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夢の勇者ナイトブレイカー  作者: 財油 雷矢


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第十八話 囚われの姫君

「武器を消してゆっくり降りてこい。」


 腕の武器をウルフブレイカーに向けたままバロンは言った。ウルフブレイカーは背部装甲が先の戦闘で砕かれていて、内部機構が露出していた。

 しかもパイロットの隼人はやとはその時の衝撃で気を失ったままだ。


「……分かったよ。」


 美咲みさきは手の中のクリスタルシューターを消すと、ゆっくりと降下した。飛び降りても平気な高度まで来るとコメットフライヤーも消し、その場から降りる。


「何でも言うこと聞くから、隼人くんは手を出さないで。」


 緊張を隠せない様子で、フラッシュブレイカーとシャドウブレイカーが向き合った。と、眼前の黒いマシンから放たれる気配がゆるんだように感じる。


「……女がそういうことを軽々しく口にするな。」


「え……?」


「思わず期待してしまうだろ。」


「え? ええっ?」


 バロンのセリフの意図の半分も理解できなかったが、何となく同じようなシチュエーションを隼人とやったような気がした。


「ま…… とりあえずフラッシュブレイカーから降りてもらおうか。」


「……隼人くんから離れて。」


「立場が分かってないようだな。」


「…………」


 無言でフラッシュブレイカーをひざまづかせて、胸元に手を持ってくる。美咲がその手の上に乗った。


「ハヤトめ……

 今度会ったら承知しないぞ。」


 手の上の少女は、いつか隼人と一緒にいた少女だった。からかい半分の言葉で真っ赤になっていた少女。


(ミサキ、と言ってたな……)


 正直なところを言えば目の前でフラッシュブレイカーを降りたのにも関わらず、今一つ信じられなかった。


「……こっちに乗れ。」


 黒い手が美咲に差し伸べられる。少し躊躇ってから少女がシャドウブレイカーの手の上に乗った。それと同時にフラッシュブレイカーも消える。

 この距離なら多少の遠隔操作ができるのだが、そんなことをしても状況は打破できない。更にいえば美咲は本能的にバロンが悪い人間とは判断しなかった。


「乗ったよ……」


「今から飛ぶ。しっかり捕まってろ。」


 と言ったものの、シャドウブレイカーは飛べるほど修復がすんでいない。スカイシャドウに変形したら美咲を乗せることができなくなる。

 仕方ないか、と口の中で呟くとシャドウブレイカーは腕を振り上げ、天を指差した。


「ルナティック・グリフォン!」


 空から何かが飛んできた。巨大なマシンだ。それはライオンの身体に鷲の頭と翼を持った想像上の生物、グリフォンの姿をしていた。シャドウブレイカーと同様に影の色で全身を包んでいた。

 それは天空から舞い降り、降りる場所がないのか、病院の上空で停止した。脚力と隼人に壊されたジェットで無理矢理漆黒のグリフォンの背に乗る。


「行け。」


 バロンの声に巨大なマシンは夜空に向け飛び去っていった。



 パタパタパタパタ……

 パジャマの上にカーディガンを羽織って一人の少女が降りてくる。

 中庭にはまだ背中の破損部分から煙が立ち上る青いマシンが横たわっていた。不意にその輪郭がぼやけると、今までそれがあった痕跡を残さずに消滅する。

 いや、そのマシンのあった中央付近に一人の少年が倒れていた。その少年は少女にとってなじみ深い人物だった。


「お兄ちゃん!」


 地面はまだ熱を持っていたが、気にせずに和美かずみは兄の元に駆け寄る。

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」


 上半身をひざの上に乗せ、抱きかかえるように揺さぶっても目を覚ます気配はない。


「しっかりして、お兄ちゃん!」


 病院はさっきまでの騒動で混乱している。そのお陰でウルフブレイカーが発見されずに済んだのだが、逆に隼人と和美にも注意を払う者がいない。すぐに何らかの処置をしたいのだが、和美一人では隼人を運ぶこともできず、動けない隼人を置いて人を呼びにも行けない。

 と、和美が兄を前に困っていると、ブレーキの音を響かせながら黒いリムジンが病院の中庭に滑り込んできた。その中から一組の男女が飛び出してくる。

 先に飛び出した女性は同性の和美から見ても美人だった。長い髪とスカートをひるがえし、こちらに駆け寄ってくる。そのすぐ後ろに眼鏡をかけた男がノートパソコンを小脇に同じように走ってくる。二人とも腕の中の兄と同じくらいの年に見えた。


「隼人っ!」


大神おおがみ君っ!」


 その二人が兄の名を呼ぶ。


 和美は隼人をゆっくり横たえると、見知らぬ二人の前に立ちはだかり、両手を広げた。幼い顔に厳しいものを浮かべ、鋭く詰問する。


「誰なんですか?

