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本日、第一章完結です。
大陸からの大寒波が押し寄せて、昨日の夕方から雪が降り始め、ミノルが朝目覚めると、外は一面の銀世界になっていた。
―行くの止めよっかな…
ミノルは既にへこたれていた。
どうせこの雪なら学校は休校になるだろう。もしあるとしても、母親が起こしに来た時に、のっぴきならない下痢になったと伝えて、今日は一日布団の中で寝ていよう…そう思っていた矢先に、スマホが振動した。
―砂原?
(繁充! 俺は考える葦になったぞ! だから必ず餅を持ってこい! 分かったな!)
―何言ってやがんだ
ミノルはまた布団の中に潜り込んだ。その時またスマホが振動した。
(繁充君! 凄い事になってるよ!)
―何なんだよ、立川さんまで! みんなして俺を千年の眠りから呼び覚まそうとするのかっ!
しかし気になるので、ミノルは学校に行くことにした。
「…何なんだ…コレは…!」
ミノルは己の目を疑った。目の前には巨大なかまくらが出来ていた。
「すごくない? 砂原君、早起きしてコレ一人で作ったんだって!」
ミノルは目を丸くして砂原を見た。
「俺は昨日、おまえに言われて目が覚めた。自分なりに、どうすれば最高に上手い状態で餅を食べられるか考えたんだ。そしてこの大雪…もうこうなったらかまくらしかないだろ!」
砂原は鼻の頭と耳を真っ赤にしながらも満足げに言った。
「見て見て~!可愛くない?」
綾女が中を見ながら言った。
ミノルはかまくらの中へ入った。中には可愛いチェック柄の敷物が敷いてあった。
―ん! 靴を脱いでいるというのに足元が冷たくない!
ミノルは敷物をはぐった。下には銀マットが敷かれていた!
ーなんという周到さ…。
ミノルはガクガクと震えた。
そして内部の壁を見ると、そこには気持ちを盛り上げるようべく、可愛いガーランドが吊り下げられている。
―まるでおしゃれ女子の部屋じゃないか!
ミノルはワナワナと崩れ落ちるように砂原を見た。
「これで終わると思うなよ!」
砂原は不敵な笑みを浮かべて何かを取りに行った。
「繁充! これが目に入るか!」
砂原は人間をダメにするという例の柔らかいクッションを三つ、次々と配置した。
「なっ!」
ミノルと綾女は驚愕した。そしてすぐさま例の人間をダメにするクッションに沈み込んだ。
フワァァァ…
ミノルと綾女の前に一面の青空が広がった。暖かな日差しを受けてフワフワな雲の上に横沈み込んでいる…。
―優しく包み込んでくれるんだねぇ~…
―ハッ!
ミノルは我に帰り眼鏡を正した。
―一夜にしてここまでとは…なんという進化なんだ、砂原は。これが部活生の底力ってやつなのかっ!?
「まだまだ!」
砂原は目の奥の炎をギラつかせた。
「これ以上…何があるって言うんだ?」
ミノルは呟いた。
「最高の環境で最高の食べ方をする…そう! 餅の最高の食べ方と言ったら何だ?」
砂原は叫んだ。
「そ、それはもしかして…!」
―いや、いくら何でもありえねーだろ!
ミノルは顔を引きつらせた。
砂原はミノルの予想をいい意味で裏切ってきた。
「火鉢だ!」
砂原は仏のような悟り切った顔で火鉢を置いた。
「砂原君っ!」
ミノルは砂原の手を両手でガシっと掴んだ。
「…かばぁ…ぐぅ…らぁ…でぇ…うぐっ…うぐっ…餅焼いてぇ…食べるの…夢…だったんだぁ…えぐっ…えぐっ…」
ミノルは号泣して鼻水を垂れ流しながら砂原に抱きついた。
―そうか…繁充はそんなにかまくらで餅を食べてみたかったのか…。気持ちは分かったからいい加減離れてくれ…。
小刻みに震えながら顔をクシャクシャにして醜く泣きじゃくる繁充の頭を砂原はポンポンと叩いた。
「う…う…うまい…うますぎる! これが同じ餅なのか?」
ミノルは焼いた餅を片手に驚愕して言った。
「遠赤外線パワーだ!」
砂原はニヤっと笑って言った。
「何もつけなくても美味しいね。」
綾女は嬉しそうに餅を食べた。
「それにしても砂原君、朝から大変だったでしょ?」
綾女が言った。
「まあ、普段から鍛えている俺くらいになると、これくらい何てことないよ。もともと俺、家族でよくキャンプに行ってたしね。道具は家に揃ってるんだ。」
―テェッヘェ~ペッロォ~…
心の中でほくそ笑む砂原の顔はだらしなく緩みまくっていた。
「心の友、砂原君!」
この間あれだけ砂原をこき下ろしておいてどの口が言うか…と砂原も綾女も思ったが、ミノルは目をバッキバキにして砂原に微笑みかけている。
「残念だったなぁ…。そうと分かってたら、きな粉とかお雑煮の準備とかしてくるんだった…。」
綾女が言った。
「大丈夫! 心配ご無用!」
砂原はいくつかタッパーを取り出した。中には餡子やみたらしのタレや海苔が入っていた。
「す、すごい…。」
綾女は驚きを隠せない。
「砂原君、今日から君を名誉餅大臣に任命する!」
ミノルが神妙な顔で言った。
「…誰が名誉餅大臣だってぇ?」
三人は目を見合わせた。
そしてゆっくり振り向くと、かまくらの前に担任教師の遠藤司が仁王立ちし、物凄い形相で睨んでいた。
「ひぃぃぃぃ~!」
三人は悲鳴を上げた。
「おまえら~! 授業さぼって何やってんだぁ~~~!」
学校中に遠藤の声が響き渡った。
第一章 完
第一章、完結です。読んで下さりありがとうございました! (n*´ω`*n)
第二章までしばらくお待ちくださいませ。