表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の勇者ナイトブレイカー  作者: 財油 雷矢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/39

第三十話 時空を超えた盟約

 隼人はやとは目を覚ました。

 まるで見たこと無い光景に反射的に飛び起きて身構える。全身の神経を張りつめて状況把握。今いるところは木造の建物の中のようだ。布団が敷いてありそれに寝かされていたところを見ると、現時点で隼人を扱った相手には害意が無いと思いたい。

 気を失う前の記憶を必死に呼び起こす。

 確か……


美咲みさき?!」


 自分がこういう状況になる時に、あの少女がいたはずだ。


「くっ……」


 戦闘中だったはずだが、そんな気配はまるで感じられない。それどころか今いる建物の雰囲気を見ると、もしかすると自分たちがいたところとは別の場所かもしれない。

 妙に気がはやる。その移動にどういう原理が関わっているか分からないが、自分一人だけだったらこんなに焦ることはないだろう。


(なんでだ……)


 自問自答。そんなに他人を心配するような性格じゃなかったはずだ。この焦燥の原因は一緒に戦う「仲間」だからなのだろうか?

 試しに同じ状況を他の人間に変えてみ……ようとして止める。もう薄々気づいているのかもしれないが、自らそのことを確認しようとはしない。


(とりあえず……)


「そろそろ姿を見せねぇか?」


「いや、別に試すつもりではなかったでござるが。」


「見つかったのアンタじゃないの?」


「えぇ?! 俺っちかよ!」


 物陰から男・女・男の声が聞こえてきて、人影が順番に姿を現す。


「…………」


 正直、気配を感じて声をかけたのだがまさか三人とは思わなかった。足音も立てずに隼人のそばに集まった三人に思わず声を失ってしまう。


「……すまぬ。我々の姿は異形に見えるかもしれないでござるな。」


「あ、いや……」


 彼らは金属製の全身鎧を身にまとっているように見えた。しかし鎧だとするとその中身がとても細いことになってしまうし、鎧を着ている人間にしては物音をほとんど立てずに動いている。

 というか、隼人にはそこまで考えることもなく、彼らがロボットかそれに近い存在であることはすぐに分かった。少なくとも隼人の知識の範囲では人間大で自己意志を持つほどのロボットがの存在は聞いたことがない。


「いや、構わないでござるよ。我らは影に生きる存在。この絡繰からくり仕掛けの身体もそのための物でござるよ。」


 足に龍を模したブーツというか脚絆きゃはんをはいた背の高いロボットがおそらくこの三人のリーダーに当たる存在なのだろう。

 背中に鳥のような金属製の翼を持つロボットは女性らしいスタイルをしていた。彼女は隼人を興味深げに見つめている。その仕草もなんか女性っぽい。

 最後に残った大柄のロボットは背中に大きな円盤状の物を背負っている。翼を持つ彼女とは違った、どこか値踏みするような目で隼人の事を見ている。


「紹介が遅れ申したでござるな。我らは封魔ふうまが一族の狩人かりびと衆という人外の方法で生み出されし存在。

 拙者はその狩人衆が一つ、技の将海狩うみかりでござる。」


「あらん。アタシは狩人衆の紅一点、知の将空狩そらかりよ。」


「おぅ、俺っちは古今無双の怪力、力の将陸狩りくかり様よぉ!」


 海狩・空狩・陸狩と名乗った三人が無言で隼人を促す。


「俺は…… 大神おおがみ隼人だ。ところで聞いていいか?」


 隼人の問いに海狩がうむ、と頷く。


「そうであろうな。拙者らも貴殿に聞きたいことはあるでござるよ。」



 海狩の説明によると、どうやらこの世界は隼人のいた世界とは違う世界らしい。厳密に言うと「過去」に当たるらしいのだが、隼人の知っている過去とは微妙に違うようだ。

 狩人衆とは特殊な儀式で作られた符を用いて召還されるもので、喚び出される時代時代によって姿が微妙に変わるらしい。


「拙者らは現在のあるじの元、間諜かんちょうのような仕事をしているのでござる。」


「なるほど。

 俺の事を説明する前に一つ聞きたいことがある。……小さい女の子を見なかったか?」


「いや、見ていないでござるな。空狩、おぬしが見つけたときはどうであった?」


 海狩に空狩に顔を向けると、ん~と口元に指を当てて首をかしげる。


「見てないわねぇ。アタシが見つけたときは隼人ちゃんだけだったわよ。」


「……ちゃん。」


 さすがにそんな呼ばれ方されたことは無いので渋い顔。


「お? もしかして隼人のダンナのいい人ですかい?」


「……殴っていいか?」


 七割くらい本気を込めて、海狩に聞いてみる。金属製の顔なので表情までは伺えないがどこかやれやれ、と言いたげな表情で海狩が首を振った。


「済まない。この者は悪気は無いのだが、いささか思慮に欠ける部分がござってな。」


「そうか……」


「それはさておき。空狩、ちと本殿に行ってもらえぬか? もしや隼人殿の探し人がいるやもしれないでござる。」


「ん? いいわよ。」


 今いる小屋を出て翼を広げて空狩が飛び去ると、海狩が隼人の前に正座する。つられて隼人も布団の上に座り直した。


「さて、こちらの世界のことはおおよそ理解できたと思うが、今度は貴殿のことを聞かせて欲しいでござる。」


「どこから話していいものか……」


 少し悩んだ後、隼人はゆっくり説明を始めた。



 ことの次第に関係ありそうなのは数日前。いつものようにバロンと共に寺で鍛錬をしていると、寺の蔵に籠もっていた玄庵げんあんがやってきた。


「やる。」


「は?」

 と、いきなり手渡される小汚い封筒。封筒というか、ご祝儀袋の外包みを長くしたような感じの物である。


「なんだそりゃ。」


 バロンも興味半分に隼人の手の中を覗き込む。紙の質が良いのか、年月の経過の割には破れもほとんどない。注意しながらゆっくりと開く。


「「……?」」


 中には少し厚めの紙が三枚。表面に複雑な文字めいた物が見えるが、とても読めるようなシロモノではない。紙の上部にその文字と思われる線が四角く抜けているところがある。


「こう、爺が使う呪符じゅふっぽくも見えるが。」


「あの爺さん、そんなもんまで使うのか。」


「ああ、でも俺はサッパリだけどな。」


 バロンの言う通り、この紙は何かしらの「符」なのだろう。知識も何もないので、隼人にとって使い道は無い。


「……あんまり要らんが?」


「まぁ、そう言うな。きっと何かの役に立つぞ。」


 ほんとかよ、なんて思っていると、それが顔に出たのか、玄庵ににこやかな笑顔で石段十往復を命じられ後悔するはめになったのが数日前の話。

 夢魔むまが出現し、いつもの四人で向かう。

 それぞれスターブレイカー・Gフレイムカイザー・ヘキサローディオンに合体。合体できない隼人はウルフブレイカーのままだ。

 子供が間違った工作のような夢魔は、全身のあちこちに細長い尖った板のついた歪んだ円盤が張り付いていた。


「時計…… みたいだな。」


「うん、ボクもそう見える。」


 細長い板は針なのだろう。ゆっくりと回っているようにも見える。


「夢魔の内部でエネルギー反応が増加しています!」


 夢魔の内側から低い音が響いてくると、真ん中のあたりがボンヤリと光り始めた。光は徐々に明るさを増し、危険な雰囲気がする。


「それなら!」


「待ちなさい美咲!」


 夢魔が何か攻撃を仕掛ける前に、と思った美咲が飛び出していく。麗華れいかの制止の声も届かないが、スターブレイカーは素早く夢魔に迫ると、腕のコズミックブレードを振るう。

