(続)あの映画
塔田様主催の『続きを考えよう企画』の参加作品です。
『あの映画』の前半は塔田様のページからご確認ください。
翌日。
昨日の天気が嘘のような空模様だった。
私は一生懸命、あの自転車をこぎながら、初めて彼と出会った一本松まで向かった。
いなくてもいい。
ただそこに行って、気持ちの整理をしたいだけ。
一本松が見えてきた。
しかし、それだけではなかった。
彼がいたのだ。
「ジェニファー!」
彼が私の名前を呼んだ。
私がここに来るってわかっていたかのように。
「なんで……」
私はそれだけしか言えなかった。
自転車を停め、電動アシストの電源を切った。
「ジェニファー。会いたかった」
彼が私を抱きしめた。
気持ちの整理をしたかったのに、逆に混乱してしまった。
「権三郎、私――」
「いいんだ、ジェニファー」
権三郎は私の言葉をくちびるで遮った。
会いたかったけれど、会いたくなかった。
会いたくなかったけれど、会いたかった。
そんな感じ。
「ジェニファー。君の両親を殺したことは悪いと思っている。でも、気持ちに素直になりたい。君が好きだ」
私の両親は先週、権三郎にちゃんと溺死させられた。
先月から、殺そうかなって思っていると聞いていたけれど、先週ついに実行した。
生きていたら、今日は土曜日だからいつものように家族でポテトを食べているはずだった。
「うん。権三郎の気持ちが聞けて嬉しい」
両親が死んだのは悲しいけれど、それはそれ、これはこれ。
生前、両親から「うちはうち、他所は他所」と何度となく言われていたので、二人の想いを汲んでいる。
「ずっと一緒にいよう」
彼が私にまたキスをした。
去年の春先、友だちをちゃんと溺死させた時は私もそんな気持ちだった。
「でも、なんで両親を殺したの?」
これは聞いておきたかった。
疑念を残したままではわだかまりになってしまうかもしれない。
「水だよ。ちゃんと溺死してたでしょ?」
「うん。そうだったね」
私は権三郎の答えににっこりと笑顔を見せる。
ちゃんと水だった。
お湯だったのか、冷水だったのか気になったけれど、そこまでは、聞かないことにした。
ちゃんと水だったから。
風が突然吹いた。
一本松が揺れる。
私の帽子が飛ばされた。
彼は首のところでひもで結んでいたので、防災頭巾は飛ばずに済んだ。
急いで二人で追いかける。
権三郎が拾ってくれた真っ黄色なシルクハットを受け取る。
「もう黄色か……」
彼がつぶやくように言った。
「ええ、出会った頃は青だったのにね……」
真っ黄色なシルクハットを見ながら感慨深い思いに浸る。
「それじゃあ行こうか」
「でも私、電動アシスト自転車だから……」
「大丈夫。レンタルサイクルの停められる場所がすぐ近くに新しく出来たから」
それは知らなかった。
もっと早く知っていたかった。
でもこれで安心だ。
一本松に願いを込める。
これからどうにかして、権三郎と一緒にあの映画を見れますよにと。