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その温かな手を離す日は近い  作者: キムラましゅろう


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20/26

因果応報

結局あの時近くで起こった魔道具の事故の所為で、

何か告げようとしたハルジオの言葉の続きを聞く事は叶わなかった。


ハルジオは魔法省の職員として、その場を見て見ぬふりは出来ないからだ。


「危ないかもしれないからミルルは先に帰ってて、ついて来ちゃダメだよ!さすがに怒るからねっ?」


とミルルに言い残し、ハルジオはそのまま声がした現場の方へと向かって行った。


ミルルはハルジオが心配で気になって仕方なかったし、自分だって短い間だったが魔法省の職員だったのだ。

何かハルジオの手助けになれば……と思ったのだが、もし暴発が起これば足の悪いミルルは文字通り足手纏いとなる。


ので、ミルルは少し離れた建物の陰からその現場の様子を見守っていた。


するとすぐに連絡を受けたのだろう、魔法省から他の職員と、王宮から高位魔術師が駆け付けてきた。


どうやら暴発は免れたようだ。

暴発騒ぎの原因は不正に購入した闇魔道具の初期不良の所為だと現場の人が言っていたのが耳に届いた。


関係者や野次馬や、周囲を警護する騎士などでミルルの側もごった返してきた。

どうやらもう大丈夫そうだ。これ以上ここにいて邪魔になるだけだと思い、ミルルはそのまま帰宅したのだった。


当然、ハルジオは後始末等でその日は帰って来れなかった。



ミルルは夜一人でハルジオの言葉を思い出す。


あの時、ハルジオはミルルが考え違いを起こしていて、自分はそれを望んでいないと言っていた。


ーーあの時、わたしが考えていた事が考え違い………?



あの時、ミルルが考えていた事と言ったら………



ーーハルさん、今日はポークチョップの気分ではなかったという事ね。


あの時ミルルはリッカの事を気にかけながらも、主婦の性質(サガ)か夕食の段取りの事が頭を占めていたのだった。


ハルジオと帰りが一緒という事は、

夕食はやはりチャチャッと手早く出来るものがいい。

その点ポークチョップならソースと絡めながら焼くだけでいいから丁度いいなと考えていたのだ。


ーーじゃあ一体何を食べたかったのかしら?

気になるわ。



やはり明後日の方向をひた走るミルルであった。




◇◇◇◇◇




闇販売の魔道具事故の件でまだハルジオや省内がゴタゴタしていた頃。


リッカ=ロナルドがいつものように登省すると、なんだか他の職員たちの雰囲気が違う事に気が付いた。


自分に向けてくる視線がなんだかいつもと違う。


ーー何……?


怪訝に思いながらエントランスフロアを歩いて行くと、上へ上がる階段の所で仁王立ちで立つ一人の壮年の女性がいた。


ーー何なのこのおばさん?怖い顔してそんな所に立って……邪魔だわ。


と思ったリッカだが、その場で魔力念写映像の魔道具で上映会が行われている事にようやく気付いた。


それは……リッカが身体の関係を結んで上に引き上げて貰った高官との情事の(さま)と、事後のピロートークの映像だった。

……大幅なモザイク処理がされているが、顔や声はバッチリと映し出されている。


その時に、二人で語った内容が赤裸々に記録されていたのだ。


関係を結んで上に引き上げて貰った感謝を述べながら、これからも何かと便宜を図ってね?とその高官に媚びながら擦り寄る姿やその高官の甘い囁きなど、無関係な人間でも目を覆い隠したくなるような様子が全て晒し出された。


「ちょっ……何よコレっ!!!」


悲鳴に近い金切り声を上げ、リッカはその映像を掻き消そうと手を振り回した。


その魔道具を操っていた壮年の女性が声高らかに告げる。

その女性は、リッカと不貞を働いていた高官の妻だった。


「リッカ=ロナルド!!この下品な泥棒猫っ!!妻である私が何も知らないとでも思っていたなら大間違いよっ!!お生憎様、あんた達が今もずるずると関係を続けている事は分かっているのよ、だからこうして、夫の持ち物に記録用の魔道具をこっそり忍ばせて不義の証拠を押さえたんだからっ!!あんたも主人ももう終わりよっ!地獄に堕ちればいいわっ!!」


「なっ…違っ……わたしじゃないっ!!こんなのっ……人違いよっ!!」


リッカは声を荒げて否定したが、魔道具が2ラウンド目が始まった二人の生々しい交わりの映像をモザイク付きで流し続けている。


そこには互いの名前を激しく何度も呼び合う姿が映しだされているわけで……もはや言い逃れなど出来ない状況であった。


リッカは耐え難い羞恥心と、清廉潔白な印象で自分が築いてきた全てのものが崩れ落ちてゆく事に絶望を覚え、その場に力なく打ちひしがれた。


そしてその時、リッカの直属の上官である法務部長がやって来て、リッカに告げた。


「……ロナルド君。地方局長がお呼びだ。ご夫人もご同行願えますか?その魔道具の信憑性を確かめる調査もさせて頂く必要がありますが、構いませんかな?」


高官夫人は毅然とした態度で大きく頷いた。


「もちろんですわ」


「ではこちらへ……ロナルド君、キミも早く来たまえ」


静かだが強い口調で言われ、リッカが肩をびくんと震わせた。

そして俯きながらすごすごと後に続く。


リッカと関係を持っていた高官も、じきに本省の方で呼び出しを受ける事だろう。


リッカは他の職員たちの侮蔑や軽蔑、そして嫌悪感を露わにした視線に晒されながらその場を去って行った。


高官の妻が用意したあの魔道具の正当性が認められれば、リッカと高官の失脚は免れないだろう。


その一連の騒ぎを目立たぬ所から無表情で観察していたハルジオは、踵を返して自分のデスクへと戻って行ったのだった。



そして今まさにそんな事が魔法省で起きているとは知る由もないミルル。


彼女はやはり、自身の考えに囚われていた。


あの時、いつもと違ったハルジオの様子。


俯いてその場に立ち尽くすリッカの姿。


二人をそうさせたのは自分なのだと。


全てを整えてからなんて、悠長な事を考えている場合ではなかった。


なりふり構わず家を出るべきだ。


魔道具事故での後処理でハルジオが忙しくしている間に家を出よう。


とりあえず母親の元に転がり込んで、事情を話して置いて貰おう。


全てはそれからだ。


それでも離婚届を取りに役所へ行ったり、この部屋を片付けたり、ハルジオに手紙を残したり、最低限にでもやらなければならない事は山積みだった。


だけど……


とうとう、ミルルは繋いでいたハルジオの手を離す時が来たのだと覚悟した。


心が悲鳴をあげている。


ーーでも離さなきゃ……


ミルルは自分の手を胸元に引き寄せ、ぎゅっと身を縮こませた。




ハルジオのその温かな手を離す日は、近い。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



次回、ミルルさんとうとう……の巻。





そして作者、無事にタイトル回収……


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― 新着の感想 ―
[一言] おおぅ! サブタイトル通りの、リッカ先輩。 高官の奥様、素晴らしい!(奥様の方が力持ってたんですね) そして、ミルルさんの勘違いがいつも通りだったぁ。 ハルさ〜ん、ミルルさんに全然通じてな…
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