5-8
―お父様は私を売ったんだわ…
大黒堂の主人は、ふみを妾にすることで、ふみの実家の借金はもちろん、今後の経営まで全て援助してくれるとの申し出だったらしい。
その夜、ふみは最低限の身の回りの物をカバンに詰め、自室の窓からこっそり逃げ出した。向かった先は勝治の元だった。
勝治の部屋の窓を小さく叩いた。しばらくすると勝治がやってきた。
「ふみちゃん!」
勝治は驚いた。
「ごめんなさい。こんな遅くに…。」
勝治はふみがカバンを手にしているのを見て全てを悟った。
「…私…大黒堂さんの妾になんかなりたくない! 勝治さんと一緒にいたいの!」
ふみは涙をポロポロ流しながら訴えた。勝治は何も言わず、窓をそっと閉めた。
―お父様からあんなこと言われたんだもん。勝治さんはやっぱり私と一緒になんてなってくれないよね…
ふみは表に一人残されたまま肩を震わせて泣いた。
「行こう!」
すっかり身支度をした勝治がふみの前に現れた。そして勝治はふみの肩を抱いた。
「…勝治さん…」
涙で滲んだ目では勝治の表情がハッキリと見て取れなかったが、ふみには勝治のまっすぐな気持ちが伝わっていた。
「始発電車に乗って出来る限り遠くに行こう。」
二人は誰もいない駅の待合室で肩を寄せ合った。
窓にポツリと雨粒があたった。
「雨が私たちを祝福してくれてるのかしら…。」
ふみはそう呟いて勝治の胸に顔を埋めた。
―夜明けまでもう少し。そしたら僕らは…
勝治は愛おしそうにふみを見つめ、頭を撫でた。
その時、遠くから大勢の声が聞こえた。ふみの父親たちが、いなくなった娘を探しに来た。だんだんと声は近くなる。
「ここはまずい。逃げよう。」
勝治はそう言ってふみの手を取った。
「いたぞー!」
二人を見つけた男が叫んだ。集団は一斉に二人を追って走った。ふみと勝治は無我夢中で逃げたが、すぐに男たちによって押さえつけられてしまった。
「離せ!」
勝治は抵抗したが、羽交い絞めにされて身動きできない。
「来るんだ!」
ふみは父親に担ぎ上げられた。
「勝治さん!」
ふみは叫んだが無駄な抵抗だった。ふみと父親が去ると、男たちは勝治を縛り上げて森の奥へ連れて行った。
「ふみちゃん! 待ってて! 俺、必ず迎えに来るから!」
勝治は叫んだ。
ふみ涙を流しながら何回も頷いた。
男たちは勝治を村の外れの森の奥に連れて行った。
「おまえも手を出した相手が悪かったぜ…」
男はそう言うと、勝治の腹を思いっきり刺した。勝治は地面に倒れた。さらに男は勝治を何回も刺した。
「…ふ…み…」
勝治はとうとう息を引き取った。
男たちは穴を掘るとそこに勝治の遺体を投げ入れて埋め、その上に大きな石を置いて隠した。




