お茶会
世界規模のデスゲームが行われる3ヶ月前。
私は友人たちを誘ってお茶会を開いた。
場所はいつものハートの女王のお城の庭園だ。
メンバーは3人。世界を支配する優秀な特権階級の集まりである。私は銀行王と呼ばれ世界の銀行を支配している。あとは石油王、戦争屋、投資王と呼ばれる各分野の支配者だ。テーブルには紅茶にコーヒー、ホールケーキ、クッキーが並べられている。
ハートの女王の椅子だけど背もたれがハートでレザーチェアだ。クッキーにもハート型が混ぜられ無類のハート好きなのがうかがえる。
彼女はアクセサリーやピアスもハート型で服にもハートマークが入っていてハートづくしだ。黒い髪赤い瞳でハート型のルビーの宝石が取り付けられた王冠を載せた可愛い女性である
世間話をした後、私は本題に入った。
「貧困、格差、地球の温暖化、資源の枯渇、いろんな社会問題があるけど、みんなは何が気になる?」
逆への字型のひげをいじりながら石油王が口を開く。
「地球の人口が多すぎる。なんとかせねばなるまい」
トゲトゲの髪型をした童顔の意地悪な目をした戦争屋がアイデアを出す。
「デスゲームで減らすっていうのはどうだい?優秀な人類だけを残す」
投資王とも呼ばれるハートの女王はひじをついて組んだ手の上にアゴを乗せる。
「とってもいいアイデアだわ。賛成よ♡」
私は心底ガッカリした。ハートのお城に集っているのにだれからも愛を感じられない。非情な発言ばかりだ。
「みんな聞いてくれ。いま人類が滅びそうになっている原因は傲慢で他者への愛情を欠いた人間が権力を握ったせいではないだろうか」
世界を支配する富裕層、特権階級たちは貧困層に対する愛情が不足している。もちろん私のように慈善事業に熱心に取り組むやさしいお金持ちもいる。しかし、圧倒的に貧者に冷たいお金持ちが多いのも事実だ。富を分けあえば今日にでも貧困や格差の問題は解決するのにそれをしていない。我々は寝ていてもお金がはいってくる。毎日、裕福な暮らしをして贅沢三昧だが、歯医者や皮膚科にお金がなくていけない子供だって多い。物質的に得たものや精神的に得たものはわけあうべきである。
「優劣ではなく友愛が支配的な社会を目指すべきだ!」
手でハートマークを作って見せた。
私の熱い想いを聞いたみんなはどう反応するのか。石油王は首を横に振る。
「きみは甘いよ。野生の世界は弱肉強食だ。人間もそうあるべきなんだ」
戦争屋は唇を尖らせて両手を頭の後ろで組む。
「サラブレッドだって家畜だって優秀な遺伝子だけを残してるぜ」
投資王はハート型のクッキーを両手で持って割った。
「下等な人間は残らず淘汰されるべきよ」
私はこれ以上、彼らと話しても無駄だと悟った。
「私ときみたちでは価値観が違うようだ。この溝は決して埋まらない」
パチンと指を鳴らす。
ウサギ、コアラ、ネズミのマスクをしたスタッフが近くの茂みから姿を現す。手にはピストルや機関銃、猟銃を持っていた。
「なんだっ!?」
「どうしたっ!?」
「くせものっ!?」
驚いている友人たちに説明する。
「私の部下だ。逆らえば撃つ」
私は両手を広げ高らかに宣言した。
「デスゲームのルールは私が決める。ゲームにはきみたちも参加してもらう。新しい世界の王を誕生させるのだ」
私は恍惚の表情と狂気に満ちた瞳を浮かべる。
ハートの女王はつぶやいた。
「あなたいかれてるわ」
いかれ帽子屋か。悪くない。いかれてないとこの狂った世界を変えることなど到底出来やしない。私は良いあだ名をくれた彼女に丁寧な微笑みを返した。
それからお城を私のものにして友人たちを地下の牢獄にぶち込んだ。ホールでスタッフミーティングを行う。大きな机をさまざまな動物たちが囲んだ。スタッフは個人情報の流出を防ぐために動物マスクを被させている。通気性の良い肌にやさしい特別な素材を使っている。ミーアキャットのマスクをした女性スタッフから質問が飛ぶ。
「何人でスタートさせましょうか?」
「100人でスタートさせてくれ。会場が大きい時は200人でもいい。ステージが開き次第、どんどん次のデスゲームをスタートさせるんだ」
「かしこまりました」
シロクマスタッフが手を上げている。
「うるさい参加者は撃っていいすか?」
「悪人ならよし。善人は生け捕りだ。不明の場合もな」
「押忍」
3日でデスゲームのルールは決まった。不備があればその都度、変えていくこととする。私は世界各地で行われるデスゲームの様子をソファーに腰かけ大きなモニターでチェックしていた。見ていると気になる参加者が現れる。金髪の青いリボンをした美少女だ。
「この世界に必要ない人間なんていないんだからねッ!」
握った拳を胸に当てて熱く叫んでいる。不人気投票で自己犠牲を名乗り出たようだ。ルール説明がされて名乗り出るまでがおそろしくはやい。世界最速記録だろう。
そばに控えてるパンダのマスクをしたスタッフに問いかける。
「1番の名前は?」
「イナバアリスさんです」
「いいね」
私は立ち上がる。
「現地に飛ぼう。王のヒナを見つけたかもしれん」
「了解です」
私はプライベートジェットでアリスのもとに飛んだ。移動中もスマホでデスゲームの様子をチェックする。アリスは力尽きそうな参加者に手を差し出して救ったり、解答用紙をみんなに見せてあげたり、人を傷つけられないから戦えないと叫んだり、善意の塊のような行動をとった。私は思わず叫んでいた。
「すばらしいッ!」
現地に到着してスタッフによるアリスの採点を見ると世界初の満点だ。彼女のような王に仕えたいと言う意見も多数に登った。
私はアリスに世界の王になって欲しいと懇願した。彼女はとまどっていたが友人の後押しや万全のサポートを約束すると引き受けてくれる。
数ヶ月後、やさしい人間だけが残りその中でも特にやさしい人間が世界を支配する女王となったことで、地球上のありとあらゆる問題が解決した。道徳を中心に回る世界ではお金ではなくやさしさが1番の価値となり人間をはかる尺度になる。みんな進んで善行を行った。
平和になった世界で初めてのお茶会が行われることになり私も招待を受ける。庭園に行くとアリスは友人と動物スタッフに囲まれて笑っていた。ウサギやカッパ、クマやネコに混ざって老人や女性、少年が幸せそうに談笑している。まるでメルヘンの世界だ。これぞ私の待ち望んだ世界の形である。
きのこイスに腰かけた私は感極まって涙がこぼれたのでハンカチを取り出して拭いた。多くの犠牲を払ったが世界規模のデスゲームを開催した価値はあった。命を失った参加者たちに誓う。あなたたちの尊い犠牲に報いるためにも世界平和を永遠に維持できる体制を構築します。そのためにアリスの物語を本にすればいいのではないか?それなら後世の人々もアリスを見習う。私はハート型のクッキーをつまんだ。
参考文献 不思議の国のアリス・ハンターハンター・フォールガイズ




