表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/51

~Fin~

【アルブレヒト視点】


 私、アルブレヒト・フォン・ヴァイスハイトは、あの一連の事件の後、一時は失意の底に沈み、生きる気力さえ失いかけていた。


 最愛の妻と信じていた女の裏切り。そして、実の娘リリアーナに対して犯した、取り返しのつかない過ち。その罪の重さに、何度も押し潰されそうになった。


 しかし、リリアーナは、そんな私を完全には見捨てなかった。

 彼女は、私を許したわけではないかもしれない。

 だが、彼女が新しい人生を歩み始め、その優しい力で人々を癒していく姿を見るうちに、私もまた、前に進まなければならないと、そう思うようになったのだ。


 レオナルド殿や、クララ嬢の父君であるベルンシュタイン伯爵も、そんな私を叱咤激励し、支えてくれた。


 私は今、ヴァイスハイト家の当主として、そして何よりも一人の父親として、過去の過ちを深く反省し、その償いとして、領地の復興と、そこに住まう人々のために尽力することを誓っている。

 リリアーナが、いつか心から安心して戻ってこられる場所を作る。それが、今の私の、唯一の目標であり、生きる意味だ。








【ソフィア視点】


 エレオノーラ・フォン・ヴァイスハイトが断罪され、リリアーナが長年の呪縛から解き放たれてから、数年の歳月がディオメーデスの豊かな大地を流れ過ぎていった。

 若き国王アンキセス・マグナス陛下の賢明な統治の下、我がディオメーデス王国は平和と繁栄を謳歌している。そして、その傍らでわたくしは騎士団の要職に就き、時には国王陛下の最も信頼する側近として、公私にわたりお仕えしていた。

 エレオノーラの魔の手から逃れ、このディオメーデスの地で新たな生を得たわたくしは、過去の暗殺未遂の恐怖を乗り越え、祖国エーデルシュタインと、そして愛する従姉妹リリアーナのために何ができるかを常に考え、強く、そして誇り高く生きることを誓っていた。


 リリアーナとは、今でも頻繁に手紙のやり取りを交わしている。

 彼女が、エレオノーラの影から解放され、クララ様やエリス様といった素晴らしい友人たち、そしてアルフォンス陛下やレオナルド様、ヴィクトル様といった頼れる仲間たちに囲まれ、その『生命の聖樹の巫女』としての力を、今度こそ人々のために役立てようと懸命に努力している姿が、手紙の文字からも生き生きと伝わってくる。

 時には、わたくしがエーデルシュタインを訪問し、彼女の活動を間近で見守ることもあれば、リリアーナがディオメーデスの美しい自然の中で静養を兼ねて訪れ、アンキセス陛下やウォーレンお祖父様と共に、穏やかな時間を過ごすこともあった。


 彼女が、その優しい力で、病に苦しむ人々を癒し、荒れた土地に緑を蘇らせる姿を見るたび、わたくしは胸が熱くなり、そして、あの悪夢のような日々の中でも決して希望を捨てなかった彼女の強さを、心から誇りに思うのだった。










【クララ視点】


 王都アーシェンブルクは、アルフォンス国王陛下と、賢聖母と称えられるエリス王妃陛下の善政の下、かつてないほどの平和と繁栄を謳歌していた。

 そして、あの困難な日々を共に乗り越えたわたくしたちもまた、それぞれの道を歩み始めていた。


 わたくし、クララ・フォン・ベルンシュタインは、リリアーナ様の一番の親友として、そして時には王妃であるエリス様の相談役として、王宮に出入りすることも多くなった。

 リリアーナ様が隣国ディオメーデスのアンキセス王と婚約され、やがて彼の地に嫁がれるまでの間、わたくしたちは多くの時間を共に過ごし、笑い合い、時には涙を分かち合った。彼女が、過去の深い傷を乗り越え、その素晴らしい『生命の聖樹の巫女』としての力を、今度こそ人々のために役立てようと努力する姿を、わたくしは心から誇りに思っている。


 わたくし自身は、女性の教育機会の向上や、恵まれない子供たちのための慈善施設の運営に情熱を注いでいた。それは、リリアーナ様やエリス様の姿に触発されたものでもあったし、わたくし自身のやりたいことでもあった。


