2-12
「ちょっと! 綾女! 早く起きなさい! 遅刻するわよ!」
母親の声がする。
「…絶対ですよ! 塩豆大福…むにゃむにゃ…」
「綾女~!」
ハッ!
綾女はやっと目を覚ました。
―私…凄く長い夢を見てた? 自分の事…綾乃って言ってたよね…。砂原君も出てきた…よね? それから…繁充…くん…
綾女の脳裏に夢の中の繁充が走馬灯のように浮かんだ。こけそうになって繁充に抱きしめられたこと、繁充邸で春子ちゃんと一緒に過ごしたこと、家が没落して全てを失った時、繁充に救われた事…。綾女の心臓は急に鼓動が早くなり、顔が真っ赤になった。
―夢の中で…私…繁充くんに恋してた!
綾女の胸はあカーっ熱くとなった。
「お母さん! うちのご先祖様って…昔すごい家柄だった?」
綾女は台所で朝ごはんの支度をしている母親に聞いた。
「そうねえ…あぁ、そういえば、お父さんの方は昔華族だったって言ってたような…。」
「えっ! そうなの!?」
「うん。だけど、家が没落して苦労されたって聞いたわ。」
―私の見た夢と同じ!
「あ、あのさ、綾乃って名前の人、誰かいるのかな?」
「あ~、どうだろ…。昔のアルバムが確か仏間にあったはず…」
母親はエプロンで手を拭きながら綾女を仏間へ連れて行った。押し入れの奥から古いアルバムを何冊か出すと、綾女の前に出した。
「この人、綾女にそっくりじゃない?」
母親がアルバムを広げて見せた。そこには綾女そっくりの女性が写っていた。
「綾乃、十六歳…って書いてあるね。それにしてもよくうちのご先祖様に綾乃さんって人がいたこと知ってたね! お父さんから聞いたの?」
写真館で撮ったと思われるモノクロの写真で、綾乃は綺麗な着物を来て椅子に座っていた。もしかするとお見合い写真だったのかもしれない。。
「あのさっ! この人の旦那さんは?」
―もしかして繁充さん?
「確か遠縁の人に婿養子に入ってもらったはずだよ。それ、綾女のひいひいおばあさんだよ。婿さんはお金持ちの次男坊だったって聞いたな…。」
起きてきた父親が後ろから声をかけた。
「そうなの? その人の名前、繁充さんって言うんじゃない?」
「繁充…いや、旧姓は確か浅生とか言ってたな…。」
―ひいひいおばあちゃん…繁充さんとは結ばれなかったのね…
綾乃は悲しくなった。
僕の母は父の妾だったんです。
僕は…華族出身の立川さんに、本当は話しかけられるような身分じゃないんですよ…。
時代錯誤ね…そう言える時代が来るといいな…そしたら僕は正々堂々と君に…
綾女の頭に夢の中の繁充の悲しそうな姿が蘇った。