 夢魔が何かしようとする前にその刃が斬り裂く……はずであった。


「え?」


 瞬間的に夢魔の内部の光が強くなったように見えた。その部分が開いて何かが発射されそうに見える。十分間に合うはずだったのに、今のタイミングでは直撃は避けられない。


「分離しろ!」


 ウェアビースト形態で飛び込んだウルフブレイカーが、反射的に指示に従って分離したフラッシュブレイカーをかっさらう。

 ウェアビーストのスピードなら、すぐさま夢魔の攻撃範囲から逃れられる……はずだった。


「何?!」


 横を走り抜けようとしたら、亜音速の自分に追いつくように、というかまるで先回りするかのように夢魔が自分たちの方を向いていた。

 夢魔の光が強くなり、視界が真っ白になって……



「そして目覚めたらここでござったのだな?」


「へぇ~ ワケの分からねぇこともあるんだなぁ。」


「……ん~ 『時逆ときさかの法』ってとこかしらね?」


 声に顔を見上げると、天井裏に空狩が上下逆さまに立っていた。


「空狩! お主!」


 海狩が叱責の声を上げるが、気にした様子もなく空狩が着地する。その動きは機械仕掛けとは思えない滑らかさで、重量を感じさせないほど軽やかであった。


「だってねぇ、こっちの方が面白そうじゃない?」


 あっけらかんと言う空狩に海狩が頭を抱えてため息をつく。こんなところもちっとも機械らしくない。


「おお、あねさん!」


 今ひとつ話について行けなかったのか、それを誤魔化すように――いや、そういう意図が無い可能性もあるのだが――陸狩が声を上げる。


「本殿の方には行ってないでござるか?」


「行ってないよ~」


 苦労してるんだろうな、と思わせるような形相で海狩がへたれこむ。

 大雑把にこの三人の性格が掴めてきた。苦労性の海狩。あんまり物を考えていない陸狩。そして同じくあんまり……


「ちょっと待て。空狩とか言ったな。『時逆の法』ってなんだ?」


 ん? と空狩が首を傾げる。


「隼人殿、奇妙に思われるかもしれないでござるが、実はこの空狩、拙者ら三人の中で一番知力に長ける者でござってな。」


「…………意外だな。」


「うむ、拙者もそう思うでござるよ。」


 と、横から刺さるような視線を感じて振り返ると、腕を組んだ空狩が(おそらくは)怖い顔をしてこちらを睨んでいた。


「そういうこと言うんだったら何にも教えてあげないよーだ。」


「悪かった。俺一人じゃなくて一緒に巻き込まれた奴もいるんだ。何でもいい手がかりが欲しい。分かってることがあるなら教えてくれ。頼む。」


 一転真剣な顔で頭を下げる隼人に空狩も逆に気まずそうな顔をしてぽりぽり頭をかく。


「あ、あのね。アタシもただそーじゃないかなーって思っただけなんで、あんまり期待されても……」


 言いよどむが、隼人の表情が変わらないのを見て、空狩が肩を竦めた。


「時逆の法、って読んで字の如く時間をさかのぼる法術なんだけど…… 隼人ちゃんの場合は違いそうね。」


 ちゃん呼ばわりで渋い顔の隼人をよそに説明を続ける。

 時逆の法、とはただ現象を説明するための仮称で、実際に使える者はいないほどの高度の術らしい。隼人達の場合は時だけではなく、空間も超えた可能性がある。少なくともこの世界は隼人達の世界の同一時空上にないのだろう、というのが空狩の推論だ。


「先に謝っておくけど、だからって元の場所に戻す方法なんて知らないのよ。」


 心底すまなそうな顔で言ってくるので、隼人としては苛立ちのぶつけどころがない。美咲を探さなければならないし、二人で元の世界に戻らなければならない。時間の流れがどうなっているか分からないが、あの夢魔との戦いはまだ続いているのかも知れない。


「…………」


「お、おい、隼人のダンナ。まだ何もかもダメっちゃわけじゃないだろ? その姫さんもダンナみたいに誰かに拾われているかもしれないし……」


 沈痛な顔をしているとしどろもどろに元気づけようという意志だけは見える陸狩に、隼人は何となく可笑しくなってきた。


「いや、そうだな。あいつのことだ、意外と平気な顔で周りに馴染んでるかもしれない。

 で、こんなことを頼める筋合いじゃないのは分かっているが……」


「皆まで言わないでござる隼人殿。

 拙者らも隼人殿の力を借りたいが故に介抱した、と言ったらどうするでござる?」


 どこか含みを持った海狩の言葉に、隼人はやっと不敵な笑みを浮かべる余裕が出来た。


「いや、正直で悪くない。

 俺もおまえ達の力を借りたいと思っていたからな。」


「うむ、それならまさに僥倖ぎょうこうでござる。」


 さもしてやったりの口調でうむうむ頷く海狩。後ろで見ていた陸狩が空狩に耳打ちする。


「なぁなぁ、姐さん。なんか変な会話じゃないです?」


「……アンタねぇ、腹のさぐり合いをしている振りしながら本音で話しているんでしょ?」


 でも地声が大きいのか筒抜けではあるが。


「なんか面倒なことしてるなー」


「……そういうものよ。」


 この見ず知らずの世界に放り込まれたのにも関わらず、自分のペースを取り戻せたことに安心していた。きっと美咲も無事なはず。胸の奥に残るぬくもりがそれを教えてくれている、と信じた。



 不意に目覚めた。

 自分の身体が反応しないところを見ると、周囲に悪意を持った者はいないのだろう。

 ゆっくり目を開く。五感が少しずつ感覚を取り戻す。

 白い木の高い天井。畳の清々しい香り。これだけ畳の匂いを感じられるということは何処か田舎なのだろうか。

 耳を澄ます。

 風や木々のそよぐ音。自然の音しか聞こえない。


「お目覚めになられましたか?」


 柔らかな声がかけられる。

 返事しないのは失礼かと思ったのか、眠っていた少女――美咲は慌てて身体を起こした。

 どこかの畳敷きの広間に布団を敷いて寝かされていた。服も着替えさせられたのか、襦袢じゅばんのようなものを着せられている。

声の聞こえた方に目を向けると、二十歳前くらいの女性がたおやかに正座していた。長く艶やかな髪はまさに「緑の黒髪」と表現すべき美しさだ。


「……?」


 彼女の顔に違和感を何か違和感を感じたのか、ちょっと見てしまった美咲だが、そのことに気づいて「あ」と思わず声を出してしまう。


「ごめんなさい……」


 ペコリと頭を下げる美咲に、女性は小さく首を振った。

「よろしいのですよ。生来こうなのですから。あ、こちらこそ申し訳ございません。私、星詠ほしよみと呼ばれております。」


 と、星詠と名乗った女性は光を映さない瞳を美咲に向けると頭を下げる。


「あなたの顔は拝見できませんが、それでも暖かい光が見えますわ。でもそれと同じくらいの影も見受けられるのですが……」


「うん、そうかも……」


 どこか暗い顔で返す美咲だが、思い出したように自己紹介する。


「あ、そうだ。ボクはたちばな美咲。え~と、ボクはどうなったの?」


 首を傾げる美咲に、星詠はゆっくりと説明をした。

 曰く、ここはとあるお屋敷で、彼女がその主人のようなものである、と。そしてその庭に倒れていたのを、屋敷の者が見つけたそうだ。周囲の人達は何者か分からないのに屋敷に入れるのは危険だと反対していたのだが、星詠が悪い人ではない、と周囲を説得して介抱したという。