 そんなわたくしの活動を、いつも陰ながら支え、的確な助言を与えてくれるのは、若き宰相レオナルド・フォン・アストレア様だった。

 彼とは、リリアーナ様の一件以来、国の未来や理想の社会について語り合うことが多くなり、互いの知性と価値観に深く惹かれ合っていた。彼との未来を、わたくしは静かに、しかし確かな幸福感と共に思い描いている。







【レオナルド視点】


 宰相としての私の日々は、多忙を極めていた。

 アルフォンス国王陛下とエリス王妃陛下は、理想に燃え、次々と新しい政策を打ち出される。

 それを現実的な形に落とし込み、国内の貴族たちとの調整を行い、時には他国との複雑な外交交渉を担うのが、私の役目だ。


 しかし、その忙しさは、苦痛ではなく、むしろ充実感に満ちていた。

 国の未来を、自分の手で創り上げていくという興奮。そして何より、エリス王妃の斬新な発想と、アルフォンス陛下の民を思う心に触れるたび、私はこの国に仕える喜びを感じずにはいられなかった。


 時折、執務の合間にクララ嬢と交わす心安らぐ会話は、私にとって何よりの癒やしであり、新たな活力を与えてくれる。

 彼女の優しさと、社会を見つめる真摯な眼差しは、私自身の視野を広げてくれるのだ。彼女との未来が、私の多忙な日々に、確かな彩りを与えてくれている。







【ヴィクトル視点】


 俺、ヴィクトル・フォン・シュタイナーは、近衛騎士団長として、国王陛下とエリス王妃陛下、そしてこの国の守護に、その全ての情熱を捧げている。

 エレオノーラ・フォン・ヴァイスハイトの事件は、騎士団にとっても大きな教訓となった。目に見える敵だけでなく、人の心の内に潜む悪意こそが、時として国を揺るがすのだと。

 俺は、騎士たちの鍛錬をより一層厳しくし、いかなる脅威にも屈しない、真に国民を守れる騎士団を作り上げることを誓った。


 エリス王妃陛下への忠誠心は、もちろん揺るぎない。

 あの方は、太陽のような方だ。その笑顔と聡明さが、この国を明るく照らしている。

 それは敬愛であり、決して恋愛感情などではない。俺の忠誠は、国王陛下と、そしてこの国そのものにあるのだから。


 時折、訓練場で、ディオメーデス国王陛下や、彼の妃となられたリリアーナ様を護衛する女騎士シルヴァ殿と手合わせをする機会がある。彼らの剣技は素晴らしく、互いの技を高め合う時間は、騎士としての俺にとって、何よりの喜びだ。

 特にドラグーンの称号を得たシルヴァ殿との戦いは特に胸躍るものだった。ああ、次の死合はいつになるのだろうか。














【エリス視点】


 エレオノーラ・フォン・ヴァイスハイトが断罪され、ヴァイスハイト家からその邪悪な影響が一掃されてから、数年の歳月が流れた。

 私、エリス・ミラーは、アルフォンス殿下――今や、若くして聡明な国王陛下として辣腕を振るうアルフォンスと結婚し、このエーデルシュタイン王国の王妃となっていた。

 王宮での生活は、目まぐるしくも充実しており、私の周りには、いつも華やかな笑顔と、未来への希望に満ちた活気が溢れていた。


「エリス、また新しい政策案を考えたのかい? 君のアイデアにはいつも驚かされるよ」


 執務室で、山のような書類に目を通していたわたくしに、アルフォンスが優しい笑顔で声をかけてきた。彼は、国王としての威厳と、夫としての親しみやすさを併せ持つ、本当に素敵な人だ。ただ、執務中に胸を揉んでくるのはやめてほしい。


「ええ、陛下。医療制度の改革案ですわ。平民も貴族も関係なく、誰もが安心して医療を受けられる国にしたいのです。前世の……いえ、わたくしが知る知識が、少しでもお役に立てればと」


 私は、王妃としての公務だけでなく、前世で培った首相としての経験と、この世界の『物語』の知識を最大限に活かし、アルフォンスを補佐し、国政にも積極的に関わっていた。

 特に、民衆のための政策――医療制度改革や、身分に関わらない教育機会の均等化、災害時の迅速な支援体制の構築など――で大きな成果を上げ、いつしか国民からは「賢聖母エリス様」と、深い敬愛と絶大な支持を得るようになっていた。もちろん、その中には、レオナルドやヴィクトルのような、私の計画を理解し、全力で支えてくれる仲間たちの力も大きかった。


