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ミッドナイト・ブレイカーD×M(デモンズ×メモリー)  作者: 一条信輝


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33/119

33話:存在を刻む声、剣が導く逃走

制御兵との激しい戦いが続く学園内で、ユウとマユ、そしてレオがそれぞれの想いを胸に動き出しました。

「未登録感情体」として排除されかねないユウを守るため、マユは剣を振るい、レオは封鎖ラインの解除を試みます。

そしてユウ自身も、自分の声で“ここにいる”と証明しようと決意しました。

これまでの不安と恐怖を乗り越え、彼らの想いが少しずつ強くなっていく第33話です。

封鎖訓練のサイレンが止んだあとも、教室の中には緊張の気配が色濃く残っていた。

制御兵の残骸が床の上で微かに火花を散らし、焦げた匂いが鼻を刺す。

もう動くことのないその機械の骸は、この世界の無機質な秩序の象徴だった。


ユウは、小さく息を吐く。

胸の奥に残る震えは、さっきまで自分が消えてしまいそうだった恐怖の余韻だ。

けれど今は違う。

あの瞬間、自分は声をあげた。

誰も気づかないかもしれないけれど、それでも確かに「ここにいる」と叫んだ。


(私は……ちゃんといる。マユが、それを聞いてくれた)


その想いが胸の奥を温かくする。

自分だけが「いないことにされる」世界で、初めて誰かに“見てもらえた”気がした。


ふと視線を向けると、マユが教室の中央に立っていた。

剣を下げ、その目は廊下の奥を真っ直ぐに見据えている。

その背中は、ユウの瞳に強く焼きついた。


「……お前がここにいること、それだけでこの世界と戦う理由になる」


マユが低く呟く。

それはユウに向けられた言葉というより、自分自身への決意のように響いた。

ユウはそっと手を胸元に当て、小さく頷いた。


そのとき、廊下の奥で規則正しい足音が近づいてきた。

それは量産型の制御兵たちとは明らかに違う、重い気配をまとっている。

その一歩一歩が床を振動させ、教室内の空気を震わせた。


「来るな……!」


マユの手が自然と剣の柄を握る。

その手が小さく震えているように見えたのは、気のせいだろうか。


「クロヤ、後方の状況は?」


教室の隅で、レオが制御兵の動きを見張っていた。

その顔には、普段の余裕の笑みはない。

レオにはユウの姿は見えないはずだが、その空気の揺らぎだけで何かを感じ取っているのだろう。

眉間に刻まれた深い皺が、緊張感を物語っていた。


「封鎖網はまだ機能している。ただ……上位制御個体が動いている気配がある。量産型とは比べ物にならないぞ」


「上位個体……か」


マユは短く息を吐く。

額にかかる前髪が僅かに揺れ、鋭い目つきが廊下の奥を射抜く。


ユウはその背中を見つめながら、足元が震えるのを感じていた。

恐怖が胸を支配する。

でもその恐怖の奥に、マユの背中が頼もしくて、眩しくて、胸が熱くなるのを感じた。


「マユ……私、ここにいてもいいの……?」


その声は、掠れるほど小さかった。

けれどマユは、迷いのない声で答えた。


「お前がここにいる。それだけで十分だ。……お前は、もう“いないこと”にはさせない」


その言葉に、ユウは胸の奥で何かが弾けた気がした。

涙が滲む。

でもそれは悲しみじゃなかった。

安堵と、嬉しさと、そしてほんの少しの誇らしさだった。


廊下の奥から、無機質な電子音が響いた。


「未登録感情体の存在を検知。排除対象に認定」


その声とともに、重い足音が教室の入り口へと迫る。

金属の装甲を纏った制御兵が、その姿を現した。

量産型とは一線を画す重厚なフォルム。

その瞳は、どこまでも冷たく、あらゆる感情を排除するような光を放っていた。


マユが剣を構えた。

その動きには、一切の迷いがなかった。

剣先がわずかに揺れ、その空気がユウの頬をかすめる。


「ユウ、後ろに下がれ。……ここは俺がやる」


その声が、ユウの胸を震わせた。

息を呑み、喉が詰まりそうになる。

でも、それでも――。


「……ありがとう」


小さな声が、教室の空気に溶けた。

マユはその言葉を背中で受け止め、僅かに肩を揺らした。


「礼はいい。お前がここにいる限り、俺は剣を振るう。それだけだ」


制御兵の瞳が、マユを正確に捕捉する。

鋼鉄の刃が、静かに構えを取った。

廊下の空気が緊迫の色を増す。


「制御波、干渉開始。感情波の異常反応を確認。排除手順を実行する」


電子音が、教室の空気を切り裂いた。

その瞬間、マユの剣が閃いた。

鋭い一閃が空気を裂き、火花が散る。

制御兵の刃が振り下ろされるのと同時に、マユの剣がそれを受け止めた。


火花が弾け、金属音が教室を満たす。

その音に、ユウの胸が大きく震えた。


(マユ……!)