 お兄ちゃんに近づかないで下さい。」



 レッドシグナルが研究所内に響きわたった。

 戦闘中のブレイカーマシンを示すCGの片方が赤く染まった。隼人が通信回線を切っていたために詳しい状況は理解できない。

 しかし、高速機動をかけた後、背部中枢が大破するほどのダメージを受けたのは確かだ。

 それと同時に機体状況を初めとして現在位置を示すシグナルまでも消滅。機能が停止したのか発信装置が破壊されたのか。

 謙治けんじは素早くデータをノートパソコンに移すと、立ち上がった。


「すみません神楽崎かぐらざきさん。急いで車を出してもらえませんか!」


「どうしたの謙治?」


 ディスプレイ上を走る文字類の大半は流し見していたが、内容の見当はついているつもりだった。


「謙治もバロン相手のとき同じくらいダメージ受けなかった? でもその後私を助けてくれたでしょ?」


「違うんです!」


 少年には珍しい強い口調に、麗華れいかの方が一歩引いてしまう。


「詳しいことは移動中にお話しします。急いで下さい。」


 すぐに言葉を切ると階段を上がっていく。麗華も後を追った。あの顔の謙治は嘘も冗談も言わないことを知っていたから。



 場所はかわって麗華の家のリムジンの中。車が走り出すなり謙治が口を開く。


「つまり反応性の問題です。

 僕や神楽崎さんのと違って、接近戦を想定している橘さんや大神君の機体は、その気になれば考えるだけで動かすことができ、一種の遠隔操作もできます。」


「それで?」


「つまり、機体とパイロットの同調率が高いんです。」


 やっと麗華もことの重要さに気付いた。顔がサッと青ざめる。


「僕も神楽崎さんもそこまでの反応性が必要ないので、ダメージもさほど感じないのですが……」


 言いたいことは分かった。


「急いで頂戴。」


 謙治のセリフを手のひらで遮ると、リムジンの運転手に告げる。

 その一言が効いたのか、さしたる時間も経たずに病院にたどり着く。

 そしてそこで二人が見た光景が、倒れている隼人とその側にいたパジャマ姿の少女だった。

 駆け寄ろうとする二人を少女は両手を広げて立ちはだかった。


「誰なんですか?

 お兄ちゃんに近づかないで下さい。」



 そういえば二人ともも和美に会ったことは無かった。麗華は写真で見たことがあったが、あとは隼人や美咲の話の中にチラっと出てくるだけだった。


「あなた…… 大神和美さんね?

 初めまして、私は神楽崎麗華。隣は田島たじま謙治。そこに倒れている隼人の……友人よ。」


 二人の少女の視線が絡まりあう。

 と、ほとんど同時にお互いから険が取れる。


「麗華さんと謙治さんですね。失礼なことを言って申し訳ありませんでした。」


 礼儀正しい口調で頭を下げる和美に、思わず本当の兄妹か疑ってしまうが、角度によって少し青みがかって見える瞳や整った顔立ち、ふと見せる細かい仕種などが二人を兄妹だということを教えてくれる。


「お兄…… いえ、兄の様子が変なんです! 呼んでも目を覚まさなくて……」


「……謙治。」


「はい。」


 呼ばれて謙治が駆け寄ってくる。横たえられてる隼人をざっと調べる。


「……命に別状はないようです。小鳥遊たかなし博士のような専門家じゃないから詳しいことは分かりませんが、いつもの奴です。ただ、症状は芳しくないようですが……」


「つまり、小鳥遊さんに見せないと何とも言えない、ってことね。」


「そうです。」


「ねえ、和美さん。」


 麗華が少しかがんで視線の高さを合わせる。


「いえ、私の方が年下ですから呼び捨てでも構いません。」


「じゃあ…… 和美ちゃん。

 あなたのお兄さんは私たちに任せてもらえないかしら?

 決して悪いようにはしないから。」


 言われて和美は少し考えるそぶりを見せた。無理もあるまい、いきなり目の前に巨大ロボットが現れたり、爆発が起きたり、別のロボットも出てくるは、更にそのロボットのいたところに自分の兄が倒れていて…… なんて非常識が目の前で展開されたのだ。

 しかもその兄は目を覚ます気配すらなく、そこに黒いリムジンで駆けつけた二人が兄の友人だと言う。

 自分だったら信用しないだろう、と麗華は考えていたから、どうやって説得しようか悩んでいた。しかし和美は、


「分かりました。兄をお願いいたします。」


 と簡単に承諾してくれた。


「え……?」


「人を見る目がどうとは思いませんけど…… でもお二人とも悪い方には見えないんです。それに…… 気に障ったらごめんなさい。

 どうしてここに兄がいるって分かったんですか?」


 それはもっともな指摘だった。言葉を返せない麗華に和美は続ける。


「自分で見ても信用できないんですが…… 兄は巨大なロボットのようなものに乗っていたようなんです。」


「そ、そう……」


「もしかして麗華さんと謙治さんも、兄のやっていることに関係があるんじゃないか、って。だから……」


「そうね。」


 ひた、と和美の目を正面から見据える。


「隼人…… いえ、お兄さんはあなたに何も言ってないのね。」


「はい。」


「それなら私たちから何も話すことはできないわ。」


「ええ…… 分かっています。

 ですから兄のこと、お願いします。」


 その言葉に麗華は優しい笑みを浮かべた。


「大丈夫。私たちに任せて。

 ……謙治。隼人を車に乗せるわよ。」


「はい。

 それより……」


 不意に謙治が耳元に口を寄せる。


たちばなさんの反応がロストしたままです。)


