凪国医務室長×凪国女官長
いつか連載出来たらな~と思ってお蔵入りしていたものです。
短いプロローグ部分なので、たぶんさらりと読めます。
※この二人は大根と王妃の本編でも出てくる予定です~。
神生なんてもんは一寸先は闇だよ
それが育ての親だった祖父母の言葉だった
けれど――
凪国王宮が上層部の一人――女官長は茫然とした。
痛む頭に思い起こされる記憶は、昨日の宴会のこと。
お酒も勧められ、断るのは失礼と少しだけ付合い、後はひたすら裏方に徹した。
そうして夜遅くまで仕事をし――。
そこから記憶がない。
部屋に戻ってきた記憶はない。
だが、とにかく自分は部屋に戻って眠ったのだろう。
全裸で
しかし、自分の隣に居るのはなんだ。
女官長は、美しく淑やかな顔立ちの眠り姫に目眩を覚えた。
すやすやと眠っていた美姫が、その美しい眼を開いていく。
「あ、おはよう~」
「っ!」
艶めかしい色香を放ちながら笑う美少女。
と、少女が動けば、白磁の様な滑らかな肌の上を、するりと上掛けが滑り落ちた。
全裸――
なんて認識する女官長の目にまず飛び込んだのは、たわわに実る大ぶり白桃が二つ。
更にその豊かな膨らみを下に辿れば、なだらかな腹部が現れる。
ほっそりとした手足はしなやかに伸び、肉感的な白い太股は酷く艶めかしく眩しかった。
女性美に溢れた蠱惑的な曲線で描かれた艶姿。
両手を突っ張って起きる様は、酷く婀娜めいた姿だった。
だが――
女官長はそれを思わず見つめてしまった。
美しい少女の股間から、己の存在を見せつけるかの様にそそりたつ、それを。
紛れもない男の象徴。
猛々しく突き上げる欲望の証し。
それは、蠱惑的な曲線の肢体とはアンバランスであるだけに倒錯的で、奇妙ながらも壮絶な色香を漂わせていた。
そんな――相反する二つの性の象徴を同時に併せ持つのは、凪国上層部にはただ一人しか居ない。
凪国上層部が一人にして、医務室長。
上層部でも数少ない両性具有の一人だ。
しかも、男性器と女性器の両方を持ち、生殖能力もあるというオプションつき。
「あ……なた……」
裸の自分。
裸のこいつ。
二人して並んで、自分の寝台に横たわっていた事実。
出来るならばこのままもう一度意識を飛ばしたかった。
「お・は・よ?」
愛らしい鈴振る声。
愛らしい仕草。
その幻想的なまでの清らかさは、見る者全ての心に激しい独占欲と劣情をかきたてる。
だが、女官長は知っている。
こいつが見た目を裏切る性格をしている事を。
策士家で計算高く、清らかな花の裏に隠し持つ妖艶な『妖花』の如き色香でもって他者を傀儡とする危険物。
医務室長が何かする時は、いつも自分が被害を被る。
「ふふ、と~っても激しかったわ」
「は?」
「もう、腰が砕けちゃいそうなほど激しく責め立てられて……意地悪なんだから~もう、お嫁に行けない~、あ、お婿にも行けない~」
だから
「責任、とってね?」
次の瞬間、王宮全体が揺れる様な絶叫が響き渡った。
*
凪国には、二つの美花が咲き誇る。
一人は『凪国の白百合』と呼ばれる、宰相の妹姫にして凪国一の美少女と名高い明燐。
彼女を見た者達は、まず誰もが凪国国王の愛妃たる王妃だと信じて疑わない。
そしてもう一人は、『凪国の真珠』と呼ばれる、凪国上層部が一人――医務室長。
両性具有、しかも男性器と女性器の両方を持ち、なおかつ生殖能力まで持っている希少な存在。
そんな二人の美貌は、自国どころか炎水界中に鳴り響き、求婚してくる男達は、有名、無名数知れなかった。
無理矢理、強引、権力にあかせた実力行使も毎度のこと。
大抵そんな二人の被害者になるのは決まっていた。
一人は王妃――果竪。