声にならない声が、教室の天井を震わせた。

それでも、その声がマユには届いた気がした。


マユは刃を押し返し、制御兵と向き合う。

その瞳に宿るのは、恐怖ではなく、ただ一つの意志だった。


「お前たちの記録がどうだろうと、俺は目の前の存在を信じる。それが、俺の選んだ道だ!」


その声が、教室の空気を震わせた。

ユウは胸の奥で何かが灯るのを感じた。

涙が頬を伝い、でもそれを拭わずに、ただその背中を見つめていた。


(私も……ここにいる!)


その想いが、胸の奥からあふれ出す。

そして、戦いが再び始まった。

火花が散り、教室の空気が緊張で満ちる。

制御兵の剣がマユの刃を打ち、鋼鉄の音が弾けるように響いた。

ユウは息を呑み、その光景を見つめた。

この世界で誰にも認識されないはずの自分が、確かにここにいる。

マユの剣がその証のように、敵の刃を受け止めていた。


「クロヤ、右手の制御波装置を先に叩け。あそこを落とせば、中央制御が乱れるはずだ!」


レオの声が飛ぶ。

その声は、マユを援護するように鋭く響いた。

彼の言葉には一分の隙もない。

普段の飄々とした態度が嘘のように、戦闘中のレオは冷静で鋭かった。


「分かってる!」


マユが応じる。

その瞬間、制御兵の剣が鋭く閃いた。

だが、マユの剣はそれを正確に受け止め、火花を散らしながら刃を滑らせる。

鋭い音が教室の空気を切り裂き、ユウの胸を震わせた。


「感情波の異常反応、記録不可の存在検知。排除手順を優先実行する」


無機質な声が制御兵の口から響いた。

その声に、ユウの背筋が震える。

記録されない存在である自分が、また消されてしまうかもしれないという恐怖。

けれど今は、マユの背中がその恐怖を押しとどめてくれていた。


(私は……ここにいる。マユが、私を見てくれてる。だから……)


ユウは小さく息を吐き、その場で拳を握った。

胸の奥の震えが、熱に変わっていく。

制御兵の剣が再びマユに振り下ろされる。

火花が散り、そのたびに空気が震えた。


「ここは俺が止める。ユウ、お前はその存在を、胸の奥で叫び続けろ!」


マユの声が鋭く響く。

その言葉が、ユウの胸に強く突き刺さった。

誰のログにも残らなくても、自分は“ここにいる”。

その想いが、胸を焦がす。


「私は……ここにいる……!」


小さくても確かな声が、教室の空気を揺らした。

それは誰にも届かないかもしれない。

でも、マユには届くと信じていた。


制御兵の瞳が一瞬だけ揺れた。

その隙を、マユは見逃さなかった。

剣を振り抜き、鋼鉄の装甲の隙間へ鋭く突き刺す。

火花が散り、機械の悲鳴のような音が響いた。


「レオ、今だ!」


マユの声が飛ぶ。

レオは素早く動き、教室の奥で指を鳴らす。

感情波干渉装置の制御盤に、レオが仕掛けた微細なノイズが一気に広がった。

赤い警告灯が瞬き、制御兵の動きが一瞬だけ鈍る。


「ナイスだ、レオ!」


マユが叫ぶ。

その隙に、剣が再び鋭く閃いた。

鋼鉄の胸部を切り裂き、制御兵の制御装置が火花を散らして崩れ落ちる。


「未登録感情体……排除……失敗……」


最後の電子音が、教室の床に吸い込まれるように消えていった。

制御兵の身体が崩れ、床の上に沈黙した。

重い空気が、ようやく一瞬だけ静寂を取り戻した。


マユは剣を下げ、息を吐く。

その肩が小さく上下している。

戦いの余韻が、まだその背中を震わせていた。


「マユ……!」


ユウの声が、かすかに震えた。

マユは振り返らなかった。

ただ、その声に小さく笑みを浮かべた。


「お前の声があれば、俺は何度だって戦える。お前は、ここにいる。それだけで十分だ」


その言葉が、ユウの胸を熱くする。

涙が頬を伝いそうになるのを、必死でこらえた。

教室の外で、再び制御兵の足音が響く。

戦いはまだ終わっていない。

けれど、今この瞬間、ユウは確かに“ここにいる”と信じられた。


(私は……もう消えない。絶対に、ここにいる……!)


