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第八話

――二時間後。



「地獄を見た」

「そう?私はそうでもなかったけど」


 アマーリアさんはとてもゆうしゅうなかていきょうしでした。


「鑑定スキル、ランクⅢ……コレはどれくらいのモンなんだろう」

「私はランクⅤだって」

「ふむ、いきなり階梯を持つとは」

「想像以上ですわね」


 姫様曰く、スキルとの適合性が高いほどランクがあがり、この数字が増えるらしく、それを階梯と呼ぶらしい。

しかも普通は取得時でこのランクが付くのはなかなか無いという。


「私ですら当初はランクⅡであったからな、お主らはその時の私よりも文物の真理により近づいた基礎知識を持っているということだな」

「おそらく先の傭兵隊長はランク外ではないかと。それでもああいった力仕事をなさる方が持っているの事自体珍しいのですが」


 脳筋じゃない証明ですねわかりますん。

 たしかにあのゴリ……ゴラウリエ氏は見た目によらず理知的であった。

 なおアマーリアさんはランクⅣ、姫様はランクXⅧだという。

 一般的にはランクが付くだけでも珍しく、同じ鑑定スキル保持者でも、ランクが付いているだけで扱いが天と地の差だという。姫様すげえ。


「あー、脳が溶けそう」

「初スキル取得時はそんなもんじゃ。私も初めての時はそうじゃった」


 せっかく取ったスキルだしということもあり、まずはお試しと言うことで、早速使ってみることにした。

 手始めと言うことで、よく知ってるところから行こうとして、ついスマホに目をやってしまい、鼻血を吹いてぶっ倒れた。

 いやー、ランクⅢでこの情報量ですか、よく姫様は鼻血垂らしながらも凝視し続けていられたな、ランクXⅧだぞ。

 一階梯ごとの情報量の差は個人差が激しく一概には言えないらしいが、およそ一段ごとに倍程にもなるらしい。

 と言うことは、今さっきの姫様は俺の何倍だ?えーと、単純計算だと三万二千七百六十八倍の情報が脳に流れこんだというのだろうか。


「違うんじゃない?情報量の多寡が、その理解度を示すってわけじゃ無さそうだし」


 そういう春香は結構気軽にあちこちのものを眺めては、ふんふんと頷いている。


「情報は取捨選択してこそよ。剣とか使うあのゴリラの人だと、武器の素材云々がわかるとか、おまけみたいなもんじゃない。切れ味とか誰が作ったとか分かれば買う時なんかは便利だし役に立つだろうけど、ああ言ったお仕事に本当に必要なのはそこじゃないでしょ?化学者さんとかなら成分がーとかは有り難いだろうけど。確かにデータは多ければ多いほど良いような気がするだろうけれど、実際には必要な部分だけを取捨選択できて初めて役に立つ情報になるの。わかる?」


 なるほど。だったら商人ならただ単に「いい仕事してますねー」でいいのか。いいのか?て言うかゴリラって言っちゃってるよ春香さんや。


「うーん、要するに鑑定スキルはそのモノをデータ化、数値化出来る単なる感知器であって、それを加工・処理するのはスキルに依らないと?」

「そうじゃ!低ランクといえど、時間をかけさえすれば一つ一つを鑑定することは出来る。であるが、であるが、それではただ知っただけじゃ。知ってそれをどうするか、どうつなぎ合わせるか。どのスキルにおいても有用たらしめるのはあくまでもその使い方よ!」


 さすが姫様です。さす姫。と言っておこう。

 なおこの鑑定スキル、過去には最高でXXXⅤ《35》という階梯にまで到達した人物が居たらしい。

 その人物は死の間際に階梯を一段上げ、「果ては彼方也」と呟いて亡くなったそうだ。

 上限なしか。


「現在でも、その階梯を越えたものは現れておらぬ。今では愛智の神が遣わした使徒とまで呼ばれておる程のお方じゃ。鑑定ランクとしては学園最高を保持している私ですら未だ届かぬ高みよ」


