三十路女王×年下国王
陛下が正妃を娶るかもしれない。
その知らせに、私は
「よっしゃぁぁぁあっ!」
と、ガッツポーズし、天に感謝した。
私は、とある弱小国の女王をしている。
炎水界でも、弱小国過ぎて逆の意味で有名な国のだ。
ただ、女王は炎水界ではそれほど多くは無いのでそこでも有名だった。
といっても、私はそもそも、女王をする予定では無かった。
元々は一部族の次期長だった私は、政略結婚でその国の王と結婚した。それは、やはり力の無い部族を守って貰うという打算からなるものだった。
それでも、最初は仲良くやっていたのだ。
夫は誠実で優しかったし、良い王だったと思う。
子どもにはなかなか恵まれなかったけれど、夫は優しく慰めてくれた。その強い神力が以外は、平凡な顔立ちの素朴な青年だった。
しかし、ある女性の出現で全ては変わってしまった。
簡単に言うと、夫は逃げたのだ。
心から愛する女性と共に。
おかげで、私は『捨てられた王妃』。
けれど夫は同時に『王』という立場も捨ててしまった為、そこが空位となってしまった。私が変わろうにも、国を支えるだけの力は無い。
どうするかと困り果てている所に、手を差し伸べてくれたのが彼だった。
彼--少し前までは『彼女』、いや、その性別を超越した傾国の美姫とも謳われた美貌ゆえに、そこの馬鹿王の正妃として囲われていた彼は、共に囲われていた寵姫達と共にある日、反乱を起こした。
それは、私の国の王が愛する女性と逃げた二日後の事だった。あっという間に王と上層部を捕らえた彼等は、見事な手腕でもって国を掌握してしまった。
それこそ、たった三日で。
あっと言う間に、全てをひっくり返された国は、普通なら混乱する。たとえ、炎水家の後見があったとしても。
けれど、新しく王となった『元正妃』たる青年は、まるで今までが嘘のような賢王っぷりを披露し、共に囚われていた寵姫達は新たな上層部となった。
凄い事だった。
その手腕に、近隣の諸国は感嘆の溜息すらもらしたと言う。
ただ、隣国で一番その影響を間近で見ている筈の我が国は、実際にはそれどころでは無かった。
王の支えが無くなった我が国。
上層部が残ってはいたが、それでももう間もなく力が尽きる。
そもそも、うちの国の上層部はそれ程力が強いわけでもない。だから、弱小国を任されていたのである。
どうしたら、国が崩壊しないで済むか--それだけしか頭に無かった。
一度、炎水家様に国自体を返上するべきか……いや、するべきだろう。
その旨を認めた書類を手に、いざゆかん--という時だった。
「力を貸してもいいですけど」
幸いな事--いや、幸いかは分からないが、政権をひっくり返し新たな王となった隣国国王の彼、そして上層部の皆様にとって、彼等の統治する国は彼等の力からすると小さなものだったらしい。といっても、中規模国家の中でも上位グループに位置する国だ。
しかし、実際には余裕がある。
それこそ、私の国を支えるぐらいには余裕があったという事で、一応送った書類に対して炎水家からは「双方で事がすむならすませろ」という返答が来た。
確かに、炎水家様の手を煩わせるわけには行かない。
そして遠い遠方の国ならまだしも、隣国という事で、比較的支えるにもやりやすいかの国に、我が国は助けを求めた。
もう、時間が無かったから。
ただ、物事にはルールがある。
何かをするには、見返りというものが必要となる。
しかし、うちの国がかの国に勝る物は何一つ無い。
それこそ、我が国がかの国の属国となるぐらいだろう。
それは仕方の無い事と、最後の調整に出向いた私に、かの国王となった麗しき女神は言ったのだ。
「俺のものになりなさい」
最初はその言葉を理解出来なかった。
けれど、時間をかけてその言葉を咀嚼するうちに、私は「あ~、はいはい」と納得した。
相手の援助を求める為に、身を投げ出す王というのが神々の歴史の中で居ないわけが無かった。特に弱小国であれば、王や女王だって自分の身体を取引の材料に使う。
そもそも、部族の長として、私の国の王に私が嫁いだ時点で、そういう事を私はしているのだ。
それに、「そんな事出来ないっ」と言うには、私は悪い意味でも大神だった。とっくに生娘でも無いし。
そんなわけで、三十代前半に到達する私は、若い二十歳にようやく届くかの隣国国王の寝所に侍る事となった。
