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王×王妃①(シリアス物)

これも続き物となります~♪


警告)最後は救いがありますが、それまでがかなり痛いです。

 愛しているよ――俺のただの一人の……


 ええ、私も愛しているわ


 繋いだ手を握りしめ、交わした口づけ


 美しい花嫁衣装もなく、ご馳走すらなかったけれど幸せだった


 大好きだった仲間達が側に居てくれて


 祝福してくれて


 夫の側に居られた


 ただ、それだけで……





 愛していた夫が妾妃を持ったのは、建国から五十年ほど経過した頃の事だった。



 大戦が終わり、夫はその神力の強さと高い能力から王に就任した。

 国は、後に全ての河を司る河国として、その名を馳せる大国の一つだった。


 王は国の統治者であるが、それ以上に不安定な世界を支え、国の領土を支える為に存在する。

 夫は統治者としても、領土のある空間を支える存在としても有能で、上層部もまた王に次ぐ実力者達としてその力を振るっていた。


 けれど――明らかに王達の負担が大きく、日に日にそれが増していく事はすぐに分った。

 

 もともと、その当時は私の住む国だけでなく、天界十三世界中で圧倒的に神材が少なかった。

 政治面でも、国の領土を支える為の力の持ち主達も。

 王と上層部でギリギリだった。


 そんな中で、跡継であり王の力を引き継ぐ子供は、何が何でも必要だったのは言うまでも無い。


 産めや増やせや育てれや。


 私は王妃だった。

 王の唯一の妻で、大戦中に夫と結ばれた。

 けれど、王や上層部に比べるどころか、一般市民と比べても神力は弱く、空間の安定に注ぐほどの力も無かった。


 むしろ、弱い力は逆に王達後からに影響し不安定さに拍車をかけてしまう。


 役立たずの王妃――。


 だから、せめて子供だけでも産み育てようと思った。

 他に家族は居ない。

 夫だけが唯一の家族だった。




 そして――結果は、妾妃を娶るという夫の言葉だった。

 建国から五十年目。

 本当なら建国から三年もせずに妾妃や側室の話はあったが、夫はずっと拒否してくれていた。


 いらない、お前だけでいい。

 お前だけが俺の妻だ。


 そう言って、ずっとずっと役立たずの妻を守ってくれた。

 空間の安定に力を注げず、かといって跡継も産めない私を、ずっと……ずっと……。


 上層部とは仲が良かった。

 共に戦った仲間達。

 彼らもまた私を守ってくれた。


 大丈夫、きっと産まれるよ。


 子供なんて居なくていいじゃない――とは誰も言わなかった。

 言えなかったから。


 それが、上に立つ者――権力を持つ者達の義務。

 この国を、大勢の民達をまとめ上げる者達に課せられた使命なのだ。


 お前だけだ。


 貴方は何も心配しなくていいの。


 王と上層部はそう言い続けてくれた。


 けれど、周囲の……跡継を望む声はどんどん高まり――五十年目にとうとう夫は受け入れた。


 苦しそうに、辛そうな顔をする夫に私は淡く微笑んだ。


 遅かったぐらいだ。

 本当はもっと前にそうなる筈だった。


 いや、本当はもっと前に私から言うはずだった。


 なのに周囲に甘えていたせいで私は夫を苦しめてしまった。


「ありがとう――」


 夫の名前を呼び、その体を抱き締める。


 悔しそうな、けれど何処かホッとしたような、それでいてそんな自分達を激しく嫌悪する上層部にも礼を言った。



「ありがとう――」



 産めない私が悪いの。

 王妃であるならば、国の為に犠牲にならなければならない時だってある。


 それに、本当は王妃そのものから私を引きずり下ろそうとする動きがあったのを、夫が妾妃を受け入れる代わりに私を王妃に留めてくれたのだ。


 愛しているのはお前だけだ。


