↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

第十六話

 洞窟は、自然に出来たものではなく、どうやらこいつが召喚した幻獣に掘らせた物のようであった。


「壁がなんだかつるつるしてる。これ土が何かで固められてるみたいね」

「だな、なんかの粘液かな」


 鑑定しても※※の分泌液と土が混ざって固まった物、としかわからん。

 ※※ってなんだろう。

 たぶん穴掘り作業する幻獣かなにかなんだろうけど残念、知識が足りない……ミミズのでかいやつとか?うん、嫌すぎる。

 若干凸凹はしているものの、やけに滑らかな表面をした洞窟を、俺達は進んでいった。

 明かりは天音さんによって作られた小さな光の玉が僕らの頭上でふわふわと浮いている。

 先頭は相変わらず斥候担当のフロレンティアさん。

 彼女の見たところ罠なんかはないらしい。

 まあ出入りするのが自分だけなんだから、普通は仕掛けないよね。

 侵入者に対する警報はあったけど。


 そして暫く進むと、向かう先がぼんやりと明るくなっていた。

 そこに向かって行くと、いきなり洞窟の作りがガラリと変わったのである。


「ふぅん、石を組んで作られてるわねぇ。天井はアーチ型、結構手間暇かけられてるわねぇ。作られたのは千年ほど前かな」


 天音さんの評価は、それなりに高度な技術を用いて作られた、遺跡じゃないかという。


「未発見の遺跡!」

「すごい!じゃあこの中全部、未盗掘なの?」


 天音さんの言葉で色めきだったのは、【疾風怒濤】の面々だ。曰く、新発見の遺跡なんて、キチンと報告すれば高評価を得られるし、それをする前に自分たちだけで粗方踏破して、遺跡の中の貴重な品々を懐に収めてから報告しても、咎められることはない、と言うことらしい。

