ」
「アンタたち、バカなの?」
「「だまらっしゃい!」」
オッサンと爺さんの気持ちは一つになったようだ。
「アハハ。異世界人クン面白いね~。創造神様も旅に出てから変わったね~」
「当然じゃな。真実を知ってしまったのじゃ、神でも人でも変わらざるを得んよ」
「あれもなのかな~?」
何気に深い話をしている頭脳派の二人は脳筋派の三人に目を向ける。
獣神、海神、雷神の三柱は酒盛りの真っ最中だ。ジョッキでは物足りないのか、ついに樽から直飲みするようになっていた。
「……神々で集まって宴会した記憶はあるけど、あんなんじゃなかったよね~? 冒険者みたい? どっちかっていうと、海賊? 山賊?」
「う、うむ。真の自我というものは、実は人間らしさということなのじゃろうか?」
人間らしさね? あれ? アカシックさんも人間的思考が生えて困ってたんじゃ? バグ修正の一環でシュレを切り離したんだよな? 神サマズにとっても人間的思考はバグなんじゃ……ちょ、ちょっと確認しておこう。
オッサンはスーパーケータイでシュレに電話する。念話とか遠話とかのスキルは持ってないからな。
おや? 異世界では聞こえるはずのない着メロが聞こえてきたぞ? って、おい!
「なぜいる!?」
シュレがバーベキューしていた。
「なによ? 話があるなら直接言えばいいでしょ? なに? 秘密の話? 愛の告白かしら?」
「……いつの間に……」
宇宙の意思の分体で全知全能なんだから何が起こっても不思議ではないのだが、凡人のオッサンはシュレのボケを素でスルーしてしまった。
創造神の爺さんと魔神サマもフリーズしている。五体投地しなかったのはシュレが神気とやらを抑えているからだろう。だが、上司の来訪に気が付かなかったことにショックを受けたようだ。
「もう、ノリが悪いわね。『いただきます』のときからいたわよ。ねえ? セーラちゃん」
「うん。おねーちゃん、あーん」
「あーん。やっぱりおいしいわ~」
これは、汚れた大人の目には見えてなかったとでも言いたいのだろうか? 手の込んだことを……
「タケシが心配することはないから安心しなさい」
アカシックさんに頼んでシュレがオッサンの心を読むことはできなくなっているはずだが、バッチリ読まれているらしい。あれ? そういえば神サマ会議のときも念話していたな? どうなってんの?
「……バグじゃないのか?」
「ママにとってのバグよ。私以下の神々に影響が出ても、ママに影響が出なければ問題なしよ」
いや、それって問題大アリじゃん? この世界に影響が出るってことだろ?
いやいや、待てよ?
オッサンは凡人の頭で必死に考える。
シュレは言っていた。世界は生まれては消える。アカシックさんの仕事はそれを記録することだと。滅び行く世界を救済などしないと。
マクロ視点だと、世界は人間の身体の細胞の一つのようなものに過ぎないのかもしれない。オッサンだって自分の身体の細胞の一つが生まれたり死んだりしたところで一喜一憂したりはしない。また、人間の身体には細菌が住み着いているが、その一匹一匹を住民と捉えて人権を保障したりもしない。せいぜい健康のためにビフィズス菌を摂取するぐらいだ。
シュレに、ミクロ視点に立ってすべての生命を保護しろ、なんて要求するのは身勝手すぎるんだろうな。
「……問題が出ても問題ないってことか?」
「言葉足らずだけど、そのとおりよ。ガン細胞なら切って捨てればいいんだし」
やっぱり読まれてる~!
「この世界に限定して問題だと思うなら、そう思う人が解決しなさい。私は何も制限はしないわよ?」
「……人間が何が出来るかわからんが、ま、コッチの神サマたちが何とかするんだろ? それより、神サマが人間ぽくなってホントに大丈夫なのか? 大体、何でこうなったんだ?」
「えーと……聞きたい?」
「やっぱり知ってるのか。勿体つけないで早く言えよ」
「えーとね、私に影響する地球人の妄想を一部肩代わりしてもらったからかな~?」
「は?」
「あ、全部じゃないからね? 妄想が多種多様すぎて矛盾を起こしてる部分を分けたの。いや~、おかげさまで短時間ならバグのオーバーフローも発生しなくなったのよ、だっちゃ。あら? 言ってるそばからこれだワン? もう! 今日はこれまでじゃ!」
思いもよらなかった内容にオッサンはフリーズした。
そんなオッサンを尻目に、シュレは姿を消した。
「お、お、お前のせいかーっ!」
悲報! 管理神サマがバグを流出させていた件!
次話は12日0時の予定です。