国の平穏の為に。
にしても、隣国の王も物好きな事である。
こんな年増でなくても、もっと若い女性は沢山居ると言うのに。
いや、遊びと分かっていて自国の民を差し出す事はしたくないので、そこはこちらが隣国の王にお礼を言うべきか。
ただ、おばさんは言いたい。
激しすぎ。
あれだ、なんだ、若さか、あと凄く上手いんですけど。
まあ、隣国の国王は、元寵姫達である上層部の皆様と共に、その美貌から多くの者達に略奪され、囲われてきたと聞く。権力者達に奪い合われてきた彼等は、夜の方もそれはそれは素晴らしい経験者だとか。
うん、関係は良好だったけど、お義理でそういう事をしていた私と元夫とはきっと比べものにならないだろう。
それは分かる、理解出来た。
だから、こっちの事も少しは理解して欲しい。
確か諜報関係でも能力の高い隣国。こっちの伽事情とかも色々と調査して、「陛下、経験の少ない方、あと年齢の上の方にそれはあまりにも激しいというか」とか諫言を呈して欲しい。
あと、最初は隣国の王宮内に部屋を与えられそうになったけれど、それは断固拒否した。というか、そこ『後宮』だし。
一応、私の国の代表--女王として私が一応就任したので、女王が国に居ないとと断った。
そこは炎水家からも認められたので何とかなった。
ただ、炎水家に泣きつく前は
「そんな時間がかかる事、面倒です」
と、言い放った隣国の王に私は何とも言えない物を感じた。
いやいや、そこは折れてくれ。
国を統治する者同士、優先すべきは国、民だろう。
まあ、国を支えて貰うのに、ほぼ正式に属国となった我が国なので、その関係で女王が隣国に滞在しているとすれば民達も納得するだろう。
しかし、私が国の為に王の寝所に侍っていると言うのは、周辺国では公然の秘密となっている。
身体で、麗しき王に取り入る娼婦--そう侮蔑する者達も居るというが、それはある意味事実なので反論はしまい。
むしろ、私ごときの身体で国が助かるなら安いものだ。
とはいえ、若い男の子とそういう事をするのは、大変だ。とても疲れる。
そろそろ、この役目を引退したいな~~と思い始めて二十年。
そんな時に、隣国の王が正妃を娶るかもしれないという話を聞けば、私が狂喜乱舞するのも当然だろう。
これで、これでゆっくり休めるっ!
私は天に感謝した。
「女王」
王が逃げた後、宰相として引き続き私を支えてくれる素朴な顔立ちの青年が私を呼ぶ。弱小国家だからか分からないが、この国の上層部は素朴で地味な顔立ちの者達が多い。
能力的にも、神力が強く、その扱いが上手い以外には、平均的らしい。
とはいえ、神口が一万にも満たない国家は炎水界でも端っこに位置し、権力争いやら覇権争いやらというドンパチドロドロ合戦から程遠い所に居る。
それに、周辺国もわざわざうちの国に攻め込んでまで領地を獲得する程の利益は無いと見なしているらしく、面倒な言いがかりをつけてくる事も無い。
まあ、隣国--今はうちを助けてくれているかの国を前王が治めていた時には、色々と面倒事ばかり押しつけられてきたが。
何でかうちを敵視していたんだよな、あの前王と上層部。
能力値が高いと言うだけで王と上層部に選ばれた彼等は、救いようのない愚かさと国を統治する高い能力を持つというアンバランスな者達だった。
国を統治する事が上手いが、ロクデモナシばかりだったせいで、国民を生かさず殺さず搾取の限りを尽くしていたという。
あと、国が後見しての、奴隷商神達の保護、そして奴隷市場の開催。
現在は国王である元正妃、そして上層部である元寵姫達もその奴隷市場の犠牲者だったと言う。気に入った者が居れば、相手が結婚してしようが関係無く連れ攫う。
現国王になり、奴隷売買の犠牲になった者達、王や上層部の欲望の犠牲になった者達は保護され、治療の元にそれぞれを待つ者達の下に帰されたと言う。
そして帰る場所の無い者達は、今も王宮に留まり、官僚として育てられているとか。
んで、うちの国。
うちの国の王は、前国王の統治時代の隣国の王と上層部の所行に気付いていたという。前国王達はずる賢く巧妙に振る舞っていた。非道な事ばかりしていても、それを表には全く出さなかった。そしてバレそうになると、周辺国に災いをまき散らし、戦乱を起こしてはその目をそらしていた。