 学園最高の鑑定スキル保持者とは、姫様は予想以上にすごい人のようです。


「愛智……いわゆる哲学者だったんだ、その人」

「え、哲学って生きるとはなんぞや、みたいな事考える?」

「それも含まれるけどね。色々時代によって変わるけど、全ての学問を網羅して、必要とされる答えを導くための学問なんだ――って、お姉ちゃんが言ってた」


 なるほど、天音さんはそういう理解をしているのか。であるならば。


「色々なスキルを覚えたくなってくるな」

「そうねぇ、私は身体強化系のスキルが欲しいかな。姫様によるとすっごく素早くなったり力が強くなったり器用になったりするのがあるんだって」

「お前、元の世界でも素で十分以上に出鱈目な体力のくせに、まだそれ以上行く気か」

「えー、どこまでも行けるだけ行ってみたくならない?私はお姉ちゃんみたいに頭が良いわけじゃないけど、身体動かすのには自信あるからさー」


 天音さんと頭脳対決とかお前、比較対象にする方が間違ってる気がするのだが、まあやはりそのへんは姉妹だしなぁ、比べちゃうんだろうなぁ。

 主席入学した春香でも、やはり天音さん相手だと桁が違うわけだし。

 なお俺と天音さんだと計算速度にソロバン対スーパーコンピューターレベルの差がある模様。

 それはともかく。


「ああ、まあなぁ。でも……」


 鑑定に限らず、確かに覚えてみたい、使ってみたい。

 身体強化スキルとかで駆けまわったり、戦闘で剣術スキルとか使って無双とかしてみたい。

 魔法も使える様になるなら使ってみたい。

 みたいが……。


「はっちゃけてしまうとあとが怖い」

「ああ、うん。『異世界に飛ばされたごく普通の高校生』なら、そっちに全振りしそうだもんね」

「だろ?国とかの命運をかけて戦う『普通の高校生だった何か』になりかねん。流石に御免こうむる」


 そんな俺の言葉に、苦笑いしつつ肯定してくれる春香であった。

 そしてこの世界に来て初めての、まともな料理を食べつつ、夜は更けていったのであった。

 なお、この世界の料理人が作った料理は、普通に美味しかった。

 現代日本の料理による無双は厳しそうである。

 貴族な姫様がお泊りしてる宿だからこそなのかもしれないけれど。



 翌日、陽が結構昇ってから目覚めた俺達は、身支度を済ませて宿の食堂でのんびりと昼食兼朝食を摂っていた。

 この街からなら、慌てて出発しなくとも陽の高い内に目的地につける、との事らしいので、午前中はゆっくり寝ようと決めていたのだ。

 姫様の鑑定し過ぎとかで大事をとるというのもあったが。

 他の宿泊客はもう出立したのだろうか、食堂はガランとしており、若干落ち着かない。

 そんな状況でも、出てくる品はきっちりと調理されているものばかりであった。

 ちょっと硬めだが、しっかりとした味のあるパンに、具の多いスープ。

 両面を焼いた目玉焼きに、茹でた太めの肉の腸詰め。

 それに柑橘系っぽい果物のジュースをいただき、一息ついた頃にそれは起こった。

 やけに騒々しい物音が宿の外から響いてきたのである。


「まだ昼前なのにうるさいわね。ここってそんなに繁華街だったっけ」

「どっちかって言うと、小さい街ながらもそれなりにお高いお店が集まってる比較的閑静な雰囲気、だったと思う」

「ふむ、おそらくはアレじゃろ」

「アレ?って、ああアレね」


 アレである。

 この街に着いて宿に来る際に教えられたのだ。

 と言うのも地球の中世ヨーロッパだと、市街地の道は糞尿で溢れかえっていたとかいう話を小耳に挟んだりしていたが、ここはそうでもなかった。

 意外と臭くないねなどと春香とひそひそ話をしていたところ、アマーリアさんに「そういったお仕事で糊口を凌ぐ方々もいらっしゃいますので」と説明された。

 ふむ、被差別民でも居るのかしらんと首を傾げていると、姫様が補足的に教えてくれた。

 どうやらアレが存在するらしいです、アレが。

 口減らしで村から放り出されたり、貧民窟から抜け出すために一念発起したり、没落した貴族の人が生きるために就いたり、修行の一環として神職に就いている人とかが成ったりするアレですわ。


「ただいま戻りました!あー、お腹すいたー」

「今回も疲れたねー」

「うむ」

「良い稼ぎになった。疲れは対価」

「湯浴みと食事の用意を頼む。ああ、いつもの量だ」


 がやがやと姦しく会話しながら入ってきたのは、五名の女性達。

 それぞれが装備していた武器防具を手にし、ガチャガチャと鳴りそうなそれらが意外なほどに音を立てず、こちらの側を通り過ぎていく。

 そう、冒険者である。


「かず君かず君、冒険者だよ、冒険者。初めて見たね、冒険者。かっこいいね」

「ジロジロ見るなよ、失礼だろ。かっこいいのは否定せんけど」


 どうやらここを定宿としている冒険者が帰ってきた為の騒々しさだった模様。

 冒険者とか、血まみれとかで帰ってくるのかなと思ったが、流石にそんな格好で街に入れないわな。

 各自が手に持つ装備を見たところ、どうやら斥候・神官・重装戦士・魔法使い・軽装剣士のバランスパーティーである。

 残念ながらビキニアーマーはいなかった。

 ビキニアーマーはいなかった!(血涙)

 何を隠そう、この世界には冒険者さんがいらっしゃるのだ。

 底辺なのは街の雑用とかそれこそゴミ拾いやドブ掃除なんかを充てがわれるわけだが、上級者になると俺達が泊まっているこの高級なお宿を定宿にできるレベルで稼げる様になるという。

