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海国徳妃(男)×元奴隷


 こんなブサイクでは商品にならないではないか!


 そう叫んだ私の買い手はメタボ体型のつるっぱげ。

 ゴミを掴まされたとわめき立て、刀を抜き放つのが見えた。


 ああ、これでようやく死ねる――


 目を閉じた私が再び目を開けた時、その世界は一変していた。





「ね~」


 甘える様な声が後ろから聞こえてくる。


「ね~ってばぁ~」


 気だるげに誘う様な声音が近付いてくる。


「聞いてるの~?」

「聞いてません」

「聞いてるじゃん」


 甘く熱っぽい声が絶対零度に変化したが、私はそれを無視して掃除を続ける。


「ってか、ほらこっちむいてよ」

「掃除中なので」

「いいじゃん~」

「忙しいので」

「僕の部屋は綺麗だからさ~」

「王妃様に呼ばれているので」

「別に振り向くぐらいなら」

「無理です」

「少し」

「駄目です」


 さあ、掃除も済んだことだ。

 さっさと帰るか。

 しかし、扉が開かない。


「鍵はこっちだよ~」

「……」

「外に出して欲しかったら振り向くか、名前を僕に教える事~」

「一介の侍女をおちょくるのもいい加減にして下さい」


 そう告げた時だった。


「この僕に対して生意気~」


 耳元で聞こえた声に振り返る間もなく、私は覆い被さる重みに


 潰された。

 グッシャリと。


 消えゆく意識の中、鍵がかかっている筈の扉がガチャリと音を立てて開いた。


「徳妃、あの詐欺男が呼んで――」


 扉から顔を覗かせた王妃様が、徳妃様に潰されている私を発見した。





 物心ついた時には既に奴隷だった。


 そんな中で、私が最後の買い手に買われた時に悲劇は起きた。

 美しい奴隷を買った筈なのに、手違いで来たのは可愛くもない奴隷が二人。

 それが私と入ったばかりの新人奴隷の少女だった。


 騙されたと買い手は騒いだ末、殺されかけた私達。

 とりあえず死ぬのは恐くなかった。

 生きるのに疲れていたから。

 ただ、隣に居た新人奴隷の少女の事だけが気がかりだったが。


 しかし、殺される直前で飛び込んで来た大勢の男達に私と新人奴隷は助けられた。

 いや、彼らが助けたかったのは新人奴隷の方。


 というのも、少女は海国という大国の王妃様だったのだ。

 何でも王と大喧嘩して王宮を抜け出したところ、運悪く奴隷商人に捕まって売り飛ばされたらしい。


 そうして買い手は捕らえられ、奴隷達は皆解放された。

 因みに買い手は美しい奴隷達を愛玩物として飼う趣味があったらしく、奴隷となった者達はひとまず王宮で傷ついた心身を癒すまで保護される事となった。


 だが、そんな中で私は一人王に呼ばれ、王妃様を守った事への御礼の言葉を述べられた。


 確かに何も分らず不安がる王妃様の面倒を見た覚えはある。

 食事を分けて、寝るまで側に居た。

 けどそれぐらいで、むしろ助けられたのはこちらの方だった。


 と、そこで王が私に言われたのだ。

 もしよければ側仕えとして王妃に仕えてくれないかと。


 奴隷の私が?!と驚きもしたが、人手不足なので使える相手は率先して取り込むという方針だと告げられた。


 どうやら私は使える相手だと判断されたらしい。

 確かに奴隷から解放されたとなれば、生きる為には自分で稼がなければならない。

 だから、仕事をくれるというならむしろ喜ぶべき事だった。


 それに王妃様に仕えられるなら私も願ったり叶ったりだった。

 ご自分も孤児らしいが、王妃となった後も奢ること無く優しく謙虚な方で、何でも結婚する前には凪国という大国で下働きをしていたらしい。


 そんな事もあり、時々下働きの仕事がしたくなるとかで、二人して下働きの仕事を手伝いに行くことも多々あった。


 まあ――その度に、王様が奥様を捜して大騒ぎになっているが。


 そんなわけで何とかかんとか始まった新生活。

 しかし最初は色々と驚く事も多かった。

 特に後宮事情。

 なんとこの国の後宮の妃妾は全て男ばかりだったからだ。

 確かに全員が下手な美女よりもよほど美しい者達ばかりだったし、男色家という人種ならば美女よりも美男子を侍らせたいだろう。


 しかし、海国の王様の正妃は正真正銘の女である。

 もしかして正妃だけは女にするように求められたのか?跡継の為に?


