南とアリス
「南ー!ごめーん!待ったぁ?」
正門の柱に寄りかかっている制服姿の少女に、ジャージの少女が走りよっていく。
「あらアリス、もう来ないかと思ったわ」
南と呼ばれた制服の少女が、少しふくれて言う。
夕日のせいであたりはもう紅く染まっている。
「ごめんごめんー!一年はほら、後片付けがあるから」
「大体、アリスはいっつも時間にルーズなのよ」
「ごめんって言ってるでしょ?」
「………反省してないね」
「してるってぇー」
「じゃあ、アイスね」
「えぇー?またぁー?いっつもじゃないの」
「いっつもアリスが遅刻するからでしょ」
「今月ピンチなのになぁー」
「じゃあ、行きましょうか」
南が言うと財布の中を覗きながらアリスが続く。
そうえば…とアリスが会話を切り出した。
「南、美術部の方はどうなの?コンクールが近いって言ってたよね?」
「大丈夫よ、なんとかね。はじめたのが少し遅かったから先生にも心配かけたけどね」
「美術部の先生ってたしか有田先生よね?」
「そうよ」
「じゃあ、『アリスさん?君の絵、コンクール間に合うのかね?どうなのだね?』とか言ってたでしょ?」
アリスは有田先生のモノマネをして言った。特徴を良く捕らえていて似ていたので南は素直に感心した。
「そうね。たしか、言っていたわ」
やっぱりー!と言ってアリスは一人で笑った。
チリンチリーン、とベルの音が背後から近づいてくる。
「南ー!また明日ね!」
自転車で近づいてきたショートカットの女学生が二人を抜き際に手を振りながら言う。
「さおりー!また明日ね!」
アリスが元気良く答える。
「バスケ部の友達なの?」
南が言うと、
「そうだよー!あの子、駅前の本屋の娘さんなの」
「らいおん堂の?子供いたんだ………」
「一人っ子らしいよ!」
「へー、見たこと無かったな」
「あの子手伝いとかしないからねー」
アハハ、とアリスが笑った。
南は笑う事が苦手だ。
どうやったらアリスのように心から楽しそうに笑う事ができるのかさっぱりわからない。
人には恥ずかしくて言えないが、鏡の前で笑顔の練習をした事も何度かある。
だが上手く笑えない。
「ねぇ、南。明日の約束覚えてる?」
「あら心外ね。もちろん覚えているわ。忘れっぽいのはあなたでしょ?」
南は少し驚いて言うと、それはそうね、とアリスは笑った。
「休日にあなたとなんて久しぶりね」
南は少し照れていったが、それに気付いた様子も無く、
「そうだっけ?この間、映画見に行ったの、あれいつだっけ?」
と話を続けた。
「二ヶ月ぐらい前よ」
「もうそんなになるんだー。大会近くて遊べなくてごめんね?」
「いいわよ、私もコンクール近くて忙しかったし」
いつのまにか、商店街まで歩いてきていた。
「あ………。家近くまで来ちゃったけど、アイスどうする?」
はたと立ち止まってアリスが言った。
「アリス。今月はピンチらしいから、今回は許してあげるわ」
「サンキューー!そうしてくれると助かる!」
「でも貸しだからね?」
少し意地悪く南が言うと、ちぇー、っとアリスがすねたふりをする。
「じゃ、また明日ねー!」
「うん。明日」
そう言うと彼女らは別れて自分の家に入っていった。
彼女らの実家は供にこの商店街で店を営んでいて、その関係で二人は幼馴染と言う関係なのだ。
アリスは『食堂・南』へ、そして南は『写真館・有須』へ。
テンションは違えど、供に『ただいま』と言って入っていった。