そんな中、うちの国王は密かに炎水家に連絡を取っていたらしい。
で、炎水家の息のかかった諜報機関が介入し、彼等が接触したのが当時正妃として囲われていた現国王だったという。
前国王と上層部を排除する。
けれど、その後はどうするか。
後任が決まらなければ、うちの国のように隣国もなっただろう。
そこで、彼等が目を付けたのが当時正妃だった現国王と、寵姫だった現上層部達だ。彼等は強い神力を持っていたけれど、それらを封じ込められていたと言う。何重にもかけられた封印のせいで、力無き存在へと貶められていた彼等の封印を密かに解き放つ代償として、彼等に王位と上層部を継ぐ事をもちかけた。
とんだ脅迫だと思うけれど、彼等はそれを受け入れた。
そして、炎水家と影でやりとりをして、彼等は謀反を起こしたのだ。
いわゆる、三日謀反。
三日で国全土を制圧し、王の譲位を成し遂げてしまった。
元々、彼等自身能力が非常に高かったというのも、それを成し遂げられた要因の一つだろう。神力だけではない。
全ての能力が高いのだ。
なのに何で捕まったのかと聞きたいが、何でも隣国の王は神質をとられていたという。現在の巫女姫様である。彼女は国でも最高位の神殿長となった元寵姫の婚約者で、隣国の王とは兄妹だと言う。
で、隣国の王はとってもシスコンだ。
何かにつけて妹、妹、妹。
とりあえず、正妃となる女性は彼のシスコンっぷりを広い心で享受してくれる相手だと良いが。
--と、そんな風に隣国の謀反成功の経緯と現国王達の成り立ちを、私は隣国国王の寝所に侍るようになってから教えられた。
んで、隣国にとても迷惑をかけている事に恐縮した私に、彼等は言うのだ。
「貴方の国のおかげで、我が国は生きながらえた」
当時、炎水家自体が色々と厄介な案件でドタバタしている中、うちの国の元国王--元夫のおかげで隣国が完全に倒れる前に介入出来た事は、大きな僥倖だったそうだ。あと、そのおかげでそれ以上隣国で売買される奴隷達は居なくなり、また奴隷に落とされる者達は居なくなった。攫われた者達も助け出された。
もちろん、奴隷にされ、攫われていた間に地獄を見せられた者達は多々居るが、それでもそれ以上の被害は防げたのは、元夫が炎水家に申し出てくれたから。
だから、隣国は元夫の駆け落ちを黙認し、うちの国を助けてくれるのだと言う。
ただ、いくら恩があっても王への負担は大きく、その見返りとして、やっぱり私が王の相手をする事は代わりなかったけど。
まあ、普通は王が全てを捨てて逃げれば命すら危ういだろう。そうならなかっただけでも、元夫は幸せなのかも知れない。神徳という奴か。
それに私も彼を恨んではいない。
ずっと、彼は自分を押し殺して頑張ってきた事を知っているから。
そんな彼にとって、最初で最後の恋。
たとえお神好しと言われようとも、私は既に元夫を許していた。
ま、元夫が逃げたおかげで、私はたとえ見返りとはいえ、本来であれば近づく事すら敵わない美しい佳神に触れる事が許されたわけだし。
そういう行為は好きでは無いけれど、必要とあらば行う。
年のせいと言うよりは、もはや私の性格だろう。
なんというか、健気でいじらしく慎ましい乙女な若い少女達を見ていると、自分の老成っぷりに涙が出てくる。
いや、老成とは違うか。
なんというか、どうせなら楽しまなきゃ損だ--という感じである。
とはいえ、相手があまりにも--なのはちょっとおばさん困るんだけど。
なんて考えていれば、宰相がゴホンと咳払いをした。
「女王、戻ってきて下さい」
「あ、ごめん」
三十路のおばさんである私とは違い、宰相は二十代後半の青年だ。若さが眩しい。
「隣国から書状が届いてます」
「何? また、召喚状?」
そう聞けば、宰相は書状を差し出してくる。
「ま、そんなものですね。ただ、いつもより分厚いですけど」
その言葉に、私は封筒を取り出し書状を開く。
そこには季節の挨拶から始まり、前回さっさと帰った事に対する不満がつらつらと書かれていた。
そう--先週、私は隣国からさっさと帰ってきた。
いつもの様に、王に呼び出されて相手をして滞在する部屋でグッタリしていた所に、隣国の王が正妃を迎えるという話を聞いたのだ。
思わず嬉しすぎて、そのままの勢いで自国に戻ってきた。