胸の奥で、その声が強く鳴った。

制御兵の残骸が教室の床に散らばり、赤い光がゆっくりと消えていった。

その光が消えた途端、教室には張り詰めていた空気が解けたように緩んだ。

ユウはその場に座り込み、息を整えた。

胸の奥にはまだ震えが残っている。

けれど、その震えは恐怖だけではなかった。

マユの剣が自分のために振るわれた、その光景が胸に残っていた。


「マユ……大丈夫?」


かすれた声が、教室の隅で微かに響いた。

マユは剣を収め、振り返ることなくその声を受け止めた。


「ああ……平気だ。お前がいる限り、俺は負けない」


その言葉に、ユウの胸が温かくなる。

誰の記録にも残らないこの存在を、マユだけは信じてくれる。

それが、この世界で生きる理由になるのだと思えた。


そのとき、教室の外からレオが足早に戻ってきた。

その顔には緊張が刻まれていた。


「クロヤ、封鎖ラインの外で制御兵の再展開を確認した。今度の奴らは、今までのとは違うぞ。多分、記録局直属の特別制御部隊だ」


「特別制御部隊……か」


マユが短く呟く。

その声は、さっきまでの余裕を感じさせないほどに重かった。


「おそらく、今度の部隊は感情波の検知範囲が広い。おユウの声が届いてしまえば、すぐに補足されるだろう」


レオがそう言いながら、真剣な目でマユを見る。

その目には、普段の軽い調子はどこにもなかった。


「それでも……俺は、お前をここに残すつもりはない」


マユの言葉に、ユウの目が大きく見開かれた。


「え……?」


「この教室に留まれば、お前は必ず捕まる。例え声が記録されなくても、奴らは感情波でお前の存在を検知する。だから、ここから脱出する」


その言葉は、決意とともに鋭かった。

ユウは息を呑み、その場で立ち上がった。


「でも……私、ここにいてもいいって、マユが……」


「お前は、ここにいていい。だけど、ここにい続ける必要はない。お前は、もっと広い世界でお前自身を証明しろ」


マユの声は強く、そして優しかった。

それは、誰かの命令ではなく、一人の人間としての願いだった。


「でも……」


言葉に詰まるユウの手を、マユがそっと取った。

その手は温かく、そして確かだった。


「お前の声がある限り、どこにいてもお前はお前だ。俺がそう信じてる。だから――お前自身のために、ここから抜け出すんだ」


その言葉に、ユウは涙が込み上げるのを必死でこらえた。

この世界で、誰の目にも映らない自分を、マユだけは信じてくれる。

その想いが、胸の奥で大きく膨らんでいく。


「分かった……!」


小さくても力強い声が、教室の中に響いた。

マユは頷き、その手を離した。


「レオ、外の状況を頼む」


「ああ、正門方面に特別制御部隊が展開しているのは確認済みだ。あの規模だと、正面突破は無理だな。……裏手の感情波干渉路を使えば、封鎖ラインの外まで出られるかもしれない」


レオの声は冷静だった。

その瞳には、この学園の全ての情報が刻まれているかのように思えた。


「なら、それで行く。お前の指示で動くぞ」


「了解だ、クロヤ」


二人の視線が重なる。

その間に、教室の窓の外に広がる空が赤く染まり始めた。

封鎖ラインの向こうで、制御部隊の影が揺れているのが見える。

その数は先ほどの比ではない。

まるで鉄の塊が押し寄せてくるような、そんな圧迫感があった。


「さあ、急ぐぞ」


マユが短く言い、ユウの手を取りかけて一瞬ためらった。

その目には、何かを抱え込むような光があった。


「お前がここにいることを、誰も否定できないようにしてやる。だから、信じてついて来い」


その言葉に、ユウは涙を流しながら、力強く頷いた。


「うん……!」


声が震えても、その瞳にはもう迷いはなかった。

教室の外で、制御兵たちの足音が近づいてくる。

時間はもう残されていない。

それでも――マユの背中があれば、どこへでも行けると思えた。


(私は、ここにいる。だから、前へ進む)