「なんですって!」


「どうか……したんですか?」


「いえ……」


 答える麗華の声には力がこもってない。


「麗華さん。顔色悪いですよ。」


「大丈夫……

 謙治、急いで戻るわよ。」


「はい……」


 二人が隼人を車に乗せ、去って行くまで和美はそれを見つめていた。

 夜風の冷たさが季節の変化を知らせる。

 一瞬、身を震わせると少女は病院へと戻っていった。


「お兄ちゃん……」


 小さな呟きは風に流されていった。



「ミサキ、寒くないか?」


「ちょっと…… 寒いかな?」


 漆黒のグリフォンはある程度の高度をとるとそこから水平飛行を始めた。

 その頃にシャドウブレイカーは美咲をグリフォンの背に降ろすと、自らも消失した。黒い衣装をまとったバロンが近づいてくる。


「そうか、すまないな。」


 肩につけていたマントを外すと、それを美咲にかける。


「これで少しはまぎれるだろう。」


「うん……

 ねえ、バロン……くん?」


「おいおい、『バロンくん』は止めてくれ。呼び捨てでいい。」


「でもぉ……」


 美咲必殺(本人は意識してないが)の「子犬の目」攻撃にさすがのバロンも陥落する。


「……分かった。好きに呼べ。

 ん? なんで花なんか持っている?」


 美咲の手にはまだ花束が握られていた。今も持っているところを見ると、夢魔との戦闘のさなかも側に置いてあったようだ。さすがに長時間持ち歩いていたせいか、少ししおれ気味になっている。


「花もらったの初めてだったから、なんか手放せなくて……」


 少しうつむく美咲。わずかに頬が赤く染まって見える。


「そうか…… よし、俺もお前に花をやろう。二番目になって悪いがな。」


「え……?」


 口にした言葉がちょっと照れくさかったのか、あさっての方を向いて、話題をかえる。


「そろそろ空間を越える。クリスタルに意識を集中しろ。」


「空間を…… 越える?」


「ああ…… お前達の世界ともう一つの世界の狭間に俺が今いる城がある。

 とりあえずお前をそこへ連れていく。」


「う、うん……」


 黒いグリフォンが速度を増すと、美咲とバロンを乗せたまま現実世界から消失した。



「事情はだいたい分かりました。」


 隼人を診察した小鳥遊が顔を上げる。あれから長引いた職員会議――どうやらブレイカーマシンと夢魔の戦闘が話題にのぼったらしい――から小鳥遊が帰ってくるのと同時くらいに麗華達も研究所に到着。

 すぐさま隼人を寝かせ、診断すると同時に謙治が状況を説明した。


「ウルフブレイカーよりもフラッシュブレイカーの方が先に消えた、と。しかも安全装置が働いたわけでなく、自分の意志で……」


 ふぅむ、と小鳥遊が難しい顔をする。


「これはもしかすると……」


「もしかすると?」


「ことがことなので、簡単に結論を出したくないのですが……

 謙治君。ちょっとセンサーの反応の一覧を出してくれないか。」


「はい。」


 十数枚のプリントアウトを素早くめくると、コンピュータのキーを続けざまに打つ。


「やっぱりか……

 皆さんに残念な知らせがあります。

 ……美咲さんはバロンに連れ去られたようです。間違いありません。」


「なんですって!」


「簡単に説明します。カイザーに酷似したパターンが検出されてます。当然ながらカイザーではありません。麗華さんが出撃してませんから。」


「それが……!」


「隼人君が戦闘していたのは間違いありません。そうしたら相手は?

 つまりシャドウブレイカーです。

 そしてその後、ウルフブレイカーが被弾。あれだけの被害を受けてなぜその場で消失しなかったか?

 ……正解は美咲さんです。

 美咲さんがいたから、是が非でもウルフブレイカーを消失することができなかった。気を失いつつも戦っていたんです。わずかのチャンスを狙って……」


 小鳥遊が言葉を止めると、地下室は電子音だけが聞こえる沈黙に包まれる。


「おそらく大型の飛行ユニットか何かを召喚したのでしょう。こちらにカイザーがいる以上、向こうにも同じようなものがあってもおかしくありません。」


「それでどうして美咲が連れ去られたと判断したのよ!」


 それまで黙っていた謙治が辛そうに口を開く。


「僕は…… 橘さんが連れ去られた方に賭けます。そうでなければ……」


 ハッ、と麗華が謙治を振り返る。

 連れ去られたとは考えたくなかった。そしてもう一つの最悪の予想は初めから頭になかった。謙治に言われて、そのことを意識してしまう。急に足から力が抜け、麗華はペタンと座り込んだ。


「そ、そんなことあるわけが……

 嫌よ! 私そんなこと信じない! あるわけないじゃない!」


 長い髪を振り乱して身体全体で否定する。


「隼人君の意識さえ戻れば、状況がつかめるかもしれません。待ちましょう。」


(君たちの話を聞いているとバロンという男が紳士的で、信用に値すると思ったのですが…… 言うわけにはいきませんね。)


 小鳥遊は一人呟いた。



「うわぁぁぁ……」


 美咲は感嘆の声をあげていた。

 ある一点を越えた瞬間、スイッチを切り替えたかのように風景が変化した。

 空も大地も分からない広い空間。その中に巨大な城が浮いていた。ルナティックグリフォンがその中庭にゆっくりと降りる。


「どうだ。すごいもんだろう。」


 少し自慢げな顔のバロン。美咲はただただ大口をあけているだけだ。


「ふえぇぇぇ……」


「おいおい。あんまり馬鹿みたいに口を開いていると、虫が入るぞ。」


 呆れたようにバロンが言うと、慌てて口を閉じる。更には口を両手で押さえまでする。


(見てて飽きないな……)


