名前に込められた意味が正しいとは限らない。
——やーい、吉田のガリガリー!
ぼくは標準体型よりはるかにマイナスの体重だ。そう、いわゆる痩身とも言える。それにも関わらず名前は『吉田 太字』だ。だからと言って、同級生という理由だけで名前と体型を同時にイジっていいものではない。それに親族であっても名前と体型いじりをしてはいけない。
学生時代にこの名前が理由でイジられ続けた。そして、それはいじめに発展し、気づけば不登校となった。家で親に『どうしてこんな名前にした!』と抗議を続けた。そして、高校生の頃に両親が離婚した。
さらに、ぼくが懐いていて引き取ってくれたお父さんが就職面接当日に交通事故で亡くなった。結果、祖母のもとで生活することになった。複雑なことに両親は不仲なのに祖母同士仲良く、ぼくの両親の離婚後に祖母同士でシェアハウスをしていた。
「太字はお母さんやお父さんが憎いかい?」
「ぼくを……その名前で呼ばないで」
祖母とは言っても名前をずっと知らない。それに年賀状も送ることもないし、話す時もおばあちゃん呼びだった。さらに、母の旧姓すら知らない。だから、ぼくからしたら他人に等しい。そして、ふたりをぼくの大嫌いな『太字』という名前で呼ぶくらいにしか認識していない。
「わたしゃ孫の名前がかわいそうだから、『太い』という字は使うなと言ったんさね」
「だったら、なんで両親は母方のおばあちゃんの言うことを聞かなかったのさ」
「それは……」
母方のおばあちゃんが言い濁っている。
「そりゃ、すまねぇ、わしゃの息子がとある病気で昔から手に力が入らなくて細い字しか書けないから、せめて、息子には太い字を書けるようになってほしいということで太字としたのさね」
父方のおばあちゃんは言葉を発した。いつもニコニコ微笑んでイエス婆と父さんから言われていた時のような朗らかな顔ではなく、どこか真剣で申し訳なく見える。
「……だとしても完全に……」
ぼくが言おうとしているの言葉は思っていても言ってはいけない言葉だ。
「止めなかったおばあちゃんふたりとも両親と同じだ」
この言ってはいけない言葉を発した後、ぼくは妙な罪悪感が来た。確かに世の中には孫の名前に口を出す祖父母はいるとよく聞くが、この祖母ふたりとも今の話を聞けば止めた側だ。
「ごめん、言い過ぎた」
母方の祖母は謝ったぼくを諭そうと……どこかで冷たく、どこか許すかのような顔で返事をした。
「太字、あなたは名前が嫌いなのはマイナスに取れる漢字が入っているから嫌い。それはわかるのさね。ただ、忘れないでほしいさね。あなたがマイナスな漢字が嫌いなようにわたしゃたちも太字からマイナスなことを言われるの嫌なのさね」




