帽子屋
ドクロ部屋に入ると行列ができていた。行列の先でオオカミのマスクを被ったスタッフが机に座り書類を確認してハンコを押している。ものすごいスピードで書類をさばいている。オオカミの隣には羊のマスクを被ったスタッフが佇んでいて、処理し終わった書類を足早にどこかへ運んでいた。オオカミの後ろには2つの道があって、片方は明るいライトで照らされ、もう片方は暗い。天国か地獄みたいな感じだ。
猟銃を持ったキリンマスクのスタッフが声をかけてくる。
「列に並んでください。明るい道が生存コース。暗い道が処刑コースです」
「はい」
わたしは最後尾に並んだ。オオカミに近づいていくとわかったことがある。机の上の書類は参加者のデータで監視しているスタッフによる採点だ。オオカミの押しているハンコは処刑と押印するためのハンコで生存者には押さないようだ。
「処刑!処刑!生かす!生かす!生かす!生かす!」
生存できればデスゲームの再チャレンジができる。いよいよわたしの番が回ってきた。オオカミはわたしのデータを見てあごに手を乗せた。
「ほう」
思わせぶりだ。わたしはドキドキして判決を待つ。
「処刑!」
期待させやがって!列が詰まっているのでわたしは早歩きで暗い道に向かった。
キリンのスタッフだけじゃなくてワニやパンダのスタッフも武器を携えて警備しているから逃げることもままならない。わたしは暗い道を突き進んだ。扉に突き当たる。この先に待つのは絞首台かギロチンか。それとも銃殺?覚悟を決めて突き当たりのドアを開ける。
パーン!と銃声が響き渡った。わたしは胸を押さえる。あれ?痛くない!
「おめでとうー!」
シャンデリアに照らされ赤い絨毯が敷かれた部屋でネコスタッフが鳴らし終わったクラッカーを持って立っている。銃声じゃなかった。鉄郎おじいさんとハカセちゃんとユウキくんが拍手で迎えてくれる。わたしは呆然と立ち尽くした。
これはいったいどういうこと?混乱していると、シルクハットを被った若い紳士が現れた。
「私から説明しよう」
「あなたはだあれ?」
「運営責任者の帽子屋だ。よろしくイナバアリスくん」
「よろしく帽子屋さん」
「このデスゲームはサイコパス遺伝子の駆逐を目的としている。サイコパスは死ぬまで戦い続ける仕組みだ。自己中心的で暴力的な人間を排除し、利他的でやさしい人間を残すんだ」
「なるほど!」
一瞬で理解した。わたしは幼少期より帝王学を学んでいるからサイコパスについて詳しい。わたしの知っているサイコパスの特徴は感情が欠如していて罪悪感、良心、共感、後悔がない。冷酷無慈悲で他者の痛みを感じない。
平然と嘘をつき、人を操る。衝動性が強く感情のコントロールができない。自己中心的で自分の利益が最優先。魅力的な外見で社交的で人を惹きつけるけど中身は空虚。などがあげられる。13番は当てはまってる点が多いね。
外見は悪に憧れる人にとっては魅力的に写るかも。
サイコパスは戦乱や資本主義社会という競争社会では頭角を現しやすく組織や国の支配者であることが多い。もちろん凶悪な犯罪者であることも多い。
「サイコパスってなんですか?」
ユウキくんが帽子屋さんに質問する。
「ひどい人間のことさ。サイコパスは共感性(他者の感情を自分ごととして感じる力)と良心の呵責(罪悪感)が著しく欠如していることが最大の特徴で、感情面、対人面、行動面で自己中心的、衝動的、無責任な行動が見られるけど、相手の気持ちを「理解する」ことはできる。この「わかるけど感じない」状態のため、他人を巧みに利用したり操作したりすることができ、一見魅力的でも冷酷な振る舞いをすることがある。見かけたらすぐ連絡をくれたまえ。粛清する」
「ありがとうございます。そういう人はいないほうが世界のためですね」
「サイコパスは人の上に立つことが多いんだ。困ったことにね」
帽子屋さんはなげく。
格差社会の放置や貧困、戦争、虐待、自然破壊などの問題解決が進まないのはサイコパスたちが動かす世界だからかもしれない。
わたしの知る上流階級の人間も弱者を切り捨てる思考の人間が多かった。弱く貧しいのは自己責任だととらえているのだ。彼らには世界を良い方向に変える力があるのに発揮しようとしない。富をわけあうと自分のお金が減るしお金で人を支配できなくなるからね。支配欲のために貧しき人たちを放置するのはちょっとしたサイコパスと言えなくもない。わたしも同類ですって?
わたしは当主じゃないからイナバ家のお金を動かせないだけで当主になれば今よりもっと貧しい人たちに富を分け合うつもりでいる。人の痛みに関心があるから、断じてサイコパスじゃない。
帽子屋さんは世界が歪んでいることを憂いてサイコパスが支配する世界を変えようとしているんだ。ハカセちゃんが帽子屋さんに問う。
「データが採れる前に脱落した参加者はどうしているんですか?善人か悪人かわからないですけど?」
「どちらか判断つかない人間も再テストしている」
「わかりました。そういうことだったのね」
ハカセちゃんは満足そうだ。デスゲームのルールはだいたい把握した。わたしはてっぽうの形の手をあごにそえる。自分の命を犠牲にしたり、他人を助けるようなやさしい人間を生存させて、他人を蹴落としたり、平気で傷つける人間は命を落とすまで戦わせ続ける仕組みなんだ。それだと、わたしは無駄に生き残ってただけで、とっくにテストに合格していたのでは?
帽子屋さんはひざまずく。
「アリスくん、きみはすばらしい!世界最高得点を叩き出した!この記録を破るものは今後現れないだろう!この世界の王になってくれないか?」
「えっ?」
「頼む!万全のサポートを約束する!」
「わたしにはムリだよ!王様なんて!」
「きみならできる!友だちもみんな賛成してくれてるよ!」
鉄郎おじいさん、ハカセちゃん、ユウキくん、ネコの女性スタッフはもろ手をあげている。
「賛成だよ」
「さんせー」
「賛成じゃ」
「さんせいにゃん♩」
ネコスタッフはまだ友だちじゃないけどまあいいや。ネコは好きだ。わたしはみんなからの懇願を受けて王様になることにする。世界を善き方向に導く女王様の誕生だ。
その後、リボンの邪魔にならないように小さいサイズの王冠を頂いたわたしはハートの女王の城にあるハートの玉座に君臨して世界を平和に導いた。




