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ミッドナイト・ブレイカーD×M(デモンズ×メモリー)  作者: 一条信輝


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32/119

32話: 存在の証明、揺らぐ世界で

封鎖訓練が始まり、学園は“未登録感情体”の排除という名の戦場と化しました。

その中で、クロヤ・マユは誰にも認識されないユウを守るため、自ら剣を振るい続けます。

ユウ自身も、自分の存在を“声”で証明する一歩を踏み出し、たとえ記録には残らなくても、この世界に“いる”ことを叫びました。


今回は、マユとユウが「誰かの目に映らなくても、お互いに“ここにいる”」ことを確かめ合う、物語の大きな転換点となる回です。

封鎖訓練の開始を告げるサイレンが、校内を低く震わせた。

ただの模擬戦闘ではない。制御兵たちの重たい足音が、廊下の奥から響き渡ってくる。

ユウは自分の存在がこの世界でどんな立ち位置にあるのか、改めて思い知らされるようだった。

誰にも見えず、誰の記録にも残らない。それでも、この胸の鼓動だけは確かにあった。


教室の中で、クロヤ・マユはその背中を伸ばした。

封鎖の開始とともに、生徒たちは緊張の色を濃くしている。

マユは教室の扉に近づき、外の様子を一瞥した。

その目の奥に、どこか覚悟を決めたような光が宿っている。


「……封鎖が始まったな。もう猶予はない。制御兵たちは“異常感情波”を検知したと言って、この教室にも踏み込んでくるだろう」


マユの声は、決意をはらんでいた。

その言葉に、生徒たちが一斉にざわめく。

しかし誰も“記録されない存在”を疑うことはなかった。

この場に、その存在を感知できる者はいない――ただ一人を除いて。


ユウは俯き、息を殺すように座っていた。

自分だけが“いないこと”になっている感覚に、胸が苦しくなる。

でも、その中でマユだけは、いつだって目を向けてくれる。


「私……ここにいてもいいのかな」


かすかに揺れる声。

自分でも届くはずのない問いかけだと分かっていた。

でも、マユの視線が、確かにそこへ向けられている気がした。


「お前がここにいることを、俺は知っている。例え誰も認めなくても、この目には確かに映ってる」


マユの声が、ユウの胸に深く刺さった。

涙が溢れそうになるのを、必死で堪える。

この世界で、たった一人だけが、自分のことを“いる”と言ってくれる。

その事実だけで、胸の奥が温かくなるのを感じていた。


そのとき、教室の入り口付近でレオが動いた。

制御兵たちの足音がすぐそこまで迫っている。

鋭い目つきで教室内を見渡したレオは、マユの目の奥にある緊張を感じ取ったのか、小さく顎を引く。


「クロヤ。異常感情波がこの教室周辺で検知されている。制御兵が突入してくる前に、こちらで対応しろと記録局から指示が来てる」


「分かってる。……ここは俺が受ける」


レオは視線を細め、マユの背後をちらりと見やった。

そこにはユウがいるはずの場所。だが、レオには見えない。

それでも何かを感じているのだろうか。

言葉にはしないが、僅かな疑念がその瞳に宿っている。


「お前一人で大丈夫なのか?」


「心配するな。お前にはお前の役割があるだろう。……ここは任せろ」


マユの声には一切の迷いがなかった。

レオは短く頷き、再び制御兵の動きに意識を戻す。

そして、教室のドアの前で刀の柄に手をかけた。

その背筋には、一分の隙もなかった。


「さて――」


マユはゆっくりとユウの方へ振り返る。

この世界で、ユウを見つめられるのは自分しかいない。

誰も知らない存在だからこそ、誰よりも強く守りたかった。


「ユウ。お前がここにいることを、この世界に示すのは俺しかできない。例え記録に残らなくても、俺が証明してやる」


その声に、ユウの胸が大きく揺れる。

涙が頬を伝いそうになるのを、必死でこらえた。


「……ありがとう」


か細い声が、教室の片隅に溶けていく。

その声が記録されることはない。

でも、それでもいいと思えた。


「準備はいいか?」


マユが、背後の制御兵の足音に耳を澄ませながら言った。

ユウは、小さく、でも確かに頷いた。


「うん。……マユと一緒なら、どこへでも行ける」


その声に、マユは微笑んだ。

この瞬間、誰にも見えない絆が二人の間に確かに結ばれた。


教室のドアの向こうで、制御兵の影が動いた。

数秒後には、この場所が戦場になる。

でも、ユウは怖くなかった。

マユがいてくれるから。