 私の執務室や、時には家族で過ごす私室には、いつも多くの人々が集まっていた。


 愛する夫であるアルフォンス国王陛下はもちろんのこと、若くして宰相の任に就き、その冷静沈着な頭脳で国を支えるレオナルド・フォン・アストレア公爵。


「君のその先見の明には、いつも感服させられるよ、エリス王妃」


 と、彼は時折、会話の中で私の手腕を称えてくれる。

 そして、近衛騎士団長として、国王夫妻の、そしてこの国の守護を誓うヴィクトル・フォン・シュタイナー伯爵。


「王妃陛下のためなら、このヴィクトル、いかなる困難も恐れません! この命、いつでも捧げますぞ!」

 

 と、その無骨な顔に熱い忠誠を浮かべて語る。

 時には、外交使節として、あるいはリリアーナ様と共に、隣国のアンキセス国王陛下が、私の祖父であるウォーレン・ミラー軍師を伴って訪れることもあった。アンキセス陛下は私のことを「エリス王妃は、亡き私の母によく似た、太陽のような方だ。リリアーナを支えてくれて、心から感謝している」と、兄のような温かい眼差しで見守ってくれる。彼とは恋愛関係にはならなかったけれど、大切な友人であり、信頼できる隣国の盟主だ。

 私は、彼らからの尊敬と友情、そして何よりもアルフォンスからの深く揺るぎない愛情に包まれ、輝く金髪の王子や、私にそっくりな栗毛の快活な王女など、多くの愛らしい子供たちにも恵まれていた。


 時折、ふと、リリアーナ様のことを思い出す。


 あの暗く、閉ざされていた日々。

 エレオノーラの悪意に、どれほど彼女が苦しめられていたことか。


 先日、リリアーナ様から届いた手紙には、彼女がその『生命の聖樹の巫女』の力で、ディオメーデスの国で新たな奇跡を起こし、多くの人々を救っていると綴られていた。その文字は、以前の彼女からは想像もできないほど、力強く、そして喜びに満ちていた。


「あの時は本当にごめんなさいね、リリアーナ。私、あなたを酷く誤解していたわ。でも、あなたが勇気を出してくれたおかげで、わたくしも、本当の自分を見つけ、そして、本当に大切なものを見極めることができたのよ。ありがとう」


 今度会ったら、そう伝えよう。私の過ちを認めつつも、それを乗り越えて掴んだこの幸せを、彼女と分かち合いたいと。


 そう、私は幸せだ。


 多くの子供たちと、愛する夫、そして心から信頼できる仲間たちに囲まれ、この国の未来を、わたくしの手で明るく照らしていく。

 政治は確かに大変だし、時には困難に直面することもあるけれど、毎日が刺激的で、生きている実感に満ち溢れている。


「これが、私が掴んだ、最高のハッピーエンドだわ!」


 私は、窓から差し込む陽光を浴びながら、アルフォンスと、そして腕の中にいる小さな我が子に向かって、心からの笑顔を見せるのだった。

 リリアーナ様の犠牲の上に成り立つのではなく、共に未来を掴み取った、真のハッピーエンド。それは、かつて悲劇の首相だった私にとって、何物にも代えがたい宝物だった。









【アンキセス視点】


 国王としての私の日々は、多忙を極めている。

 しかし、その責務の合間に、エーデルシュタインのリリアーナ嬢から届く手紙を読む時間は、私にとって何よりの癒やしであり、そして新たな活力を与えてくれるものだった。

 

 彼女のその類まれなる力と、その力を巡る過酷な運命。そして、それらを乗り越えてきた彼女の精神の強さと、何よりもその優しく清らかな心に、私は初めて会った時から深く惹かれていた。

 彼女が、隣国の、そしてかつては王太子妃候補であったという立場を抜きにしても、一人の人間として、一人の女性として、私の心を捉えて離さないのだ。


 彼女の力が、真に人々のために使われ、そして彼女自身が心からの笑顔を取り戻せるよう、私は国王として、そして一人の男として、できる限りの支援を惜しまないつもりだ。

 ウォーレン軍師も、リリアーナ嬢の持つ力と人柄を高く評価しており、「アンキセス殿下、リリアーナ嬢は、まさにディオメーデスの地に新たな風を吹き込む存在となりえましょう。彼女との絆は、両国の未来にとって、計り知れないほどの価値を持つはずです」と、意味ありげに私に助言してくれる。


