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04 オッサン、進路相談する

 

「そうか、そうか。"がっこう”とは平民に教育を施す館なのだな」


「平民とかじゃなくて、貴族そのものがいないんだけどな」


「はっはっは。面白いことを言う。貴族が居らんで国が成り立つまい。タケシは冗談が好きなのか?」


「はっはっはっは。シャルさんや。人の話聞こうな」


 ただいま会議中。


 広いテーブルで一人異世界メシをつまみながら王様とやり取りをしております。大臣たちは相変わらず睨んでる。

 やっぱ『平民風情が!』って言いたいんだろうか。


 なにこれ、視線がウゼーっ。


 きっと白い部屋で私の心も鍛えられたんだな。うん。割とイケル、この材料不明のスープ。


 王様とタメ口で雑談してるのが不味いんだろうけど、王様公認だし、この路線で行ってしまえ。


 まあ、私のステータスに『職業:教師』ってあって、実際前世? では二十年選手だったこともPRに付け加えたら皆さんの視線も若干穏やかになったよ。若干ね。もちろん、謎の称号『管理神の**』が影響しているのもあるだろうけど。

 こっちの世界では教師という実際の職業は権威があって、貴族の子女にはそれぞれ家庭教師がついているんだって。裏山。


 平民は、もちろん学校なんかなくて、教会の日曜学校? とか寺子屋レベルが一般的らしい。

 う~ん、再就職、どうしよう……


 その問題も含めて、雑談に紛れて色々質問しちゃいました。


 1、私を召喚した理由。

 2、この国についての概要。

 3、この世界の宗教。

 4、文化レベルなど風俗。

 5、王様がポロっと漏らした“勇者”とか“そなたも”という発言について。


 とりあえずざっくりとこんな感じ。

 アカシックさんに聞けば教えてもらえるんだろうけど、封印続行。最初は手探りで行かなきゃ。王族貴族視点で大本営発表のように危ういかもだが、それも一興。


 で、昨晩メイドさんたちに聞いたことと合わせてわかったこと。

 1に関して。

 おおよそ予想はついているが、ハイ。いたよ、魔王サマ。よかったあ、勇者じゃなくて。


 2に関して。

 1の理由がストレート過ぎたけど、魔王の危険性は口実で、勇者を侵略戦争に利用するってパターンもアリアリ。だから国際情勢も語ってもらった。王女が登場しないから腹黒ルートはなさそうだ。王様も話せるオッサンのようだし。

 まあ、一応?


 で、この国はフランシスカ王国。北大陸の西側に位置する中世そのままの封建国家。現国王はシャルルなんとか十三世。千年以上の伝統を持つ結構な大国らしい。アカシックさんによると最近生まれた世界なんだけどね? その辺どうなっているのかは謎。

 国名が気になって我が侭言って地図を持ってきてもらった。何だよ! オタクどもめ。まるっきりヨーロッパの地図じゃねえか! 名前どおりフランスがあった場所だったよ。道理で6月下旬なのに蒸し暑くないわけだ。

 ちなみに王都はパリがあるところではなく、もっと南のローヌ川沿い、マルセイユとリヨンの中間辺りだった。


 あ、ちなみに、この世界はアーシアヌと呼ばれているらしい。アースでいいじゃん、地球でいいじゃん。

 でまあ、アフリカのある場所が南大陸で別名暗黒大陸。そのまんまだった。


 地球の地理と違うところもあって、西のジブラルタル海峡と東のシチリア海峡が陸で繋がっている。地中海は完全に内海となるわけだ。飛行輸送もできない文明なのにアフリカ方面からヨーロッパに侵攻って状況が理解できたよ。まあ、ショボイ地図だったし、魔族は飛べるかも知らんけど。係わり合いになるなら後でアカシックさんに確認だ。


 周辺国家とともに魔族の侵攻に対処していたが最近押され気味なので古くから伝わる勇者召喚儀式を執り行ったそうだ。いや、だから最近発生した世界なんだよ。

 とりあえず周辺国家とは仲がいいらしくて安心。


 さて、3に関してだが、

 イタリア半島ではなく、北のスカンジナビア半島あたりにに宗教国家があるらしい。

 何でもこの世界を作った『創造神』を信仰する、ガチガチのヒューマン至上主義だそうだ。お約束の展開だが、この世界に神サマいないからね? いたとしてもそれってオタクの妄想から生まれたんだよ。

 でも、いたら会ってみたい。自覚があるのか問い詰めてみたい。って、こんな話をしたら、私邪教徒扱いされちゃうよ。宗教裁判だよ。うん。近づかないでおこう。


 オッサンが胸を撫で下ろしたのは、その教国? 凶国? 以外は基本的には多神教で結構緩いらしいと聞いてから。教会と呼ぶ施設も、お布施さえ払えば回復魔法をかけてくれる、オッサンが聞く限りはほぼ病院扱いのようだ。



 4についてが一番楽しみだ。

 ハイ、ありました。冒険者ギルド! これがないと異世界じゃないってくらい鉄板です。勝率100%です。魔王がいるんだから魔物もいます。魔物討伐クエストです。

 上述の3に関してもあったけど、人種には、私や王様を含めたヒューマン種のほかに、御馴染みのエルフ、ドワーフ、獣人なんかもいます。ファンタジー万歳! 