そして、その声が、この胸の奥で生きているから。


「行くぞ」


マユの声が、教室を震わせた。

その声を合図に、制御兵の足音が一斉に動き出す。

廊下の空気が緊迫の色を濃くし、世界が戦いへと染まっていく。


マユは振り返らなかった。

ただ、ユウの存在を信じ、その背を守ると決めたのだった。

それが、彼の“選んだ道”だった。

制御兵の足音が近づいてくる。

その気配だけで、教室の空気は緊張に包まれていた。

機械仕掛けの無機質な命令が、この空間を支配しようとしている。

ユウは、胸の奥がひりつくような不安に襲われた。

この場所で、何もできない自分が、また“いなかったこと”にされるかもしれない――そんな恐怖。


マユはユウの背を守るように立ち、息を整えた。

額にかかる前髪がわずかに揺れる。

その瞳には、覚悟とともに強い光が宿っている。


「ここで止める。制御兵を通さなければ、ユウは排除されない。だから……俺が盾になる」


その言葉に、ユウは顔を上げる。

マユの言葉が、胸の奥で強く響いた。

この世界で、誰も見ていない自分を“いる”と証明してくれる声だった。


「マユ……私、何もできないよ……」


か細い声が、教室の中でかすかに揺れる。

マユは振り返り、その声をまっすぐに受け止めた。


「それでもいい。お前がここにいるってことは、それだけで意味があるんだ。例え誰にも見えなくても、俺が見てる。……それで十分だろ?」


その瞳が、どこまでも優しかった。

ユウの胸の奥に、涙が込み上げる。

その言葉が、どれだけ欲しかったことか――。

涙が頬を伝いそうになるのを、必死でこらえた。


「ありがとう……」


その声に、マユはかすかに微笑む。

「泣くな。お前の涙まで、俺が背負うことになる」


その言葉が、ユウの胸を少しだけ軽くした。

不安と恐怖に押しつぶされそうな世界で、たった一人、マユだけが寄り添ってくれている。

それだけで、この世界に“存在する理由”があるような気がした。


教室の外から、制御兵の声が聞こえる。


「制御波反応、該当教室内に確認。これより内部制圧を開始する」


冷たい声が、感情のない命令として降り注ぐ。

その言葉だけで、教室内の生徒たちの顔色が変わった。

誰もが息を呑み、マユを見つめる。

だが、その視線の先には“誰もいない”ユウの姿は映らない。


「……行け。みんなは避難ルートを使え。ここは俺が抑える」


マユの声は低く、しかしはっきりと届いた。

その言葉に、生徒たちは戸惑いながらも立ち上がる。

だが、マユは一瞬だけ視線をユウに向けた。


「ユウ、お前はここに残れ。逃げるな。ここで、ちゃんと存在を証明しろ」


ユウはその言葉の意味を噛み締めるように、瞳を伏せた。

この世界で、誰も自分のことを認めてくれない。

でも、マユだけは違った。

その存在を抱きしめるように、言葉で守ってくれた。


「うん……分かった……」


かすかに震える声で、でも確かにそう返した。


廊下の扉が開く音がした。

制御兵が姿を現す。

その瞳は冷たく、何一つ感情を持たない鋼鉄の意志だった。

そして、その視線は“ユウ”を捉えることなく、教室中央のマユだけを見据えていた。


「クロヤ・マユ、異常感情波を検知。制圧対象に認定」


「やはり、そう来るか」


マユは剣の柄に手をかける。

胸の奥で熱が走る。

この刃は、記録されない者を守るために握ったものだ。

誰のためでもない、自分自身の選択。


「この教室には、排除すべき存在はいない。いるのは、俺が守るべき命だけだ!」


その声が、教室の空気を震わせた。

制御兵の剣が、無慈悲に振り下ろされる。

その刹那、マユの剣が火花を散らし、弾き返した。


「お前たちに、こいつを消させるわけにはいかない!」


その叫びは、ユウの耳に確かに届いた。

記録されなくても、誰も知らなくても、この瞬間だけは、自分がこの世界に“いる”と信じることができた。


「マユ……!」


声にならない声が漏れた。

マユの背中が頼もしくて、痛いほど眩しかった。

制御兵たちが再び動く。

複数の剣が、マユに向かって振り下ろされる。


「来いよ。お前たちの“記録”がなんだって言うんだ。俺は、目の前の存在を信じる!」


マユの剣が閃き、制御兵の剣とぶつかり合う。

火花が散り、金属音が教室を満たす。

その音の向こうで、ユウは目を見開いた。


(マユ……!)


胸の奥で、何かが弾けた。

消えていくことへの恐怖よりも、今、ここにいる自分を証明したいという想いがあった。

その想いが、涙とともに溢れ出す。


(私は、ここにいる!)