 リリアーナのその聖なる力と、私の統治、そしてエリス王妃やアルフォンス国王が治めるエーデルシュタイン王国との揺るぎない友好関係により、ディオメーデス王国とエーデルシュタイン王国は、かつてないほどの平和と相互理解を深め、共に発展の道を歩んでいた。

 それは、リリアーナと私、そしてアルフォンス国王とエリス王妃という、二組の若き指導者たちが、過去の悲劇を乗り越え、未来への希望を共有していることの証でもあった。

 両国の民は、リリアーナを「エーデルシュタインの聖女」として、エリスを「エーデルシュタインの賢聖母」として称え、その友情と協力関係を心から祝福していた。


 そして、次の春。エーデルシュタイン王国からの正式な使節団の一員として、リリアーナ嬢がディオメーデスを訪れることになった。

 彼女は、両国の医療技術交流と、生命魔法の平和的利用に関する共同研究のためにやってくるのだという。


 私は、その知らせをウォーレン軍師から受けた時、長年胸に秘めていた決意を、ようやく固めることができた。


 彼女がディオメーデスに到着したその日、満開のディオメーデスの花が咲き誇る王宮の庭園で、私は彼女に、一人の男として、そして一国の王として、私の隣で、共に未来を歩んでほしいと、そう伝えるつもりだ。

 リリアーナが、過去の全ての傷を乗り越え、真の愛と幸福を、このディオメーデスの地で掴むことができるように。そして、私自身もまた、彼女というかけがえのない光と共に、新たな未来を築いていくために。

 夜明けの光は、もうすぐそこまで来ている。













【リリアーナ視点】


 エーデルシュタイン王国からの使節団の一員として、私が隣国ディオメーデスを訪れてから、早くも数週間が過ぎようとしていた。

 アンキセス国王陛下――わたくしは、まだ敬意を込めてそうお呼びしているけれど、彼は「アンキセスと呼んでほしい」と、いつも優しい笑顔で仰ってくださる――そのお心遣いにより、わたくしはディオメーデスの王宮で、まるで賓客のようにもてなされていた。


 昼間は、アンキセス陛下やウォーレン軍師様、そしてもちろんソフィアお姉様と共に、この国の医療施設や、新しい農法が試みられている広大な実験農場などを視察し、私の『生命の聖樹の巫女』としての力が、どのように役立てるか、具体的な話し合いを重ねていた。

 私の力が、病に苦しむ人々を癒し、不作に喘ぐ大地に恵みをもたらすのを目の当たりにするたび、ディオメーデスの民は私を「エーデルシュタインの慈愛の姫君」「癒やしの聖女」と呼び、心からの感謝と尊敬の眼差しを向けてくれた。

 その温かい眼差しは、かつてエレオノーラに植え付けられた自己否定の呪いを、少しずつ溶かしていくようだった。


 夜は、王宮で開かれるささやかな晩餐会や、アンキセス陛下との二人きりの静かな語らいの時間。彼は、私の過去の傷を深く理解し、決して無理強いすることなく私と向き合ってくれた。

 彼のその深い優しさに触れる度、私の心は、かつてないほどの安らぎと、そして確かな愛情で満たされていくのを感じていた。


 そんなある日、ディオメーデスの花が甘い香りを漂わせる、王宮の最も美しい庭園で、アンキセス陛下と二人きりで散策をしていた時のことだった。夕暮れの柔らかな光が、私たちを包み込んでいる。


 彼は、ふと足を止め、真剣な、しかしどこまでも優しい藍色の瞳で、私を真っ直ぐに見つめて言った。


「リリアーナ。私は、初めて君に会った時から、いや、君の噂を耳にした時から、ずっと君に惹かれていたのかもしれない。君のその類まれなる力だけでなく、その困難を乗り越えてきた精神の強さ、そして何よりも、その誰をも包み込むような優しく清らかな心に。君は、私の、そしてこのディオメーデスの光だ」