 悩んでいたところ、宰相様から事情を説明された。


 つまるところ


 王は元々ノーマル。

 だけど、自身がその美しさゆえに色々と酷い目に遭わされた過去から、同じように酷い目に遭わされていた者達、また遭わされそうな男達を後宮に保護しているという事だった。

 妃妾達にしてるのは、彼らを狙う者達へのパフォーマンスなだけで、いわばただのお飾りに過ぎず、大本命は正妃ただ一人だという。


 そんなわけで、王妃様付きの侍女として働き出した私は、そこで運命?の再会をした。

 それは、後宮の妃達(男)を紹介された時だった。


「あ」

「へ?」


 後宮の妃の一人に、過去の奴隷仲間を見つけた。


 その相手は徳妃様と呼ばれ、傾国クラスの愛らしく可憐な美少年だった。

 実際に、国ではないが、この徳妃に溺れて身持ちを崩して家を傾けた貴族は数知れず、また徳妃に横恋慕して争って潰れた家も数知れず。


 現在は、後宮のムードメイカーとして悠々自適に暮しているとか。


 昔は泣いてばかり居たのに――なんて少しだけ懐かしく思った。

 今では完全な悪ガキ――いや、周囲を翻弄する小悪魔だが、一時的に奴隷として同じ奴隷商人の元で暮していた時は本当に泣いてばかり居た。


 当時は私の二つ下の五歳ぐらい。

 昔から恐ろしいまでに可愛く、奴隷商人にまで手を出されかけていたのをたまたま私が助けたのだ。

 おかげで私はボコボコにされたが、そのかいもあってその子は手を出されずにすんだ。

 その後、まるで親鳥に懐く雛のように何処に行くにもついてまわったその子は、それから一月もしないうちに大金持ちの貴族に買い取られていった。

 慰み者にされる為に。

 泣き喚くその子を見ていられず、私は相手に縋り付きまたボコボコにされ、気づいた時にはその子は連れ去られていた。


 その子が今、昔よりも美しくなって目の前に立っている。

 どうやら、ようやく平穏を手に入れられたらしい。


 思ったのはそれだけ。

 向こうが気づいていたのは分ったが、名乗り出る気はなかった。


 私は正妃付きの侍女として、相手は徳妃様として。

 それだけのお付き合い。


 それに、相手は一時的に後宮に保護されている身なだけで、外に出られるだけの力を手に入れ、好きな相手が出来たら出ていく。


 それまでの付合いなのだ。

 だから必要以上に関わる事で、あの悪夢の様な奴隷時代をわざわざ思い出させる必要もないだろう。


 そう思った筈なのに――。





「徳妃、私の侍女は徳妃の遊び道具じゃないのよ!」


 徳妃様を正座させ、自身も正座してひたすら床を叩いて説教する王妃様の横で、私は他の妃様達(男達)に介抱されていた。


「だ~か~ら、王妃様に何度も言ってるでしょ? 頂戴って」

「頂戴って、私の侍女は玩具じゃないのよ!!」


 ぶーたれる徳妃様だが、その顔も酷く愛らしい。

 というか、気づかぬ合間に私の所有権を巡っての言い争いになっている。


「代わりに王妃様の好きなものをあげるから」

「駄目! 絶対に駄目!」

「……ならいいよ」


 全然いいよという顔をしてない徳妃様。

 その時に気づくべきだった。


 徳妃様の本気を。


「ってか、なんで?」

「へっへ~」


 翌日、私は寝台の中で目覚めた。

 裸で。

 しかも隣に裸の徳妃様が横たわった状態で。


「これでもう僕のもんだよね~」


 これはなんだ?お手つき?お手つきか?


 ってか、妃のお手つきってどういう状況だ――


 そんな事を考えて居ると、徳妃様が私に覆い被さってきた。

 その愛らしい美貌が眼前に迫る。

 滴る様な色香をまき散らしながら、ウットリとした笑みが花開いた。


「今度こそ、絶対に離れないからね――ううん、逃がさないからね~」


 そうして交わされた濃厚な口づけに、逃げる間もなく翻弄された私は、もう一度食われた。

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