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「俺はある法則を発見した!」
中休みに次の授業の準備をしている綾女の前の席に砂原がドシっと腰かけて前かがみに行ってきた。
「何の?」
「繁充だよ!」
砂原は目をキラっと輝かせた。繁充と聞いて綾女は準備する手を止めてまじまじと砂原の顔を見た。
「ここ一ヶ月くらいだよね、あいつが放課後姿を隠し始めたの。」
「…そう言えばそうだったかな…。」
「でさ、繁充が突然いなくなる時って、雨なんだよ!」
―雨…
綾女はカバンから手帳を取り出した。綾女は日記帳代わりにスケジュール帳にその日あったことを細かに書いている。人にバレたくない事はシールを貼ったり、ペンでいろんなマークを書いて、自分だけが分かるように暗号化している。そしてその日の天気もイラストで簡単に書いていた。
―繁充君がいなくなったのは…ほんとだ! 雨が降った日だ!
「あいつさ、見かけによらずロマンチックじゃね? 雨が降ったら会おう! なんて彼女と約束してるとかさ。」
砂原はニヤニヤした。
綾女は繁充の姿を探した。教室の中にはいなかった。ふと窓の外を見ると、繁充はベランダに一人で立って、空を見上げていた。まだ晴れていたが、遥か向こうにどんよりと暗い雲が迫って来ていた。繁充は手をそっと伸ばした。手のひらに雨粒が落ちてこないか待っているような風に見えた。
その光景に、綾女は胸の奥がドンっと重くなったような気がした。
「今日も降りそうだな…。」
横で砂原がニヤニヤしながら言った。
案の定、昼休みが終わると空は真っ黒な雲に覆われ雨が降り出した。綾女は繁充と女生徒の事が頭から離れず、授業が全く入ってこない。そしてこんな気持ちになっている自分にもウンザリした。
ふと繁充を見ると、彼は雨の事など全く気にしていない様子で授業に集中していた。そんな繁充の姿にも綾女の心はチクっと小さく痛んだ。
綾女は今週、黎明館の掃除の担当だった。ただでさえ不気味な黎明館なのに、よりによってこんなどんよりと曇った薄暗い日にあの場所へ行くなんて最悪だと思った。それでも掃除時間になると、綾女は担当の生徒たちと一緒に黎明館へ向かった。さっさと終わらせて戻るつもりだった。
―あれ?
綾女は壁にかけてある大きな古い写真をマジマジと見た。その写真には、繁充と一緒にいたあの女生徒が来ていたセーラー服と同じ制服を着ている女生徒たちが写っていた。
「どうしたの、綾女。」
横から同じ食物部のあかりが声をかけた。
「…このセーラー服…。」
綾女が指を指した。あかりは眼鏡の位置を整え写真をマジマジと見た。
「…確かこれって…暁女子の昔の制服だよ。ほら、あそこって、大昔うちの学校から枝分かれした姉妹校だったらしいから。うちのおばあちゃんもここだったからさ、うちにもこんな写真たくさんあるよ。」
あかりは得意顔で言った。
―…暁女子…じゃあ、あの人はそこの生徒ってことだよね。でも何で昔の制服なんて…
「今でもこの制服で登校してる人いるのかな?」
「いる訳無いでしょ。今はブレザーの制服に変わってるし、多分この制服作ってないだろうから持ってる人もいないんじゃないの。」
「…そうだよね…。」
―嫌な予感がする…。
綾女は胸騒ぎを感じた。




