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「こちらにいろいろあるから好きな物を使ってください。」
繁充は控えの間に案内した。そこにはあらゆる種類の食器やカトラリー、テーブルクロスなど、テーブルコーディネートをするには困らないようだった。
―受けてはみたものの…どうしましょう…。家では見様見真似でテーブルを飾ったりしたことはあったけど、人様のお宅でするのなんて初めてだわ…
とりあえず綾乃はテーブルクロスを物色した。めったにお目にかかれない南蛮渡来のお菓子ということなので、高級感を出そうと思った。そして綾乃が選んだのは光沢のある白のテーブルクロス。真ん中に大き目の丸い皿。その上に高坏を置いた。
「お庭のお花を少しいただいてもよろしいですか?」
綾乃は繁充に聞いた。
「いくらでもどうぞ!」
綾乃は庭に出ると、咲き乱れていたバラの花を切り取っていった。
「痛っ!」
バラのとげが綾乃の指に刺さり、血が滴り落ちた。繁充は綾乃の指を取ると、そっと口に当てた。綾乃は真っ赤になった。繁充は綺麗なハンカチを綾乃に渡して傷を押えるように言った。
「僕が切り取りましょう。どのくらい必要かおっしゃってください。」
「…は、はい…」
綾乃の頭はクラクラしていた。
「ほう…そんな考え、僕には無かったなぁ…」
繁充は感心して言った。
綾乃は取ってきたバラを大皿と高坏の間を埋めるように飾った。そして高坏の上にシュークリームを乗せていった。そして水色で描かれた絵皿を置き、その上に少し小さめの白い皿を重ねた。そしてカトラリーを配置し、カップアンドソーサーを置いた。同じものをもう一つ向かい側の席に用意した。
「こんな感じでいかがでしょう? 以前洋書で見た物を真似てみたのですが…」
綾乃は恐る恐る聞いた。繁充はしばらくの間、顎に手を当ててテーブルを睨んでいた。
―お気に召さなかったんだわ…。やっぱり私のような素人がするものじゃないわ…
綾乃は今にも泣きそうだった。
「…素晴らしい! 想像以上だ!」
「…え?」
「予想を超えた出来だと言ったんです。やはり僕の感は正しかった。君に任せて良かったよ!」
ふぇぇ…
綾乃は緊張の糸が切れてその場にへたり込み泣き出してしまった。
「何か気に障ることをいってしまったかな?」
繁充は頭を傾げた。
「違います。その…嬉しくて…」
綾乃は頬を赤らめた。
「でも、足りないな…」
繁充は眉間に皺を寄せた。
―足りない? 何だろう?
綾乃は必死に考えた。そしてハッと気づいた。
「あ、私、ポットを持ってくるのを忘れていました。」
綾乃は急いでポットを取りに行こうとした。繁充は綾乃の手をギュっと握った。
「違う、足りないのは君の席だよ。」
真っすぐ見つめる繁充の目に綾乃の心臓は爆発しそうになった。
―え? だって、繁充さんの大事な女性と過ごす場所なんですよね? 私が同席していいなんて道理は無いですよ
「君も同席してよ。」
繁充は笑顔で言った。
「私なんかがその…繁充さんの大事な方と同席だなんて…」
「きっと彼女もその方が喜ぶと思うから。」
―どうして????
「ほら、お見えになったようだ!」
繁充は窓の外を見て言った。門の前に人力車が横づけされていた。




