月曜の予熱
金曜の夜になると、彼は急に“家族の男”に戻る。
土曜の午前、
彼はどんな顔で“おはよう”と言っているのだろう。
日曜の夜、
誰に触れて眠るのだろう。
月曜の朝、私は自分の体温だけが残ったシーツを抱きしめる。
そして夜になればまた、
彼が扉を叩く音に心臓が跳ね上がる。
平日の夜は、彼はワタシだけの恋人。
彼に抱き寄せられた瞬間、
呼吸より先に熱が溶けていく。
触れただけで、
私は“求める側”にされてしまう。
彼が首筋に唇を落とすと、
淡い痛みと快楽が重なって、
胸の奥にじんわり火が灯る。
その場所に吸い寄せられた瞬間、
肌の内側まで彼の痕で染まる気がして、
腰が無意識にゆっくり沈む。
──だから、返したかった。
同じように彼の肩へ顔を寄せる。
目を閉じれば、
柔らかい皮膚の下で脈が跳ねているのがわかる。
そこに跡を落とせば、
少しだけ“同じ熱”を共有できると思って。
けれど、
触れる一歩手前で理性が追いつく。
その肩には、
週末の光の匂いがする。
子どもの笑い声や、
皿を洗う水音や、
ワタシの知らない誰かの、
ワタシのものじゃない彼の、
時間が貼りついている。
その現実に触れた瞬間、
ワタシは唇を止めてしまう。
何もしていないのに、
まるで拒絶されたみたいに胸が軋む。
--でも、身体は止まらない。
彼の指が腰に触れるだけで、
下腹部がゆっくりと溶けていく。
内側の柔らかいところが、
息を吸うたびに、唇を重ねる毎に、
水を含むように疼く。
理性が冷えても、
そこだけは彼を欲しがるまま、
熱を逃さない。
太ももがかすかに擦れ合って、
小さな音が部屋に落ちる。
彼の手がさらに深いところへ触れた瞬間、
喉の奥で声にならない息が震えた。
彼の指先は、まるで
“ここだけは本物でいろ”と命令するみたいに熱い。
跡は残せない。
首筋には傷を返せない。
それでも身体だけは、
彼の夜を受け入れるために準備してしまう。
彼の嘘と私の本気が絡み合って、
ベッドの皺に落ちていく。
金曜には、彼は消える。
週末の光に溶けていく。
ワタシの中には、
触れられた場所の余熱だけが
じんわりと残り続ける。
そしてまた月曜の夜、
彼が扉を叩くと、
理性より先に身体が反応してしまう。
--跡は残せない女でも、
身体の奥にだけは、
彼を刻みつづけてしまう。




