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海月の浴槽  作者: ぴあす


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雨粒

「おはよう、クラリス」


 ふわふわと水槽を泳ぐ海月。私の声には答えてくれなかった。


 ため息を付きながら制服に手を通す。

 憂鬱な一日が今日もまた始まってしまう。

 建物の隙間から射す朝日が私の視界を奪った。電車の窓から見える光景はいつも変わらない。ただ流れてく風景を何も考えずに眺める。この時間が私が唯一息を吸える瞬間かもしれない。


「クラゲ。今日も来たのかよ。昨日あたし言ったよな?次来たらぶん殴るって」


 校舎裏、私は羽をちぎられる。二度と飛べないように。

 声を上げても、何も変わらない。


「クラゲ何だから水が欲しいよな」


 バケツの水が私に降り注いだ。

 口に何かが入った。吐き気がする。


「次はないから。明日顔見せてみろよ、ぶっ殺してやる」


 ゲラゲラと笑いながら奴らは離れていった。

 私がクラゲなら彼奴等は蛇だ。

 濡れた服が重い。

 チャイムの音が聞こえたが私は動けなかった。


「クラリス、あたしどうすればいいのかな」


 空の色は薄暗い灰色だ。

 地面に寝そべって空を見上げる。

 頬に冷たい雫が落ちた。

 空が私を見て泣いている。きっとそうだ。


 ◇◇◇


「ただいま、クラリス」


 体から雫が滴る。学校を早退して帰り、直ぐに水槽の前に座り込む。


「クラリス、私さ。そろそろ限界なんだ」


 窓に雨が打ち付ける。部屋の中の静寂に相対するように雨音は強さを増す。顔を滴る雫の数が増える。冷たい雫の中で一筋、温かいものが落ちた。


「君には私の声が聞こえてるの?図鑑で見たんだ。君たちには心がないって」


 海月はふわふわと水槽を舞う。その姿は憂も歓も感じられない。


「いいな」


 雨の音は強さを増す。薄暗い部屋を押しつぶしそうなほどに。

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