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ティー・ブレイク!  作者: 汐良 雨
イノセントワールド

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17

「複製と置換というのは」


 レガリアが唐突に切り出した。


 杏花と朔弥を寝室に残し、あとの全員はリビングらしき部屋に移動していた。四人がけのダイニングテーブルと、三〜四人ほどが座れそうなソファが置かれている部屋で各々好きに腰掛けてくつろぐ中、扉の前で立ったままレガリアが続ける。


「使いようによっては、不老不死すら叶える魔術なんだよ」

「使いようによっては、だけどな。だが、相手は悪魔だ。そんなものが必要だとは思えないが?」


 ファイが眉間に皺を寄せながらそう言った。レガリアは軽く頷いた後、軽薄そうな笑みで全員の顔を見る。


「悪魔が自分自身に使う分には、ね。だが、それをちらつかせて人間を惑わすこともできるだろう」

「それこそらしくないだろう。悪魔がそれをちらつかせてまで人間なんかに何をさせるって言うんだ?」

「何もさせなくていいのさ。ただ、その末路を見届けるだけ。それを手にした人間がどうなるのか、ただそれを見たいだけなんだから。……まぁ、僕が会ったあの男は違うようだったけど。おそらく彼もまた、惑わされただけの哀れな男だったんだろうね」

「なるほどな。悪魔ってのはどいつもこいつもお前みたいな享楽主義なんだってことがよくわかった」


 ファイが何でもないことのように受け流したその情報に、有羽だけが嫌悪感を露にする。キッとその目つきが鋭くなる。


「それで、そのクソ野郎の居場所に目星はついてるの?」


 有羽が語気を強めてそう言った。


「さあね。けど、余興の一つを僕が壊してしまったわけだし、そのうち向こうから接触してくる可能性も無くはないだろう」

「壊したのが貴方だとわかった上で接触してくるような小物なら、貴方がすでに捕捉できているでしょう」

「小物ならそうだけど、逆の可能性もある」

「逆って……あ……」


 言いかけて、有羽の背筋に冷たい何かが這う。


「相手が僕だとしても気にせず接触してくる、僕と同等か、それ以上の大物ということさ。僕が会ったあの男も、程度は低いが悪魔だった。橘朔夜自身も、ファイの姿を一目見てファウストの末裔だと分かるのならば、それなりに長く生きてきた悪魔だろう。なら、彼らの親玉はその二人よりもずっと力を持った大物だと考えたほうが辻褄が合うと思わないかい?」

「……けど、あたしは貴方以上の大物になんて会ったことないわよ?」


 有羽の声は心なしか震えている。


「いや、そうでもないと思うぞ」


 声を震わせる有羽に反して、そう言い切ったファイの様子はあまりにも平然としている。


「こいつは態度こそ尊大で大物然としているが、魔界ではそれほど地位が高くない」

「いかにも」


 言われたレガリアが何故か得意そうに鼻を鳴らす。


「僕に比べればそこに居るオリアスや、君の学校のダンタリオンの方がよっぽど地位が高い。まあ、彼らはその地位をひけらかすようなこともないから知らないのも無理はないけどね」

「いかにもじゃ」


 レガリアにそう言われたオリアスは、今度こそ何の不自然さもなく得意げな顔をする。


「まあ、地位だけの話じゃがの。直接戦闘になったとしたら、妾とてレガリアの坊には成すすべなく敗北するじゃろう」

「それは君が表に出てきて直接対峙した場合だろう?君の得意分野で仕掛けられた場合、僕は君と戦闘になったことにすら気が付かないまま敗北するさ」

「じゃが、それでも主は死にはしないじゃろう?」

「それは不要な推測だね。僕は君の魂ごと君を殺せる術を持たない。肉体を放り出して逃げられたらそれまでさ」

「そうか、ならばおあいこじゃの」


 物騒な会話を交わしながら、二人は会話の内容に見合わない朗らかな笑みを浮かべている。


「まあ、虚勢と虚言で相手を惑わすのもまたレガリアの坊の得意分野じゃから、嬢ちゃんが騙されたのも無理はないじゃろう」


 オリアスの言葉に、レガリアがうんうんと頷く。


「待って」


 と、有羽が更に言葉を続ける。


「オリアスのことはわかった。けど、ダン先生は?彼は生まれてからまだ百年ほどしか経っていないって聞いているけど……」

「ああ、あやつ……というかダンタリオンという悪魔が少々特殊なんじゃよ」

「ダンタリオンは、記憶と記録を司る悪魔だ。その特性故に、定期的にその情報量に耐えきれずに魂が崩壊する。だから、リセットが行われるんだ」

「リセット……?」

「君らも知っている、代替わりという現象が起きる。ただし、一般的な代替わりでは同じ権能を持っただけの別個体として生まれ直すのに対して、ダンタリオンの代替わりは権能と記録を引き継いだ状態で生まれるんだ。だから、悪魔としての地位も代替わり前のまま。魔界でも有数の古悪魔だよ、彼は」


