誘拐犯と身代金
「息子は誘拐した。返して欲しければ一千万円用意しろ。警察に通報したら息子の命は無いと思え」
一方的に内容を告げ、電話を切る。
薄暗いマンションの一室。
誘拐犯と男の子がいる。
男の子の手足はガムテープで縛られている。
「トイレに行きたかったら言え、わかったな」
「はい」
一千万、これを高く見積もるか低く見積もるかは誘拐犯しか決められないが。
もう少し高くすれば良かったかもしれん。
子供が二人、夫は有名企業の社員、妻は専業主婦。
兄弟のうちの弟の方を誘拐した。
どちらかと言えば裕福な感じの家庭なはず。
億とは言わずとも二倍、三倍くらい増やしてもよかったんじゃないか。
でも現実的に考えるとやっぱり一千万か。
ただの一般人に二千万や三千万を集められる気がしない。
「あの」
男の子が話しかけてきた。
口にはガムテープを貼っていないので自由に喋ることができる。
「なんだ、トイレか?」
「違います。なんで僕は一千万円なんですか?」
「は?金が欲しいだけだ。他に意味なんかねえよ」
「だったらもっと安くした方が良いと思いますよ」
急に喋りだしたと思ったら何言ってんだこいつ。
値切りしてきやがった。
「あのなぁ、俺は金が欲しくてやってんの。安くしちゃあ意味ねえだろ」
「流石に高すぎますよ。誰も買わないですよ?」
商売じゃないんだよ。
「お前の両親が金出すんだよ!」
「いやー、一千万は高すぎですって。僕のことを高く評価してくるのはありがたいですけど」
「評価してねえから。お前帰りたくないのか?おい」
「帰れるんだったら帰りますよ。でも、一千万は僕の家からしたら大赤字ですから」
「どこの家でも赤字だろ!それにお前と金を交換するんだぞ。意味わかってんのか?」
身代金を知らないのかこのガキは。
「お母さんが言ってたんですよ」
「何をだ」
「僕は五十万円で産まれたって」
出産費用です。