 まあ、普通は危険度が高いためにギルドに報告するまで見張りをおいて確保しておく、位の対応を取るらしいが。

 初見殺しの罠があったりしたら怖いしね。

 こんな山の中の地下に隠された遺跡とか厄介事しか思い浮かばないし。

 さて、どうもここはその遺跡の通路のようである。

 そして右と左どちらに進むべきか俺にはさっぱりわからない。


「あっちから物音がするわね」

「うん、床を調べてみたけど、ごくごく薄くだけど積もった埃にコイツの足跡が残ってる。他にも幾つかあるから、それが攫われたっていう人じゃないかしら」


 そういうフロレンティアさんの言葉に、進むべき方向は決まり、先を急いだ俺達であった。

 進む先々に、何やら色々と食指を動かしたくなる品々が目に入るようで、凄く悔しそうにしていた。

 まあ、後回しにしておくと次に来た時はなかったりする事が多いよね、掘り出し物。

 ここ、他の誰にも知られてないっぽいから、少なくとも第一報告者の栄誉は担えるんだから、我慢してください。

 というか、天音さんに自分から頼み込んで付いて来てるだけに、流石に本来の御用を放置してまでと言うほど無責任ではないということである。

 後でエルネスティーネさんが締められそうだけど、そもそもついて来なきゃ見つけられなかったわけで、うん、色々と悩ましいだろうなぁ。

 などと考えつつ進んでいると、春香が壁に手を触れながら首を傾げていた。


「どしたん?」

「ん?うん、これ。ここ明るいじゃない?明かりは、これ、壁が光ってるのかしら?」

「そうみたいだけど、なんだろう。光る苔とか?」


 この通路に入る前、ぼんやり光っていたのは、なにか光源があるのかと思っていたわけだが、これと言ってはっきりとした明かりは見当たらなかった。

 天音さんの作った光源があるから気にもしなかったが。


「こういう時こそ鑑定でしょうが……ってこれ夜光塗料?」


 周囲に気を払って進む【疾風怒濤】の人たちの後を追いながら、春香は壁に鑑定をかけたのである。


「うん、夜光塗料だわ。ふぅん、放射性物質はラジウムみたい。蛍光物質にはぁ……へぇ、海棲スライムから獲った色素細胞を使うんだ」

「ああ、そういや夜光塗料って昔はラジウムとか使ってたんだっけ」

「そうらしいわね、時計の針とかに塗ってたんでしょ?」


 時計の針に色をつける職人さんが、つい筆を舐めちゃう癖があったりすると、舌癌になってしまったりしたという話だが今はそれは関係ない。


「今は放射性物質不使用の蓄光塗料が主流だっけか。つーか、放射性物質に囲まれて大丈夫か?」

「表面がスライム粘液でコートされているから、直接の被害は起こらないわね。削って食べたりしたら駄目だけど」


 そんなことしない、したくもない。

 むしろする奴が居たら見てみたい。

 そんなこんなで進んでいくと、広いホールのような場所にたどり着いた。

 ここまでの通路よりもひときわ明るいそこは、楕円形のドームのような天井をしており、床も壁も、天井に至るまで、細かく精緻な模様が刻まれた石板で埋め尽くされていた。

 そしてその真中に、這いつくばっている女性の姿があった。


「ツェツィーリエさんだ!おーい」


 そこにいたのは間違いなくツェツィーリエさんであった。

 彼女はこちらの声に気づいたの気づかないのか、その這いつくばった姿勢を変えること無く、一心不乱に何やら床に嵌めこまれた石板に集中しているようであった。


「姫様どうしたのかしら。それにアマーリアさんの姿もないみたいだけど……っ!?」


 先にホールの中に進んだ春香が、何かに気づいたのか急に言いよどんで上を見上げ、息を呑んだ。


「アマーリアさんっ!?」


 ホールに入ってすぐの天井部分に張り出した狭いステージのような所に、アマーリアさんが倒れているのが見えたのだ。


 そして、そのステージから、夥しい量の血が滴っている事も。


「カズヤ!ハルカ!アマーリアが、アマーリアが!」

「よく頑張りましたね姫様、もう大丈夫ですから」


 春香が姫様の元に走り、元凶の男は捕らえたことを告げると、彼女は鼻血を垂れ流しながらアマーリアさんの容体ばかりを気にかけて泣き始めた。

 手も届かない高い位置に放置されているアマーリアさんをどうやって助け下ろすかと考える前に、肩に担いでいた奴を床に放り投げて、アルドラさんが軽く跳躍、ふわりと抱いてアマーリアさんを下に降ろしてくれました。ぐっじょぶ。


「傷は大したことはない。ただ、血を流しすぎてる。造血のポーションある?」

「あるにはあるが等級が低い、四級だ」

「効くのが遅いけど、無いよりマシ」


 神聖魔法をかけるシュテファーニエさんの声は非常に落ち着いている。

 怪我自体は大したことはないらしいが、血が足りない。

 神聖魔法の治癒は、怪我を塞げるだけで、無いものは作り出せないらしい。

 失血状態を何とかするポーションがあるらしいので、なんとかはなるみたいである。

 しかしながら、一刻を争う状態なのは間違いないだろう、他の【疾風怒濤】メンバーには焦りが見て取れた。

 春香も少しでも足しになればと、側でなにかの祝詞を詠み始めた。

 地面に転がされた男は、落とされた衝撃で逆に目が覚めたのか、その光景を見てニヤニヤと笑ってやがる。


「何がおかしい?」


 猿ぐつわのせいで何が言いたいのかわからないが、嘲笑しているのだろうなというのだけはわかる。

 ざまあ、ってとこだろう。


「ふむ、このガヴァネスに眠りの魔法をかけて血が止まらないように傷を負わせた、と。そうして『助けたければ従え』と、この貴族の娘を脅してにこのドーム内に刻まれている石板を読ませていたわけか。目的の情報が見つかるまで、延々と続ける気だったわけだ」


 天音さんが、いつもの気だるげな語尾を伸ばした口調を止めて喋りはじめた。

 それを聞いた俺と春香は思わずビクッと反応してしまった。


 あの天音さんは厄い。


「そこの隅に転がっていた、この鍵付きの収納魔法がかけられている鞄、この中にあのガヴァネスを死なせないためのポーションが入っている、と」


 そう言って放り出した革のバッグが、シュテファーニエさんたちの目の前に転がり、かかっていたはずの鍵が外れてその中身をさらけ出した。


「造血のポーション、あるぞ!二級だ!」

「これだけ有れば!」


 さくっと中身を頂いて、アマーリアさんに投与するシュテファーニエさん。仕事が速い。

 そんな様子をみて悔しげな表情をする男に向かい、天音さんは無表情にこう言った。


「なにか言いたそうね、良いわよ、《喋りなさい》」


 その言葉だけで、男の口を縛っていた猿ぐつわがはじけ飛んだ。


「くっ、ああそうさ。その貴族の娘にこのドームのどこかに刻まれている邪神の封印を解く術を調べさせていたのだ。その女はそのための報酬よ。無事生きて返して欲しければ気合入れて鑑定しろとな」


 縛られたままとは言え、開放されて自由になった口はそんなに雄弁に語りたかったのだろうか、流暢に喋り始めた。それはそれは、延々と。天音さん、何かやったのか?

