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不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、落ち着きなく目玉を動かしている男がいる。
家で済ませておけばいいものを、偽りの自分が作られてゆく過程を、不特定多数の人間に披露している女もいる。
自らの快適さのみを追求するように、無遠慮に足を放り出して座る者、限られた空間を無駄に使う者。
男女問わず首を垂れ、それぞれがひたすら真剣に自分の手元と向き合っている。
ところどころで話し声が聞こえるが、それ以外の者は大抵、何が起きてもわれ関せずとばかりに視覚を遮断している──。
いつもの見慣れた光景。その中で、レールが曲線を描くたび体を前後に揺らされながら、生きるために今日も自分の職場へと向かう。
……あと少し。あと少しで、およそ生身の人間に囲まれているとは思えない、この機械的な空間から逃れられる。
とはいえ、ここを抜け出してもまた同じような場所へ身を置かなければならないのだが。