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ばれないように愛してる

作者: 冬夜雨

ぼくはきみじゃないから。


悲しいときは表情じゃなくてちゃんとぼくに伝えて。

ぼくのことならどうにかして直すし、直せることじゃないなら妥協案を探すから。


ぼくのことじゃないなら、きみにばれないように根回しする。

超能力なんかないからその都度解決策を考えて、絶対に、ばれないように。



「この頃変質者って減った?」



細かく通報した甲斐があったのかも。


まあでも冬だからかもね。春になって増えたら困るから今のうちに一緒に住む?なんて言えないけど。

ぼくは在宅多いし、送り迎えもできるよ。

なんだったら辞めても大丈夫だし。…重いかな。



「なんかね、ここのところ仕事楽しいんだよね。あ、でも最近セクハラパワハラしてた上司が移動になったからかも」



そうなんだ?

それは良かったね、正しい評価だと思う。


辞職だと恨まれたらこまるから遠方への出向という名前の左遷だけどね。

ぼくがそれをやったわけじゃないけど。

ちょっと告げ口しただけだから。同じ業種なのはこういうとき少し便利。



「…私の髪の毛の手入れ楽しい?」


「楽しい」


「返事早。私だけが一方的にしゃべってるのやだから何か喋ってー」


「といっても在宅だからなぁ…変わらないよ」


「お昼の食べたものとかは?」


「……水」


「ごはんは食べて!?」


「んー…うん」



さらさらした髪にオイルをつけて梳かす。

いい匂いでよりさらさらになるのがいい。

あきらかにぼくが手入れしたってわかるのもいい。

このオイルはぼくのうちでしか使ってないから、お泊まりしたって見せびらかしてる気分。



「明日私もお休みだからちゃんとお昼ご飯食べようね」


「うん、イングリッシュマフィン買ってあるからなにか作るよ」


「じゃあ私もなにか作……手伝うね」



メインで作らない人は手伝うって言おうと決めたのいつだったっけ?

付き合い始めてからちょっとしたときだった気がする。



「お昼食べたら映画とか行く?」



見たがってたの封切りでしょ?

本当はちゃんと調べてあるけどそれは言わない。重そう。



「あ、私観たいのがそろそろかもー!それと帰りに新しい珈琲豆買うの覚えていてくれると嬉しい」


「わかった」



ぼくはきみより話をするのが上手くない。

きみの話を聞くのは楽しいし幸せだけど、ぼくはなにかしら綻びがでたら困るから。

重い感情とか…きみに嫌われるようなことをしてるかもしれないから。



「完成、これで明日の朝のセット楽だと思うよ」


「ありがとうー!」



ドライヤーのコードを適当にまとめて洗面所にもっていく。

付けっぱなしだった洗面所の電気を消して部屋のライトも暗めにする。

お風呂掃除は明日きみが寝てるうちにやればいいか。



「もう寝ちゃう?」


「んー…寝顔見てたいから先に寝て」


「そう言われたら寝にくい」



くすくす笑うきみを見て時間が止まればいいのにって考える。

笑うたびに。笑顔をぼくに向けるたびに。

でもそんなのは現実問題無理だから。


一瞬一瞬だけそうやってきみの時間を止めて、愛させていて。



「ふふ、だいすき」


「知ってる。ぼくは愛してるけどね」


「…ずるい」


「知ってる。おやすみなさい」


「おやすみなさい」



ねえ、ずっとぼくはずるいままだからね。ぼくのことは何も言わないし、好きっていうのだけを感じててほしい。


本当に時間が止まればいいのに。ぼくの呼吸ごと世界ごとでもいいのに。きみがぼくを好きでいてくれるこの瞬間で。


そう願いながら抱きしめて常夜灯の中、目を瞑るきみにキスをした。

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