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王×王妃②

海国国王夫妻のお話です。

王×王妃の続き。

「なあ、私が浮気したらどうする?」

「相手の後宮入り手続きを取ります」

 そう答えた私が夫である海王に襲い掛かられたのは、その三分後だった。



「どう思う?!」

 完全に抜けてしまった腰はどうにもならず、蛞蝓のように這いずって辿り着いた先は、正妃以外は全て男妃達からなる後宮の談話室。

 その中でも、正妃に次ぐ四妃たる四人の男妃達の居る居室にて保護された私の問いに、四妃達は何故か苦笑した。

「どうもこうも、それは王妃様が悪いです」

 代表するように貴妃がやんわりと告げた。

「なんで私が悪いのっ」

 王が手をつけた相手を後宮入りさせ、しかるべき地位と生活を保証する。

 それこそ、後宮の主たる私の勤め。

 な筈なのに、貴妃達までこんな風に言うなんて。

「王妃様、普通の妻は夫が浮気したら怒り狂うものです、と書物に書かれています」

「そうそう、夫の胸倉を掴み往復ビンタ百回、って書物に書かれてた」

「更に、弁護士を雇って慰謝料をふんだくるらしいぞ、書物によると」

「それぐらい怒るものだと、どの書物にも書かれている」

 書物、書物、書物、書物。

 以前に四妃に対し、まるで本物の女性よりもその気持ちが分るのねと伝えて以降、彼らはそうやって「~~に書かれていた」、「~~が言っていた」と告げるのが常となっていた。