 なお主な収入源は街近隣での食用肉の採取だそうな。

 物語とかによくある出鱈目に強い龍とかみたいな魔獣とか幻獣とかも相手するんだろうかと、ちょいと気になって姫様に尋ねてみたところ、こう返された。


「龍?たまに出るが、討伐には軍が動くぞ?」


 ですよねー。

 先日春香が一撃で倒した熊的なシロモノは幻獣と呼ばれ、この世界では比較的ありふれたものらしい。

 基本的に人の生活の害になる害獣のたぐい、これは魔獣と幻獣とに別けられている。

 通常の生物ももちろんいるが、それとは比較にならない程の危険度が魔獣と幻獣にはあるのだと言う。


「魔獣は、普通の生物が魔力をもって変態・進化したものじゃ。幻獣は、魔力そのものが物質化した、あるいは魔力ある物質がより魔力を貯めこみ擬似生物と化した存在となっておるのじゃ」


 と、これまた姫様の談。

 春香が倒したあのクリーガーベアなる熊っぽいものもれっきとした幻獣だそうで、その証拠に倒した際に死体を残さず遺物を残していた。

 金剛棒と呼称されるそれは、比較的出現率が低く、珍しいらしい。

 魔力の篭った霊薬である、傷を瞬時に治すポーション等が核となって生まれる幻獣もいるそうである。


「魔獣退治でもしてきたのかしら」

「であろう。あの者らは中々の腕前らしいからの」


 この街の肉の仕入れは彼ら彼女ら冒険者の腕にかかっているのだそうな。

 姫様曰く、今入ってきた冒険者は、この宿で世話になる際にたまに顔を見る程度で知り合いというわけでも無いのだが、その腕前がたしかな物だと聞かされてはいるとのこと。

 と言うことは、このお宿で食った肉は彼女らが仕入れ(物理)てきたものだったかもしれない。

 牧畜なんてこの辺りじゃ出来なさそうだしなぁ。

 それにしても、あれだ。

 フィジカルエリートと言えば良いのだろうか。

 皆さんその、なんだ。

 ……すごく、おおきいです。

 いろいろな部分が。


 魔獣や幻獣を倒すとその内封されていた魔力が四散するするため、周囲に居るものがその魔力を浴びる事となる。

 そのため魔獣・幻獣を倒せば倒すほどその倒した者達がより強い魔力を浴び更なる力を得るのだと。

 それ故に、高レベルな冒険者達は、肉体的にとても――


「何ジロジロ見てんだ?コラ」


 その、肉体的に大きなのが、目の前に迫ってきてしまっていた。



「んもう、自分でジロジロ見ちゃ駄目って言ってたくせに」

「あいすいません。ほんの出来心で」


 て言うかあんなにたわわなシロモノが五人揃って歩いてたらガン見しますわ。

 健康な高校男子だもの。

 春香に肘鉄食らいながら頭を下げる俺。

 悪気はないんです、ただちょっと田舎から出てきて冒険者さんが珍しかっただけなんですと春香が説明したところ、逆に笑われたというね。


「こんな別嬪さんと一緒なんだ、私らに粉かける必要もないだろうよ」


 そう言ってくれたのは冒険者さんの中でも一番の恵まれた肉体をもつであろう、重装戦士と思われる人だ。

 ゴツい板金鎧にデカイ盾と剣を背負子に纏め背負っている。

 体型に合わせて立体形成されたと思しき鎧は、その形状がそのまま中のサイズを表しているようで、実に趣があってよろしい。

 見たところ嵩上げとかはない模様である。

 やっぱ命が掛かってるからね。

 俺に文句を言ってきた人は軽装の戦士と思われる人。

 硬そうな革の胸当てとおそらく首、肩、肘、膝を守る部分鎧をひとまとめにして肩に担いでいる。

 腹周りだけは分厚そうな革がコルセット状になっていて今もそのまま着ているようだ。

 背中の肩越しに一本、腰の後ろの左右から、短剣の柄が一本ずつ出ており、戦闘スタイルがもしや二刀流か三刀流なのかと、ガン見した理由の人である。

 あくまでもそれが理由である。

 こまかいことはきにするな。

 他の人達はそれぞれに、古びた樹の枝に宝石をはめ込んだような杖を持つ魔法使いっぽいの。

 金属製の尖った板を組み合わせたような棍棒。

 メイスとか言うんだっけか、それを持つ神官っぽい清楚な人。

 そしておそらく斥候……もしかしたら盗賊とかアサシンとか言われる職の人かもしれないけれど、ひとり手ぶらで見た目普通のかっこうをしている人物だ。

 分厚目の革ジャンみたいな上着と、革のパンツで固めていた。

 武器のたぐいは胸元のスリットに仕込んでいる投げナイフと思われる棒状のものと、背中に背負った弓。

 矢筒が無いのが不思議だが、もしかしたら魔法の弓なのかとも思ったり。

 そして一番重要なのだが、全員美人。

 全員美人です!

 かわいい系・キレイ系・ワイルド系・清楚系・寡黙系と色々取り揃えられております!

 ……うん、はるかのほうがおれごのみだな、うん。

 だんぜん。

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