もう一人は――。
「医務室長さ~」
「なに?」
いつにもましてご機嫌の医務室長に、朱詩は眉をひそめる。
「女官長に襲われたって本当?」
凪国王宮女官長。
女官達の長にして上層部の一人である。
王宮内では美少女としても名を馳せているが、キツイ性格に、ツリ目がトレードマークのキツメの美貌。
それが災いし、仲間達になかなか馴染めかったという過去を持っていた。
そんな女官長を仲間達に馴染ませたのは言うまでも無くあの果竪であり、それ以来女官長は果竪に対してデレデレ状態。
しかし――仲間達に馴染む前から女官長にべったりだった存在がいる。
それが、この医務室長だ。
「ふふ~、もう広まっちゃってるんだ」
広まるも何も、わざと広めたくせに――
「君ね~」
「ああ、式は子供が出来た後で行おうと思ってるんだ」
「医務室長」
「だってこんな体じゃ花婿の服を着ても様にならないし~? それに、男性化しないと身長も伸びないしね」
「聞けよ人の話」
くるりと振り向いた医務室長に、朱詩は溜息をつく。
そこに居たのは完全な男の顔をした医務室長。
たとえどれほど美少女の外見をしていようと、胸があろうと、好きな女に対して滾る欲望を表に出す顔は、紛れもない男である。
「なんだよ」
清楚な美少女の口から飛び出る男口調。
もし此処に医務室長の信崇者達が居れば、即座に首つりを決行しただろう。
しかし、朱詩には慣れたもんである。
いや、上層部や王も同様か。
「確か、女官長の寝台で二人して寝てたとか――裸で」
「女官長は激しいからな」
ハッと馬鹿にした様な笑みに、朱詩は笑顔のままで言う。
「そうなんだ~。でも、昨日の宴が終った後、ふらふらの女官長を抱える君の姿、目撃されてるんだけど」
「その後に連れ込まれちゃって~」
女口調に戻る医務室長は、いや~んと他の女がやればムカツク様なブリっ子仕草をかまし、さっさとその場から立ち去ろうとした。
うん、認める。
他の女だとムカツクそのブリッ子も、医務室長がやると純粋に可愛いと思ってしまえるだけの威力を持っている事も。
朱詩はガシっと医務室長の頭を掴んだ。
「女官長じゃないでしょ?」
「え~、なにが~?」
「君が、女官長を、寝台に連れ込んだだろう」
「……………………」
医務室長の抵抗が止む。
「だったらなんだって言うんだ?」
再び男口調に戻った医務室長に、朱詩は手を離した。
「な~んでそんな事するのかね~」
「お前に言われたくないね」
医務室長がくるりと振り向く。
クスクスと笑う顔は、男を堕落させる女夢魔。
「経験者だから言ってるんだよ」
「いいじゃん、他人が何しようと」
「――そこまでしないと、失うから?」
「…………」
「随分、余裕がないんだね」
「うっさい、朱詩、お前マジでムカツク」
「ブリッ子医務室長に言われたくないよ」
共に男を惑わす魔性。
かたや、生まれつきの男を狂わせる存在――『男狂い』にして、過去の殆どを男娼として生き、体液全てが媚薬化した魔性の色香の持ち主。
かたや、生まれつきの両性具有にして、過去の殆どを男達の劣情にさらされた奴隷として生き、男娼顔負けの性技と知識に通じた妖艶な色香の持ち主。
「邪魔するなら許さない」
「邪魔はしないよ。忠告はするけど」
「忠告?」
「そ。やり方を間違えると、失うってね」
「…………」
無言のまま立ち去る医務室長に朱詩は頭を緩く振った。
「ったく、天の邪鬼なんだから」
自分も同類だが、たぶん奴よりはマシ。
しかしそんな事を考える朱詩も、周囲から見れば五十歩百歩である事には気づかなかった。
途中まで書いて断念したお話ですが、きりのいい所まで書いてあったのでのっけておきます~。