 彼の熱のこもった言葉に、私の頬が熱くなる。


「リリアーナ、どうか、私の隣で、この国の、そして両国の輝かしい未来を、共に歩んではくれないだろうか。君のその優しい心と聖なる力は、必ずやこの世界を、今よりもずっと良い場所へと導くだろう。何よりも、私は、リリアーナ……君を、心から愛している。私の、生涯ただ一人の妃として、迎えたいのだ」


 それは、あまりにも真っ直ぐで、そして熱烈な、愛の告白だった。


 私の目からは、涙が止めどなく溢れ出した。でも、それはもう、悲しみや絶望の涙ではなかった。嬉しさと、感謝と、そして深い愛情からくる、温かい涙だった。


「はい……アンキセス様……! 喜んで……! わたくしでよろしければ、喜んで、あなたの隣を歩ませていただきます!」


 私は、満面の笑みで、しかし涙声でそう答えた。


「私も、あなたの隣で、愛する人々のため、そしてこの世界の未来のために、私の力の全てを、私の命の全てを捧げます。私も……アンキセス様、あなたを、心からお慕い申し上げております!」


 アンキセス様は、私の言葉に笑顔で応えると、そっと私を抱きしめてくれた。

 その腕の中は、どこまでも温かく、そして安心感に満ちていた。

 私は、ようやく、本当の自分の居場所を見つけられたのだと、心の底から感じた。


 その時、庭園の木陰から、私たちの仲間たちが、祝福の拍手と共に姿を現した。

 ソフィアお姉様、ウォーレン軍師様、さらにはアルフォンス国王陛下とエリス王妃陛下、レオナルド宰相閣下、ヴィクトル近衛騎士団長、クララ様!?

 なんてサプライズだろうと驚いていると、エリス様は、涙ぐみながらも、いつもの快活な笑顔で叫んだ。


「やったわね、リリアーナ! アンキセス殿下! これであなたも、最高のハッピーエンドよ! ああ、もう、わたくしまで嬉しくて涙が止まらないわ!」


 アルフォンス陛下も、穏やかな笑みで頷いている。


「リリアーナ嬢、アンキセス殿下、心から祝福申し上げる。両国の絆が、これでさらに深まることだろう」


 クララ様も、レオナルド様も、ヴィクトル様も、皆、心からの笑顔で私たちを祝福してくれた。その温かい眼差しに、わたくしの胸は感謝でいっぱいになった。




 ――――数年後。




 私は、ディオメーデス王国の王妃リリアーナとして、愛する夫アンキセス国王と共に、この国を賢明に、そして慈愛をもって治めていた。

 私たちの間には、アンキセスにそっくりな黒髪の聡明な王子ラングと、私に似た赤い髪の元気な王女タニカが生まれ、王宮はいつも賑やかな笑い声に満ちている。

 私の『生命の聖樹の巫女』としての力は、今やディオメーデスだけでなく、エーデルシュタイン王国、そして近隣諸国の人々の心を癒し、大地を豊かにし、両国間に、そして世界に、確固たる平和と繁栄をもたらすための、大いなる希望の光となっていた。



 エレオノーラ・フォン・ヴァイスハイトという名の悪魔がもたらした暗黒の時代は終わりを告げた。彼女は、法の裁きを受け、今は人里離れた修道院の奥深くで、その罪を償う日々を送っていると聞く。もう、彼女の影が私の心を曇らせることはない。

 


 私は、愛する夫と子供たち、そして信頼できるかけがえのない仲間たちに囲まれ、真の幸福を、その意味を、毎日噛みしめている。



 物語は、かつて絶望の淵にいた一人の少女が、多くの愛と友情に支えられ、自らの力で運命を切り開き、世界に光をもたらすという、希望に満ちた大団円で、今、静かに幕を閉じる。



 夜明けの光が静かに私たちを照らしていた――。

























 修道院に閉じ込められたエレオノーラは、薄暗い闇の中、永遠とも続く悪夢に悩まされていた。


「どうして……どうしてわたくしがこんな目に……誰か……誰か助けて……」


 その声が届くことはなく、ただひたすらに、自分がリリアーナになって、地獄のような仕打ちを受ける夢を見続けている。


 そのエレオノーラの背後に浮かび上がった女の顔が、にたりと笑みを浮かべた。


「ざまぁ♥ですわ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