 今にも泣きそうな顔で言う夫に私は笑う。


 そうね――私もよ……そう、答えて。


 だからそっと心の扉に鍵をかけて、私はその鍵を飲込んだ。

 流れる涙は当の昔に涸れ果てていたから、一生懸命喉の奥に押し込めて。



 それから一月後、夫は妾妃を娶った。

 微かな望みをかけた夫の希望は叶わず、私は妊娠しなかった。





 跡継が産まれたのは一年後だった。

 国中が湧き、妾妃を娶った王の英断に貴族達は大いに喜び湧き立った。


 と同時に、囁かれる王妃への不満。

 跡継が出来なかったのは、王妃に問題があったから。

 そう囁く者達は、私の耳に入るように噂していく。


 子無きは去ね


 無能は去ね


 役立たずは去ね


 子供を産んだ妾妃が国母となる事は間違いなかった。

 そんな大仕事を、この国に未来を与えてくれた姫君を妾妃のままにしておくなどとんでもない。

 その姫君こそ、王妃になるべきなのだ――そう、彼らは囁いた。


 けれど、実際に私を引きずり下ろせなかったのは、王と上層部の抵抗と、妾妃達を送り込んだ者達自身の野心の結果だった。



 初めての子供が産まれた時、王には跡継を産んだ妾妃以外にも六人の妾妃が居た。

 全部で七人の妾妃達。

 そして残りの者達も全員が妊娠していた。


 王は最初、妾妃は一人しか娶らないつもりだった。

 けれど、一人迎えれば二人も三人も一緒と強引に押し切られていった。


 それに民達も賛同したのだ。

 当時は混乱期まっただ中。

 周辺国では、王や上層部が空間を支えきれずに国と民が一瞬にして消滅する事もあり、その報せを聞く度に民達は怯えていた。

 少しでも強い力を受け継ぐ王の子供を多く生み出して欲しい。

 それは当然の事だった。


 民達に、領土に安寧を与える為にも、王の血を引く子供は一人でも多い方がいいのは誰の目にも明らかだった。


 そこに、野心を抱き、自分の息のかかった娘を王の傍に上げたいと思っている者達が巧みに動き、何時の間にか妾妃として送り込んでいたのである。

 正妻である私に子供がいない状況は、尚更にそれらの人々の権力欲を煽っていた。


 しかも、夫は妾妃の元に通うのは週に一回で、残りは王妃である私の所で過ごしていた。


 正妃は子供が出来なかった。

 けれど、今後もそうとは限らない。

 つまり、王が私の側に居れば居るほど子を孕む危険性があるのだ。

 そしてもし妾妃に子が出来ても、正妃に子供が出来れば、そちらを跡継にしようとする動きが出てくるかも知れない。


 だから、王が王妃に構って居られないように、多くの女達を送り込もうとした。

 そうして熾烈な争いで後宮に入れられた七人の妾妃達。

 それが、王派たる上層部側と野心を持った者達が争った末のギリギリの妥協線だった。


 しかし、一人に週一回定期的に通っているならば、他の妾妃達にも公平に通わなければならないという周囲の言葉に、結局王は他の妾妃達にも通う事になった。


 もちろん、その後私の所にも通ってくれるが、次第に隔週となり、月一と回数を減らしていった。


 そうして妾妃達は見事に全員が妊娠したのだ。

 たった一年で。


 けれど、全員が同時期に妊娠したのが妾妃を送り込んだ者達の誤算だった。


 つまり、最初に子供を産もうとも、他の妾妃達だって子供を産むのだから立場は全員同等な筈。

 ここで強引に王妃を引きずり下ろして最初に子を産んだ妾妃を正妃の座に据えた場合、他の妾妃達の親族が黙っていないだろう。


 しかし王妃の座を空位にすれば、それこそ歯止めが利かなくなる。


 とくに、妾妃達の方が積極的だったからだ。


 王は妾妃達を迎える際に言った。


『妾妃を受け入れよう。但し、俺の心は王妃にだけ捧げられている。そしてそれは永遠に変わる事はない。だから、妾妃となる娘達を愛する事は未来永劫ないと思え。子を産む道具。それで構わないのなら、受け入れよう』