 で、これも何故かよくあるパターンだが、ヒューマン種が一番多いそうで、件の宗教国家ほどではないにしろ亜人と呼ばれて差別を受けることもあるとか。あ、奴隷制度もちゃんとあるそうです。無数の異世界にはパワーバランスが違う世界もあるだろうけど、私が呼ばれたのが鉄板中の鉄板だったってことで納得するしかないな。


 ハイ、来ました。絶対聞いておかなきゃならない問題。5についてです。


「実はな、満を持して執り行った召喚儀式が失敗に終わっての……」


 なんと!

 いや、予想はしてた。

 だって、七時間も真っ白空間にいたんだよ。王様たちはそんなに待っていられなかったろう。失敗と判断しちゃうよね。


「で?」


「すぐにやり直したのだ。二回目は勇者召喚に成功したのでな、まさかそなたが遅れて姿を現すとは思えるはずないじゃろ?」


 なるほど。二回目に召喚されたけど、私より早く到着したから“本物の勇者”となったのか。その辺の設定はよくわからん。てゆーか、アカシックさんの匙加減一つだろ。

 その勇者の人物像についても尋ねてみた。

 素っ裸で現れたみたいだが(シュレの八つ当たりの被害者か。あの白い空間は無駄に広かったし、時間の観念も私が考えても無意味だろう)、金髪黒目の少年で、肌は私と同じ黄色人種っぽい、とどめに『異世界ヒャッハーっ』と叫んだらしい。うん、間違いなく日本人だ。


 容姿で判断するのはマズイが、なんとなく会いたくない人物像だ。

 会うときは、ジャージ姿に防犯協会の腕章。竹刀があれば完璧だ。シャルさんに生徒指導室用意してもらわんと。


 私の心配はとりあえず日延べになる。

 シャルさんによると、魔族侵攻の情勢が緊迫しているので、勇者には早速レベル上げにどっかのダンジョンに行ってもらったそうだ。ラノベ的展開では二、三ヶ月お城で訓練してからだと思うんだがまさかのニアミス。もしかしてアカシックさんの手配かな? 勇者も嬉々として出かけたようで、これで私が戦場に近づかなければ当分会うこともないだろう。


「それでタケシよ。そなたこれからどうする?」


「どうとは?」


 王様も私の処遇についてはお困りのようだ。


「そなたは聞いてこなかったが、元の場所に帰す方法はない。此度の召喚は苦肉の策。なんとしても魔王に対抗する手立てがほしかったのだ。幸い勇者殿はこちらの願いをこころよくきいてくれたがの」


「……そうか」


 向こうから召喚・送還に関して説明があった。やはり帰れないらしい。これもテンプレなのだろう。

 私の場合、シュレたちから聞いていたので折込済みなのだが。まあ、言うわけにはいかない。

 それに、彼らがわかっていたかどうかは不明だが、おそらく召喚呪文に『死に直面した者』という条件が組み込まれていたのではないかと思う。

 その点は感謝だ。


 そのことを聞いてみる。


「当然だ。国に帰れず、魔王という恐ろしい相手と戦わせるわけだからな。初めての勇者召喚ということもあり、切迫はしていたが随分協議を重ねた結果なのだ」


「こちらは感謝するしかないな……」


 状況からして、この異世界転移は『当たり』の部類のようだ。命が助かった上に召喚主が悪人というわけではないのだから。

 そして話は本題に戻る。


「で、そなたのこれからのことだが、勇者でない者を無理に戦に駆り出すわけにはいかぬだろう。レベルは高いようだが、ステータスバランスが異常だ。ありえん。やはり召喚の失敗のせいだろう」


 あ、すまん。それはシュレと戯れていたせいだ。

 勇者云々の理屈は理解できないが、ここは流れに乗るべきである。


「そうだな。もういい年だから、これからレベル上げするのもな。すまんな、戦いでは役に立ちそうもない」


「いや、かまわぬが、教師であるなら、それなりの役職についてもらう手もあるぞ」


「それは止しておこう。教師といっても前世のことだ。異世界人が国政に関与しちゃマズイ。ま、異世界の知識くらいなら指導してやるのも吝かじゃないけどな」


「おお。勇者にも少し聞いたが、ニホンとは随分発展した国らしいな。助かる」


「喜ばせておいて何だが、今すぐじゃない。俺はこの国、いや、この世界のことを何も知らない。だから、何を伝えて、何を伝えるべきではないのかがわからん。シャルさんだって、いきなり王国のすべての制度を変えられるわけないだろ? 貴族制度廃止なんて、口にしただけで怒られるだろ。ホラ、睨まれた」


 例え話ということが辛うじてわかっていたのか、怒号は飛ばなかったものの、在籍していた大臣さんたちがエライ勢いで睨んできたよ。


「……確かに困りものだな。タケシよ。あまりこやつらをからかうな。ワシも心臓に悪い」


「はははは。悪かった。まあ、そんなわけで、しばらくは旅でもしてこの国のことを知ろうと思う」


「わかった。好きにするがよい。呼び出してしまった責任もある。援助は惜しまんぞ」


「そうか。なら、お金貸して。あ、風呂も貸してくれ。ついでに服もな」


「……少しは遠慮せんか……」


 私は大臣たちの白い目にも負ケズ、これから必要となる物資を要求するのだった。だって! 日本人だから! オフロ入りたいから!



読んでくれてありがとうございます。

連載中の『グラディウス・サーガ』もよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n6715dr/

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