声にならない声が、教室の天井を震わせた。

その震えは、制御兵たちのセンサーをわずかに狂わせる。

刹那、マユの剣が制御兵の胸元を弾き飛ばす。


「今だ、ユウ!」


マユの声が、ユウの胸を打つ。

その声があれば、どこまでも行ける気がした。

この世界で、誰にも認められなくても。


「私は、ここにいる……!」


ユウは、その一歩を踏み出した。

教室の中で交錯する息づかい。

制御兵の剣がマユの前で火花を散らすたび、その音がユウの胸に鋭く突き刺さった。

誰にも見えないはずの自分。

それでもマユの剣は、自分を守るために振るわれている。

そのことが、痛いほど胸に響いた。


(どうして……どうして、ここまでしてくれるの?)


ユウの問いかけは、声にならない。

でも、その問いは確かにマユの耳に届いたように感じた。

マユの背中が、小さく揺れる。

振り向かずに、ただ前を向いて言った。


「お前が“いない”ことにされるのが、俺は許せないんだ。誰が決めたんだよ。記録が全てだって。目の前にいるお前の息遣いが、ここにあるっていうのに……!」


その声は、決して大きくはなかった。

だけど、教室の天井に反響して、空間全体を震わせた。

ユウの胸の奥で、何かが弾けた気がした。


(私は……ここにいる……!)


その想いが、教室の空気に溶けていく。

制御兵たちには届かないかもしれない。

でも、マユには、届くと信じていた。


制御兵の一人が、マユの剣を弾き飛ばそうと大きく振りかぶる。

鋭い金属音が鳴り響く。

だが、その瞬間、マユは身を翻して間合いを詰め、逆に制御兵の懐へと踏み込んだ。


「そこだっ!」


マユの剣が閃き、制御兵の装置に走った。

火花が散り、機械の動きが鈍る。

わずかな時間だが、その隙こそがユウにとっての希望だった。


(今だ……!)


ユウの足が、自然と動いた。

誰にも見えないはずのその存在が、マユの剣の光を追いかけるように一歩、また一歩と前に出る。


「……ユウ……」


マユの声が、振り向かずに漏れた。

その声に胸を打たれ、ユウは震える手を胸元に置いた。


(ここにいる……私は、ここにいる……!)


その想いが、確かにこの教室に満ちていく。

制御兵のセンサーが微かに乱れ、エラー音が響く。

一瞬だけ、機械の瞳がユウの存在を捉えようと彷徨った。


「感情波、検知……対象、未登録……判別不能……」


その言葉に、マユが剣を構え直す。


「お前たちの目に映らなくても、こいつはここにいるんだ! だから、俺はこいつを守る……!」


その叫びが、剣の刃よりも鋭く制御兵たちを貫いた。

刹那、ユウの胸の奥に何かが灯る。

それは、記録でも、データでもない。

ただ、確かに“ここにいる”という実感だった。


(私……ここにいても、いいのかな……)


迷いが、涙とともに溢れ出す。

でも、その涙が、マユの声に呼応するように輝いて見えた。


「お前の声は届いてる。だから泣くな、ユウ。泣いてもいいけど、その涙を抱えて進め。俺はその背中を、どこまでも支える」


マユの声が、剣の一振りとともに制御兵を弾き飛ばす。

教室の床に、火花が散った。

制御兵の一人が後退し、仲間たちが陣形を立て直す。


「記録波、安定化不可。対象、排除継続」


再び無機質な声が響いた。

だが、ユウはその声にも負けなかった。

胸を張って、息を吸い込む。


(ここにいる……! たとえ、誰のログにも残らなくても、私は確かにここにいる……!)


その想いが、空間を震わせた。

制御兵のセンサーが一瞬だけ揺らぎ、赤い光が滲む。

マユはその瞬間を見逃さなかった。


「今だ!」


マユが一歩踏み込み、制御兵の胸元に剣を突き立てる。

火花が散り、鋼鉄のボディが大きく仰け反る。

倒れる直前、制御兵の瞳がユウを見た気がした。

それは、幻だったのかもしれない。

でも、ユウの胸には確かなものが刻まれた。


(私を、見てくれた……?)


