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その後の事〜怪我〜


ミルルが足を怪我した件、事故ではなく事件だなと思い至り、お話の題名を弄りました。

失礼しました。


※足の大怪我による表現が出ます。地雷の方はご自衛ください。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





次にミルルが目を覚ましたのは、魔法省にほど近い病院のベッドの上だった。


目を開けたはいいが、(もや)がかかった様にボヤけて視界が定まらない。


頭も体も鉛のように重い。

そして酷い喉の渇きを感じて、ミルルは小さく唸った。


すると思いがけず直ぐ側で懐かしい声がした。


「ミルっ、気が付いたのっ?」


その声の主は目を見開きながら心配そうにミルルの顔を覗き込んできた。


「おか……さん……?」


父親亡き後、女手一つで育ててくれた母親がそこに居た。


「良かった……心配したのよ、全然意識が戻らなくて……」


「意識が……?心配……?」


母のその言葉を聞き、段々と記憶が呼び覚まされてくる。


「っ…そうだ、わたし、仕事中に怪我をしてっ……」


慌てて半身を起こそうとするも、身体が思うように動かなかった。


それでも無理に身を起こそうとするミルルを母は優しく制しながら、ずれた布団を掛け直した。


「三日も意識が戻らなかったのよ、急に動いてはダメ。待ってて、今医師(せんせい)を呼んでくるから」


病室を出ようとする母をミルルは引き止めた。


「待ってお母さん……、わたし、あれからどうなったの……?ハル先輩は?」


「ハル先輩というのは……お仕事の相棒(パートナー)の人の事よね?」


「バディというのよ」


「その人があなたに止血魔術をしてくれたおかげで命が助かったそうよ。それで足も失わずに済んだって医師(先生)が言ってらしたわ……」


「足を、失う……?」


ミルルがその言葉を繰り返すと、母親は表情を暗くした。

何かを言い辛そうに逡巡している。


「お母さん……?何……?」


その時、タイミング良く担当の医師が病室に入って来た。


「あ、セノさん!意識が戻られたんですねっ……良かったっ」


そう言って直ぐに診察を始めた。

ミルルは気になった事を尋ねる。


医師(先生)、わたしの足は……ちゃんとありますか?」


ミルルの担当医は誤魔化す事をせず、きちんと答えてくれた。


「大丈夫です。ほとんど切断された状態でしたが、貴女の職場の方が止血魔術を行い、駆けつけた医師により直ぐに足を繋げられたのが幸いでした。おかげで失わずに済みましたよ……しかし……」


ミルルはその後の言葉が分かってしまった。

思わず掛け布団をぎゅっと握る。


「しかし、元通り歩けるようになるのは、まず難しいかと……医療魔術は全能ではありません。とくに魔術により傷付けられた組織の再生には限界があるのです。でも、リハビリ次第で元通りとはいかなくとも歩けるようになった方も居られます。希望を捨てず、頑張ってみませんか?」


「……そう、ですね……」


その時のミルルはそう答えるだけで精一杯だった。


歩けるようになる可能性がゼロでないのなら、ミルルはリハビリを懸命に頑張るつもりだ。

しかしそれにはどのくらいの時間を要するのだろう。

その間仕事は?

当然辞めなければならなくなる。


『またお母さん一人に負担をかける生活に戻るの?』


しかも今度はバイトなどをして家計を助ける事も出来ない。


ーー貯金はしているけどそれがいつまで保つかは分からないし……


ある意味、ミルルには絶望しかなかった。


ミルルのその感情が母親にも伝わったのだろう。

「怪我人が余計な事を心配するんじゃないの。母さんだってまだまだ沢山働けるんだからね」と言ってくれた。


長年掃除婦の仕事をし続けて、腰も膝も手首も傷めて限界なくせに……


せめて入院費が嵩まないように早めに退院を願い出ようとミルルは考えた。




そしてミルルの意識が戻った知らせを受けたハルジオが髪を振り乱して病室を訪れたのはその日の夕方の事だった。


「ミルルっ……良かった……!このまま目覚めなかったらどうしようと心配していたんだ……」


「ハル先輩……」


くしゃりと顔を歪め泣きそうに安堵するハルジオを見て、ミルルは申し訳なさでいっぱいになった。


だけどミルルがそれを口にしようとする前に、ハルジオの方から告げられる。


「ミルル……すまなかった。俺の判断ミスで、君に大怪我を負わせてしまった……」


その言葉を受け、ミルルは弾かれるように返した。


「違います!先輩はわたしを心配して退室するように促しました。それを聞き入れなかったのはわたし自身ですっ」


「だけど魔術札のトラップを事前に見抜けなかったのは俺の責任だよ」


「それならわたしだって気付けませんでしたっ」


「ミルルが見抜けなかったのと、俺が見抜けなかったのでは意味が変わってくるよ。俺は……自分のミスからキミを傷付けた」


「先輩は悪くありませんっ……先輩の所為じゃないっ……!」


そこから先は平行線であると、ミルルもハルジオも分かっていた。


互いが己に非があると思っているのだ。

どれだけ言葉を重ねても、その思いは変わらない。

変えられない。


それからハルジオは、魔法省の方は職務中の怪我による長期療養休暇の申請を出したので心配要らないと言ってくれた。


最長で半年間だけだが、その間の給料の80%は補償されるらしい。


それを聞き、ミルルは明らかに安堵の表情を浮かべた。


怪訝そうな顔をしたハルジオに、母親に負担を掛けたくなかったのだと伝えると、彼は何やら思案するように黙り込んだ。


「ハル先輩……?」


「ミルルはとりあえず何も心配しなくていいよ。必要な手続きや諸用は全部引き受ける。お母さんの負担にならないように俺が動くから」


「そんな、申し訳なさ過ぎます。ただでさえ仕事で迷惑掛けてるのに……これ以上ハル先輩に負担を掛けられません」


「迷惑だとも負担だとも思っていないよ。俺がミルルの為に何かしたいんだ」


「ハル先輩……?」


「とにかくミルルは早く傷を治そう」


「はい……ありがとうございます」


こんな時でも面倒見のいいハルジオにミルルは泣けてくる。


怪我を負って気弱になり、思わずハルジオに縋り付きたくなる自分を叱咤する。


ーーダメよわたし!先輩はあくまでも仕事の延長でわたしの面倒を見てくれているのだから!



必要以上に決して甘えるまいと、

己に言い聞かすミルルであった。


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