ただ、きちんと帰国する旨は伝えたのだ。王ではなく、丁度王宮を訪れた巫女姫に。
本来であれば王の許可無く戻る事は無礼に当たるけれど、私とて一国の女王だ。国の仕事が最優先である事はしっかりと認められているし、女王としての仕事によっては王が何と言おうと戻らなければならない。そしてそれも認められていた。
だから、急な仕事が入ったのだといつもの様に返信すれば良い。
それに、こういう不満が書かれた手紙はいつもの事だった。ただ、今回はその量が半端ではない。
「欲求不満なのかしら?」
「女王、下品です」
私が隣国の王の寝所に侍っている事は、この国の上層部は当然ながら知っている。知っているけれど、それに対して文句や批判が出た事は無い。
普通なら「国の誇りがっ!」とかなりそうだけど、むしろ「物好きですね、隣国の王も」とか言ってるぐらいだし。宰相もその一神だ。
まあ、確かに私は女王になる予定ではなかったし、それに相応しい存在とも言えない。
元々は、人間界の片隅で崇められていた神々の末裔だし。
「帰りたいなぁ」
私はポツリと呟いた。
私は人間界で産まれた。
人間界の片隅で、そこの土地神として崇められていた両親と一族。そして一族を崇めてくれる人間達も優しくて恵まれていた。
けれど、神々の世界の争いで人間界は影響を受けて滅びた。
いや、その頃には人間界にも争いがあちこちで起きていて、きっともうその流れは出来ていたのだろう。
一族は自分達を奉ってくれる人間達、そして近くに居た幾つかの集落の人間達を何とか連れて逃げ延びた。その子孫は『箱庭』に移住し、そして現在の人間界にも脈々と血を受け継がしている。
そう--人間界は再創造された。
そこに住まう殆どは新たな人間達で、私の知る者達はもう居ない。でも、血を受け継いだ者達は居る。
人間界は順調に繁栄し、そして滅ぶ前の文明に近づいていっていると聞く。
そこでは新たな土地神も生まれている。
前身たる人間界から離れて久しく、現在の人間界とは縁もゆかりも殆ど無いが--それでも、私は人間界に心が傾く事があった。
行きたいな--。
この世界で生きて久しい--けれど、産まれた世界を恋しく思う。それは一族の者達もそうだった。
行ってみたい。
ただ、それにはこの身が背負うものはあまりにも多くなりすぎた。
隣国国王の正妃候補が現れた。
それは、人間界に住まう少女だった。人間界ではよくある?というか流行の異世界召喚の末に、少女はこの世界にやってきた。
ただ、隣国国王も周辺国もそんな事はしていない。
むしろ
少女が現れた事に愕然としていたと言う。
ただ、私はそんな事は全く知らず
「ああ、確かにとても美しいものね」
と、人外レベルの、神にも通用する美しい少女を眺めていた。そして、彼女が人間界出身だと聞き、私は少女へと近づいたのだ。
単純に、人間界の話を聞きたかったから。
けれど、少女は突然見知らぬ世界に召還された事に怯えており、しかも美しい者達が多い中でごく平凡な顔立ちの私に何故か懐いてしまった。
すいません、隣国国王が恐いんですけど。
まあ、自分の花嫁にと望む少女が遊びの女に懐けばそりゃあ機嫌も悪くなると思う。
「お、お母さん……」
少女が泣きじゃくる。
まだ十代半ば。
王とはお似合いだけれど、突然自分の世界から違う世界に飛ばされた彼女が不安がるのも当然だ。何の心の準備もなく、見知らぬ場所に連れて来られたのだ。しかも、自分の意思ではなく。
異世界召還と言うのは、言い換えれば本人の意思を無視した拉致だ。拉致は犯罪である。
だから、王の花嫁にと望まれているとはいえ、少女を元の世界に戻し、その上で王は改めてプロポーズし、互いの世界を行き来出来るように等、まず最低限の事をするべきだと思った。
それを伝えようとしたら、また騒ぎが起きたのだ。
少女が攫われかけたのだ。
何でも、少女を召還したのはある一派で、彼女が持つ力を狙っての事らしい。しかも、少女の身柄も狙う教祖は、私の中ではロリコンに認定された。
年齢的にはそれほど離れていないけれど、勝手に拉致して更に相手の意思を無視して利用する者など、ロリコンで十分だ。
しかも、少女に呪いをかけて人間界に戻れなくさせたロリコン男など、不能となってしまえば良い。
「女王は勇者でも目指してるんですか」
