夫婦の日常 #4 〜 裏の裏は表 〜
今日はカレー作ります。
「ねー、今日はカレーでいい?」
「いいよ〜。どうせ残っちゃうから、市販のカレーでいいよ。」
うーん、なんでそういうやる気がなくなることをさらっと……。
「いんや、ツナカレーにします。作るよ。作っちゃうんだから。」
「そうなの。だったら、チキンカレーかなぁ。」
そこは、主張するんだね。
なんとか、このチキンカレー風味の流れを変えたい。
「じゃあさ、とりあえず、買い物行かない?玉ねぎとにんじんくらいしかないし。」
「行こうか。」
私たちは、車でスーパーに向かう。
店に入って、青果売り場を目指して歩いていると、
「さて、野菜は……。」
ん? いない。どこいった。
周りを見回すと、ブロッコリーの前で選ぶ体勢を整えている、彼を見つけた。
んん……ブロッコリーか。サラダが食べたい?
それを察した私は、きゅうりをバラで1本選んでカゴに入れた。
千切りキャベツも一緒に。
あ、ミニトマトもかな。
バッチリ。
一通りサラダの材料を整えて、夫の元へ向かうと、
まだ、ブロッコリーに足止めを食らっていた。
ポリ袋を手に選んでいる彼に、近づいて声をかける。
「いいのあった?」
「うーん、まぁ、これかな。」
「じゃあ、それでいこう。」
夫がカゴを覗き込みながら、ブロッコリーを入れる。
「サラダ作るんだ?いいね。」
……え?
サラダのブロッコリーじゃなくて?
何ブロッコリー?
「サラダに入れるブロッコリー、選んでたんじゃないの?」
「いやぁ?クリームシチューにはブロッコリー入れるかと思って。」
ん?どこで、シフトチェンジしたんだろう……。
「……なるほど、カレーじゃなくて、クリームシチューが食べたいのね。
ブロッコリー入ったやつが。」
「あぁ、そうか。カレーでもいいよ。サラダも食べたいし。」
よし、ここは折衷案で、クリームシチューに鶏肉、ブロッコリーを入れて、
サラダは、ツナサラダでいきましょう。
「いいよ。クリームシチューにしよう。
せっかく買い物しに来たんだから。一緒に食べるパンも買えるし。
ルーだって、カレーでもクリームシチューでもいいんだから。」
「パン?ご飯にかけないの?」
「え?パンが合うよ。……ご飯もドリアみたくなって、いけるかもしれないけど。」
「そうだね。どっちでもいけるね。」
うっ……。
「じゃあ、パンにします。シチューが残ったら、ドリアにします。チーズも買って。」
「恵に任せるよ。そこは。」
勝ち?たぶん……。
ん?どっちでもいいか。
どうでもいい抵抗に、若干反省しつつ買い物を終えて、自宅に戻る。
そして、私はクリームシチューに取り掛かる。
切った野菜を煮込み始める。顔に当たる湯気が厚いのに、
匂いに釣られてしまう。
鍋の火を少し緩めて、蓋をする。
その間にサラダの準備。
冷蔵庫を開けようとした時、
「なんか手伝おうか?」
夫が声をかけてくる。
「じゃあ、サラダ用の千切りキャベツ洗って。」
「了解。」
「きゅうりも、スライサーでシャッシャしといて。」
「了解。」
「あ、ミニトマトもあるからね。」
「……うん、まずはキャベツ洗うわ。」
「あ、そうだね。お願いします。」
私は、煮込み終えた鍋にシチューの素を溶かし入れる。
「いい匂いだねぇー。」
「うん。」
少し横目で様子を見ると、彼はきゅうりのシャッシャ中。
スライサーがカタカタずれてやりにくそうだ。
声をかけようとしたら、彼がスライサーの向きを変えて、音が止まった。
それを見届けたあとは、ブロッコリーを茹でるため鍋に火をつける。
夫は、その間にサラダの準備を整え、ミニトマトを添えているところだった。
あ、ツナサラダにしようと思ったんだ。
「ねー、ツナものせてね。」
「え?ツナなくてもいいよ。」
本当は、コーンも入れたいくらいだよっ。
「じゃあ、いいよ。私のだけツナのせるから。」
「いや、なら、俺ものせるよ。」
「うん、コーンものせていい?」
「少しね。」
夫の声を聞いて、たっぷりに決めた。
コーンをスプーンで掬い、2スプーンずつ入れる。
茹で上がったブロッコリーを添えて、完成。
楽しい調理時間が終わり、早速食事をしていると、
「パンはさ、焼かないで、柔らかいまま食べた方が好きだな。」
と、焼いていないパンを食べながら、ぽつりと言う。
「それ、焼いてないから、すごくいいってことだね。」
「はい、最高です。」
「美味しいねっ。」
食事を終えた後、私が洗い物をしていると、夫が言った。
「明日は、カレーがいいかな。」
ん、スポンジに洗剤をかけながら、返事をする。はっきりと。
「え、明日はドリアだよ。」
「……そっか。」
だって、私はもう、ドリアの舌になってる。
洗い物をしながら、少し彼の様子を覗き見ると、
彼はまた、パソコンのゲームを始めてしまいそうだ。
「ふぅ……。」息をついた後、洗い物の続き。
まだ、食べ終えたばかりのシチューの皿に水をかけたら、
すぐに流れ落ちていった。綺麗に。
水の流れる音が早すぎて、少し緩めた。
彼はもう、明日のカレーには興味はないだろう。
それでも、
ちょっとがっかりした声を聞くと、
考えてしまう。
私だって、意地を張ってみたい時も、あるんです。
いつも同じでは、いられないから。
——長い長い、人生だから。
それにしても……今日のご飯もおいしかったぁ。
大切な人と食べられるご飯は特別って、ことかな。
「恵、洗い物手伝おうか?」
「大丈夫。もう終わったから。」
こんなふうに、あたたかい言葉をくれる人と。
「じゃあ、コーヒー入れるよ。」
「うん。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
夫婦の当たり前の日常の中で、
ほんの少し何かを感じながら通り過ぎた——
そんな一日を物語にしました。
そして、その中に残ったものが、
夫婦の積み重ねになる。
私は、そんなふうに感じています。




