浅瀬
今日の外は静かだった。青白い光が窓を染めている。
布団が重い。何かを含んだように重くなっていた。
水だ。
「おはよう、美月」
布団の中には水に濡れた少女がいた。裸の体を私に寄せて眠っていたようだ。
「クラリス?」
私の問いに少女は頷く。水槽に目をやると倒れて水を撒き散らしていた。
彼女の体が透明に見えた。
事実ではなく比喩だ。
「クラリス、私のお話聞いて出てきてくれたの?」
しっとりと濡れた髪が私の服を濡らす。
「そうだ。君の命に危うさ感じた。私はそれを許すはできない」
少し崩れた日本語でクラリスは話す。
(私から言葉を知ったのかな)
私はもっと正しい日本語で話せばと軽く後悔をする。時計の秒針が音を立てて時を刻む。
その音はだんだん速さを増しているように思えた。
クラリスが布団から滑るように落ちた。ぐにゃんと違和感のある起き上がり方をする。
浮き出た頚椎を横目で眺める。
クラリスの体はまるで人形のようだ。
人の歪みを微塵も見せなかった。
「今日は出かけないか?もうこの時間、いつも君はいない」
今日私は学校を休んだ。昨日の彼奴の言葉が私の足を動かなくさせた。
クラリスは不思議そうに私を眺める。
「今日はいいの。ここでずっと息をしていたい気分だから」
濡れた布団から這い出る。クラリスは裸のまま、ぽかんとした表情で突っ立っている。
◇◇◇
「だから今日休んだんだ」
クラリスは私の話を静かに聞いていた。ただ私を見つめる彼女の顔は石膏の彫像のように見える。
「君を殴るやつは、嫌いか」
話し終えた私にクラリスは問う。回答の選択肢は一つしかないように思える。
「嫌い。殺したいくらい嫌いだよ」
私の言葉にクラリスは答えない。波ひとつない海は私の言葉により波紋を作る。
「話、もっと君と話がしたい」
彫像の顔に僅かな揺らぎが見える。雨の音は気付けば小さくなっていた。
◇◇◇
クラリスとの話は常に少しの歪みが見えたが心に潤いを与える。
「君の話は、楽しい。明日も続けたい」
今日は息がしやすい。久しぶりの会話に私は息も忘れかける。
この時間が続けば、私とクラリスの気持ちが初めて通った。
「明日、か。ずうっとここにいたいな。学校なんて行きたくない」
外の雨は一日中降り続いている。屋根をつく雨の音が聞こえた。心なしかさっきよりも雨足が強い。
「奴等のせいか?」
クラリスが俯く私を覗き込む。作り物のような青い瞳が瑠璃のように見える。
光を通さない深い青。
「それだけじゃないよ、私が悪いの。あの人たちを怒らせちゃったから」
暗い部屋の中に小さなランプを灯す。ぼんやりとした光が二人を照らす。外の雨は豪雨になった。時々外が眩い閃光に包まれる。
私は自分が沈むような感覚を感じた。深い深海に、ただ一人で。
「あの人たちは、私が大嫌いなの」
昨日同じものが目元を流れる。昨日と違って今日のは冷たい。




