聖女(但し男性)召喚
聖女=嫁?
「…うわっ!」
光の消えた魔術陣のあった場所で、二人の男性はバランスを崩し座り込む。
「…痛って」
「…おっと!貴重なブルバジル産のブランデーが…」
召喚前は椅子に腰掛けていたのだろう。その体制から何も無い空間に召喚されたのだ。当然バランスを崩して当たり前というものだ。でもコップは離さない。
しかし手にしたコップに満たされた、彼らの言う貴重なブランデーは少し零れたようで、濡れた手を1人の男が舐めている。
そしてようやく周りの景色が目に入ったのか、周りを見渡した。
「…おい、ランス。何やら面白い状況になっているぞ。」
ブランデーを舐めていた男が、目の前にいた男に声をかける。
「…はい。転移…?何やら…魔力の痕跡感じられますね。」
ランスと呼ばれた男はゆっくりと立ち上がる。
続いてもう1人の男も立ち上がった。
立ち上がった男達の様子を見ていた国王は、慌てて最前列に立っていた魔導師の前に出る。
「召喚の儀にて、我が国フィアーバにお越しいただきました御仁。大変失礼ながら、直答の許可を賜りたく存じます。」
国王は少し頭を下げ、胸に手を当て発言する。
召喚されたのが聖女でなくとも、国王は敬意を示した。
『召喚』と言うのは、結局の所相手の都合も何も関係なく招いているのだ。聖女を召喚し、皇妃として迎え入れた国王はソレを知っている。
国王に続き、王妃を初め皆がそれぞれ頭を下げ、魔導師は膝を折り礼を示す。
「…ふむ。状況が分からぬ故、こちらこそ不敬に当たらぬか心配だが…フィアーバ国…国王陛下であらせられましょうか?良ければ遠回しな言葉なく、対等な会話を望んでも?」
男は膝を折ることなく、国王と会話を続ける。
「勿論でございます。」
「ありがとうございます。では、早速ですが。私の名はジルフリードと申します。隣はランス。全ての名は、お互いに信頼を築いてから…ということで。」
魔導に通じている者であれば、フルネームを明かすのは危険を招く。その意図を汲んだ国王は了承する。
ジルフリードの横に控えたランスも、コップは離さないまま一礼する。
「フィアーバ国…この国名を、失礼ながら存じ上げません。先程、召喚の儀と仰られたが…」
ジルフリードは顎に手を当て、思案する仕草を見せる。
「はい。我が国フィアーバは、皇太子が成人した後に召喚の儀式にて聖女をお迎えする慣わしがございます。そして国を治める者は、…その…聖女と婚姻致します…」
国王の言葉の最後は、躊躇いが見えた。
それもそのはず。
目の前には男性二人。王太子を見下ろす程の身長があり、何処をどう見ても聖女には見えない。
国王の言葉に、横に控えていたランスが小さく吹き出す。
「…嫁…っ!ジルフリード様、娶られてしまうのですかっ?」
「…ランス…止めろ。国王、大変失礼を…。」
真面目な顔で控えていたはずのランスが、突然態度を変え笑い揶揄うのをジルフリードは止める。
「…んっ、んんっ。失礼致しました。主人を揶揄うのが生き甲斐でして、つい…」
そして再び真面目な面持ちで、ランスは傍に控えた。
「構いません。私共も、聖女をお迎えするはずが、御二方が召喚され…異例の事でして…」
国王は再び頭を下げ言葉を続けた。
「どちらにしても、少しお時間を頂きたく存じます。御二方にも客間にて少しお休みいただければと…」
こうして聖女(但し男性)2名はフィアーバ国に招き入れられた。
酒を手放さない聖女=嫁(笑)