「うわ、そうなんだ。どうもありがとう。」


 ペコリと頭を下げる。

 いえいえ、とそんな美咲を「見」ながら、星詠が柔らかい笑みを浮かべる。

 と、一瞬早く美咲が、そして星詠がはっとした顔で周囲を見回した。


「どうかしたのでしょうか?」


「ボク、ちょっと見てきます!」


 感じた異様な雰囲気に、美咲は返事も聞かずに駆けだした。



 騒ぎを感じた方向に走っていくと、着物姿の女性が手に薙刀なぎなたを持って同じ方に走っているのが見えた。襦袢姿の美咲はその中でやや目立っていたが、それでも緊急事態なのか誰も目もくれない。

 長い縁側がある広い空間が見えてきたので、おそらくは庭なのだろう。

 そこに薄汚れた服を着て、使い古された刀らしき物を持った数人の男たちがいた。いかにも粗暴で、周りを薙刀を構えて取り囲む女性達を値踏みするかのように好色そうな視線で眺めている。


「この場所は男性が立ち入ること、まかりなりませぬ!」


 一人が気丈にも男たちに退去するよう言うが、そんな言葉にもニヤニヤするだけだ。


「これだけ女が揃ってるのに、帰る理由がないだろ? それにここにゃあ星詠ってえれぇ別嬪べっぴんさんがいるんだろ? 見ないのは損てもんじゃねぇか?」


 不意ににやけていた表情に殺気が走る。


「あぁ?!」


 声を荒げるだけで、大半の女性達が蒼白となりガタガタ震え出す。立っているのもやっとで、手にした薙刀も重く垂れ下がる。

 戦意を失った中を悠々と歩き出す男たち。その行く手を遮るように薙刀が一本突き出される。


「あぁん?」


 威嚇する男の視線を受けても平然としている美咲が構えていた。(見た目)年端もいかない少女が持て余しそうな程の長さの薙刀を構える姿に、男たちの間に失笑が漏れる。


「なんだいなんだい、お嬢ちゃん。そんな物持ってると危ないですよー」


 なんてボロボロの刀を手にしながら不用心に近づいた男がいきなり横倒しになった。素早く薙刀を振るった美咲が、柄の部分で相手の足を払ったのだ。そのまま返す刀で首筋に峰打ちをする。声一つ上げる間も無く気絶した男には目もくれずに、再び薙刀を構え直す。


「そっちのお姉さんも言ってたけど、帰ってくれないかな?」


 少女にしては険しい表情で刃をピタリと男達に向ける。気迫に圧されそうになったが、相手が女の子一人だと分かって、ヘラヘラと笑いながら近づいてくる。最初の男は油断したのだろう、という勝手な解釈だ。

 相手の態度が分かったのだろう。美咲がどこか悲しげにため息をつくと、軽く身を沈めてから駆けだした。

 不用意に近づいた男の脇腹を刃を返して薙ぎ払いながら駆け抜け、まだ反応しきれない残りの男達へと向かう。

 後は三人。

 次の一人を先制で倒すが、残りの二人はさすがに舐めてはかかれない相手と判断してボロボロの刀を構えた。

 負けるとは思わないけど、相手に怪我させないように、と考えると簡単にはいかない。あんまり時間をかけすぎると、倒した男達も目を覚ますかもしれない。


(でも頑張らないとね。)


 美咲は薙刀を握りなおした。



(あちゃー。)


 気配を消して飛んできた空狩は「本殿」に騒ぎが起きていることに顔をしかめた。男性が立ち入ることが出来ないここの警備も兼ねているのだが、隼人の話を立ち聞きしていなかったら十分間に合ったはずだ。


(海狩にまた怒られちゃうわね。)


 そんなことを思いながらも、一人奮闘している女の子についつい見入ってしまう。ほぼ一瞬で三人を倒し、残り二人と今睨み合いになっている。自分が手を出せばすぐに片づくのだろうけど、もう少し見ていたい気分になっていた。


(なんかあの子、わくわくするのよね……

 ……って何?!)


 不意に気配が増えた。

 この屋敷を囲む木々の中に潜んでいたのか。距離が遠いのと、それまでずっと気配を消していたのだろう。人間以上の感知力を持つ空狩ですら見落としていた。今気配をあらわにして、そしてこの距離……


(鉄砲!)


 たとえ気づいたとはいえ、遠距離からの射撃をいつ受けるか、と考えれば戦闘に集中できなくなるし、もし気づかなかったら……


(あの子は?!)


 刹那で思考を巡らせると、薙刀を構えている少女に目を向ける。

 大丈夫だ。気がついているようだ。一瞬反応を見せて……


(なんでぇ?!)


 まるで見えなかったのように、射手からは無防備に飛び出していく少女。時間をかけすぎるのを嫌って、多少強引でも決着を早める気なのだろう。


(でもなんで?!)


 このままでは撃たれるのは間違いない。自分が何も……


(そっか……)


「アハハハハハ!」


 こみ上げてくる笑いを抑えようともせず、空狩は一気に姿を現した。翼を広げて、曲者が隠れている木に一直線。ある程度の距離にさえ近づければこちらから狙うのは容易い。


「ハァッ!」


 羽を模した手裏剣を抜く手も見せずに投げつける。今まさに撃とうとしていた男が肩に手裏剣を受けて木から落ちた。少女は空狩の気配にも気づいていて、そして空狩がきっと何とかしてくれると信じていたのか確信していたのか。それ以外に考えられない。


(うんうん、面白いわ!)