 まるで百面相のようにコロコロ変わる表情。しかもその一つ一つが人を惹きつけるものを持っている。

 鋼のグリフォンが中庭に着地した。足を曲げ、頭を地面につける。


「行くぞ、ミサキ。」


「あ、うん。」


 背を渡って、頭の上を通り、くちばしから二人とも飛び降りる。ふと、全身を見ようと思った美咲が、振り向いて不思議そうに首を傾げた。


「どうした?」


「ねえ…… この子、もしかして女の子?」


「この子って、このルナティックグリフォンのことか?」


「うん、だってなんか優しい目してる……

 ボクは女の子だと思うな。」


「考えたこともなかった……」


 バロンは自分たちを見下ろしている顔を見上げた。バロンの視線に気付いてグリフォンが小さく首を傾ける。


「……ミサキの言う通りなのか?」


 クェー、と小さく鳴く声が聞こえる。


「ほらぁ!」


「そんなことで喜ぶな。行くぞ。」


 呆れたように美咲に背を向ける。スタスタと歩き去るバロンを慌てて美咲が追った。コンパスの違いと、少し急ぎ足のせいか、美咲は半ば駆け足になってしまう。

 颯爽と歩くバロンの周りに槍を構えた兵士達が駆け寄ってくる。彼らはバロンの進む道の両側に並び、直立不動の体勢で待つ。

 その間をつまらなそうに歩くバロンと、物珍しそうにキョロキョロ見回す美咲。

 その列を抜けた先には一人の中年の男が立っていた。周りの兵士と同じような服装をしているが、幾つかの装飾がついているところを見ると兵士の中では位の高い方なのだろう。


「ご苦労様でした、バロン様。」


 言葉は丁寧だが、口調には侮蔑のような響きが混じっている。察するところ、バロンのことを若造と舐めている様子だ。

 バロンはフン、と小さく鼻を鳴らすと見えなかったようにその横を通り過ぎようとする。美咲もすぐ後を追うが、その時その中年兵士が小さく手をあげた。

 周りの兵士達が一斉に美咲を取り囲んだ。槍の穂先が少女に向けられる。


「うわ!」


「貴公…… なんのつもりだ。」


「いえいえ、別に。」


 バロンの静かな怒りを気にした様子もなく受け止める。


「ただ、不審者がいたので捕らえたまでです。それに何か不都合が?」


「ああ。そいつは俺の客人だ。」


「左様ですか。

 よし、お前ら。その者を念入りに調べろ。バロン様の客人とはいえ、危険物を持っているかもしれんからな。そうだ、私が直々に調べるとしよう。」


 何か含むような物言いに、バロンの表情が険しくなった。冷たい殺気が放たれる。


「ほぉ……」


「な、なにか……?」


 これだけで声を震わせてしまうのが、この中年男の限界だろう。しかしバロンは容赦する気は無かった。


「貴公の今の発言は彼女に対する最大の侮辱と判断する。」


 死刑通告をすると、白刃が抜かれた。


「ダメェッ!」


 バロンが殺気を放った瞬間から美咲は動いていた。取り囲んでいる兵士の一人から槍を奪うと、一瞬で包囲を抜け出し、バロンと中年兵士の間に割って入った。


 ギンッ! と甲高い金属音が鳴り響く。バロンが殺す気で放った一撃を何とか受け止めることができた。


「……お人好しめ。」


 呆れたように呟くと剣をおさめる。美咲も身体の力を抜いて、槍から手を離した。ゴトン、と結構な重さが落下した音がする。


「ミサキに感謝するんだな……

 お前達にも言っておく! ミサキは俺の大事な客人だ。こいつに対する狼藉ろうぜきは俺に向けられたものと同じとする! 分かったな!」


 腰を抜かしてガタガタ震えている中年兵士と他の兵士にそう宣言すると、身をひるがえして歩いていく。が、美咲の足音がついてこない。


「ミサキ……?」


 振り返ると少女は地面に膝をついて、何かを拾い集めているようだった。

 さっきの一幕のときに花束から手を離してしまったらしい。その後の慌ただしさの中で、花は見る影もなく踏みつけにされていた。

 その横顔は今にも泣き出しそうなに見えた。バロンの胸の奥に鈍い痛みが走る。


「……爺!」


「は、こちらに……」


 バロンの声に一人の老人が姿を現す。


「ミサキのことを頼む。俺は着替えてから行く。」


「は、かしこまりました。」


 バロンが立ち去ると、老人は肩を落としいる美咲に近づく。


「お嬢さん、せっかくの愛らしい顔が台無しですぞ。」


「え……?」


「のお、可愛らしいお嬢さん。よろしければこの爺に名前を聞かせてもらえんかな?」


 好々こうこうやの笑みを浮かべて話しかける。


「ボク…… 橘美咲。美咲でいいよ。」


「ミサキ殿ですか。素敵なお名前ですな。

 さて……」


 老人は懐から布を取り出すと、散ってしまった花を一つ一つ拾い布の上にのせていく。


「この花は土に返すといたしましょう。花は散って養分となり、新しい命のいしずえとなるのです。悲しむことではありません。」


「う、うん……」


「ほれ、先ほども申したとおり愛らしい顔が台無しですぞ。この爺に免じて笑ってはいただけませんかな?」


「お爺ちゃん…… ありがとう。」


 美咲の顔に笑みが戻った。その子供のような笑顔に老人は好感をおぼえていた。


