『海王×海王妃(因縁編)』番外 海王の日記②
某月某日
紅藍達はまだ取り戻せない。さて、どうしたものか。いっその事--。
某月某日
津国で騒動が起きそうだ。諜報活動の為に忍ばせていた者達から報告が来た。さて、これを利用するか。
某月某日
津国王妃が側室に転がり落ちた。いや、自らその地位を譲ったようだ。後任はあの『神形姫』。さてさて、どうなる事か。ただ、津国は『寿那』--いや、『芙蓉』を手放すつもりはないらしい。寵愛を失った妃達のゴミ捨て場とされる『冷宮』に閉じ込めたようだ。まあ、庶民として王宮から放り出されても彼女に待つのはいずれ『死』だ。たとえ王と上層部は彼女を見逃しても、新しい王妃の派閥の者達が許さない。そして、王妃の後見となる者達も。だから、命を守るには側室としての地位を与えて閉じ込めるしかない。
某月某日
腹を抱えて笑うほど見物だった。海国が津国の元王妃に物資の援助をすると決まり、新しい王妃の派閥と後見は笑えるほど慌てていた。いや、苦虫を嚙み潰した様な顔だった。さぞや腸が煮えくり返っているだろう。秘密裏に殺せなくなったのだから。泉国国王にも話を通せば「それはさぞ面白い」と悪い笑みを浮かべていた。あの王にしては何の条件も無しに力を貸す事を約束してくれた。まあ、泉国国王の王妹の件で我が国には借りがあるからな。それに、紫魄が想う相手に逃げられた事には……うん、結構申し訳なく思っていたからな、泉国国王は。何せ、あの泉王「……ごめん、……本当ごめん、本当にすいません」と視線をそらして言ったし。まあ、泉王も自分が恋した女性を妻に迎えているから、もし自分が同じ目にあったら……と置き換えたのだろう。なもんで、暗に海国と泉国の支援を受ける津国の元王妃を害すれば、俺達の国を敵に回す事になる。それは奴らの目的とするものではないから、しばらくは大丈夫だろう。
某月某日
津国では色々と策略が巡らされている。海国と泉国の支援がある為、直接元王妃に害は及んではいないが--。因みに、支援のおかげで無事に紫魄は躑躅と接触を持てたそうだが……予想外にも彼女を自国に連れては帰らなかった。紫魄なりに何か考えがあるのか。好きにさせておこう。躑躅と紫魄が接触を持った事を紅玉に伝えたら、絶望した顔をしていた。何故だろう?それにしても、津国の小蠅が五月蠅い。せめて凪国の支援もあれば良かったが--向こうは無理だな。凪国の王妃が地方に追放になって久しいし。向こうも色々とあったが、まさかあの萩波が彼女を追い出すとは思わなかった。全ては彼女を守る為だったとはいえ……俺なら耐えられない。諜報活動で上がってくる情報では、かなり王と上層部もイラついている様子だが。
某月某日
凪国の様子がおかしい。あと、今までナシのつぶてだった紅藍と楓々の件について、向こうで動きがあった。いや、彼女達だけではない。他の国の--達も、凪国はどうにかして外に出そうとしている。
某月某日
凪国に確実に異変が起きている。諜報活動をしている者達の大多数が外に出された。うちの国の者も戻された。その者達の様子もおかしい。「お願いです、どうか、俺達を」と、どこかうつろな眼差しをして懇願する。そう……自分達を--してくれと。残った者達は自主的に残ったらしいが、今後彼等が凪国から外に出る事は難しいそうだ。確かに、あの国を囲む結界がおかしくなり始めている。外に逃がせる者達だけでも、向こうは何とか逃がそうとしたらしい。自国の者達は目を付けられるが、でも他国の者なら--と。一体凪国で何が起きている?