 いきなり聞こえた笑い声と、隠れていた仲間の落ちる音に思わず男達が振り返る。今の物音に動じてない少女相手にその隙は致命的だった。

 思わずヒュゥ、と口笛を吹きたくなるほどの早業で少女が最後の二人を薙ぎ払って騒ぎは終わったのであった。



「我々の主様は“本殿”の星詠様をお守りしているでござる。無論、拙者らもであるが。

 ただ、本殿は婦女のみ立ち入ることのできる所であってな。」


「だからあの空狩、てぇのが行くのか。」


「左様。単なる賊程度なら空狩で十分でござるからな。」


 うむうむ、と頷く海狩。口ではなんだかんだ言っているが、それでも空狩を信頼しているのは間違いないようだ。ちなみに陸狩は話しが長くなってきたので、外に出て岩を持ち上げての鍛錬を始めていた。


「あら~ そう言われると嬉しいわぁ~」


 広げていた翼を畳んで、空狩が手に風呂敷包みを持って小屋に入ってくる。


「ちなみにちょっと騒ぎがあったけど、ん~ なんとも無かったわ。」


「不安の感じられる言い方でござるな。」


「は~い、隼人ちゃん。お・み・や・げ。

 さすがにおなか減ったでしょ?」


 揃って渋い顔の二人を気にも留めず、隼人の前に持ってきた風呂敷包みを置く。


「まぁ、そうだが……」


 目を覚ましてから結構な時間が経過した。確かにおなかが空いてきてはいる。しかし美咲が無事かどうか考えると……


「はいはい、深く考えないー まずはおなかいっぱいにしないと動けないでしょ?」


「…………」


 確かにその通りなので、風呂敷包みをほどく。中はシンプルに竹の皮に包んだおむすびと、竹筒に入った飲み物だ。そう言えば喉も乾いている。

 竹筒の中の冷えたお茶を飲んで、おむすびを一口。そしてお茶を……


「!!」


 驚きに吹き出しそうになるが、そんなことは出来ないので必死に堪える。どうにか無事飲み込んだ頃には、全速力で走ったかのように憔悴していた。


「おい、」


 と空狩に文句を言いかけた隼人だが、ニヤニヤしていそうな雰囲気に全てを理解する。


「よかった……」


 感極まったように呟き、脱力してガクリと肩を落した。


「どうかしたでござるか?」


 へなへなと崩れ落ちた隼人の理由が分からなくて首を傾げる海狩。空狩も予想以上の結果になってどうも戸惑う。悪戯いたずら好きなところがあるのだが、根は意外といい人なのかもしれない。


「……いや、言ったろ? 一緒にこっちに来た奴がいると。そいつの無事が分かっただけだ。」


 と、本人は素っ気なく食べているつもりなのだが、端から見ると嬉しそうにおむすびを頬張る。


「本殿にいたでござるか?」


「ん~ 掻い摘んで話すとね~」



 少女がならず者を全て叩きのめすと、それまで半ば呆然としていた女性達が慣れた手つきで男達を縛り上げていく。


「凄い凄い!」


 木の上にいた男を縛り上げてきた空影がふわりと彼女のそばに着地する。


「あ、さっきはどうもありがとうね。」


 さすがに緊張したのか、立てた薙刀にもたれかかるようにしている少女がさっと振り返った。そして空狩の姿を認めて、一瞬目を見開く。自分の姿に驚いたのか、と半ば諦めが入るが、少女はぱぁっと顔を明るくした。


「うわ、かっこいい! もしかして空飛べるの?」


「え、えぇ……」


 目をキラキラさせて背中の羽を見つめる少女に、どうもペースが狂ってしまう。


「へぇ、いいなぁ……」


 どう対処していいか悩みながらも、少女をこの本殿で見たことない事に気づく。ここの警護が平時の仕事なので、毎日のように通っている。一通り中の人間にも面識がある。

 それでもあんまり目立たない人もいるが、一見子供でしかもあれだけの腕前なら憶えてないはずがない。となると、昨日今日に入ったとか……


(あ。)


 もう一つ可能性があった。


「ねぇ、もしかして隼人ちゃん知ってる?」


 反応は劇的だった。さっきまでの笑顔が固まると、いきなり泣き出しそうな顔になり、そしてそれを堪えたのか半泣きと嬉しさが混じった顔になる。


「隼人くん無事なの?!」


 見かけから予想できない力で掴まれてガクガクと揺さぶられる。その勢いに飲まれそうになりながらもどうにかこうにか説明すると、またぱっと表情を明るくなった。


「ご飯食べたかな? きっとまだだよね。ちょっと待って!」


 ピュー、と音が出そうな速さで建物の中に入っていくと、五分ほどで小さな包みを持って戻ってくる。


「また隼人くんに会ったら、これ渡してくれないかな?」


 渡された包みは見かけよりも暖かく、そして重い。不埒者の片づけも終わり、この少女がいるならしばらく離れても大丈夫だろう、と判断して、空狩は翼を広げて飛び上がった。



「……って感じ。」


「良くは分からないでござるが、つまりは隼人殿はおむすびの一口で、その娘子むすめごの作った物と気づいて安心したでござるか。」


「そうね。」


「…………」


「…………」


 少し離れた所で小声で話していた海狩と空狩が、胃袋も心も満たされて落ち着いている隼人を盗み見する。


「拙者、馬には蹴られたくないでござる。」


 そうね、と空狩が茶化そうとすると、入り口の扉を壊さんばかりに巨体が飛び込んでくる。


「ダンナ! ダンナ! 海狩のダンナぁ!」


 騒がしく入ってきた陸狩を制止しようとするが、その慌てようが尋常じゃないので、小屋の中にいた三人が振り返る。


「あれ見てくれよ、あれ!!」


 その怪力で海狩を外に引っ張っていくと、遙か遠くを指さす。指さした方からは何か煙が立ち上っていた。


「なんと!」


「アタシ行ってくる!」


 返事を聞く間もなく、空狩が翼を広げる。


「拙者らも行くぞ!」


「おう!」


 駆け出す二人を隼人が呼び止める。海狩が陸狩に視線を向けると、彼の意図を理解して一人で走っていく。


「急ぎます故、走りながら説明するでござる。」


 と、隼人のペースに合わせて走り出す海狩。


「実は星詠様は不思議な力をお持ちで、その力故、色々な者に狙われているでござる。

 そして昨今、異形の者を従えた輩が星詠様を狙っているという情報を入手したので、少しでも腕の立つ者を集めたかったのでござるよ。」


「…………」


「いや、無論、隼人殿にはその娘子が見つかって、元の所の戻るまでの助力を願いたかったわけで……」


 隼人の沈黙を別の意味に捉えた海狩が、慌てて付け加える。隼人としては美咲が見つかった以上、あんまり関わりたくなかったのだが……


(……巻き込まれたな、これは。)


 行く先にいるだろう、お人好しで正義感の強い少女の事を思い出すと、今何をしているのかおおよその見当がついてしまう。


(怪我とかするなよ……)


 無茶をする事が分かっているから、隼人の足は自然に早まるのであった。



 燃えていた。

 高い塀があろうとも、翼を持つ者には役に立たない。

 ゲームに出てきそうな翼の生えた小鬼が次々と敷地の中に入り込んでくる。手には松明たいまつを持ち、それを次々に投げ込んでくる。

 火の手があちこちから上がり、消火しようとする者、慣れない手つきで弓矢を構えて迎撃しようとする者、逃げ出そうとする者と混乱をきわめていた。

 入り口である頑丈な門は外から何度も何度も押し破られそうになっていた。未だもっているが、破られるのも時間の問題だろう。


「美咲様、」


 元々の服に着替え直して、また薙刀を借りて飛び出そうとした美咲をやんわりと星詠が呼び止めた。


「え、えっと…… はい。」


「このような事を頼める義理ではないのは十分に承知しておりますが、一つお願いしてもよろしいでしょうか?」


「? 別にいいよ?」


 さも当然のように言う美咲に、星詠はちょっと驚いた顔をしながらも、優しく、そしてどこか心配そうな笑みを浮かべる。


「それでは屋敷の者を避難させてはいただけませんでしょうか? 裏から山へ入る事ができそこまで行けば町まで逃げるのも容易いですから。」


「うん、分かった。

 ほら、星詠さんも行こう。」


星詠に手をさしのべる美咲だが、それが見えて分かっているかのように小さく首を振る。


「でも!」


「……私は生来、目の前の現実を見る事はできませんが、“先”を“視”ることが……」


 言いかけてはっ、と気づいたかのように口を閉じる。しかし真っ直ぐ見つめてくる美咲の視線は感じられた。しばらく沈黙が降り、先に目をそらしたのは美咲の方だった。


「うん…… じゃあ行ってくるね。でも、」


 見えない瞳の、その奥まで貫くように相手の目を見る。


「それでもどうにかしたい、っていうのはおかしいかな?」


 疑問を投げかけると、そのまま返事も聞かずに美咲は背を向けて走り出した。


(あなたなら…… 未来を変える事ができるかもしれませんわ。)



