登録
「さぁ、登録用紙はこれよ。まさか、やめるなんて言い出さないわよね??」
エルは、登録用紙と呼ばれた紙をポケットから二枚出すと、レクトとシスカに一枚ずつ渡した。
あの発言からしばらく時間が経っていたため、レクトは後悔に包まれていた。
──…ただでさえ、沢山の人が来る闘技場に参加するなんて…。
怒ると見境がなくなるのが悪い癖だ。
シスカはそんなレクトを気にも留めず、鼻歌を歌いながら登録用紙に名前を書き込む。
人見知りでもなければ、弱くも無いシスカは逆に目立ちたがり屋だから闘技場に出るのはとっても嬉しいのだろう。
言ってしまった事は仕方ないと、ため息まじりで登録用紙に名前を書き込んでいく。
何故か、レクトより先に書いていたシスカは未だに登録用紙に名前を書いているようだった。
この登録用紙はシンプルなので、名前を書いて利用規約にチェックを入れれば済むだけだった。
シスカはそれなりに名前は長いのだが、レクトだって本名は長い。のに、先に書いているシスカは鼻歌を歌いながらも、名前を書いていた。
「何書いてんだ??そんなの直ぐに書けるだろ??」
そういうが速い、レクトはシスカの登録用紙を覗き込む。
と、その名前の欄にはこう書いてあった。
「……"元気で明るく、気さくなシスウェード・バルキュリナ"…。何これ??」
「キャッチフレーズ!!俺様がどんな人か一目で分かるように、だよ」
「うん、馬鹿なヤツって直ぐ分かると思う」
レクトはシスカの登録用紙をポイッ、と捨ててその用紙を踏むと自分だけの紙をエルへと手渡した。
「は~い、確かに受け取ったわ。あ、シスカも早くしてちょうだい」
「うぅ…俺の用紙が…レクトの足跡付きかよーー!!」
「おめでとう、今日から君は僕の大切な仲間だ」
「棒読みで言うなッ!!!心の底から傷付くだろッ」
そういって書き直したものをエルへと渡すと、ニコリと笑って闘技場へと案内した。
軽く、闘技場の注意やルールも話レクト達へと話した。
「簡単に言うと、とにかく戦えば良いのよ」
「うわーー…エル、大雑把だな」
「あぁ、シスカと良い勝負だな…」
今のレクトはとにかく気分が最悪なのでとにかく話は流す。
それに気付いているのか、気付いていないのか、シスカは気にせずに話を続ける。
「んで、戦う相手っつーのは人間なわけ??それとも、なんかの雑魚モンスターなの」
「死刑囚よ」
死刑囚…もとより死刑になる人々との殺し合い。
人と殺しあってもいい気はしない。
その事を何一つとして気にせずに淡々と話を続けるエル。
「と、言いたいところだけど本当は違うのよーー」
「「は??」」
二人はあまりの切り替えの早さに変な声を口から漏らした。
「嘘よ。嘘。死刑囚は死刑したほうが速いに決まってるでしょーー」
「なんて、悪趣味な嘘吐くんだよ…俺様ちょービビった」
「まさか、こんな嘘が通じるなんてねぇ。戦うのは一緒に参加している闘技場のメンバーよ」
レクトは未だに疑っているようで、さっきもらった闘技場のチラシに目を通す。
ついでにシスカもそれを覗き込む。
チラシの下の方には確かにエルが言ったとおりの事が書いてある。
「ってことは、俺様とレクトがあたるって可能性も少なくはない…と」
「そうね。トーナメント選になってるから、運がよければ、よ。貴方たち以外にももっと強い人が居るかもしれないわ」
「ってことは、確実にあたるわな~俺様達」
「それは構わないが、その一人称はどうかと思うがな。俺様俺様…うるさくて話しかけたくも無い」
「仕方ねーじゃん。俺様は俺様だもーーん」
そんな話をしている間に、闘技場に着いてしまった。
その闘技場のでかさと言ったら、とても大きなもので人なんて一万人以上軽々しく入れそうな大きさだった。
さすが、闘技場といったところだろう。
しかし、慣れているのかエルは気にする素振りを一切見せずに中へと入っていく。
そして、受付の人に近寄ると紙を渡していった。
「参加者二人。説明は…しといて」
「はいはい。了解」
それだけ言葉を交わすと、受付の人は立ち上がりレクト達の許へと歩み寄る。
「では、待合室まで案内しますね。それと、こちらで説明させていただきます」
「ハイハイ!!!おねーさん、お願いしますッ」
シスカはある意味女性好きなのであろう、その案内人の横へと移動する。
ため息まじりで、レクトも後ろから付いて行く。
「武器の持ち込みは自由。試合はトーナメント選ですから互いに当たる確率もあります。待合室では沢山の人が待っています。ケンカはやめてくださいね。優勝したら、100万円がもらえます!!」
そこで、一回区切ると急に真剣な表情になった。
「闘技場では怪我や死んでも一切、保障はしませんから…気をつけてください。とくに、そこの女の子なんか。今ならやめれますよ??」
「辞めません。ついでに、男です」
間をいれずに受付の人に言い放った。
一瞬驚いた顔をすると、苦笑いをした。
「そ、そうなんですか、すいませんでした…。」
「別に…」
そんな話をしていると、いつの間にか場所は待合室の前に来ていた。
ここに来てようやく、レクトは自分がフードを被っていない事に気付き、急いで被った。
その様子を隣で笑いをこらえながら見ているシスカは微かに楽しそうだった。
しかし、待合室の前に居ても分かるはっきりとした殺気は、人を殺せるという喜びすら感じられるような殺気だった。
「では、案内はここまでですので」
「はーい、ありがとうございました、おねーさん!!」
シスカは思い切り、無邪気を装っていたが強者がいそうなこの待合室での不安も感じられた。
レクトはそんなシスカの行動に気付いていながらも、自分の顔を見られまいと、深く深くフードを被り、余裕を感じさせた。
二人は重っ苦しい扉を開けると中へと入った。