3-18
そして現在
目の前に現れた幻影はゆっくりと消えていった。
「…あれって…」
綾女が砂原に言った。砂原はボーっとしたままだった。
「太郎ちゃんは…綾子さんと結婚しなかったのね…」
ルリは呟いた。
綾女と砂原はそっとルリの方を見た。何も言わなくても二人には分かった。ルリにはルリ子の霊が憑依していると。しかし不思議と怖くはなかった。むしろルリ子の生涯を憐れむ気持ちの方が湧き上がっていた。
―でも…このまま体を乗っ取られたままじゃ…
綾女は本物のルリの事が心配になった。
「そう! 太郎さんは綾子さんとは結婚しなかったんだ。」
突然、繁充が言った。ルリ子が憑依しているルリは、ゆっくりと繁充の方に振り向いた。
「だから君もそろそろ行かなきゃ。」
繁充はルリ子に優しく微笑んだ。
「でも…もうずっと暗闇の中にいたから、どこへ行ったらいいのかわからない…」
ルリ子は呟いた。
「そう思って、ほら! 用意して来たよ。君の大好きなおにぎり。」
繁充はそう言うと、持っていた袋を差し出した。そして暗い部室棟の廊下にレジャーシートを挽いて、真ん中に重箱を置いた。
「ほら! みんな座って!」
ルリ子はおずおずとその場に座った。綾女と砂原は目を見合わせて、戸惑いながらもその場に座った。
繁充は重箱の蓋を開けた。そこには質素な塩結びが入っていた。
「どうぞ!」
繁充は三人におしぼりを配った。
「…暖かい…」
ルリ子は呟いた。
グルルルル…
ルリ子のお腹が鳴った。こんな時にお腹が鳴るなんて…とルリ子は思ったが、グッとこらえた。ルリ子はおにぎりを一つ手に取ると、ジロジロとそれを眺めた。
「…やっぱり太郎ちゃんが作った方が美味しそうだわ…」
ルリ子は呟いた。
「まあまあ、そう言わず、食べてみて!」
繁充は優しく促した。
…パク…
ルリ子は一口食べて、目を閉じた。目じりから一筋の涙がこぼれた。
そしてルリ子は一気におにぎりを平らげて二個目を手にした。見ていた三人も、その光景に思わず笑みがこぼれた。




