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なんで私ばっかり!

作者: 二枚の写真
掲載日:2015/03/10

 自宅の居間にある大きなテーブルで、鼻歌を歌いながら中学の制服であるスカートの丈をミシンで調製していると、背後から妹の藍燐あいりが声をかけてきた。


「どしたの? 黄蝶きちょう? ずいぶんご機嫌じゃん? つか制服そんなに短くしたら、絶対に先生に叱られると思うけど? 殆ど半分になってるじゃん」


……しまった。つい私服の感覚でやっちゃった。


「そうだ、そうだった、これ制服だった。直さなきゃ……」


 私の趣味は裁縫で、入学してから半年近く経った今でも、制服を改造しては怒られてを繰り返している。

 スカートを手に取るとハサミで縫ったばかりの糸を切り始める。

――膝上くらいにしておかなければ。


「で? 裁縫が楽しそうなのは、いつもの事だとしても、鼻歌交じりに失敗は珍しいよね? 今日、学校で何かあったの? それとも仁志ひとし兄ぃに何か良い事でも言われた?」


 私達姉妹は養女だ。仁志は義理の兄で同じく養子だと言う事だが、貰われたのは赤ん坊の頃らしい。小学生の途中から養女になった私達より、ずっと前からこの家にいる事になる。その仁志に私は憧れていた。それが去年、仁志に彼氏がいることが判明した……。

 本心は今でも仁志が好きだが、男好きの彼氏ありでは、どうにもならない。

 ちなみに小6の藍燐は、今のところ男子に興味はあっても、彼氏に興味はないらしい。勉強も絵も天才的な妹だが、BL好きで困っている。本棚を埋め尽くしているBL漫画に最近は小説も交じり始めた。しかも自分でも漫画を描くのだが、内容は言うに及ばず。


「ふふん~♪ 悪いけど藍燐ちゃん。私は彼氏を手に入れることになるかもしれないわ」


 私は上機嫌に藍燐に言った。


「なにそれ? まさか、誰かに告られたの?? 誰、だれ?!」


 向かいに座って、テーブルの煎餅を手に取りながら、私の話に食いつく藍燐。


「いやぁ、告られた訳じゃないんだけど。告られるかも? デートに誘われたからねぇ」

「んん? なんだソレ? 彼氏でもないのにデートすんの?」

「まぁ、デートっていうか会う約束をしただけなんだけどね。ほら、この前、家に遊びに来た結花ゆか覚えてるでしょ?」

「ああ、確か同じテニス部の先輩と付き合っている結花さんだよね。眼鏡へたれ攻めがお気に入りの」

「? めがねへたれ?? まぁ、そうかな? その結花がさ『黄蝶のことを好きだっていう子がいるんだけど、1度会ってあげてくれないかな』って言う訳よ」

「ほほぉ~どんな男? イケメン系? スポーツマン系?」


 身を乗り出して興味津々な藍燐。いらぬ妄想しなければいいが……。


「それが、結花言わないんだよ。同じテニス部らしいけどね。本人に口止めされてるとか何とか。まぁ、別に断る理由もないしさ。それで明日の放課後に、その男と一緒に下校する事になったの」

「なぁんだ。で、どうすんの? 格好良かったら付き合うの?」


 男の正体が不明だと分かった途端、興味の薄れたらしい藍燐が椅子にもたれかかって、煎餅をかじりながら続けて偉そうに言う。


「仁志のことは、もういいんだ? 確かにそれが健全だとは思うけどねぇ。そもそも兄妹だしね」


――仕方ないじゃない……私は男が好き、仁志も男が好き。それはもう、磁石でいう同じ極だろう――


 失敗した縫い目を解き終えたスカートを、再度ミシンにセットして縫い始めながら藍燐に言う。


「まぁ……いつまでも仁志の尻追いかけてばかりでもね。私だって中学生になったんだし、普通の恋をすることにしたの!」


 ふぅ~ん。と藍燐が拍子抜けしたような顔をしている。その藍燐に私は話を続けた。


「だってさ、仕方ない事ってあるよ、うん。仁志は家族だもん。兄貴だし、男好きだし……それに……彼氏だって、いるし……」

「ちょっとぉ~? あからさまにテンション下がってますけど?」


 呆れたように言う藍燐に、気を取り直して続ける。


「いやぁ~! とにかく仁志の尻は諦める! 良いお尻してるけどね! いや、本当キュっとしてて、イケメンで、身長も丁度いいし、筋肉も良い感じだし……いつも、優しいし。気を使ってくれて……」

