表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

 ──私はどうにかなってしまったのだろうか……。

 頭を抱えて机に突っ伏す私の耳には、何を言っているかまではわからないが、女性二人がひそひそと話す声が聞こえる。今の出来事と私の姿は、彼女たちの格好の暇つぶしになっていることだろう。

 そちらには目を向けずに、若い男性社員のほうを見ると、すでに何事もなかったように黙々とパソコンのキーボードをいじっている。ああ、この男はそういう男だった。自分に直接関係のあること以外には、いくらかの興味も示さないのだ。

 中年男は、さも心配そうな表情で──元々が気の弱そうな、情けない面構えなのだが──ちらちらとこちらを見ているようだった。それがかんに障り、キッと睨みながら目が合うのを待っていると、男は私の顔を見た途端に慌てて正面を向いて、それ以降は頭を微動だにさせなかった。


 私はぎゅっと目をつぶり、頭に当てていた手でこめかみをぐりぐりと押し回した。そのまま洗うようにして顔全体を撫でつけ、冷静さを取り戻してから手を離し、パソコンの画面を見た。

 その瞬間、私は目を見開いた。また、あの顔が──眼球のあるべき場所に時計の嵌め込まれたあの顔が、再び現れていたのだった。

 数分前なら喜んだだろう。しかし今、そんな感情は持ち合わせていない。初めにこれを見た時の好奇心は失われ、また何か恐ろしい幻覚でも待ち構えているのではないかと思い、パソコンの電源を落とそうと震える手でマウスを握った。


 すると、画面の顔に変化が現れた。左側の時計が外れて黒い穴だけが残り、その穴はみるみるうちに広がってゆき、顔の左半分を埋め尽くした。同時に、右側の時計はぐるぐると高速で回転し、その速さは、さっきまでとは比べものにならないほど速い。

 ──嫌な予感がする……!

 私はすぐにマウスを動かしたが、画面の右端に置かれたポインタは反応しない。机がその摩擦で削れてしまうかというほどマウスを振るが、まったく動かない。ケーブルが外れているのだと思って確認するが、ちゃんと繋がっている。焦りと苛立ちでキーボードを滅茶苦茶に叩いてみるが、うんともすんともいわない。電源ボタンを連打しても同じことだった。

 ──そうだ、電源コードだ!

 そう気付くやいなや、すぐに机の下のコンセントから電源コードを引き抜き、大きな地震が収まった時に似た安堵のため息を、その場で深く洩らした。ゆっくりと机の下から這い出て、パソコンを振り返る。


 ……愕然とした。パソコン自体の電源は落ちたのだろう、青かった画面は黒くなっていたが、顔は依然としてそこにあった。

 私は激しい怒りを覚えた。──それは恐怖を打ち消そうとするために、無意識に表れた感情だった。怒りと恐怖に震える手でディスプレイの両端をしっかりと掴み、最終手段を実行するべく大きく息を吸い込んだ。

 だが、ディスプレイを持ち上げようと呼吸を止めた、その時だった。黒く広がった穴の中に、白く霞む大きな渦が立ちこめた。同時に画面の顔が、にゅうっとディスプレイを突き抜けて──いや、突き抜けるというより、顔で画面をゴムのようにこちら側に押し出して、平面から立体へと姿を変えた。

 ──なんだ、これは……!

 現実にはあり得ない状況に、先ほどまでの怒りは消え失せ、私の心を完全に恐怖が支配し、恐怖には、その顔から目を逸らさせまいとする力があった。


 白い渦は穴を飛び出して広がり、机の上の書類やペン、キーボード、その他のあらゆる触れたものを、ブラックホールのように吸い込んでゆく。右側の時計は高速で逆回転を続け、その速さが増すごとに渦の吸引力も増していき、ついに渦に触れられた私は逃げる間もなく、黒い穴の中へと吸い込まれていった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