「どうなってるの?!」


「どうなっているんだ?!」


 先に出た空狩が敵を蹴散らしている所に陸狩も到着して、二人で小鬼たちを倒しているが、なかなかその数は減らない。屋敷は火をかけられて炎が広がり、周囲に火の粉をまき散らしている。

 そんな騒ぎになっていても誰も出てこないのだ。しかし、屋敷の中には人の気配はない。


「誰か逃がしてくれたのかしら?」


 羽型手裏剣で空飛ぶ小鬼を落としながら、周囲の様子を窺う。


「いや、姐さん。それならそれで…… 都合いいってもんよぉ!!」


 一体一体ちまちま相手しているのに嫌気がさしたのか、庭の巨木を引き抜いて棍棒代わりに薙ぎ払う陸狩。

 それでも数を頼みに攻めてくる敵は少しずつ二人の横を抜け、屋敷の本殿へと入っていく。


「くっ!」


 また二体小鬼が空影の守りをすり抜け……


「敵が多いでござるな。」


 一体が顔に手裏剣を受け、


「なんだこいつら?」


 もう一体が鋭い蹴りに吹き飛ばされた。


「海狩のダンナ!」


「隼人ちゃん!」


「……ちゃんは止めてくれ。」


 疲れたように応えながらも、迫る敵を蹴り飛ばしていく。飛べないやつは海狩・陸狩・隼人の三人で迎撃できるが、空を飛んでいるのは空狩と海狩の手裏剣でしか対応できない。

 しかも思ったより数が多く苦戦している。


「きゃあっ!」


 上から悲鳴が聞こえて見上げると、空狩が数体の羽付き子鬼にまとわりつかれていた。しかも一回り大きい羽付きの鬼が更に空狩にしがみついて、その翼に手をかける。

 ミリミリと嫌な音が響き、苦痛の声をこらえながら振り解こうとするが、がっちり掴まれて自由になれない。跳んでどうにかするには高度があるし、手裏剣を使うには空狩の身体が邪魔になって羽付き鬼だけを狙えない。


「いやぁぁぁっ!」


 翼を折られかけて悲鳴を上げる。


「空狩!」


 海狩の声も何の役にも立たない。しかし、隼人の耳はある物音を聞きつけていた。


「おい、デカイの!」


「俺っちか?!」


「いいから少し屈め!」


「お、おう……」


 勢いに押さえてわずかに頭を下げると、海狩達にも駆けてくる足音が聞こえてきた。


「美咲っ、」


 後ろを見ずに呼びかける。


「跳べっ!」



 小柄な影が走り込んでくると、屈んだ陸狩を膝・背・肩と一気に駆け上がり、そのまま空へと跳び上がる。


「やぁっ!」


 手にした薙刀の刃を返すと、空狩を掴んでいた大柄の羽付き鬼の顔を横薙ぎにする。そのまま身を捻りながら、空狩の腕にしがみついていた小鬼を柄で一突きしたところで落下し始める。


「よくもやったわね!」


 解放された空狩が、顔を強打されて落ちていく鬼に無数の羽根手裏剣を投げつける。更に手足にしがみついた小鬼を振り解くと、それらも同じ目に遭わせる。

 そして空狩のピンチを救った人影――美咲は普通なら間違いなく怪我しそうな高さから落下していたが、着地点をチラッと見下ろすと笑顔で手にしていた薙刀を遠くに投げ捨てた。


「隼人くーんっ!」


 詰まらなそうな顔をして着地点に先回りしていた隼人。その胸に抱きつくように飛び込んできた美咲を後退しながら受け止める。


「…………」


 隼人の腕の中に収まった美咲が、彼の胸に顔を押しつけるようにして黙っている。声をかけようとして、少女が小さく震えているのを感じて、そのまましたいようにさせておく。

 一分ほどで落ち着いたのか、顔を上げて隼人に笑みを見せた。その笑顔と腕の中のぬくもりにやっと実感が湧いてきたのか、思わず抱きしめる腕に力を込めてしまう。


「……♪」


 どこか嬉しそうな美咲。なんかいい雰囲気なのだが、どこからがコホンと咳払いのような声が聞こえた。


「隼人殿、感動の再会もよろしいでござるが、些か状況が芳しくないでござるよ。」


 気づくと、狩人衆の三人が隼人たちを取り囲むように戦っていた。屋敷の建物は半分以上が炎の前に崩れ、本殿もその半ばが炎に包まれていた。


「……そうだ! 星詠さん!」


 思い出したかのように言った美咲の言葉に、狩人衆が一斉に振り返る。小鬼どもを切り伏せながら早口で海狩が尋ねると、自分が星詠に頼まれて屋敷の人間を逃がした事。そしておそらく星詠がまだ中にいる事を伝えた。