某月某日
この国にも影響が及び始めた。奴らは凪国を中心に活動しているが、他国にも影響を持っていた。もう、他の国と連絡を取り合うのは危険だ。
某月某日
炎水家が動く。凪国が滅ぶ。凪国国王と上層部から前もって受けた最後の連絡により、凪国の民達は全て同盟国へと逃がされた。後、あの国に残るのは凪国国王と上層部、そして寵姫と王妃。そして奴ら。封印された者達は、炎水家が後に封印解除をしてくれると言うが……いや、むしろ危ないのは残された者達だ。残った王と上層部は奴らを道連れにするつもりだ。封印?いや、消滅かもしれない。
某月某日
三日三晩--いや、一週間における戦いに幕が閉じた。まさか、『果竪』があんな事をするとは……。彼女は眠った。元凶となる存在--彼を連れて共に眠りに就いた。いつ目覚めるともしれない眠りらしい。もしかしたら永遠に目覚めない恐れもあるとの事だった。
某月某日
周辺国への影響は恐ろしい速さで弱まっていく。世界全体に広がっていた瘴気が消えていき、何とか世界は崩壊を免れた。
某月某日
周辺国と話し合い、凪国を援助していく事に決めた。凪国の大地はかなり荒れ果てたが、各国に避難した凪国の民達は自国に帰る事を強く望んだ。各国との交渉を行う者達も現れていると聞く。彼等は言う。凪国が好きなのだと。そこまで民に愛される国が、正直羨ましいと思う。
某月某日
紅藍と楓々が戻ってきた。あの炎水界を巻き込む大事件で、せめて彼女達は守ろうとした凪国国王と上層部によって、彼女達は命を奪われる前に封印された。そして安全な場所で全てが終わるまで保護されていた彼女達。今回の件では、四妃達も色々と大変だった。淑妃と徳妃も……。なんというか、こちらが口を出す前にお互いに話し合う様だ。俺も反省し、紅玉を塔から出した。愛想を尽かされても仕方が無いが、せめて直接謝罪をしよう。
某月某日
紅玉が側に居てくれると言う。愛想を尽かされても仕方が無かったと言うのに。
某月某日
何でも紅藍達は封印されていた間、夢の世界で色々あったらしい。で、淑妃と徳妃がそこで彼女達と再会し、共に色々な出来事を潜り抜けてきたとか。……まあ、あいつらには夢からの影響の方を任せていたけれど、あの大変な時に何をしていたのか。……仲直り出来たのなら良いが……終わりよければ全て良しという事か?とりあえず、彼女達に土下座だけはしろ。
某月某日
凪国は順調に復興を遂げている。あと、紅藍達と淑妃達は仲直りはしたが、まあ関係性としてはマイナスからゼロに上がったぐらいか。あれだけの事をしてそれなら良い方だ。むしろ紅藍達の心が広すぎる、菩薩越えか。
某月某日
紅玉に言った。「別れても良いんだ。それだけの事をしたから。ただ、その場合はきちんと相応の物を負担する。新しい相手……との生活に不足がないものを」と告げたら、紅玉に怒られた。「私達、もっとしっかり腰を据えて腹を割って話すべきだったんです」と言われた。確かに、色々と言葉が足りなかった。むしろ、相手に恋心を抱く事も初めてだったし、好きな相手にどうしていいのかも分からなかった。ただ、俺のしてきた事は全部駄目だという事だけは分かった。「私も悪かったわ。だから……やり直してみよう」と言ってくれた。本当の夫婦になれるかは分からない。けれど、彼女を苦しめた分、幸せにしたい。たとえ、その先に待つのが彼女との離縁だとしても、自業自得なのだ。
某月某日
『後宮』で秘密裏に結婚する者達が現れた。その先駆けとなったのは、淑妃と徳妃だ。ちゃっかりと紅藍達と結婚しているあいつら、要領が良すぎる。……まあ、詫びはしっかりと居れていたみたいだが。
某月某日
凪国が完全復興した。長かった。けれど、嬉しそうな凪国の民を見ると、心から良かったと思う。
某月某日
『果竪』が『封印の間』から居なくなったという。凪国の地下深く--ずっと奥底で彼女は眠っていた。彼女と共に眠っていた元凶は昇華され消えていった。そして彼女の姿も消えた。一体どこに行ったのだろうか?凪国では国民には知れていないが、王と上層部では騒ぎになっているという。
某月某日
それとなく、凪国と同盟を組む国々が『果竪』を探している。けれど見付からない。彼女はどこに行ったのか。
某月某日
『果竪』が居なくなってどれ程の月日が経過しただろうか。紫魄に言うと「数百年は経ってません」と言われた。いや、百年も経ってないだろう。で、その『果竪』だが凪国に現れたらしい。そしてすぐに消えたとか。
某月某日
『果竪』がまた凪国に現れた。で、追いかけっこが行われたらしい。話しでは、『果竪』に昔の記憶は全く無いらしい。彼女は『狭間の世界』から来た。詳しい事は省略するが、彼女を目覚めさせ保護していた十二王家筆頭星家の長姫が迎えに来て、色々と話をしたらしい。
某月某日