「いや、勇者は隣国国王でしょう」
少女と結ばれるべきは隣国国王だ。
何でか呆れる宰相を余所に、私は自分の愛用の刀を研ぐ。
一応、一族の次期長として両親には武芸を叩き込まれている。
神力はそれほどでもないけれど、これだけは負けない。
長じゃなければ、武神を目指したかった過去から、私は今も一日も欠かさず鍛錬を行っている。--まあ、隣国国王の寝所に侍った後は起き上がれず休む事もあるけど。
ただ、私は見た目のせいか、とても弱く見えるという。
そのロリコン教祖もそうだった。
ロリコン教祖は少女を連れ去った後、現れた私を見誤った。
私の実力を、過小評価しすぎたのだ。
私を嘲笑う、その男に。
私はにっこりと笑った。
向こうは気付いていない。
でも、私は覚えている。
「ようやく会えた」
人間界に居た時、私が産まれた場所では二つの派閥が争っていた。一つは私の一族。もう一つは、そのロリコン教祖の一族。
ロリコン教祖は『怪異』を操って、多くの人間達を喰らった。ただ喰らうのではなく、絶望に陥れて。
神は優しいだけの存在では無い。
無礼を働けば、無情なる裁きを下す。
けれど、快楽で命を弄んで良いわけではない。
その一族と激突し、半分に減ってしまった私の一族は、それでもいつかの為に生きてきたのだ。
馬鹿な奴ら。
ロリコン教祖を討ち取った私は、最後にその男が私にかけた呪いが発動する中、笑った。
そして起きた時、私は人間界に居た。
私が産まれた場所にとても似た光景だった。
海神であった父。炎神であった母。
その二つの特性を引く私は、炎を操る事の出来る海神だった。
だから、海に降り立った私は身体を撫でる爽やかな海風に心地よさを覚えた。
周辺を見渡せば、辺りには小さな港があった。山と海に囲まれた街があった。
そう--私が幼い頃を過ごした場所とよく似ていた。
「……むしろご褒美だわ」
あのロリコン教祖は、最後の力で私を『堕とした』。人間界に堕として、その地に私を縛り付けたのだ。
天に住まう神からすれば、上から下に堕ちるというのはプライドが許さないだろう。
ただ、私からすればそんな事は無い。
それに、ここには神が居ない。
ロリコン教祖がこの場所に影響を与えていた事は、残る気配から分かっていた。
「仕事は沢山あるわね」
少女がこの街出身である事は分かった。
ただ、少女もまた呪いが解けない限り、此処に戻ってくる事は出来ない。
それに、ここにはあのロリコン教祖とその一派の影響がありすぎる。
ならば、少女がいつ戻ってきても大丈夫な様に、私はこの地を浄化し整えておこう。
そうしてこの地に縛り付けられた私は、それから半年もせずに現れた相手に愕然とする事になる。
それは、人間界に堕とされた私を追いかけてやってきた隣国国王。
浅黒い肌とエキゾチックな東洋系美女の美貌は更に磨かれた彼は、妖しい笑みを浮かべた。
「ようやく、見つけた」
とりあえず、呪い解く方法は無いけれど、相殺する方法はある。
私は少女の分の呪いも周囲の反対を押し切って被ったせいで、数百年は人間界に縛り付けられる事となる。
それでも、少女が元の世界に戻れた事は嬉しく思った。
ただ--。
「呪いを相殺する方法は、善行を積むことだ」
負の感情と正の感情をぶつけて零にする。
だから、土地神として、今だにこの地に渦巻く災いで『怪異』に巻き込まれる人々を助ける事になった私。
の横に、何故か居る隣国国王。
「あの~、国に帰らなくて」
それ以上は恐くて言えなかった。
ただ、何故か人間界に来ても私は、この隣国国王の相手をする事になった。
なんで?
正妃は--ああ、少女は人間界に帰ってきたから無理か。
とりあえず、私は今だに正妃を娶らない隣国国王に心の中で叫んだ。
早く、正妃を迎えて!そして、私を安眠させてっ!!
せめて、正妃さえ迎えれば私は解放される。
しかし、後に待っている運命を私は知らなかった。
土地神としての役目を終えた私が、待ってましたと言わんばかりの隣国王宮に連れ込まれ、彼の正妃にされてしまうなんて。
「ああ、気付いてなかったんですか」
「女王は鈍いですからね」
「あ、うち属国から統合しましたから」
「ぬわぁぁぁぁぁぁっ!」
結婚式に参加した、自国の上層部の無情な言葉に私が悲鳴を上げる事になるのも、今の私が知る事は無かったのだった。