「なんと!」


 ここは頼む、と言い残して、海狩は燃えさかる本殿へと飛び込んでいった。



 本殿の一番奥。炎の音を聞きながら、星詠はとっておきの服に着替えて待っていた。見える事は無いのだが、炎の熱が少しずつ近づいてくるのは感じられる。


御館様おやかたさま…… 私、もう疲れました。」


 ぼつりと口を開く。


「いつも未来から逃げ回って、護られているばかり…… でもあの子を見て、少し未来に逆らってみたくなりました。」


 ふっ、と笑みを浮かべる星詠。

 不意に彼女の側に、空間から滲み出るかのようにがっしりした体格の男が現れる。


「私たちのここから未来は存在しません。でも最期に……」


 二人のいる部屋にも火が回ってきた。天井の梁も炎に包まれる。燃えさかる炎の熱から星詠を護るかのように抱きしめる。


「御館様……」


 星詠の最期の言葉は業火の中に埋もれ、たった一人にしか届かなかった。



「!」


 美咲が、


『!』


 空狩と陸狩が何かに気づいたように本殿を振り返った。 


「どうした?!」


 隼人の問いにも悲しそうな顔をするだけだ。


「星詠さんが……」


「主様が……」


 美咲と空狩の言葉におおよその見当がつく。


「くそぉっ!!」


 力任せに陸狩が小鬼を殴り飛ばす。遙か彼方まで飛ばしたところで気は全然晴れない。


「一度撤退だ。陸狩は二人を頼む。」


 半ば焼失した本殿から戻ってきた海狩が後ろを振り返らずに淡々と指示を飛ばす。


「おう。」


 陸狩が美咲と隼人の二人を肩に乗せると、風のように、というほど優雅ではないが、人を超えた速度で走り出す。空狩がその先を走り、殿しんがりを海狩がつとめる。

 誰もが押し黙ったまましばらく走り続けると、林の中で海狩が指示を出して止まる。しばらく木々の間を走り続けたために追っ手がいたとしても撒いたことだろう。

 しばらく走ったところで息を切らすわけでもなく、重苦しい雰囲気の中、陸狩が美咲と隼人の二人を地面に下ろす。


「もう分かっていると思うが……」


重々しく海狩が口を開く。が、空狩と陸狩が無言で首を振る。


「そうか…… しかし拙者らに残された時間もあまり無い故、隼人殿と…… 美咲殿、でござったな? 二人をいかにして帰すかなのだが……」


 難しい顔の海狩に空狩がはい、と手を挙げて、隼人を振り返る。


「隼人ちゃん、いい?」


「……ちゃん?」


不思議そうに首を傾げる美咲は見なかったことにして、空狩に続きを促す。


「その師匠さんからもらった、って符、見せてもらえる?」


「ああ。」


 玄庵に渡されてから、なんか気になって持ち続けている紙の束を取り出す。チラッと見た瞬間にやっぱり、と言いたげな顔をするが、手にとって子細に眺める。


「……一つだけ手、思いついた♪」


 どこか楽しげな空狩。しかし、美咲はどこか寂しげな雰囲気を感じていた。


「ダンナぁ! 奴ら来たぜ!」


 ドタドタと足音を響かせながら陸狩が戻ってくる。


最早もはやでござるか!

 空狩! してその方策とは?!」


「…………」


 空狩が海狩と目を合わせると、目を明滅させて声に出さずに会話する。


「……左様でござったか。」


「うん、でも飽くまでも仮定。でもアタシの予想通りならこれしか方法は無いわ。」


「お主が言うなら、そうでござろうな……

 隼人殿、少しよろしいでござるか?」


「…………」


 口調はいつも通りながら、どこか抗いづらい雰囲気に飲まれそうになりながらもどうにか頷く。どうやら美咲には聞かれたくない話なのか、空狩と陸狩に美咲を任せて、二人で林の奥へと入っていく。


「……此度は大変ご迷惑をかけ申したでござる。それと、お二方には感謝の言葉もないでござる。」


「俺たちは何もしてねぇ。」


 隼人にも林の中を迫ってくる気配が感じられてきて気ばかりが焦る。


「主様と星詠様のことは大変残念でござったが…… 最後に拙者が見た時、星詠様は間違いなく心からの笑顔を浮かべてござった。

 きっと、貴殿らが来た事が良かったのでござろう。……拙者らも短い時とはいえ、楽しかったでござる。」


「……おい。」


「何を言ってるでござるか。」


 過去形で語る海狩を睨み付けても、それを涼しい顔で受け止める。


「貴殿らはそもそもこの世界には不必要な人間。……帰ってもらわなくては困るでござるよ。」


「…………」


「空狩の申してた方策でござるが……」



「ねぇ! 隼人くん!」


「いいから黙って走れ!」


 林の中を駆け抜ける二つの影。


(隼人殿の持つ符は、我らを召還する符と同じ物でござる。)


「でも!」


 狩人衆を置いて二人だけで走っている。


(しかし盟約の印が無いでござる。)


 足を止めて耳を澄ませば、遙か遠くで異形の軍勢と戦う音が聞こえる事だろう。


(今より一度ではあるが、助力の為の盟約をするでござる。……これがせめてものお礼と、償いでござるよ。)


「美咲、」


「どうしたの?」


 立ち止まった隼人の前に回り込んで顔を見上げる。


(空影の申す事には、我らの符は決して同じ物が存在しないでござる。つまり同じ物があるという事自体が異常。)


「お前は……」


「?」


「お前は、どうしたい?」


「???」


 隼人の質問の意味が分からなくて首を捻る美咲。


(つまり、同じ符が同時に存在する状況を作るでござる。さすれば“世界”がその矛盾を解消するために、元々異邦人である二人をどうにかするかもしれない、というのが空狩の予想でござる。)


一瞬だが、美咲と一緒ならこの世界にいるのも悪くないのでは? と思ってしまった自分に激しく後悔。


「いや、忘れてくれ。」


「……うん?」


 納得いかないながらも、隼人がまた走り出したので慌てて後を追う。


(我らの身体は符より生み出されしもの。主殿ならまた符に戻せるのでござるが……)


「隼人くん。」


 しばらく走ったところで、顔を伏せていた美咲が口を開く。


「ん?」


「何か…… ボクに隠してない?」


(もう一つの方法は我らがその役目を果たせなくなった時でござる。)


「……ああ、隠してる。でもお前だから言いたくない。」


「…………」


 なんとなく隼人の意図に気づいてクルリと方向を変えて元来た方へ走り出す。その手を掴んで引き留める。


「隼人くん!」


「だから言わなかったんだ。

 ……っ!」


 責めるような口調の美咲にため息混じりに返すが、不意に胸を押さえる。鈍痛というか、何かが締め付けられるような感じがする。


(……つまりは“死”でござるな。

 もう我々には仕えるべき人も、護るべき人もおらんでござるからな。)


 それでも自らの命を絶つことは出来ないから、戦いの中で果てるつもりだ、とのこと。敵討ちではないが、少しでも自分たちと同じ思いをする者が減ってくれることを祈って戦うのだ、と。


「隼人くん?」


 ただならぬ様子に美咲の目が心配の色を帯びる。顔面蒼白とまではいかないが、嫌な汗を流し、今にも膝を折りそうな隼人が何でもない、と言っても説得力がなかった。


「痛いの? 苦しいの? それとも…… 辛いの?」


 わずかに震える隼人に抱きつく美咲。そんな彼女を壊れ物を扱うかのようにこわごわと抱きしめる。


「……俺たちがここに来たのは偶然なのかな。」


 夢魔の攻撃で飛ばされてきたのは間違いない。しかし、夢魔の攻撃は何の為の物だったのだろうか?


「分からないけど…… ボクたちは出来ることをやるしかないんじゃなかな?」


「ああ、そうだな。」


 懐に入れた符が熱くなってくる。


(戻ってもダンナの姫さんと仲良くな。)


(まぁ、うまくしたらちょっとの別れよ。だから…… また、ね。)


(この出会い、決して偶然などでは無いと、拙者は信じてるでござるよ。)


 符を通して次々に最期の言葉が伝わってくる。熱さが過ぎると、直視できないほどの光が溢れてきた。


「美咲!」


「ふぇ?!」


 こんなところで離ればなれになってしまったら、自分たちのために尽くした狩人衆の気持ちを無駄にしてしまうことになる。

 光は二人を包み込み、世界を白く染め上げる。直後、何事も無かったように光は消え、そして二人もその場、いや、その“世界”から消滅していた。



「こんなこと言いたくないけど……」


「じゃあ、言わない方がいいと思います。」


 スターブレイカーとウルフブレイカーが消えてから約二十分。残ったGフレイムカイザーとヘキサローディオンだけで戦っているが、夢魔が時折こちらの理解を超える動きを見せてきて攻撃を当てられない。こちらのダメージが増えるばかりだ。