 そこまでイヤか、女性らしいと言われるのが。

 まあ、その性別を超越した美貌ゆえに女として生きる事を強いられてきた者達だから、仕方ないといえば仕方ない。

「とにかく、今からでも王に謝りましょう」

「そうそう、浮気されたらイヤです! って涙目で見つめてっ」

「なんで。王なら沢山の女性に手を付けても許されるじゃない。むしろ歴代の王達の後宮なんて美女の博物館そのものじゃない」

 だから、王族には美形が揃う。

 王が手当たり次第に美女を後宮入りさせて手を出しまくるからだ。

 それが普通。

 というか、多くの女性を囲う事で王としての権威を表わしているとか何とか。

 逆に妃の数が少なければ甲斐性無し、又は同性愛者と思われる国もあったとか。

 そうして多くの美女達に手を付けまくり、後宮の維持費と妃達の我が儘で傾いた国々も多かった。

 歴史書を見る度に思う。

 学習能力ないだろ――と。

 別に奥さんの数は良いのだ。

 しかし、国傾けるまで金使うって何なんだ。

 それよりは、民達も楽しめる盛大な祭りでも催して国民にキャッシュバックした方がよっぽどいい。

 その方が経済も上向くってものである。

 まあその点で言えば、せっせと地方の状態を把握し、そこに仕事を興していく夫は素晴らしいと言えよう。

「とにかく、王妃様。余所は余所、うちはうち。この国の妃は王妃様ただ一人です。後宮の他の妾妃達は全て避難してきた者達だけなのですから」

「いや、新しい妃が入るっていう可能性もあるかも」

「ないです、絶対にないです」

 いつも優しい貴妃の笑顔に黒さが増した。

「良いですか? 王妃様。とにかく、王の浮気発言に対しては、そんな事は嫌だと言って下さい」

 嫌だ……いや、それだと心の狭い妃と思われないだろうか。

 そもそも、私が以前付き合った男達の殆どが、多くの女性達を味見する事は男としての勤めだと言っていたし。

「そうです、雨の日に捨てられた小犬の様な眼差しを王に向けて下さい」

 難易度が上がった。

「さ、練習です!」

「は?!」

「お任せ下さい、夜までには完璧な小犬の視線を伝授してご覧に入れますからっ」

 やる気だよ貴妃。

 しかし、他の三妃もがっちりと私を羽交い締めにしてくれた。

 暴れても無駄。

 どんなに見た目は美女でも、所詮彼らは男。

 というか、男に小犬の視線を伝授されるって一体どんだけなんだ、私の女レベル。

「さあ、あの若く麗しい偉大なる賢君という完璧な外面とは裏腹に、妻に冷たくされ耳を垂れさせている王を喜ばせるのです!」

 そうだそうだ~とBGMが聞こえる。

 しかも、何時の間にか増えている妾妃達。

「って、絶対あんたら陛下の事を下に見てるでしょっ!」

 そんな私の叫びも、彼らの美しい笑みによってさらりと流されたのだった。





「とりあえず――三十点? 貴妃の方が上手かった」

 こいつ、どうしてくれよう。

 夜、貴妃達のスパルタ修行を終えた私は、早速寝所にて夫に小犬視線を試して見た。

 その結果が、三十点。

 貴妃は六十点が合格点で、駄目だったら再度追加講習をすると言っていた。

 が、今はそれよりもこの駄目男である。

 点数が低いのはまだいいとして、他の女、いや、仮とはいえ妾妃と比べるな!!

 しかも相手は男だぞ、おいっ!!

 男に負けたという事実に私は打ちのめされた。

 だがそれ以上に気になったのは、いつ貴妃の小犬視線を見たのかという事で。

「私ならもっと上手く出来る」

「は?」

 いつ貴妃のを見たのかと問う間もなく、夫の小犬視線が炸裂した。

「はぅっ!」

 その細やかな顔面筋の動き、潤んだ瞳、哀愁漂う切ない色香と哀しげな雰囲気。

 母性本能を撃ち抜かれました。

 もう駄目です、完全に負けました。

「どうだ?!」

 満点です。

 ついでに小犬の耳としっぽも見えた私は、素直にそう評価しました。

 というか、男に負けました(二回目)。

 女としての尊厳というより、私は自分が女に生まれた意味から問うことにします。

 と、そんな私の服をするすると脱がす――。

「ちょい待て、何してくれてるんですか」

「夫婦にとって大切な事だ」

 ニヤリと笑う夫に私の中で嫌な予感が渦巻く。

 駄目だ、逃げよう。

 しかし、明け方まで散々酷使してくれた腰に力は入らない。

 そういえば、ここに来るまでも侍女達に運んで貰ったぐらいだ。

「む、むむむむ無理です! 死ぬ、死にます、マジで冥府に行ってしまいますっ」

「冥府の神になど渡さない。お前は私の妃だから」

「いや、神に渡すとかじゃなくて渡っちゃいます川を!」

「大丈夫だ。三途の川の橋渡しは今日から一週間ストライキと聞いている、賃上げ請求で」

 冥府の神も大変なんだ――なんて事よりも、迫り来るは私の貞操の危機。

 遠くの冥府の神々の賃金の危機より、身近に迫る私の危機の方が大事。

「って、無理です、本当に無理!」

「大丈夫だ。神の肉体は強靱だし、それに私も一週間不眠不休で犯られても大丈夫だった」

「いや、それ違うし! ってか、誰よそんな酷い事したのはっ!」

 一週間不眠不休で?!

 もちろん、そんな事をするのは、過去に夫を奴隷や妾として飼っていた男達以外には居ないだろう。

 しかし酷すぎる。

 夫の過去は聞いていたし、夫の美貌ならばそういう経験はあってもおかしくない。

 その相手の男達に強い苛立ちを憶える。

 が、それも耳元に息を吹きかけられるまでだった。

「大丈夫だ、私は上手い、たぶん」

「いや、そんな事別に気にして――ってか、たぶんって何?! 上手いじゃんっ」

 そして私は地雷を踏んだ。

 頬を赤らめる夫。

 チラチラとこちらに視線を向ける夫。

 塞がれる唇と、服をはぎ取る腕。


「いやぁぁぁぁあっ!」


 翌日、私は寝台からも出られなくなった。

 反対に夫の肌の張りと艶は五割増しだったという。


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