その一瞬が、ユウの心を強くする。

どこまでも消えない、その光が。


「マユ……!」


声にならない声が、教室に響いた。

マユは剣を構え直し、ユウの方を振り向かずに言った。


「この戦いが終わったら……お前のことを、誰にも消させない。俺の中に、絶対に残すから」


その言葉が、ユウの胸を貫いた。

涙が溢れた。

でも、それは悲しみではなかった。


「ありがとう……!」


その声が、誰の記録にも残らないとしても、マユの胸にはきっと届いていた。

そして、その声は、教室の天井を震わせるほどに強く響いた。

制御兵の足音が教室内に響き渡る。

機械仕掛けの瞳が、ひたすら無機質にマユの動きを捉えようとしていた。

鋼鉄のボディが、記録装置を組み込んだ剣を構え、冷徹な声を響かせる。


「感情波の乱れ、未登録感情体の存在を検知。排除対象に認定」


その言葉に、マユは一歩も退かなかった。

剣を構え、低く息を吐き出す。

その背中には、ユウの存在を確かに感じていた。

誰にも見えない。

だけど、そこにいる――。

それだけで、マユの胸には燃えるような意志が宿っていた。


「お前たちの“記録”がどうだろうと、俺は目の前の存在を守る。それが、俺の戦いだ!」


マユの叫びが、教室の空気を震わせた。

制御兵が動く。

刃が空を裂き、火花が散った。

マユは剣を振るい、鋭い一撃で制御兵の攻撃を受け止める。


その一瞬の衝撃で、床が鳴った。

ユウの心臓が大きく跳ねる。

自分のために戦ってくれる人がいる――それだけで、全身が熱くなる。


(私は、ここにいていいんだ……!)


その想いが、胸の奥からあふれ出す。

涙が頬を伝い、床に落ちる。

でも、その涙さえも、この世界では“記録されない”。

誰にも知られない。

けれど、それでいい。

マユだけが見てくれているのなら、それで――。


「ユウ、声を上げろ! お前がここにいることを、この世界に刻め!」


マユの声が鋭く響く。

その言葉に、ユウの胸が大きく震えた。

息を吸い込み、喉を震わせる。

声にならないかもしれない。

でも、それでもいい。

この瞬間、自分の声で自分の存在を証明するんだ。


「私は……ここにいる……!」


かすれた声が、教室の空気を揺らした。

その声は、記録されることはない。

だけど、確かにマユの耳に届いた。


「そうだ……! その声があれば、お前はこの世界にいるんだ!」


マユの剣が火花を散らし、制御兵の刃を弾き返す。

鋼鉄の身体が大きく後退し、床に音を立てて倒れ込む。

その衝撃が教室を揺らす。


「ユウ、もう一度声を上げろ! お前の声で、お前を証明しろ!」


マユの叫びに、ユウの胸が熱くなる。

再び息を吸い込む。

喉の奥で何かが弾けた。

涙が頬を伝う。

でも、それでも――。


「私は、ここにいる……! 絶対に消えたりしない……!」


その声が、世界を震わせた。

制御兵のセンサーが一瞬だけ乱れ、赤い光が点滅する。

それは、ユウという存在が“ここにいる”ことを、この空間に示す証拠だった。


「記録波、判別不能。存在、未確定状態」


制御兵の無機質な声が教室に響く。

マユは、その声をかき消すように剣を振り下ろした。

火花が散り、制御兵の胸元を貫く。

鋼鉄の身体が崩れ落ちる瞬間、マユは目を閉じて一言だけ呟く。


「お前の声があれば、それで十分だ」


その声に、ユウの涙が止まらなかった。

誰にも届かないはずのその声が、今この瞬間だけは、マユの胸に届いていた。


「ありがとう、マユ……!」


ユウは声を振り絞った。

その声は、教室の天井に吸い込まれるように消えていく。

でも、それでいい。

今だけは、自分が確かに“ここにいる”ことを証明できたから。


教室の外から、制御兵の足音が遠ざかっていく。

廊下の灯りが一つ、また一つと消えていく。

残されたのは、教室の中の静寂だけだった。


マユは剣を収め、ゆっくりとユウの方へと振り返る。

その瞳には、戦いの火は残っていなかった。

あるのは、ただ一つの想いだけ。


「ユウ、お前は、もう“いない”なんて言わせない。俺の中に、お前はいる。……それで十分だろ?」


ユウは涙を拭い、微笑んだ。

その笑顔が、この世界で一番の証明だった。


「うん……ありがとう」


その声が、記録には残らなくても、マユの胸に深く刻まれていた。


そして、二人は教室の扉の向こうに、また新たな戦いが待っていることを知っていた。

でも、その背中には、もう迷いはなかった。


どんなに理不尽な世界でも。

どんなに記録に残らないとしても。

今ここに、確かに“いる”自分を、二人は感じていた。

「記録に残らない存在」を守るという選択は、クロヤ・マユにとって決して簡単な道ではありません。

けれど彼は、自分の心でユウを見て、その存在を信じてくれました。

ユウもまた、自分自身の声で“ここにいる”ことを証明し、たとえ誰の記録にも残らなくても、マユにその声を届けることができました。


この二人の絆が、これからの物語をどう動かすのか──。

そして、記録塔が仕掛ける更なる試練に、二人はどう立ち向かうのか。

次回もぜひ楽しみにお待ちください!

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