3-11
時は経ち…
「え? 何て言ったの?」
ルリ子は同級生の悦子に詰め寄った。
ルリ子は女学生になっていた…が、世の中は激動の時代に突入し、学生たちも軍需工場の手伝いをさせられ、勉強どころではなくなっていた。
「だからぁ…砂原さん、婚約したんだって。」
「…嘘。」
「嘘じゃないって! うちのお母さん、砂原さんのお母様と仲がいいでしょ。直接聞いたんだから。」
悦子は少しムッとして言った。
―そんな筈無い…太郎ちゃんが他の人と婚約だなんて…
「誰と? どこの誰と婚約するって言ってるの?」
ルリ子はすごい形相で悦子に詰め寄った。
「ちょっと、ルリちゃん怖いわよ…」
―自分が砂原さんと結婚出来るとでも思ってたのかしら…? もらいっ子のくせに…
悦子は心の中でフフンと鼻で笑った。
「立川様のお嬢様って言ってたわ…」
―立川…?
「そりゃあそうよね。この辺で砂原家と釣り合う家柄って言ったら、元華族の立川様くらしかいらっしゃらないもの…」
悦子はこれ見よがしに言った。
―立川…立川…立川…
ルリ子は悦子の声など耳に入らないかの如く自分の世界に入り込んでいた。
太郎の婚約者が立川家の長女、綾子であることが分かった。
立川家は元華族だったが明治期に落ちぶれ、その後、元華族とは名ばかりの家柄であった。
先代の党首は遠縁から婿養子になった人物だったが、それは形だけで、実際はその当時立川家長女であった綾乃が仕切っていた。
彼女は持ち前のセンスを生かし、西洋式を取りいれた生け花、ティーセレモニー、テーブルコーディネートの教室を運営し、瞬く間にその界隈の第一人者となっていた。




