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三人で楽しくティータイムを過ごし、その後、綾乃と春子は毬つきをしたり、あやとりをしたりして遊んだ。繁充はそんな二人を微笑ましく眺めていた。
「綾乃お姉さま、今日はとても楽しかったです。また春子と遊んでくださいますか?」
「もちろんよ、春子ちゃん! また一緒に遊びましょう!」
「わーい!」
春子は綾乃に抱き着いた。すっかり懐いたようだった。
「さあ、春子、お迎えが来ているよ。」
「はーい。」
春子は恨めしそうに言った。
繁充は春子の手を取って、門の前で待っている人力車へ連れて行った。春子の車が出て行くのを見届けて、繁充は綾乃の所へ戻ってきた。
「僕と春子は異母兄妹なんですよ。妹とは離れて暮らしているので、会う時は喜ぶ顔が見たくて…」
「そうだったんですか…。」
綾乃は少し返答に困った。
「僕の母は父の妾だったんです。この家は父が僕と母の為に用意してくれたもので、春子は本宅に住んでいるんですよ。」
そんなことをさらりと言う繁充に綾乃は戸惑った。
「すみません、変な事を話してしまって。」
「い、いえ…」
「僕は…華族出身の立川さんに、話しかけられるような身分じゃないんですよ…。」
「そんなこと言わないで下さい。今時、身分なんて…そんなの時代錯誤じゃないですか。」
「時代錯誤ね…そう言える時代が来るといいな…そしたら僕は正々堂々と君に…」
繁充は悲しそうな顔をした。
―正々堂々と…私に? 何~? その先を言って下さい、繁充さんっ!
綾乃は拳を握りしめて前のめりに繁充を見つめた。しかし繁充は気持ちをさっと切り替え、話を変えた。
「実はね、大黒堂も父の経営なんです。他にもいろいろ事業をしているのですが、僕は根っからの甘党で、大黒堂の仕事を手伝わせてもらってるんです。」
―あぁ、だからあの時、私に塩豆大福を下さったのね! って、さっきの話は~!?
「立川さん、茶道を習っているでしょう?」
「…ええ、よくご存じですね。」
「あの先生、うちのお菓子を御贔屓にして下さっていて、いつも注文して下さるんですよ。僕も時々窺う事があって、それで…よくあなたをお見掛けしていました。」
―繁充さん…その時私の事を可愛いとお思いになってくださったのかしら?
綾乃は頬を赤らめた。
「本当に美味しそうにお菓子を食べる方だなぁって…。」
―ズコーッ!
綾女は心の中でずっこけた。
「あなたはこの世の極楽かの如く、嬉しそうに目を細めてうちのお菓子を召し上がっていた…」
「私ったらみっともないところをお見せしてしまって…恥ずかしいわ。」
「そんなことない! あそこまで思いっきり美味しそうに食べてもらえたら気持ちがいいですよ!」
―私…そんにすごい食べ方してたんですか…
綾乃は消えてしまいたいと思った。