「さ、参りましょうか。美味しい茶と菓子を御馳走いたしましょう。」



「大神君がいません!」


「やるとは思ったけど…… こんなに早いとは思わなかったわ。」


 血相を変える謙治とは対照的に、冷静な上に少し呆れ顔で麗華がコーヒーカップをソーサーに戻し立ち上がった。


「はい?」


「まあいいわ。謙治、何かいい手はある?」


「いい手、と言いますと?」


「叩くわよ…… 美咲を捜す方法に決まってるでしょ?」


「あ、そうでした。」


 言われて思い出したようにノートパソコンをテーブルに置き、起動する。画面の半分に修理中のウルフブレイカー。残り半分に地図が映し出された。地図上に青い霧状のものが移動していた。


「ウルフブレイカーはただいま修理中です。大神君は消耗しているせいか、なんとかドリームティアの痕跡を追うことができます。」


「少しは頭を使いなさい、まったく……」


 ただウロウロと動き回る隼人に麗華はため息をついた。

 いきなり霧が濃くなる。


「無理ですよ大神君! ウルフブレイカーはロックしているのに。」


 地下のリアライザーとリンクしているノートパソコンに新しいウィンドウが開き、文字が流れ出す。

 最後に「realise!」と文字が点滅すると、周囲の空気が変わった。


「え?」


 麗華が小さく声を漏らすと、現実世界でのリアライズの時に生じる精神エネルギーの揺らぎが二人を襲った。

 不意打ちのショックでよろめくが、先に回復した麗華がノートパソコンをのぞきこんだ。


「違う! コメットフライヤーよ。何考えてるのよ一体……」



 夜風は冷たかった。昼間はまだ暑く感じるが、日が落ちると一気に気温が低下する。しかも高度もあり、飛行物体の上で生身をさらしているのはとても辛かった。

 更に身体の痛みも抜けず、体力もボロボロ。精神力で保っていると言いたいが、その精神力も風前の灯火の感。

 それでも隼人はコメットフライヤーの上で五感を研ぎ澄ませていた。わずかに感じていた気配だけで飛び去っていった方向を推測し、病院から追跡していく。

 味覚や嗅覚はともかく、見える物、聞こえる物、肌に感じる物全てに意識を集中した。 何も触れる物がない。

 美咲を感じることができない。


「くそ……」


 どうして自分が傷ついた身体をおしてまでこんなところにいるのか良く分からなかった。


「違う! 俺は俺の責任を果たしているだけだ。俺の油断とミスのせいで橘が連れ去られたんだ。だから俺が……!

 ……?」


 不意に無視していた感覚の一つに感じるものがあった。


「花の香り…… なんでこんなところに……

 これはパンジーだ! 橘!」


 コメットフライヤーの速度を落とすとわずかな残り香をゆっくりたどる。そしてそれがいきなり途切れた。

 隼人の顔に野獣の笑みが浮かんだ。何か目に見えない境界がある。


「行けぇぇぇぇぇぇっ!」


 ドリームティアに光がともる。次の瞬間、コメットフライヤーと隼人が現実世界から消失した。



「待たせたな。」


 部屋着に着替えてきたバロンがこざっぱりとしたテラスに姿を見せた。


「ううん、お爺ちゃんとお話ししてたから退屈しなかったよ。」


「そうか…… すまないな、爺。」


「いえいえ、儂も楽しかったですからな。」


 陶製のティーポットを手に、老人が微笑む。それからバロンのために椅子を引くと、彼の目の前のカップにポットの中の液体を注ぐ。爽やかなハーブの香りがあたりに広がった。


「ねぇ、バロンくん……」


 その中で少し遠慮がちに美咲が口を開いた。


「なんで…… なんで君たちはボクたちの世界にやってくるの? どうして?」


 そんな簡潔、しかも鋭い質問に夢魔むま側の二人が黙り込んでしまう。しばしの間、誤魔化すための言葉を選んでいたのだろうが、真っ直ぐ見つめてくる美咲の瞳からが逃れられない。逆にその目に引き込まれそうになって、バロンはついと視線を逸らした。


「実は…… 俺にもよく分からん。」


「え……?」


「上からの命令でお前達の世界に攻め入ることになった。しかしその理由までは知らん。

 だから俺はあんまり気乗りではなかったのだが…… お前達のお陰で随分楽しい思いをさせてもらっている。」


「は? 若、今なんと……?」


「おお、そうだ。

 爺にはまだ言ってなかったな。」


 ニヤリとバロンが笑うと、美咲に仕種だけで耳をふさぐように指示する。少し思わせぶりな態度を見せると、おもむろに口を開いた。


「実はな、このミサキはな…… フラッシュブレイカーのパイロットなんだ。」


「な、なんですとぉ~っ!」


 老人の声が静かな空気を斬り裂いた。

 はぐらかされたことに美咲は気付いていない。

 そしてもう一人の闖入者ちんにゅうしゃが静けさを破るのはこのすぐ後だった。



「よいですか若。少し若には思慮というものが欠けております。これではいつまでたっても儂は楽になりませんぞ……」


 くどくどと説教が続く。早々に耳に指を入れていた美咲とバロンが顔を寄せてヒソヒソ話し合う。


(なんかすごいね。)