 戦闘自体はきついが、それよりも美咲と隼人がいなくなった方が余計堪える。


「あれ、どう思う?」


 ドラグーンランサーで斬りかかりながら、その隙をついて謙治が射撃を試みる。


「良い方向の推論ですが、破壊されたとならば破片が一つも残らないのはおかしいですし、データの方の破損が見受けられません。」


 相手の動きを予想しての射撃も、何故か直前で夢魔の動きが急に速くなったかのように避けられる。


「……ったく。二人でデートなら先に言いなさいよね。」


 まだ望みがあるとはいえ、不安を隠せない麗華が軽口混じりにそれをごまかす。ランサーを投げつけるフレイムスライサーもまるで瞬間移動したように避けられるのであった。



「くっ……」


 目が覚めた瞬間、周囲に漂う戦いの気配に意識が覚醒する。仰向けに倒れているのか空が見える。胸の上に何処か心地よい重みが乗っかっていて……


「……っ!」


 その重みの心当たりがあって、身体を起こそうとするが、予想に反してほとんど動かない。頭はハッキリしているのだが、手足に力が入らない。

 どうにか首だけ動かしてみると、胸の上で美咲がジタバタもがく努力だけをしていた。


「なんだいったい……」


「ボクも分からないよ……」


 美咲を乗せたままどうにかこうにか身体を近くの樹にもたせかけると、遙か遠くで夢魔との戦闘しているGフレイムカイザーとヘキサローディオンが見えた。遠くから見ていると、時折二機の動きが止まって、その間に夢魔が有利なポジションを取っている。


(どういうことだ?)


 自らの意志で止まったわけでもなさそうで、何が起こっているか理解してない様子で、一方的な展開になっている。


「くっ……」


 身体がまともに動かせない状態で戦えるはずもなく、試していないがリアライズもまず無理だろう。


(どうすれば……)


 と、考えるまでもなく、方法は一つしか思いつかなかった。全身全霊を腕に込め、自分の服の中に手を入れる。美咲と密着している関係上、色々双方に問題があったりするが、そんなことを解決している余裕も暇もない。懐から様々な思いがこもった三枚の符を抜き出すと、最後の力を振り絞って投げる。


「頼む! 力を貸してくれ!」


 隼人が叫ぶと、符が光に包まれる。その光の中で符がカードサイズに縮む。一瞬光が収まったかと思うと、それを倍する光があふれ出た。

 符が変化したカードがその中で膨らむように広がり、それは少しずつ人型をとりはじめた。

 長いような短いような時間を経て、身動きが取れない二人の前に三つの人影が立ちはだかる。


「盟約により、技の将海か……

 おお、隼人殿ではあるまいか!」


「ホント?!」


「ええっ!」


 真ん中にいた人影の驚いた声に、左右にいた女性らしいのと大柄の人影も驚きに声を上げる。それと同時に自分たちを見下ろして、再び驚きの声を上げる。

 確かに(隼人達の時間で)数時間前に見たときより、その鎧然とした身体がどこか洗練された感じになっていた。


「さて、拙者らをんだということは、何かあったということでござるな。そちらを先に片づけるでござる。」


 積もる話もあるのだろうが、己の使命を優先させるのが彼らの存在意義なのだろう。


「あ、ああ……」


 喚んだはいいが、隼人はちょっと後悔していた。人と同じくらいの大きさの狩人衆を喚んだところでどうなる?


「ふむ……」


 さすがに海狩達にも遠くで巨大な者同士が戦っているのが見える。


「お主、憶えておるでござるか?」


 興味深げに向こうの戦いを見ている空狩に意味ありげに問うと、何か含みのある様子でん~、と口元に指を当てる。


「いつか戦った沼の主だっけ? 大きかったわよね~」


「お、もしや海狩のダンナ。久々にやるんですかい?」


 喜々とした陸狩の様子に、隼人も美咲も分からない。


「隼人殿、心配ご無用でござる。

 ……しかして、我らはあの二体の巨人の代わりにあの異形を倒せばよいのでござるのかな?」


「いや、そこまではいい。ちょっとの手助けさえあれば、どうとでもなる。」


 その言葉に信頼が見えて、海狩は表情は変えないがどこかニヤリと笑う。


御意ぎょい!」


 仲間二人に目で合図をすると、狩人衆が隼人達の前から姿を消した。



(……しかして、我らの名前は些かこの世界には相応しくないとは思わぬか?)


(って、言われてもなぁ……)


(ん~ じゃあ、こういうのはどう?)



「ああもう! 何なのよ!」


「おおよその見当がついたのですが…… どうやって対処したら良いか。」


 戦闘が長引いて疲労も蓄積された辛くなってきている。美咲たちの様子も分からないし、少なくともこの夢魔を倒さなければならない。


「……ん? なんか人間大の金属反応が三つ、近づいてきます。」


 攻撃しても効果が薄いので、夢魔の分析に回った謙治が妙な反応を捉える。


「人間大? 金属反応?」


 謙治にも分からないものが麗華に見当がつくわけもない。


〈あれは一体?〉


 カイザーがその“反応”を視界に捉える。鎧をまとったような人の姿。それが自分たちと夢魔の間に尋常じゃない速度で割り込んできた。だがその姿はあまりにも小さく、刃どころか壁にすらならなそうだ。


「やぁやぁ、遠からん者は音に聞け、近くばよって目にも見よ。」


 朗々と戦場に響く声に、夢魔も思わず動きを止める。

「我ら狩人衆、時を超えし盟約により参上つかまつった!」


 左右の人影が大きく跳躍して距離を取ると、三つの人影が指を複雑に組み合わせる。


『封魔が奥義の一、巨忍変化の術っ!!』



 一瞬風が巻き起こると、さっきまでいた三人の姿が消えていた。


「夢魔の三方にブレイカーマシンサイズのロボが現れました! リアライズ反応はありません!」


「何ですって!」


 唐突に現れた鎧武者風の三機に反応しきれない。敵か味方も判断つかない内に、三機が動いた。

 一番大柄の鎧武者が背中に背負った円盤状のパーツを手にする。円盤から八方向に刃が伸び、巨大な八方手裏剣となる。


「一番手は俺っち力の将ランドハンター様よぉっ! いくぜ、封魔大手裏剣っ!!」


その巨体から繰り出される怪力で、力任せに巨大手裏剣を夢魔に投げつける。その直撃を喰らいたくは無いのだろう。夢魔が瞬間移動するかの如くにその大手裏剣を避ける。


「はいは~い、お次はア・タ・シ。知の将スカイハンターよ。よろしく、ね!」


 空に舞った細身の鎧武者が最後の一息で、指に構えた羽根手裏剣を一気に解き放つ。それは飛びながら分裂するかの如くに数を増やし、大半は地面に突き刺さるものの、幾つかは夢魔の表面を叩く。