 そう思って天音さんを見ると、ちょっと唇の端を釣り上げて、ご明察とばかりに微笑んだ。やっぱり何か仕掛けたのか……。


「我が長年の願いたる邪神の復活は目の前だ。封印を解く術がわかりさえすれば後は用無しよ。長年封印されていた邪神の糧として贄にするもよし、活動資金を得るために腕の一本でも其奴の家に送りつけてもよし。良い事尽くめだろうがああああああああああああああああああああああ」


「もういい喋るな。その耳障りな濁声はこの世界にはいらん」


 そう天音さんが言うと、男の片腕を踏み潰して千切ったアルドラさんが、今度は喉に指を突き立てて――



《何か》を引きちぎった。



「うん良いだろう。実に良い」


 ひゅうひゅうという音だけが、ドームに響く。

 その音の発信源は、男の喉にパックリと開いた穴だ。


「自分の血で溺れる、なんてことにならないように、傷口をキチンと焼いて止血してあげましょうね」


 続く天音さんの言葉を、忠実に実行に移すアルドラさん。

 忌避している様子もなく、寧ろ率先してやってやる。

 そういう顔つきで。


「邪神、邪神ねぇ。ふむ、アレかしら」


 そう言った天音さんの伸ばした手には、いつの間にかドームの壁から剥がれた一枚の石板が。


「ふうん、邪神はこのドームの石板の魔力を用いて封印されている、ね。封印の解除は、全ての石板を、封印時に決めたランダムな配置に並べ替えればいい、と。ふうん」


 姫様が鼻血を吹き出しながら探していた、ここの秘密を、あっさりと看破した天音さん。

 想像していたとおり、天音さんの鑑定スキルはトンデモないレベルのようである。いったいどこまでの高みに達しているのだろうか。


「ん?鑑定スキル?今はこんだけよ?」


 そう言って突き出された手は……


「……指鉄砲?」

「違うわよぅ。L(50)よ」


 まじっすか。

 

「うふん、まあかず君のご期待に答えて鑑定スキルフル稼働といきましょうか」


 そう天音さんが呟いた次の瞬間、ドームの壁から天井、床に至るまで刻まれていた文様が、無数のパズルのようにバラバラと浮き上がり、一斉に動き始めた。


「邪神って、あの邪神よね、おとぎ話の」


 天音さんの行為に、片腕を踏みちぎられた男は地面に転がったまま目を見開いている。


「うん良いわ。アンタの願いとやら、叶えてあげましょう」


 そう言うや、全ての石版が再びドームの壁やら床やら天井に並び始めたのだ。

 先ほどとは違う、まるで幾何学模様のような再現不可能とも思える形状に。


 それとともに浮かび上がるのは、光の文様。

 幾何学的に並び替えられた石板が、この部屋の光源からなのかなんなのか、刻まれた文字や記号から光を発し、それらがドームの空間を埋め尽くすようにして、立体的な格子状の絵を描き始めたのだ。

 

「ふむ、三次元積層魔法陣による封印か。また七面倒臭いことを」

「こんなのが作れるんなら、攻撃魔法陣に転用すりゃ良いのになぁ。魔人ぐらいなら吹き飛ばせるだろ、これだけの技術がありゃ」

 