 そして王は宣言通り、妾妃達に心を傾けることはなかった。

 容姿端麗で文武両道。

 賢君の名にふさわしい王の才を持つ若き王に、妾妃達は一目で心奪われた。

 そして王に愛を注ぎ、何とかして自分の方に心を傾けさせようとした。


 どんな手段を使っても――。


 決して愛する事はないと言われても、時間と共にいつかは愛してくれるかもしれない。

 そんな願いを抱いた妾妃達はいつしか互いに争いだし、水面下の争いは熾烈なものとなった。


 最初の子供が産まれた後は、争いは更に過激になっていった。

 けれど、私はそれに構って居る暇は全くなかった。


 というのも、私も子を宿したからだ。

 それは、三人目の子供が妾妃の一人から産まれた頃の事だ。


 体調の異変に気付いた私は子を身籠もっている事に気付いた。


 だが、それがなんだというのか。


 既に王の跡継が三人も居る中で、正妃の子など邪魔にしかならない事は、火を見るよりも明らかだった。


 そもそも、王妃に子供が出来ないから七人もの妾妃を娶る羽目となったのだ。

 これでまだ子供が産まれていないならまだしも、既に三人も妾腹で産まれている。


 そこに正妃の子――。


 誰かが言い出すかも知れない。

 妾腹よりも正妃腹の子を跡継にしようと。


 妾妃達は、誰もが自分の子供こそ跡継にと願っている。

 けれど、ここで私が子供を産めば彼女達はどう思うか。


 そんな事、考えずとも分った。


 私の腹の子を確実に消しにかかるだろう。

 それどころか、大規模な争いを引き起こすかもしれない。


 既に産まれた三人の子供達の事で、妾妃達やその親族達のいがみ合いは大きくなっている。


 今必死に安定させている国が大きく揺らぐかも知れない。


 そんな事はさせられない。


 私は、子の存在を隠すことにした。

 この子は誰にも祝福されない。


 誰にも祝福されない、国の未来には邪魔な子。


 けれど――私にとっては、何よりも愛しい子。

 夫との間にようやく出来た子。


 本当なら、この子と共に暮らしたかった。

 全てを捨ててでも、この子と共に生きたかった。


 子が宿ったと知った瞬間から私の中に膨れあがる母性本能が、子を求め続ける。


 でも、誰にも知られてはいけない。

 この子は存在してはいけない。


 王の子として、存在してはならない。


 誰かに相談する事も考えないわけではなかった。

 けれど、王宮の至所に妾妃達の『目』と『耳』があり、相談すればバレる恐れもあった。


 バレてはいけない。

 バレれば殺される。


 だから、私は子を隠した。


 誰にも相談せず、体調を崩したとして私は王宮から遠く離れた離宮へと移り住んだ。

 王や上層部の罪悪感を煽れば簡単に事は済んだし、四人目の子供が産まれるとかで王妃に構って居る暇はなく、妾妃達やその親族側も隙だらけだった。


 その離宮を選んだのは、大戦時代にお世話になった老夫婦が近くに住んでいたから。

 そうして私は彼らを呼び寄せ、事の全てを話した。


 この子は存在してはならない子。


 離宮に行く準備で手間取り、ようやく離宮に入った時には妊娠五ヶ月目を過ぎた頃だった。


 誰にもバレないように、隠し続けた数ヶ月。

 夫にも、仲の良い親身になってくれる上層部にすら話さず、私はお腹の子に語りかけた。


 ――知れては駄目


 ――大人しくしていて


 ――静かに……そう、声を出しては駄目よ


 何度も、何度も語りかけた。

 お腹の中で育っていく我が子を愛しいと思う反面、どうして今になってと思う心。


 愛しい、どうして。

 愛しい、何故今。

 愛しい、声を出さないで。


 誰にも知られては駄目。

 誰にも、誰にも。


 私は願い続けた。

 けれどその願いは願いではない。


 それは呪い。


 呪いにも似た母の願いが、後に我が子を苦しめる事になるとも知らずに、私は……。


 それから数ヶ月後――臨月を迎えて私は女の子を産んだ。


 産声一つあげない我が子。


 それは、私の呪いにも似た願いの結果だった。


 五体満足で産まれた娘は、声だけは発する事はなかった。




 産声も、泣き声も、笑い声も……。




 そう――生涯、声を、出す事は








 なかった――。


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