(ああ、一日一回はこれだからな。全く身がもたないぜ。)


(ふ~ん。)


(ま、でもこれを聞かないと何となく物足りなくてな。)


(ふふっ、変なの。)


「若! 聞いておりますか!」


「いいや、聞いてない。俺はミサキと話している方が楽しい。」


「わかぁぁぁぁぁぁっ!」


「待って!」


 いきなり美咲が声をあげた。


「バロンくん! 何か来る!」


 美咲が外を向くと、空の一角に青白い光が見えた。それと同時に美咲とバロンのドリームティアが光を放った。

 空に見えた光は徐々に強くなると、内側からはじけるように広がった。

 中から何かが現れる。白い翼、そしてスターブレイカーの巨体ですら支えることのできる一対のローター。


「コメットフライヤー? なんで?」


「ハヤト……」


「え?」


 バロンの視線の先にコメットフライヤーに乗った隼人がいる。二人の視線が空中で交差した。お互いの顔に含みのある笑みが浮かぶ。


「迷子を迎えに来たぜ。」


「ここは迷子センターじゃないんだがな。」


 コメットフライヤーを寄せて隼人がテラスに飛び降りてくる。次の瞬間、白い翼はその姿を消した。


「ハヤト、面白いことを教えてやろう。」


「面白いこと?」


「ああ…… とにかく座れ。」


「断る。俺は橘を連れて帰るだけだ。」


「どうやって?」


 バロンがニヤリと笑う。


「そりゃあ……」


 何か引っかかることを感じて、意識を集中する。ドリームティアからの反応が鈍い。無言で美咲に目を向けてもキョトンとした顔をするだけだ。


「まさか……」


「そうだ。ここではお前らのマシンをぶことはできない。さて、どうする?」


 そこまで言われて初めて気付いた美咲も意識を集中する。返事は困ったような情けない表情だった。隼人だけなら消耗しているとも考えられるが、美咲までリアライズできないとなると二人揃ってちょっと格闘技が得意な高校生以上の何者でもない。


「くっ……」


 万策尽きたのか、隼人がその場にへたりこむ。さすがに立っているのも辛い。


「分かった。俺はどうなってもいいから、橘だけは帰してくれ。」


「……合格だ。」


「は?」


 バロンはクルリと振り返るとテラスを出ていこうとする。


「もしミサキを見捨てるような発言をしたなら貴様を軽蔑するところだった。

 忘れているかもしれないが、お前達の世界ではもう真夜中に近い。

 部屋を用意させる。休むといい。」


 ドアのノブに手をかけた。顔だけ二人の方に向ける。


「悪いが別々の部屋にさせてもらうぞ。」


「当たり前だろ!」


「……どうしたの隼人くん?」


「いや、いい……

 悪いな橘。助けに来たつもりがこっちまでこんなことになってしまって……」


「ううん…… そんなことないよ。」


「そうか……」


 ポンポンと美咲の頭に手をのせると疲れたように肩を落とす。


「ジタバタしても仕方がない。俺は休ませてもらう。お前も休んだ方がいいぞ。」


 こうして夜は更けていく……



 結局、次の日は美咲も隼人も学校には来なかった。休み時間ごとに美咲の教室に行ってみるが、奇異の目で見られただけだった。

 そして放課後。


「大変です。夢魔が出現しました。」


「…………」


 小鳥遊のいる保健室に行くといきなりそう告げられた。さすがに返す言葉も無い。


「どうかしましたか、麗華さん。」


「美咲と隼人は戻ってきてないのね。」


「……そうです。ですから謙治君と二人で少なくとも夢魔の接近を防いで下さい。」


 小鳥遊の言葉に違和感のある単語を聞いたような気がして聞き返す。


「接近を防ぐ?」


「ええ、今回の夢魔は海から来ました。これの上陸を防ぐのが第一目的。たとえ夢魔を倒したとしても上陸させてしまえば被害は甚大なものとなります。」


「更に問題があります。」


 部屋の隅で黙々とコンピュータの操作をしていたので目立たなかったのだが、謙治がそう言って振り返った。


「軍隊が出動しています。おそらく我々の行動の邪魔になるかと……」


「でも…… やるしかないわね。

 行きましょ、謙治。」


「はい。」



 深海から来た夢魔は首の無い茶色い巨人の姿をしていた。ゆっくりとした足取りで陸を目指している。その夢魔の周りを艦船とヘリが包囲していて、更に上陸するだろうと思われる海岸には戦車部隊が展開していた。


