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道中

神社への荒れ道を走る車の後部座席で、岡部 花は興奮とちょっぴりの不安で頭がいっぱいだった。怖くないわけではない。ただ、噂を聞いてみんなに提案したのが自分である以上引くわけにもいかない。それに、こういったオカルト話が大好きな花にとって、今日のイベントは楽しみで仕方なかったのだ。

今年で19歳になる花は、内気で自分に自信が持てず、高校までの学校生活では特別仲のいい友達もいなかった。そんな私が今、友達3人と肝試しに来ているのだ。すごい進歩だと思う。

今運転してくれているのが那古 和也。金髪にピアスと、イマドキな風貌でやんちゃに見える彼だが、とても心の優しい人だ。身長が180センチほどあり、顔も整っているのでモテモテ…のはずなのだが、恋人がいることをどんどん公表し、女の子をあまり寄せ付けない。彼女の立場ならきっと嬉しい男らしさがある。

その彼女の立場にいるのが、私の隣でスマホをいじっている大川 桜。茶髪に染めた髪と細い身体、少し外国人染みた彫りの深い顔をしており、間違いなく美人な部類だろう。一回決めたらまず自分の意見を変えない強い意志と、女性としてはかっこよく見える凛とした立ち振る舞いは、花が憧れとするところだった。和也とは高校から付き合っていたらしく、人前でいちゃつくことはないが、私の目から見ても相思相愛さがわかるほど、互いを信頼し合っている。

「もう少しで駐車場があるみたいだけど…本当に行くの?」

助手席で弱々しくそう言葉にしているのは、道下 春。平均的な体格にどこか中性的で可愛さもある顔、花と同じくあまり自己主張をしない大人しいタイプだ。計画の時からこのイベントを渋っており、肝試しの類が好きではないようだ。

「それ今更かよ、死亡フラグ立つぞーその台詞」

和樹にからかわれ、ぷいっと窓に顔をそむけた春だったが、外を見るのもそれはそれで怖いらしく、すぐ顔を前に向け、ゆっくりと俯いた。

「フリーゲームにありそうな展開になるわね」

桜が微笑みながら話に混ざる。

「はぁ…何が楽しくてこんなことをするのさ…」



私が彼らと出会ったのは、大学初日のオリエンテーション。友達が出来るか不安がっていた私を、すでに用意されているグループでレクをするという大学のシステムが救ってくれた。その日そのまま4人でご飯を食べに行き、意気投合。自分も明るく会話出来る!とちょっぴりの自信もつき、高校時代憧れていた友達グループが出来た。

とはいえ最初は和樹と桜の関係がドラマのようで眩しく、羨ましく、どこか自分とは別世界のように感じていた。恋愛なんて無関係な人生を歩んでいたからだ。それだけはこれからも変わらないのかな…、なんて思っていた。

が、入学から1か月ほど経った頃に、春に恋している自分に気づいた。同じような性格だったこともあり、話がとても合うのだ。気持ちを伝える勇気は出ず、もやもやしながら生活し、つい先週こっそりと桜に相談した。すると、

「うん、気づいてるよ笑 大丈夫、向こうもあなたのこと気になってるみたいよ?」

と、信じられないことを言われた。嬉しくて飛び上がりそうで、どこか恥ずかしくてこれまた飛び上がりそうだった。

もしタイミングがあれば今日の肝試しが終わった後に言おう…。

そう考えていたことも、ドキドキの一つの要因であることは間違いない。

我ながら充実した毎日を送っていると思う。やっと人生の甘い部分が見えてきた気がする。



「そうこう言ってる間に到着だ。花、お待ちかねの時間だぞ!」

「あ!うん、ありがとうっ」

和樹の声で私達が乗っている車が、神社の駐車場にいることに気づいた。意外に早かったな。

外灯も少なく、森に囲まれているので、まさに何か出そうな雰囲気だ。

「あら、あそこにも一台停まっているね。私達と同じようなことを考えている人がいるのかしら」

桜が指差す先には、赤い軽自動車が停まっていた。そんなに有名な噂なのかは知らないが、もしかしたら桜の言う通りなのかもしれない。

「まぁいいさ。ほれ桜、それじゃ少し寒そうだ、このジャケット着とけよ」

「甘えとくねー、ありがと!」

「…そのやり取りを見せつけられるのに慣れてきてる僕らも怖くなってきた…。ねえ、花?」

「ふふ、幸せそうじゃない!」

私が笑って春を見ると、春もあきれたようではあるが笑ってくれた。

あードキドキする。こんな気持ち人生初めてだ。楽しい、楽しい。

ちょっぴりあった不安も、みんなとならどんなことでも楽しい思い出になる気がして、吹き飛んだ。



さぁ、楽しいこと、始まるかな!




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