 ただ倒すつもりで放ったのではないのか、夢魔にはさしたるダメージが無い。と、夢魔の前にこれまた瞬間移動したかのように最後の鎧武者が現れる。


「そして拙者が技の将マリンハンターでござるよ。」


 反応が遅れた夢魔を手にした短めの刀が切り裂いた。


「散!」


 マリンハンターの号令で他の二機も下がり、麗華と謙治の元に集まる。


「……誰?」


 まさに風のように現れた三機に驚きは隠せないが、とりあえず味方らしい事は分かる。


「貴殿ら、隼人殿の知己ちきでござるな?」


大神おおがみ君ですか?!」


 出てきた名前に思わず声が出る。


「大丈夫よ、隼人ちゃんもあの子も離れたところにいるわ。ちょっと動けないだけ。」


スカイハンターがそう言うと、目に見えてGフレイムカイザーとヘキサローディオンの緊張が解ける。


「よし、安心した。謙治、行ける?」


「ええ、今ので解析はできました。

 そちらのお三方には悪いですが、もう僕たちに任せてくれて結構です。」


 二人の言葉にマリンハンターがうむ、と頷く。


「そうでござるか。ならば言葉は悪いでござるが、お手並み拝見と参る。スカイ、ランド、隼人殿と美咲殿の事を頼むぞ。」


 スカイハンターとランドハンターが術を解き元の大きさに戻り、二人の元へと駆けていく。


「原理までは分かりませんが、夢魔は時間を止めてくるようです。もしかすると、たちばなさんと大神君も何処かへ時間を飛ばされて行ったのかも知れませんが。」


「まったくもってSFね。」


〈いやはや、驚きでございます。〉


 夢魔はどちらかというとカウンターで攻撃するタイプなのか、こちらが様子を窺っていると散発的にしか攻撃をしてこない。時計の針状の物を撃ってくるが、どうにか避けることができる。


「ただ時間を止められるとはいえ、無限に止めるのは無理です。そうじゃないと、こちらがすでにやられていたわけですが。」


 それでは、とGフレイムカイザーにデータを送る。


「……結構タイミングがシビアね。ま、出来るでしょカイザー?」


〈無論でございます。〉


 夢魔が放った時計の針を左右に分かれてかわすと、ヘキサローディオンが構えた。


「ウェポン、フルセット!

 ファランクス・デストロイヤーッ!!」


 全身に武器を召還したヘキサローディオンの全力斉射が夢魔に爆炎に包み込む。が、予想通りというか夢魔が爆発の範囲から外れたところに移動している。


〈マグマドラゴン!〉


 その爆炎をくぐり抜け、炎の身体を持ったドラゴンが夢魔に飛びかかる。


「先ほどの方々の攻撃で、時間停止の限界と回避の癖は掴みました。」


 その言葉通り、発動までにタイムラグのあるマグマドラゴンが狙い澄ましたタイミングで放たれていた。

 それを寸前で時間を止めて回避した夢魔だが、その頭上にマグマドラゴンを放った直後に跳んだGフレイムカイザーがランサーを構えていた。


「カイザー・グランド・スラッシュッ!」


 赤熱したランサーを振り下ろす。一部を切り裂かれながらも、再度時間を止めてその刃の下から逃げ出す。


〈ドラゴン・ロアーっ!〉


 胸の竜の目が輝き、その咆吼が夢魔を金縛りにする。麗華とカイザー、と操縦系統が二つあるからこそ出来る連続攻撃に夢魔の時間停止能力も限界を迎えていた。


「……ビンゴ。」


 ヘキサローディオンの構えた巨大砲が周囲の空間を歪めながら唸りを上げる。


「決めてやる! いっけぇっ!

 ロード・インフィニティ・グラビトンっ!!」


 Gフレイムカイザーが夢魔の相手をしている間にG-プレッシャーキャノンを召還。チャージの時間は麗華とカイザーに稼いでもらって、あとは敵の回避パターンから最終位置を予測。時間を歪めて金縛りを解いた夢魔だが、迫る重力弾を回避する余力は残されていなかった。



「どうやら時を超えるのはひどく体力を消耗するようでござるな。」


 どちらが元なのか分からないが、人間サイズに戻ったマリンハンター。

 夢魔を超重力で圧搾して戦闘が終了すると、ブレイカーマシンを降りた麗華と謙治にことの次第を説明しながら、隼人達の元へ。

 と、同じく人間サイズのスカイハンターとランドハンター、そして麗華の家の運転手が手持ちぶさたに立っていた。

 戦闘が終わったようだから迎えに来た運転手だが、この場にいた二人に害意を感じなかったので、そのまま普通に世間話をしていたらしい。

 麗華達がやってきたのに気づいて振り向くが、すぐに彼女たちからは死角になる樹の根本の方へ視線を向ける。


「?」


 どこか楽しげな雰囲気なので、気になって歩み寄ってみる。そこには美咲が隼人にのしかかっていて、しかも二人揃って寝てしまったようだ。マリンハンターの言うとおり、体力を消耗していたのだろう。

 何が楽しいかといえば、美咲が隼人にしっかりしがみついて、それでいてとても幸せそうな寝顔を浮かべていることだ。


「本来ならば隼人殿への助力は戦いに手を貸すだけで済んだのでござるが…… さして役立ちもしなかった故、お二人をあの鉄の車まで運ぶでござる。」


 どこかため息混じりに、そして楽しげにマリンハンターが他の二人に目で合図して、起こさぬように美咲と隼人を麗華の家のリムジンに乗せる。


「こんなときに寝ている不甲斐ない隼人の代わりに礼を言わせてもらうわ。

 助かったわ、どうもありがとう。」


「いやいや、我らは大したことはしてないでござる。結局、あの異形も貴殿らで倒したわけござるしな。」


 なんか長引きそうなので謙治がまぁまぁ、と取りなす。ならば、とマリンハンターが表情を引き締めた。


「先ほども言ったとおり、此度の召還は一度きりのもの。ですから隼人殿に伝えて欲しいでござる。」



「……で?」


 研究所で目を覚ました隼人。麗華から三枚のカードを受け取って続きを促す。


「心の力を強く持て、だったかしら?

 それさえ出来れば彼らの主になれる、って言ってたわよ。」


「俺が、あいつらの……」


 前の「主殿」には会えずじまいだった。話を聞いた限りでは彼らに慕われていたのは間違いない。彼らをこの世界まで喚んでしまったのはある意味自分だ。でもだからといってその「主」になる資格も力も自分にあるのだろうか?


「あ、これ、あの人達?」


 コーヒーをもって戻ってきた美咲が、隼人の肩越しに手の中のカードを見つける。


「ね? ね? また会えるの?」


 嬉しそうに聞く美咲になんか深刻に考えるのがバカらしくなってきた。


(偶然か運命か努力の賜物かは知らねぇが……)


「そうだな、また会えるといいな。」


 三枚のカードを胸のポケットにしまうと、肩に乗った少女の頭をくしゃ、と乱す。

 わ、とちょっと嬉しそうな声と、どこか呆れたような視線も意識から外すと、過去だったのかもしれない世界に思いを馳せる。


「……ま、どうにかなるか。」


 今はそうとしか考えるしかなかった。




隼人「子犬に懐かれた。

 どっかのお節介は『動物に好かれるのは優しいからだよ』なんて言うが、

 そんなこと知るか。

 タコのような夢魔の脚に捕らわれてピンチの俺たち。

 そのとき、雄々しい獣の咆哮が響いた。


 夢の勇者ナイトブレイカー第三十一話

『犬と少年』


 俺の夢は一体なんだろう?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