「面倒ね……」


「そうですね。」


 今まではあまり周囲に気を使わないでも戦えたが、今回は勝手が違う。下手に動けば軍隊をも敵に回す可能性もある。

 麗華は少し悩むように眉を寄せるが、開き直ったのか髪をかき上げ、頭を振った。


「考えても無駄。やれることをやりましょう。まずは小鳥遊さんも言った通り、夢魔の上陸の阻止。そして時間稼ぎ。」


「時間稼ぎ?」


「多分、私たちだけじゃあの夢魔は倒せないと思う。でも美咲達が帰ってきたらナイトブレイカーに合体できるわ。」


 相手はそれこそナイトブレイカーよりも巨大な夢魔だ。二機で倒せるとはとても思えない。


「そうですね…… 参りますか。」


 周囲に人がいないのを確認すると、ドリームティアを構えた。


『ブレイカーマシン、リアライズ!』



 昨日と同じテラスで、隼人はイライラを隠さずに、美咲は気にした様子もなく、ティーカップを傾けていた。


「橘……」


「うん?」


「俺達いつまでこうしてればいいんだ?」


「う~ん…… ボクは夢魔が出たら、だと思うな。」


「あ?」


「多分バロンくん、今回はボクたちと戦う気は無いと思う。」


「なるほどな……」


 美咲の言わんとしていることはだいたい理解できた。下手に夢魔が出て、麗華と謙治が倒されたらバロンとしては面白くないはずだ。それ以前に長く閉じ込めておく気も無いだろう。何かきっかけがあるとすれば夢魔の出現に他ならない。

 フラッシュブレイカーのパイロットが美咲だと知ったショックからまだ回復していないという理由もあるのだが、そこまでは気付かないだろう。


「さすが…… と言うべきかな?」


 バロンが軽甲冑にマント姿でテラスに入ってくる。戦いのときの衣装だ。


「ミサキの予想通り、獣魔じゅうま……お前達は夢魔と呼んでいるのか。とにかくその夢魔が現れた。レイカとケンジが出撃したようだ。」


 それだけ言うと外に向かって歩いて行く。中庭が見下ろしてから、空に指を向けた。


「ルナティック・グリフォン!」


 バロンに喚ばれて影の色の幻獣が空の彼方から飛んできた。中庭に静かに着地するとテラスの高さに頭を下げる。


「今回は見物させてもらおう。」


「……仕方がない。行くか、橘。」


「うん?」


 言われるよりも先に美咲がグリフォンの頭を伝って背中に乗っていた。呆れたように顔に手をあてると、隼人はため息をついた。


「世話になったな。」


 皮肉をタップリ交えて美咲の後を追う。


「じゃあねぇ~ バロンくん。」


「そうだ、ミサキ。これをやろう。」


 去り際にバロンが腕を振った。白い紙の筒のようなものが美咲めがけて投げられた。グリフォンの上の二人が反応する前にバロンは鋭く叫んだ。


「行けっ!」


 ルナティックグリフォンは一声なくと、漆黒の翼を広げ空に舞い上がる。

 そして空間を越え、その姿が消えた。



「橘、何をもらった?」


「……花だ。赤い花。」


 一輪の花を紙状のもので包んだ物だ。


「バラみたいだが…… 見たことない花だな。なんだろう?」


(でも、もし赤いバラだとしたら…… その意味は確か……)


「あ、麗華ちゃんと謙治くんが見えた!」


 美咲の声に思考を中断させられる。その指さす方を見ると、水際で戦う二機のブレイカーマシンの姿が見えた。


「よし、行くぞ!」


「うん!」


『ブレイカーマシン、リアライズ!』



「邪魔よ!」


 周囲のヘリや戦闘機が時折射線を遮られるので、思い切った攻撃ができない。細い熱線が発射されるヒートパルサーが何とか使えるだけで、フルブラストを周囲を巻き込まないで使うのは至難のわざだ。


「参った……」


 ブラスターライフルによる精密射撃を繰り返すが、ストッピングパワーに欠けるために夢魔の足を止めることができない。

 普段なら肩のサンダーキャノンに全身のミサイルを併用すれば巨大な夢魔とはいえ、その歩みを遅らせることができるのにも関わらず、航空機への影響を考えて精密射撃に徹している。

 当然ながら二機の必殺技も封じられたも同然だ。


「どうにかならないの謙治! このままじゃ夢魔が上陸しちゃうわよ。」


「さっきから軍の無線に割り込んで警告しているのですが…… 全く聞いてもらえません。しかもこちらの所属がどうとかとか、指示に従えとか、勝手言ってきましたので切りました。」


 緊迫した戦闘状態にも関わらず、返ってきた麗華の声には笑いが混じっていた。


「上等よ。そんな石頭、無視するに限るわ。

 でも謙治…… どうにかならないの?」


「……来ました!」


「え? どうしたの?」


「神楽崎さん! レーダーを!」


 麗華が言われたとおりレーダーに目を落とすと、範囲ギリギリのところに光点が見えた。


「これ何!」


「反応はスターローダーに類似していますが、大型の飛行物体のようです。

 ……待って下さい。リアライズ反応! ブレイカーマシンです! 反応は二つ!」


「来るのが遅いわよ、二人とも……」


 一瞬顔を伏せ、何かを堪えるように肩を振るわせたが、麗華はキッと夢魔を睨み付けた。


「美咲! 謙治! 隼人! 一気に勝負をつけるわよ!」



「ドリーム・フォーメーション!」


 バスタータンクが夢魔の足下をすり抜け、フェニックスブレイカーが上を駆け抜ける。

 四機が集結すると、それぞれが光に包まれた。各機が変形し、合体しようと近づく。

 と、そのとき巨大な夢魔が初めて歩く以外の行動を起こした。合体に要する時間が短いとはいえ、合体中は無防備である。

 夢魔は両手を組み合わせると、その先に光がともる。そして光をブレイカーマシンに向ける。


「ルナ! お願い!」


 美咲の呼びかけにルナティックグリフォンが動いた。くちばしを開くと眩い光を放つ。その光の直撃を受けた夢魔はぐらりと、そしてゆっくりと倒れた。倒れた運動エネルギーが津波にも似た高波を起こす。