 天音さんとアルドラさんがなにか物騒なことを言ってる。邪神をわざわざ復活させてどうするんだよと言いたいが、身体が動かない。動かせない。


「あ、ごめんねぇかず君。かず君のレベルだと邪神の気当たりで状態異常になっちゃうわよね。後で治してあげるからちょっとまっててねぇ」


 あ、はい。

 ていうか……邪神……。

 まあそれはそれとして、姿を表したのだ。

 ドーム空間に浮かび上がった、立体的に描かれている封印の魔法陣が『裏返った』。

 そう見えた瞬間、そこには姿を表した邪神が、それはもう禍々しさに溢れ、世界のすべてを否定するかのような空気を纏い、こちらを睨みつけていたのだった。


そして、戦闘……いや、蹂躙が始まった。


 その光景を見た男は、歓喜のあまり叫びたかったのだろうか。それとも。



「たかが邪神一匹ごときがいつまでも封印されてるんじゃないわよ」

「ホントにな」


 天音さんが、アルドラが。

 邪神がその全力で魔力を迸らせ、その全力で膂力を振り絞り。

 そのどちらもが天を穿ち、地を切り裂くだろう程の力を秘めていただろうそれは、まごうこと無く天音さんに降り注ぎ、アルドラさんへと叩きつけられた。

 にも関わらず、彼女たちはその魔力を霧散せしめ、拳を軽く払い除けた。

 封印されていたドームから復活したはずの邪神は、何をすることも出来ずに叩き伏せられ、投げ飛ばされ、踏みつけられて引きずられてはまた叩き伏せられて、最後には邪神らしさの欠片もなく、逃げ惑い、泣きわめき、懇願して、最後には神と名乗ってすいませんと無様な姿を晒して、床に這いつくばったのである。


 そうして、ありとあらゆる権能をその身から切り離された末に、空間の隙間に叩き落されていった……。


 


「ふん、クッソつまらん。邪神なんざここ数百年、暇つぶしにもならん」

「まあそうでしょうねぇ。私だってもう面倒を起こす奴としか思えないのよねぇ、本当にぃ」


 お伽話にその名を残していた邪神は確かに存在して居た。

 だからといって邪神が強いと誰が決めたのか。

 いや、普通に強いと思うけども。

 奴にとっては大変残念なことに、邪神より圧倒的に強いのがここに二人いたってことだ。


「あん?なんか言いたそうだな、おう?」


 滂沱しながら震えている男が、さきほどよりも激しい息遣いでこちらを睨みつけていた。

 精神よく保つな。

 俺なら十回くらい死んでる、って俺はそもそもあんな風にはならん。


「ああ、そう言えばぁ、自己紹介まだだったわねぇ。私ぃ、すぐそこの国で王様やってる、青井天音。ヒンメルズトーン・ブラウブルンネンって言ったほうが分かりやすいかしらぁ?」

「俺はコイツに使役されてるアルドラってモンだ。人化してるからこんなナリでわからんかもしれんだろうが、古代龍だ」


 二人して、ものすごくいい笑顔での自己紹介である。

 そしてその二人の自己紹介を聞いた瞬間、男の顔はこんどこそ驚愕に染まった。

 喉を潰された男の声なき声が響いてくる。


「なぁになにぃ?邪神戦争で邪神倒しまくったのは私じゃないわよぉ?むしろ数だけならソイツのご親族連中の方が多いんだから」

「お前は面倒くさいからって雑魚どもをジジババらに押し付けてただけだろうが。まあ死なないから権能剥いで時空の裂け目に放り込まなきゃならんのが手間だったらしいけどよ」


 天音さん、唇でも読んでいるのだろうか、声を出せているわけでもない相手と普通に会話が成立しているし。

 しかもこれあれだ。

 ねえどんな気持ち?復活してしまえば無敵だと思ってた邪神様が軽くぶっ飛ばされてねえどんな気持ち?って奴ですわ。


「ふう、悪党を絶頂から叩き落とすのってスッキリするわねぇ。さぁて、かず君?」

「はい?」

「コレ、どうするぅ」


 絶好調で邪神崇拝者だった男で遊んでいた天音さんは、いきなりその処遇を俺に振ってきたのである 。


「どうするって言われてもなぁ」


 正直、ただ殺すってのもあれだし。

 なんか殺したら実は替え玉でした、とかありそうじゃない?邪神崇拝者的に考えて。


「ねえかず君。コイツ、倒したらまた消えちゃわないかしら」


 アマーリアさんの治療も一段落したのか、春香が俺のそばまで来てそう呟いた。

 途端、男の顔色が、今でさえ悪かったというのに更に悪くなったのである。


「ふぅん?この身体、そっかぁ、そういう事かぁ」


 天音さんが、俺と春香の言葉を聞いて引きつった男の顔を、ゆっくりと見下ろした。

 さぞかし嬉しそうに微笑んでいることだろうその後姿は、実に凄惨な雰囲気を纏っていたのだった。

 そして、奴が持っていた召喚用アイテムを取り出すや、再びあの魔力探知が行われたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。