「ちょっとちょっと? まったく吹っ切れてませんけど? もういい加減に近親相姦は諦めて、その男子と付き合っちゃいなよ」

「近親相姦言うな! だから、こうしてスカートを可愛くして……」

「つか、それもう、雑巾にするしかねぇんじゃね?」


 そう言って藍燐が指差す手元を見ると、丈をつめていたはずのスカートは縦横無尽に縫い付けられ、ミシンの性能を試しただけの布と化していた。


「ああぁ! しまったぁ~!」

「はぁ。ま、頑張るんだね。彼氏出来たら、あたしにも紹介してよね」


 そう言って藍燐はバリバリと煎餅を噛み砕いた。


自分の寝床である2段ベッドの上の段に寝転びながら、暗い天井を眺めて考える。

 私は今でも仁志が好きだが、仁志は私の気持ちを知らない。例え私に彼氏が出来たとしても、仁志が私を嫌ったりはしないだろう。 


「ねぇ……藍燐、仁志は私に告白してくるかな……?」


 机で電気スタンドの明かりを頼りに漫画を描く藍燐に聞いた。


「ありえねぇよ。前より可能性は減ったね。もう完全に黄蝶を妹として認識しちゃってる。黄蝶の幸せを願っても、欲情はしない」

「…………だよね……」


 私は勢いよく起き上がった――天井に頭をぶつける。それでも頭を摩りながら宣言した。


「私、明日会う男子が多少好みに合わなかったとしても、思い切って付き合ってみるよ。前に進むんだ、私は普通の恋をする! 私はもう、仁志に依存しない……。だから、藍燐も応援してね……おやすみ」

「……そう。分かったよ、オヤスミ」


 それから、藍燐のペンの音を聞きながら――眠りに落ちた。


 翌朝、ちょっと短くし過ぎたスカートと裏地に刺繍の入りまくったブレザーを着て朝食の席に着くと、同じく向かいで食事する仁志に言われた。


「また、スカートいじったのか? 先生に叱られるぞ?」

「うん。いいの、昨日2回失敗して直す時間なくなっちゃったから……あ、あのさ仁志。その、突然だけど……私に彼氏出来たら、どう思う?」


 藍燐はすでに学校へ行っているし、義父も仕事に出かけた後なので、私と仁志2人きりだ。


「応援してあげるよ? 彼氏出来たのか?」


――応援……か――


「ううん。そうじゃないんだけど。今日、私を好きだっていう男子と一緒に下校する約束してるんだ。もし、交際迫られたら……どうしようかなって、思って……へへへ」

「思うままにすればいいさ。まぁ、頑張れよ!」


 その台詞に私は思わず呟く。


「頑張れよ……そりゃそうか……」

「ん? どうした? 黄蝶は可愛いからモテて当然だ。彼氏の1人や2人いたっていいだろう?」


 ムカムカと腹が立ってきた。何が可愛いだ! 言っていないとはいえ、少しくらい私の気持ちを察しても良さそうなものだ!


「そうだね! 帰って来る頃には……私、彼氏持ちになってるからね! 仁志のばっかやろー! いってきます!!」


 逆切れして朝食の途中で席を立つと、呆気に取られる仁志を残して学校へと向かった。


――付き合ってやる! 仁志なんて、もう知らん!――




 授業が終わり、約束の裏門で待っていると結花がやって来た。


「よっ! 約束通り来てくれたんだね。今朝、職員室で叱られてたでしょ?  朝練の後、用具室の鍵返しに行ったとき見ちゃったヨ」

「うん。私完全に先生に目を付けられてるから。結花1人?」

「そそ、この後で彼氏と一緒に帰るけどネ」


――そんな事聞いていない! 例の男子はどこなのよ!――


 私の心の叫びが通じたのか、結花がニヤりと微笑んで言う。


「あ~あの子も、もう来る頃だと思うよ~♪ でも凄くシャイな子だからさ、今頃ドキドキしながら何処かで私達を窺っているかも?」


 そう言って辺りを窺う結花に釣られて私もキョロキョロする。


「はははは! 嘘だって! あ、そうだ。これ妹さんに返しておいて」


 からかわれて赤くなる私に、思い出したように紙袋を渡す結花。


「妹に? なにこれ」


 袋を覗くと、中にはいかにもな漫画が2冊入っていた。


「この前、遊びに行った時に藍燐ちゃんに借りたんだ。オススメ! なんだってさ~ははは。面白い妹がいて羨ましいよ!」


――あいつめ~! いつの間に……。来年同じ学校へ入学してくると思うと怖い――


「安心して、藍燐ちゃんの趣味の事は誰にも言ってません。ふふふ、これは貸しになるのかな? なんちゃって、冗談よ。面白かったって伝えておいて」


 またも、こちらの心中を見抜いたような事を言う結花。


――本当に冗談だろうな……。


 おっとぉ! と突然結花が言って、スカートのポケットからマナーモードで振動している携帯を取り出し、メールチェックする。

 パタンと携帯を閉じると、ウィンクして言う。


「例の子。これから、来るってさ」


 心臓が高鳴るのを感じる。が、顔には出さない。

 やがて校舎の影から3人の男女が向かって来た。

 結花の彼氏と同じテニス部の1年の女子、それともう1人。見た事がある、確か結花の彼氏の友達で2年のやはりテニス部の男子だ。長身だが眼鏡のどちらかというと文科系っぽい感じだが、わりと美男子だ。


「それじゃ! 後は2人でよろしくね~♪ じゃね!」


 そう言って結花達は去っていき――2人きりになった。


「あ……あの! 会ってくれてありがとう! 私、その……ずっと、黄蝶さんに憧れていたから。凄く嬉しいです!」



――残った同じ1年の女子、みゆき が赤面して、そう言った――


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