「夢幻合体! ナイトブレイカーッ!」


 その間に合体を済ませ、夢魔と対峙する。漆黒のグリフォンは挨拶代わりに輪を描くと、空の彼方へと飛び去っていった。

 夢魔が倒れたときよりも更にゆっくり立ち上がる。そしてさっきと同じように手を組み合わせるとそこから光線を放ってきた。


「避けろ、橘!」


「サークル・ディフェンダーッ!」


 突き出した手の先に円形の障壁が生じる。光線は全てその表面で受け止められた。その莫大な光圧がナイトブレイカーを足止めする。


「何やってる橘!」


「違うの! 後ろにも船がいるの!」


「橘さんの言う通りです。民間船が遥か後方にいます。避けるわけにはいきません。」


「でもどうするの? このまま耐えるだけじゃやってられないわよ。」


 う~ん、と美咲が考えている間に軍の航空機や船が離れていく。さすがにこの巨大な二体の戦いには近づきたくないのだろう。


「……よし。」


 いきなり美咲はナイトブレイカーを跳躍させた。それに合わせて夢魔の光線も上に向く。それをディフェンダーで受けながら、背中のバーニアも駆使して夢魔よりも高く上昇する。


「ディフェンダー・ブローッ!」


 拳を叩きつけられた障壁が夢魔の光線を払いのけながら夢魔に激突する。一瞬グラリと傾くが、こらえて光線を出し続ける。

 ディフェンダーを打ち出したナイトブレイカーはまだ空中だ。そこへ光条が伸びる。


「悪しき夢を立つ刃……」


 胸の前で両手を打ち鳴らす。手の間から光が溢れる。


「夢幻剣、リアライズ!」


 光は一本の大剣になった。バーニアを切ると重力に従ってナイトブレイカーが落下し始める。

 夢幻剣を振り下ろす。剣は光をはじきながら、そしてその夢魔を頭から(実際は頭はないのだが)唐竹割りにする。

 夢魔の足の間をスライディングで抜けると、夢幻剣を横に構えた。


「もう目覚めの時間だよ……」


 刃に光が炎のように揺らめいた。


「ドリーム・レボリューション・ブレイクッ!」


 夢幻剣を真横に振った。込められた光が刃となって夢魔を一文字に斬り裂いた。

 一度目の斬撃ですでに動きを止めていた夢魔は二度目で完全に消滅した。


「無茶するわねぇ……」


 麗華が感心したような、呆れたような声を出す。謙治も隼人も何も言わないが、同じ気持ちだろう。


「まぁいいわ。帰りましょ。」


「いえ…… そのそれが……」


 謙治が困ったように周囲を見渡す。いつの間にかに艦船や航空機がナイトブレイカーを包囲していた。


「美咲、分離して。バラバラに逃げるしかないわね、これは。」


「面倒くさいな……」


「僕の機体は足が遅いのですが……」


「文句言わない。やって、美咲。」


「うん。フォーメーション・アウト!」


 美咲の声でナイトブレイカーが分離し、そのまま四方へと散った。

 懸命の捜索にも関わらず夢魔もブレイカーマシンも発見されることはなかった。



「悪いことしたかしら?」


「何が?」


 分離してすぐウィングブレイカーに合体し直した美咲と麗華はアッサリと戻って来られた。高速移動が可能な隼人はともかく、謙治は追っ手を振りきるのに結構な手間だろう。


「ううん、なんでもない。」


「ふ~ん。」


「あ、そういえばそれは?」


 麗華が気がついて美咲の手にした物を指さす。白い紙で包まれたもの。


「あ、お花。もらったの。」


「そう…… でも何の花かしら?」


「何だろうね?」


 と、二人が見ている前で花がその包んでいる紙ごと霞のように消失した。


「消えちゃったね……」


「ねえ、美咲。この花、誰にもらったの?」


「あ、バロンくんにもらったの……

 そうか! 違う世界のものだから消えちゃったんだ。せっかくもらったのに……」


 それを聞いて麗華が眉をひそめる。

 少し考える素振りを見せたが、心底残念そうな美咲を見て肩をすくめる。


「まあいいわ。研究所に戻ったら昨晩から今日までのこと教えてちょうだい。」


「うん、いいよ。」


 こうして二人が戻ってすぐに隼人が、そして海中を逃げ回って更にコメットフライヤーまで駆使した謙治が帰ってきたのは夜もだいぶ更けた頃であった。



「若はミサキ様のことをたいそうお気に入りのようで……」


「敵としても一人の人間としてもあれだけの奴はそうそういないからな。」


「それだけですかな?」


 その問いにバロンはニヤリと笑みを笑みを浮かべるだけだった。   




次回予告


謙治「新聞局の高橋さんの情報収集力は大したものです。いつの間にかにブレイカーマシン全機の写真を撮っていたようです。

 僕たちもうかうかしていると正体を暴かれてしまうかもしれません。

 なんて言っているうちに夢魔が現れました。

 行きます! ブレイカーマシン、リアライズ!

 ……ええっ! なんでバスタータンクをリアライズできなんですか!?

 もしかして、僕の恐れていたことが……


 夢の勇者ナイトブレイカー第十九話

『盗まれたバスタータンク』


 子供の頃の夢、憶えてますか?」

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