あれから、『果竪』はちょくちょく凪国に来るようになった。というか、星家の長姫に引っ張られてきているとか。まだ記憶は戻らない。そんな中で、小梅の生まれ変わりが見付かった。葵花の生まれ変わりも茨戯が見つけたという。あと、美琳と煌恋の生まれ変わりも見付かったという噂を聞いた。
某月某日
凪国ではまだ『果竪』の記憶は戻らない。ただ、津国の方も色々と終わり、もう少ししたら躑躅が戻ってくる。泉国の方も面倒な件が済み、王妹は意気揚々と紫魄と離婚し祖国に凱旋するつもりだ。あの王妹は自分の兄の妻--泉国王妃を慕い……いや、むしろ慕い過ぎて怯えられているようだが、まあ、本神が幸せならそれで良いだろう。泉国との貸し借りは津国王妃の支援で帳消しとした。津国に貸しが出来たが、まあそれはおいおい返してもらう事にしよう。
某月某日
津国王妃が「私、側室で良い。食っちゃ寝最高」とか言ったらしい。駄目だ、あの王妃。色々と側室になっていた時に津王とあったらしいが、どうやら恋愛には傾かなかったらしい。いや、確かに津王--暎駿は色々と酷い事をしたが、それ以上に絆が深まる様な事もあったと思う。あと、何故か『神形姫』が覚醒し、彼女をお姉様と呼んで慕っている。周囲に従うだけだった『神形姫』は今や『内なる覇王の気質を持った獅子姫』に変わってしまった。周囲はさぞ驚いているだろう。後は、奴らの首筋に噛み付くだけだ。
某月某日
『獅子姫』が津王に忠誠を誓い、彼女は『後宮』に留まる事になった。貴妃として。開かれた『後宮』を一気に閉じる事は出来ないが、自分の意思を無視して後宮入りさせられた者達の行く末が決まるまで、『後宮』を統括するのだと言う。
あと、何気に『冷宮』に幽閉されていた筈なのに、『後宮』で信望者を増やし、派閥を無意識に作った『芙蓉』は年若い妃達からお姉様と呼ばれて慕われている。しかし彼女はあくまでも側室の地位を維持したいらしい。なんか一騒動ある気がする。
某月某日
最近、紅玉が夢で魘されるようになってきた。聞こえてくる言葉は、昔の男達の事。
某月某日
凪国で諜報活動をしている者達に、奴らの事を探らせる。あえて今までは詳しく探らせていなかった。探らせれば、もう止められない。きっと、皆殺しにしただろうから。思った通り、奴らはのうのうと生きてきた。
某月某日
新しい縁談が来ている。紅玉との間に子供が居ないのは紅玉に原因があるとして、新しい女性を--というふざけたものだ。しかも、その縁談の娘が問題だ。あの、紅玉の子を殺した男--いつか地獄を見せてやろうとは思っていたが、良い度胸だ。とりあえず、まともな奴らとそうでない奴らを選別しておこう。
某月某日
二年に一度の凪国の会議がある。そこで、俺と縁談の娘を会わせようと画策しているらしい。凪国からも心配する書状が届いた。とりあえず、会議は予定通り出席するつもりだ。ただ、絶対に奴らに一泡を吹かせてやろう。そう決めた。
某月某日
萩波から嫌な内容が書かれた書状が届いた。何でも、紅玉の過去の男達が、紅玉を狙っているという。大国の王妃となった紅玉を利用しようとしているのだろう。ただ、美しく綺麗になった紅玉を純粋に狙っている部分もあるらしい。「切り落とすか」と呟き、阿蘭と雲仙に怯えられた。
某月某日
紅玉の顔色が更に悪くなっている。夢で魘され泣いている事も多い。可哀想に……あんな奴らの為に苦しむなんて。本当に腹立たしい。
某月某日
とりあえず、あいつらについての情報はずっと上がってきている。色々な事をしているようだ。凪国の方でも情報は集めているが、手が出しにくい状態のようだ。だから、幾つかこれはという情報を売り渡す。凪国に比べれば諜報活動能力は落ちるが、それでも海国の諜報活動の力はまだまだ捨てたものではない。
某月某日
明日、凪国に向けて出発する。紅玉もついていくという。本当は調子が悪いから海国に置いて行きたいが「カルアの、貞操を守らないと」とか変な頑張りを見せられた。むしろ紅玉の貞操を俺は守りたいのだが。
某月某日
術で飛んでくれば良いでしょうと萩波に言われた。けれど、紅玉との滅多にない旅行だ。ゆっくりとしたい。それを紫魄に言ったら「……いってらっしゃいませ」と言われた。思い切り「羨ましい!」という心の声が聞こえた。まあ、躑躅と結婚してから紫魄は一緒に旅行なんて行ってないし……今度、頑張って休暇を贈るか。
某月某日
『後宮』の妃達からくれぐれも王妃を頼むと言われた。貴妃などは「王妃様に近づくものは全て叩きつぶしてくださいませ」と言った。相変わらず過激な男だ。他の三妃も似たようなものだが。あと、上層部も「やれ心配だ」とか「やれ王妃様は此処においていった方がよいのでは?」とか「凪国に居る不埒な輩が王妃様に近づいたら」とか五月蠅かった。今更言うな。あと、「やっぱり連れて帰ります!」とか言って紅玉を連れて行こうとするな、貴妃。どこまで王妃好きなんだ。
某月某日
凪国に辿り着いた。奴らが居た。紅玉が倒れた。ショックだったのだろう。ただ、奴らの目を見て分かった。とっとと潰そう。あれは駄目だ。奴ら、紅玉自身を狙っている。