 レガリアの話が、有羽の中で妙に腑に落ちた。思えば、違和感を感じたことが無かったわけではない。学校では主に魔術史を担当しているダンタリオンだが、授業で話す歴史の内容が妙に生々しいと思うことがあった。まるで、その場で見ていたようだと。レガリアの話を信じるのなら、それは実際にいつかのダンタリオンが経験して、現在のダンタリオンへと代々引き継がれてきた記憶なのだろう。


「まぁ、歴代のに比べても、今のあやつは少々変わってはおるがな。これまでに会ったダンタリオンは、皆記録を観測することだけを目的にしておったから、あやつが学校で教鞭をとることになったと聞いた時は驚いたわい」


 オリアスがクックッと笑い声をあげる。


「というわけで、じゃ。レガリアの坊より高位の悪魔なんてのはさほど珍しいもんでもない。少しは緊張がとけたかえ?」

「ええ、ありがとう」


 有羽に素直に礼を言われ、オリアスは優し気な笑みを返す。さきほどまで強張っていた有羽の表情も、ずいぶんと柔らかくなったように見えた。


「で、話の続きなんだが」


 穏やかになりかけた空気を割くように、ファイが話題を元に戻す。


「レガリア、お前は会ったんだろう?杏花のいた施設の人間とやらに」

「ん?ああ、そうだね」

「奴らの目的は何だったんだ?何のために杏花に起爆剤(ブースター)を配らせていた?」


 その場の全員の視線がレガリアに集まる。数舜、何かを考え込むように黙り込んだ後で、レガリアは「さあ?」と一言呟いた。

 その場の全員が、呆気に取られたかのように黙り込む。沈黙が、その場を支配する。


「さあ、とは?」


 沈黙を破り、自身の耳を疑うかのようにそう返すのは有羽。


「言葉通りだよ。そういえば聞きそびれていたね」


 

   ×     ×     ×



植物園 温室



「やあ、君が最後だよ」


 白亜が声を掛ける。視線の先では短い緋色の髪が揺れている。


「随分と回りくどいやり方だな」

「表立って動けるような立場じゃないんだ。すまないとは思っているよ」

「それはすまないと思っている態度じゃないぞ」


 白亜は両腕を胸の前で組んだまま、温室を覆うガラスに腰掛けるように体をもたれかけている。


「そんなに怖い顔をするなよ、久しぶりの再会じゃないか。なあ、櫂」


 朗らかな笑顔でそう言われて、櫂は脱力するように大きくため息を吐く。


「一歩、いや、三歩くらいかな。今回君は遅かった」

「お前と同じだよ、俺は妹や彼ほど自由に動けるわけじゃない」

「お互い不自由な身の上だな」


 二人は視線を交えながら乾いた笑いを漏らす。


「施設の場所を共有するよ。先にレガリアが向かっていたから、きっともう君のする事はないけどね」

「いいや、俺は警察官だからな。むしろここからが俺の仕事だよ」


 ブブッと櫂のスマホが小さく震える。差出人不明のメールアドレスから、位置情報だけが添付された空のメールが送られてきていた。


「ったく、最初からこれを送って来れば良いだろう」

「そしたら君は、杏花や権田原ごとあの施設を潰しただろう?」

「……そうだな。俺が、最後にここに辿り着くことも含めて、お前の計画のうちだったってわけか」

「さあ、それはどうだろうね」


 櫂の視線が、真っ直ぐに白亜を貫く。


「次はいつ会える?」

「……そうだね、今回うまく施設から足を洗えたとしても、またきっと別のどこかに潜ることになる。僕は、渡り鳥だからね」

「そうか」


 名残惜しそうに見つめ合う。そこには確かに、十年近く前、青春時代を共に過ごした二人の姿があった。

 ふう、と何かを決意したように息を吐いて、櫂が白亜に背を向ける。


「じゃあな。……死ぬなよ」

「約束はできないね。けど、努力はしてみよう」


 軽口のようにそう言い合って、櫂がその場を後にする。一人残された白亜の視線の先、長く伸びた熱帯植物の葉の先端から、一粒の滴がぽたりと落ちた。2度と戻らない二人の時間、不可逆な時の流れを象徴するように。


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