その想いが胸の奥で光になり、再び力強く灯った。

教室の外から制御兵の足音が近づいてくる。

鉄と機械の無機質な響きが、空気を震わせた。

その気配は、一度倒した量産型とは比べものにならないほど重い。

ユウは胸の奥に恐怖を感じた。

でも、その隣でマユの剣がゆっくりと抜かれる音がした。

その音が、ユウの震える心を落ち着かせた。


「ここからが本当の勝負だ。お前の声を、誰にも消させない」


マユの声は静かだった。

だが、その瞳には、誰にも揺るがせない強い意志が宿っていた。

ユウは息を整え、小さく頷く。

その胸の奥には、恐怖だけでなく確かな熱が灯っていた。


「分かってる。……私は、ここにいる。だから、マユも、絶対に倒れないで」


ユウの言葉に、マユは小さく笑った。

その笑みは、戦場に似つかわしくないほど優しかった。

でもその優しさが、ユウの胸を強く打った。


「お前がそう言うなら、俺は何度でも立ち上がる」


マユの剣が、ゆっくりと構えを取った。

その刃が、赤い光を受けて淡く輝く。

廊下の奥から、制御兵の影がゆらりと現れる。

無機質な仮面が、淡い光の中で禍々しく映った。


「未登録感情体の存在を検知。排除対象、優先度最上位に切り替え」


電子音のような声が教室に響く。

マユは一歩踏み出し、剣を構え直す。

その背中が、ユウの瞳に焼きついた。


「レオ、感情波干渉路の封鎖解除、急いでくれ」


マユが低く指示を飛ばす。

教室の隅で装置を操作していたレオが、苦笑いを浮かべた。


「簡単に言ってくれるな。奴らの制御波システム、相当やっかいだぞ」


「お前ならできる。信じてる」


短い言葉。

でもそれが、どれだけ大きな支えになるのか。

レオは苦笑いを消し、真剣な顔に戻った。


「了解。三分くれ。必ず繋げる」


「それで十分だ」


マユの声が力強かった。

制御兵の剣がゆっくりと振り上げられる。

その動きは、量産型にはない精密さを持っていた。

感情もためらいもない、ただプログラムに従って動く刃。


「マユ……気をつけて」


ユウが小さな声で告げた。

マユは振り返らずに答える。


「心配するな。お前がいる限り、俺は何度でも立ち上がる」


その言葉が、ユウの胸を熱くした。

目の奥が熱くなる。

涙があふれそうになるのを、必死でこらえた。


「感情波の検知。未登録感情体、排除手順を開始する」


制御兵の声が冷たく響く。

その瞬間、マユの剣が閃いた。

鋭い一閃が、制御兵の刃とぶつかり合う。

火花が散り、金属音が教室を満たした。


(マユ……!)


ユウの胸が強く震える。

マユの剣が弾かれそうになる。

だが、その腕は決して折れなかった。

剣先を立て直し、再び制御兵の胸元へと突き立てる。


「お前の記録なんかに負けてたまるか!」


マユの叫びが、教室の天井を揺らす。

ユウはその声を胸に刻み込んだ。

自分の声で、自分を証明する。

それが、マユの剣とともに、この世界と戦う理由だ。


「私は……ここにいる!」


ユウの声が教室を満たした。

制御兵のセンサーが一瞬だけ揺らぎ、赤い光が滲む。

その刹那、マユの剣が制御兵の装甲を貫き、鋼鉄の身体が崩れ落ちた。


「レオ、今だ!」


マユが叫ぶ。

レオが装置を操作し、感情波干渉路の封鎖が一瞬だけ解放された。

その隙間を縫うように、マユがユウの手を取った。


「行くぞ!」


ユウは頷き、その手を握り返した。

もう迷いはなかった。

マユの背中があれば、どこまでも行ける。

制御兵たちの足音が背後に迫る。

でも、その足音さえ、今は怖くなかった。


「私は、ここにいる……!」


その声が、走る二人を包んだ。

そして、教室の扉が大きく開かれた。

新たな世界が、そこにあった。

第33話では、封鎖訓練という極限の状況の中で、マユ、ユウ、レオの絆が試されました。

マユは「誰かの目に映らなくても、お前はここにいる」と信じ、ユウを守る決意を胸に剣を振るいました。

ユウもまた、自分の声で存在を証明し、記録に残らなくても“ここにいる”という確かな感情を叫びました。

制御兵の脅威は増していく中、彼らの戦いはまだ終わりません。

次回、封鎖ラインの外へと続く道で、さらに激しい戦いと決意が描かれていくことでしょう。

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